渡辺範明と宇多丸『ファイナルファンタジー13』を語る

渡辺範明と宇多丸『ファイナルファンタジー13』を語る アフター6ジャンクション

渡辺範明さんが2022年2月17日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でプレイステーション3とニンテンドーDS時代のドラゴンクエストとファイナルファンタジーについてトーク。『ファイナルファンタジー13』について宇多丸さん、宇内梨沙さんと話していました。

(宇内梨沙)今夜は国産RPGクロニクル、プレイステーション3とニンテンドーDS時代のドラゴンクエストとファイナルファンタジー編です。ドロッセルマイヤーズ代表の渡辺範明さん、よろしくお願いします。

(渡辺範明)よろしくお願いします。

(宇多丸)今回は『ファイナルファンタジー13』と、『ドラゴンクエスト9』の2作品についてお話を伺うということですね。

(渡辺範明)今まで、実は1回の特集で4本とか6本のゲームを紹介しなきゃいけなかったので。今回は二作しかないっていう意味だとだいぶ、ちゃんと話ができていいかもなと思ってます。で、まあ全体的なことを言うとすごく挑戦の時期だということと、あと挑戦の時期であるがゆえに『13』に関しては結構困惑しているお客さんも多かった。

(宇多丸)これ、宇内さん。ファイナルファンタジーを継続的に見てきた方としては、やっぱりその感じはわかりますか?

(宇内梨沙)もう本当にシナリオ自体も非常に挑戦的な内容になってましたし、この後に出てくるその三作、当初発表したんですよね。

(宇多丸)「三部作です」みたいなこと?

(宇内梨沙)その件、そのあたりも結局、でも発売されなかったりとか。

(宇多丸)ああ、「三部作です」って言ってたけど、ちょっと頓挫しちゃったというか?

(宇内梨沙)いろいろあって。なんか、もはや一体なにが出るのかもわからなかった。『13』以外にも、ファイナルファンタジーシリーズ、一体何のゲームが出るの?っていう困惑期だったんですよね。

(渡辺範明)本当にそういうレベルの困惑です。「なにが出るの?」っていう。

(宇多丸)じゃあ、実際になにがそこまで困惑を与えたのかというところを伺っていきましょう。

(渡辺範明)では、困惑ポイントを3つに整理しました。FF13の困惑ポイント1。「ファブラ ノヴァ クリスタリス」です。

(宇多丸)うん?

ファブラ ノヴァ クリスタリス

(渡辺範明)これはですね、「うん?」ってなるんですけど。これがまさにさっき宇内さんがおっしゃっていた、2006年に発表されてみんな全然意味がわからなかったっていう、ご存知ファブラ ノヴァ クリスタリスなんですけど。

(宇内梨沙)フハハハハハハハハッ! そんな名前がついてたの、知らんかった!(笑)。

(宇多丸)ファブナノバ、クリスタシス?

(渡辺範明)ファブラ ノヴァ クリスタリスのことを話すと、FFファンはみんな「ああー……」ってなるんですけど。これは何かって言うとですね、要は2006年に『ファブラ ノヴァ クリスタリス ファイナルファンタジーXIII』というタイトルで『ファイナルファンタジー13』のプロジェクトが発表されたんですよ。で、これは意味が分かんないですけど一応「新しいクリスタルの物語」という意味らしいです。スクエニ的には。ファブラ ノヴァ クリスタリス。新しいクリスタルの物語と題してプロジェクト発表をしたんですけど。その中身と言えば、言えば『ファイナルファンタジー13』は3本のゲームで構成されています。それが、まず無印の『ファイナルファンタジーXIII』。そして『ファイナルファンタジー ヴェルサスXIII』。

(宇内梨沙)あった!

(渡辺範明)そして『ファイナルファンタジー アギトXIII』。

(宇内梨沙)あった!

(渡辺範明)っていう3本の『ファイナルファンタジー13』を同時並行で開発しますよっていう発表をしたんですよね。

(宇多丸)なんかちょっともう既に……「いきなり何を言い出してるんだ?」っていうか。かなり複雑ですよね。

(渡辺範明)そうですよね。で、これ宇多丸さんが置いてけぼりになってるだけじゃなく、当時の我々もみんな置いてけぼりになったので大丈夫です。

(宇内梨沙)たしかなんかビジュアルだけ発表されましたよね。それぞれ。で、それぞれが全然キャラが違って、かっこいいんですよ。期待値もめっちゃ上がるんですよ! だけど、その先が……みたいな。

(渡辺範明)そう。で、普通「3本出ますよ」って言ったら、さっきもおっしゃってましたけど。「三部作が出るのかな?」って思うじゃないですか。前、中、後編みたいな。ところがね、そうじゃないんですよ。この三作って、時系列で繋がってるわけでもないし、同じキャラクターが出るわけでもないし、同じ世界観の話ですらないと。

(宇多丸)えっ、えっ、えっ?

(渡辺範明)じゃあ、なんなのか?っていうと、この三作は共通の神話に基づく、3つの異なる『ファイナルファンタジー13』ですっていう。

(宇多丸)えっ、共通の神話に基づくんだったら、話は繋がってるんじゃないですか? だって。

(渡辺範明)そう思うじゃないですか。つまり、これは当時、僕らも全く、スクエニ社内にいても意味が分かんなかったんですけど。

(宇内梨沙)フハハハハハハハハッ!

(宇多丸)そうだよ。渡辺さん、社内だよ!

(渡辺範明)僕、社内にいたんですけども。この発表を見ながら「これ、全然意味わかんねえな」と思って聞いてたんですけど。わかりやすく説明すると、共通のクリスタルの神話というのがあってですね。これ、たとえばギリシャ神話みたいなもんだとしましょう。まず、このギリシャ神話みたいなやつを作るんですよ。で、そのギリシャ神話から派生して『ゴッド・オブ・ウォー』があったり、『ハデス』があったり、『聖闘士星矢』があったりするみたいな感じで。3本、モチーフを共通にしている関係ない三作を作りますっていう宣言なんですよね。

まあ、言ってることも分からんでもないけど、なんでこんな七面倒くさいことをするのか?って言いますと、まずひとつには当時ゲームの開発費がめちゃめちゃ高騰していて。基礎研究とか、いろんなことから考えると、その頑張って一作作って発売しただけでは開発費を全然ペイできないんですよ。なので、『ファイナルファンタジー13』を3本ぐらい出さないと割に合わんっていう、そういう考えも1個あったと思うんですね。で、しかも当時はUnityとかUnreal EngineとかHavokみたいなゲームの開発エンジンとかミドルウェアの時代が到来しつつあったので。

技術力に非常に自信があったスクエニとしては「うちも自前のエンジンを作るぞ!」とということで、クリスタルツールズっていうのを作ったんですよ。で、クリスタルツールズというものを共通に使った3本の作品みたいな意味と、共通のクリスタルの神話に基づく3つの異なる物語みたいなのをたぶん重ねてるっていうのがまず1個、あります。

(宇多丸)うーん、まあその内側のね、やってる側としてはそれはいいけど。こちらはね、「はあ……?」って。

(渡辺範明)まあ、めちゃめちゃ困惑しますよね? それでめちゃ置いてけぼりになるんですけども。で、あともう1個あるのはこれ、三部作として作ると、要は続編って1本完成した後じゃないと次のやつが作れないじゃないですか。で、ファイナルファンタジーなんて特に作ってる最中でもうストーリーとかがどんどん変わってくるんで、開発が終わった時はもう最初の原型をとどめてないわけですよね。

(宇多丸)ある程度、決まっているならまだしも、そうでもないから。

(渡辺範明)そうそう。『ロード・オブ・ザ・リング』を3本を作るとかはまだ並行してできるかもしれないけど、ファイナルファンタジーはそうはいかないんで。だから並行して作ろうと思ったら、もう三部作の共通したストーリーとかは無理で。繋がりのないものにしないと無理だと。

(宇多丸)ちょっと待って? それ、100パーセントそっちの事情っていうか……だから受け手からすれば「いや、それはそっちの事情であって……」という感じですよね。

(渡辺範明)そうなんですよ。だから要は「3つの事業部でそれぞれに別々の『13』を作りますよ。エンジンとかは共通している部分もあるけど、基本的には別の作品だけど、全部『ファイナルファンタジー13』と呼びますからね」っていうことを、これは完全に企業の都合っちゃ都合ですけど、それをロマンチックに言い換えたものですよね。

(宇多丸)だから完全ビジネス上の要請から発生したものを、あたかもそのなんか世界観の提示みたいに言うから話がややこしいんだ、これ。

(渡辺範明)そう。だけど全てにそういうロマンチズムを付け加えてくるところがファイナルファンタジーのらしさっちゃらしさですね。それで、宇内さんが「結局どうなったのかよくわかんない」っておっしゃってましたけど。無印の『ファイナルファンタジーXIII』は2006年に発表されてから、2009年に発売します。これは無事、発売されました。で、あと『ファイナルファンタジー アギトXIII』っていうのは、これは元々モバイルで、携帯電話……当時で言うとガラケーだったと思うんですけど。たぶんiモードとか用に作ってたやつをいろいろと変えて。最終的には『ファイナルファンタジー零式』っていうタイトルでPSPで発売しました。そして問題の『ファイナルファンタジー ヴェルサスXIII』。これはですね、10年後に『ファイナルファンタジー15』として発売されました。

(宇内梨沙)そうなんですよね。

(宇多丸)もう当初の、その、なんて申し上げればいいのか……。

(渡辺範明)だから「三部作を作ってたら順番にしか作れないから10年とかかかっちゃうじゃん」って思ってたんだけど、ばらばらに作ってもやっぱり10年かかったという。

(宇多丸)結局は。

(宇内梨沙)最初の発表の時に、その『13』の主人公のすごくピンクの髪の毛をしたライトニングっていうきれいな女性と、かっこいい『15』の主人公のノクティスっていう男女がバシン!って出ていて。「うわっ、こんなにかっこよくてきれいな2人が主人公のゲームがこんなすぐに出ちゃうの!?」みたいな、ワクワクがめちゃくちゃあったんですよね。ビジュアルを見て。で、『13』は出て。「いつ、ノクティスは出てくんだ?」って。ずーっと待ってたら、結局『15』で発表されて、もうズコーッみたいな(笑)。

(渡辺範明)そう。もうね、10年ってすごいですから。15歳が25歳になりますから。その間に。

(宇多丸)たしかに、たしかに(笑)。

(宇内梨沙)「ああ、ここで使うんだ!」って私も思いましたもん。

(宇多丸)でも、そのズコーッを楽しめるっていいね! FFファン。ずっと見ていて。

(渡辺範明)そうなんですよ。やっぱりこれでFF、そこに対して「なんだよ、それ? 会社の都合じゃねえかよ」って思うか、「さすがFFはハードルを上げてくるわ!」っていうかで……(笑)。そこが楽しめるかっていうのが分かれ目ですよね。

(宇多丸)たしかにね。うんうん。

(渡辺範明)「さすが! 意味わかんないわ!」っていうところが楽しめるかどうかが大事ですね。

(宇多丸)「さすが! 意味わかんないわ!」って、いいね。たしかに。そっちの方が正しいわ。

(宇内梨沙)このへんから、だからだいたい発売と言うか、タイトルが発表されて、「だいたいこれぐらいの時期に出します」って言われてもそれにプラス3年ぐらいを考えるようになりましたね(笑)。

(渡辺範明)そうですね。そのぐらいのノリになってきて。で、すいません。困惑することがめっちゃいっぱいあるんで……今のが困惑ポイント1。で、困惑ポイント2は、ストーリーですね。とにかくストーリーが『FF13』は印象的というか、もうこれもネットミームになっていて。よくネットで言われてるんですけど、そのあらすじが「ファルシのルシがコクーンからパージされてパルスへ行く」っていう話なんですね。

(宇内梨沙)アハハハハハハハハッ! これ! これ、よくネットに書かれてたーっ!(笑)。

(渡辺範明)これね、僕の友達もね、最近これの話をした時に「えっ、あれって2chで作られた言葉じゃないの?」って言っていて(笑)。

(宇多丸)2ch用語だと思ってたんだ(笑)。要は、「わけがわかんねえ」みたいな意味で。「ファルシのルシがコクーンからパージされてパルスへ行く」っていうストーリー?

(渡辺範明)それでこれ、もう全然ネットミームでもなんでもなくて、公式に書いてありますよ。普通に。ゲームをやってもこうやって言われるっていう。で、これを一応説明しますけどね。「ファルシのルシがコクーンからパージされてパルスへ行く」っていうのはどういうことかと言うと、『ファイナルファンタジー13』の舞台って「コクーン」っていう天空都市みたいなところなんですよ。で、丸い球体の都市が天空に浮いていて、そこに主人公ライトニングたちが住んでいるんですけど。そこを管理してる機械仕掛けの天使みたいなのがいまして。それが「ファルシ」なんですよね。で、ファルシたちは時々、住民の中から「ルシ」っていうのを任命して、使命を与えるんですよ。

(宇多丸)このネーミングがな……。

(渡辺範明)そう(笑)。まあ、そこはしょうがないんですけど。で、ルシっていうのは何かっていうと、つまり勇者みたいなもんですかね。言ったら。まあ、その天使のさらに使徒みたいなものです。で、その勇者みたいなのに任命されちゃったライトニングたちは使命を与えられるんですけど、その使命というのがこのコクーンを滅ぼすことであったと。で、主人公たちは自分たちの暮らしてきたコクーンを滅ぼすか、それとも使命を無視して……まあ、使命を果たさなかったルシは自分たちがモンスター化しちゃうんですけど。それで、悩みながら結局、そのコクーンから反逆者として追われて「パージ」……つまり放逐されて。で、地上世界であるパルスへ逃れていくっていう話なんですね。

「パルスのファルシのルシがコクーンでパージ」

(宇多丸)なるほどね。これ、でもネーミングの問題も大きいと思いますよ。その「ファルシのルシ」ってさ、そこがもう既に「てめえ、ふざけてるのか?」って感じだし。で、「ファルシのルシがコクーンからパージ」って、この「し」で客韻を踏みかけちゃっている感じもふざけている感じがするし。加えて、かと思ったら「パージ」と「パルス」とか、こっちでは頭韻を踏んでいるっていう。これが言葉遊びっぽく聞こえるんだよ!

(渡辺範明)そうそう。たしかに。さすがラッパーの……(笑)。

(宇多丸)いや、なんでこんなにナメた印象を受けるかな?って思って。これかな?って思ったんだけども。

(渡辺範明)そうですね。しかもパルスはやっぱりパージともルシとも似てますからね(笑)。

(宇多丸)そうだよね。本当、本当(笑)。よくできてんな、このライン(笑)。

(渡辺範明)そんな感じでウザい言葉としてすごいよくできてるんですけど。まあ、こういう専門用語みたいなのでめちゃくちゃハードルを上げてくるっていうのもその『13』の魅力のひとつですね。

(宇多丸)これ、リリックに入れたい(笑)。2ch用語みたいだけど(笑)。

(渡辺範明)めっちゃ今更ですけど(笑)。使ってください。

(宇多丸)当時、知ってればね(笑)。

(渡辺範明)それで、困惑ポイント3。3つ目は、これもネットミームになったんですけど。当時、「奥スクロールRPG」って言われたんですよ。

(宇内梨沙)うんうん。

(渡辺範明)奥スクロールRPGっていうのはどういうことか?っていうと、ひたすら奥へ奥へと進むと話が進むよってことで。要するに、めちゃめちゃ1本道だったんです。で、この1本道構造っていうのが、もちろんファイナルファンタジーって別に元々そんなに分岐とかがあるようなゲームじゃないから。FFもドラクエも1本道は1本道なんですけど。そういう概念的な意味での1本道ではなくって、本当にダンジョンが1本道なんですよ。

(宇内梨沙)うん。本当に「1本道ゲー」って言われてた(笑)。

(渡辺範明)で、1本道のダンジョンをずっと奥に進んでいくと、一番奥にボスがいて。それを倒すといろいろムービーが流れて、いろいろ主人公たちが悩んだりとかして、次のマップに行ってまた1本道が続いて。で、ボスがいてっていう構造で。いわば、ずっとその1本道が続いていくんですよ。

(宇多丸)だからルート的にはちょっと単調っていうか。

(渡辺範明)そういうことです。まあゲームの一番後半の後半で、その地上世界パルスに行ったら突然、世界が開けてオープンワールドみたいになるんですけど。まあ、でもゲームの7割ぐらいはずっと1本道なんですね。で、だからここのところがもうとにかく手抜きみたいに当時、すごい言われたんですけど。で、ここからが話の本題なんですけど。実はですね、この1本道構造に関しては僕はむしろ擁護したいというか、ここが『13』の先進性なんだよということを言いたいんですよね。

で、これはどういうことかと言うと、実は『FF13』って戦闘がすごい楽しいんですよ。戦闘システムがすっごい独特で。これも事前のプロモーションビデオとかではすごい困惑されたんですけど。要は派手にキャラクターたちが縦横無尽に入り乱れてアクションしてて。ずっと技の応酬みたいな感じになる戦闘なんですよね。で、これ映像で見た時に、僕らも「これ、どこを自分が入力してるのか、よくわかんねえな」みたいな感じがして、ちょっと困惑してて。「でも、これ製品版ではこういう感じじゃなくて。これはプロモーションビデオだからこうなのかな?」って思ってたら、製品版でも割とこうなんですよ。

どういうことかって言うと、通常のRPGの戦闘みたいに、誰が誰を殴るとか、全体魔法をかける前に一体ずつ、ちょっとダメージを軽く与えてから倒すとまとめて倒せて気持ちいいとか、そういう細かいことは考えさせないんですよ。プレイヤーに。で、『13』の戦闘って、たとえば主人公のライトニングに対してプレイヤーが「戦う」っていうコマンド選ぶと、「戦う」って選んだだけでファイア、ファイア、ケアルみたいな。殴る、殴る、ケアルみたいな、いくつもの行動を組み合わせて勝手に行動してくれるんです。ある程度ね。で、その主人公ですらそうなんですけど、それ以外のパーティーメンバーたちはもっとで。ほぼオートで行動するんですよ。パーティーメンバーが。

そうすると、なんか全然制御できないから、それこそ僕みたいなゲームシステム派のプレイヤーからすると「考えどころがないし、なんかつまんないな」って思いかけたんです。最初はね。ところが、このゲームのことがわかってくると、実は普通のRPGの戦闘システムとは全然違うレイヤーのことを考えさせるゲームだということがだんだんわかってくるわけです。それは何かって言うと、スポーツで言うとたとえばサッカーで各選手がどうドリブルするとか、パスをするとかみたいな。そういうことは各選手がやることなんだけど。それをもっと上のレイヤーから、見てフォーメーションをどうするかとか、戦況を見て「今は攻める時」とか「今は守る時」とかみたいな、その大局観をコントロールするゲームなんですよ。

(宇多丸)へー!

(渡辺範明)で、これが「オプティマ」っていうシステムで。戦闘中に、『13』って3人パーティーなんですけど。この3人パーティーをアタッカー、アタッカー、ディフェンダーとか。アタッカー、ヒーラー、ジャマーみたいな感じで役割の分担をリアルタイムに組み替えていくことができるんですね。で、これって普通のRPGだと職業がそれに当たるので。戦士、魔法使い、僧侶とかみたいな組み合わせってある程度、固定しちゃってて。それでやってくしかないわけです。途中で変えることはできるけど、もちろんそれは戦闘中は変えられないわけですよ。基本的には。それを、リアルタイムに変えていく。

(宇多丸)じゃあ、サッカーで言うならば監督気分っていうか。

(渡辺範明)そうです、そうです。しかも、更に敵の方には更にブレイクゲージっていうシステムがあって。『13』の敵ってめっちゃ硬いんですよ。普通に攻撃をすると。攻撃をしても全然攻撃が通らないんだけど、だんだんそのアーマー値を削っていくとブレイクゲージっていうのが上がっていって。相手がある程度、ダメージを与えたところパリン!ってブレイクという状態になって。言わば、装甲が壊れた状態になって。

ここで突然、攻撃が通るようになるんですよ。なので、さっきの仕組みと組み合わせると、要は敵が攻撃してくる最初のうちは耐えて。ある程度ガードしながら相手の装甲を削っていくっていう地味なターンがしばらくあり。それをある程度、積み重ねていったところで、あるところで相手がパリンと割れたところで、そこから一気呵成に「今だ!」って攻めるっていう。そこの全体的な流れをコントロールするのがすごい面白いんですよ。

(宇多丸)しかも我慢して我慢して、「やりーっ!」っていう快感も大きそうですね。

(渡辺範明)そうなんです。だからその時の盛り上がりがすごくって。これをすごく意図的にうまく演出しているのが音楽なんですけど。『13』の通常戦闘曲って『閃光』っていう曲なんですけど。この『閃光』っていうのは主人公ライトニングのテーマ曲でもあるんですけど、同時にこの通常戦闘曲の、なんか全体的なドラマの流れみたいなのをすごく曲で表現していって。最初の方は割とと前奏みたいなのがずっと長く続くんですよね。なんかこう地味な感じの曲がずっと続いていくんだけど、その間は戦闘の方でも敵のアーマー値をどんどん削っていってブレイクゲージを上げていく状態なんですよ。

で、ブレイクして相手を一気に攻めるぞ!ってなるあたりでちょうど曲がすごい盛り上がるようなってるんですよ。で、全然違う曲調の華やかな曲になっていって。それでそこでライトニングが召喚獣を召喚したりとかして、さっきのルシってみんなそれぞれ、自分の固有の召喚獣を持ってるんで。それで白い白馬に乗って無双状態でめちゃくちゃ攻撃して、さらに必殺技を決めてバラがブワーッと散って。それでフィニッシュみたいな、そういうなんかバトル1個がめちゃくちゃ展開のあるドラマになってるっていうことなんですね。

バトル1個が展開のあるドラマになっている

(宇多丸)たしかにそうね、エンタメだったらある意味定石ですよね。一旦、最初はグッと「もうダメだ、ダメだ」って。耐えて耐えて耐えてドーン! 音楽も盛り上がるっていう。だからそれがプレイの感触というか、プレイ自体の起伏と一致してるっていうか。

(渡辺範明)そうです。そうです。で、これを毎戦やるんですよ。割と。だから、バトルの面白さで言うと僕はめちゃくちゃ面白いと思うんだけど、ただし欠点としては1戦が長い。で、1戦が長いので、じゃあどうするかって言うと、普通はその1戦闘を圧縮するっていう風に調整するんですが、『13』はそれをせず。「だったら戦闘の回数を減らそう」ってなって。だから1個のダンジョンの中での戦闘の回数っていうのが、普通のRPGに比べとめっちゃ少ないんですよ。

(宇多丸)しかも1本道だから。

(渡辺範明)そう。で、ランダムエンカウントが一切なくって、ほぼイベント戦闘のみ。だから、言わばこの1個のベルト上のマップの中に、いい感じに配置されたモンスターと順番に戦っていって。1戦1戦がすごく楽しくて。最終的に、その盛り上がりの最高潮としてのボス戦があるっていうのを、なんかパフェを食べ進めるみたいにね、時間芸術として順番に味わっていくことができるんですよ。前菜を食べて……とか。

(宇多丸)以前、パフェ特集やりましたよ(笑)。

(渡辺範明)そうそう。パフェ特集ですよ。そういうような構造になっている。だからね、これはもう本当に明らかに狙ってやってるから、全然手抜きでも何でもないし。で、結局そこに一貫して同じ思想としてあるのは、戦闘に関しても従来のRPGであればここが楽しいんだっていうところ……誰に何ポイントのダメージを与えてギリギリ倒せるかな、倒せないかなみたいな。あとここで薬草を使うと得かな、損かな、みたいな。「そういう細かいことを考えるのはFFじゃねえんだよ!」っていう考え方ですね。そんなことはコンピューターに任せておけ。とにかくどハデな戦闘を監督気分で……だから、触れる映像ですよね。

触れる映像に徹して、そこを盛り上げようっていうことだし。ダンジョンに関しても、もちろん探索が面白いRPGっていうのも全然いっぱいあるし、ドラクエとかもそっちに寄っていると思いますけど。たとえばダンジョンを「右かな? 左かな?」とかって曲がっていって。突き当たりが行き止まりだったから「ああ、こっちは間違いだったんだ」とか。「突き当たりだったけどツボがあったから割ってみたら薬草があったからちょっと得したかな」とか。でも、「FFはそういうゲームじゃねえんだよ!」っていうね(笑)。

(宇多丸)たしかに。今、その説明されるとさ「それって面白いのか?」っていう感じはしました(笑)。

(渡辺範明)そうなんですよ。まあ、それが面白いこともあるんだけど。そこじゃないところに面白さがあると思っているっていうことですね。

(宇多丸)でも、ちゃんとだから「FFの本質はこっちだろう」っていうところを提示したっていうか。だからそれをちゃんと見る側が「RPGってこういうもんだよね」っていう思い込みから外れて、その本質に辿り着くかで評価が変わるっていうか。

(渡辺範明)そうですね。そうなんです。だからそこにすごく一貫した思想を感じるんで。とにかくトータルで『FF13』っていうのはケレン味があって、派手でとにかく見栄ををかましていて。情報量の洪水にクラクラさせるっていう、ちょっとパチスロ的な快感を追求してるんですよ。だけど「FFにみんなが求めてるものってこれでしょう?」っていうのの1個のビジョンとして、僕はめちゃくちゃこれは優れてると思ったんで。当時、これを遊んだ時に「この次回作は、このまま戦闘でみんな、キャラクターに歌って踊ってほしい」って思いました。歌って踊る戦闘。もうミュージカルみたいに。いいでしょう? FFってこれから、そうなっていくんじゃないの?って思わせた……。

(宇多丸)そのアイデアは今からでもありじゃね?

(渡辺範明)まあ、たぶん『16』はそういうノリじゃないのはPVを見ればわかりますけど。17あたりでやってくんないかなと思うんですよね。だってその後、2.5次元ミュージカルとかもすごい流行ったし。やっぱりね、オタクがキャラクターに求めている1個の形なんですよ。それって要はリアルとかじゃなくって。とにかく、ケレン味ですよね。うん。だから歌舞伎とかみたいな世界に行くといいんじゃないかなって思いましたね。

(宇多丸)これ、宇内さんどうですか? 『13』に対するイメージは?

(宇内梨沙)当時はやっぱり困惑というか……でも、そのファイナルファンタジーって、これまでの国産RPGクロニクルでもあった通り、毎回戦闘システムをかなり変えてくるので。だから、そのユーザーにとっては毎回困惑するような新しいタイトルをどんどんどんどん投げてきたんですけど。その原型にやっぱり『12』がひとつ、大きかったなって今、お話を聞いていて思っていて。『12』もちょっとあれですよね。なんか監督目線で、メタっぽい視線でキャラクターに事前にシステムを入力しておいて。「ライフがこれぐらい削られると、この技が発動される」とか。そういうシステムを……。

(渡辺範明)ちょっとプログラムっぽい戦闘でしたもんね。

(宇内梨沙)そういう戦闘で。たしかになんか、あれについていく時もすごい大変だったんですけど。FFファンを名乗るなら、ついていかなきゃいけないんだって思い知りました。

(渡辺範明)上がったハードルについて来れるやつっていう。

(宇内梨沙)で、『13』で「アーマーを破壊しなきゃいけない」とか、今はもう当たり前ですけど。なんか、ああいうのも最初、困惑したけども。でもやっぱり好きならばついていかなきゃいけないんだなって。

(宇多丸)そうだよ。提示するこのハードルを……「その火を越えてこい!」っていうのはさ、ちゃんと越えなきゃいけないのよ。

(宇内梨沙)私はその戦闘を楽しみきれずに終わっちゃったけど……。

(渡辺範明)今、やったらもしかするとね。配信で宇内さんにやってほしいですね(笑)。

(宇内梨沙)フフフ(笑)。「ファルシのルシがコクーンからパージされて……」って(笑)。

(渡辺範明)でもあのストーリーも意味わかんなすぎて、みんなで見てるとすごい楽しめると思うんですね。

(宇多丸)ああ、意味わかんないんだ。ストーリー、それでもやっぱり。

ストーリーも意味はわからない

(渡辺範明)ストーリーに関しては、僕は用語に関してはもう完全にわかってるから大丈夫ですけど。ストーリー展開の意味わからないでも全然いっぱいあるので。まあ、でもその話をするときりがないんで今はちょっとやめておきますね。あんなに困惑しながらやったらラスボス戦もないですから。

(宇多丸)ゲーム性としてはあれなんだけどって(笑)。

(渡辺範明)「こいつ、倒しちゃいけないんじゃないの?」って思いながら倒して。「やっぱりダメだったじゃん!」ってなるみたいな。まあ、細かいことはネタバレしませんけども。

(宇多丸)ああ、面白い(笑)。『ファイナルファンタジー13』、いろいろ評価はあったようですが、渡辺さんの本質としての評価というかね。お話を伺いました。続いて、一方のドラクエは?

(渡辺範明)はい。『ドラクエ9』。『ファイナルファンタジー13』にめっちゃ時間をかけちゃったんですけども。『ドラクエ9』は一方で、全然違う方向のチャレンジをしていまして。で、これは次の時代の準備をした作品だと思っているんですね。

渡辺範明と宇多丸『ドラゴンクエスト9』を語る
渡辺範明さんが2022年2月17日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でプレイステーション3とニンテンドーDS時代のドラゴンクエストとファイナルファンタジーについてトーク。『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』について宇多丸さん、宇内梨沙さんと話していました。

<書き起こしおわり>

アトロク「国産RPGクロニクル」書き起こしまとめ
TBSラジオ『アフター6ジャンクション』でドロッセルマイヤーズ・渡辺範明さんが『ドラゴンクエスト』と『ファイナルファンタジー』を中心に日本のRPGの発展の歴史を紹介したシリーズ「国産RPGクロニクル」の書き起こし記事のまとめです。

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