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高橋芳朗 2015年グラミー賞のテーマ Black Lives Matterを語る

高橋芳朗 2015年グラミー賞のテーマ Black Lives Matterを語る 荻上チキSession22
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音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんがTBSラジオ『荻上チキSession22』で2015年グラミー賞を振り返り。話題となったプリンスのスピーチの意味や、大きなテーマとなった『Black Lives Matter』などについて話していました。

(南部広美)今夜はTBSラジオ『ザ・トップ5』でもお馴染みの音楽ジャーナリスト高橋芳朗をお迎えしています。

(高橋芳朗)こんばんは。よろしくお願いします。

(南部広美)芳朗さんには去年に引き続き、今年も世界最高峰の音楽賞、グラミー賞を総括していただきたいと思います。

(高橋芳朗)まず、じゃあちょっとグラミー賞とは?っていうのを改めて、ご紹介しておきましょう。グラミー賞、1959年から開催されております。で、いま南部さんがおっしゃったように、世界最高峰の音楽賞。世界で最も権威のある音楽賞と言っていいと思います。

(荻上チキ)今回で57回ですかね。

(高橋芳朗)はい。『グラミー』という名前は蓄音機グラモフォンが由来になっております。主催しているのはナショナルアカデミー・オブ・レコーディング・アーツ・アンド・サイエンス(National Academy of Recording Arts and Sciences)という組織で、約1万3千人の会員の投票によって候補作品と受賞作品が決定されると。

(南部広美)会員投票なんですね。

(高橋芳朗)はい。で、今年の部門数は昨年より1部門増えてですね、計83部門となっております

(荻上チキ)多いですね。部門もまた。

(高橋芳朗)ええ。で、今年の第57回はですね、現地時間2月8日ですね。ロスアンゼルスのステイプルズセンターで開催されました。で、テレビの視聴率としてはですね、昨年よりちょっとダウンしてしまったんです。昨年の視聴者数が約2850万人だったのに対してですね、今年は11%ダウンの約2530万人という結果になってしまったんですが、見どころはバッチリというか、多かったです。で、今年のグラミー賞の注目ポイントとしてはですね、最優秀レゲエアルバム賞に日本のSPICY CHOCOLATEがノミネートされていたことも話題になって。

(南部広美)うんうん。

(高橋芳朗)惜しくもまあ、受賞とはならなかったんですけども。

(荻上チキ)まあ、ノミネートされただけでもね。

(高橋芳朗)素晴らしいと思います。で、まあ最大の焦点となりますと、主要四部門。最優秀レコード賞、最優秀アルバム賞、最優秀楽曲賞、最優秀新人賞。この主要四部門を含む最多の六部門でノミネートされたサム・スミス。イギリスの白人シンガーソングライター。現在22才の大型新人なんですけども。このサム・スミスがいったい何部門とるのか?ここがまあ、最大の焦点。ここに焦点が絞られていたと言っていいと思います。はい。

(荻上チキ)うん。なるほど。

(高橋芳朗)で、実際にどういった結果になったか?というとですね、まあ大方の予想通りサム・スミスが圧倒的な強さを見せまして。主要三部門を含むですね、最多の四部門を受賞いたしました。で、サム・スミスが受賞した背景としてはですね、彼の音楽自体の素晴らしさも勿論なんですけども、昨年のグラミー賞の余韻をちょっと引きずっているようなところもあるかな?と思っております。

(荻上チキ)ええ、ええ。

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2014年のグラミー賞で高まった機運

(高橋芳朗)ちょうど1年前にこの番組でも紹介しましたけれども。昨年のグラミー賞はちょっと同性愛者をサポートする作品を評価しようという機運が高まっていまして。

高橋芳朗が語るグラミー賞2014の傾向『同性愛者支援作品が評価される』
高橋芳朗さんがTBSラジオ『Session22』で2014年のグラミー賞を総括。今回の特徴として、同性愛者をサポートする内容の楽曲が高い評価を受けていたことを話していました。

(荻上チキ)ええ、ええ。なんか続いてましたね。

(高橋芳朗)それが授賞式全体の気分を決定付けていたんですけども。このサム・スミスはまさにですね、デビュー直後に自分は同性愛者であることをカミングアウトしてるシンガーなんですね。で、彼は性的マイノリティーを取り巻く状況に対しての問題意識も非常に高くてですね。グラミー賞授賞式直前の2月5日に『Lay Me Down』という曲のミュージックビデオを公開したんですけども。それに合わせてTwitterでこんなステートメントを発表してるんですね。

(荻上チキ)うん。

(高橋芳朗)『ストレートの人たちがそうであるように、いつか、世界中の全てのゲイとトランスジェンダーの人々がどの国でも、どの街でも、どこででも結婚できるような日がおとずれることを願っている』と。

(荻上チキ)はい。

(高橋芳朗)で、こういうメッセージを発信しているサム・スミスが最多受賞したとなるとですね、そこはやっぱり昨年のグラミーからの流れをちょっと意識せざるを得ないってことになると思うんですね。さらにサム・スミスはですね、授賞式のスピーチで、今回の受賞作品が彼の実際の失恋体験にインスピレーションを得ていることからですね、こんなコメントをしてるんですね。

(荻上チキ)はい。

(高橋芳朗)『この受賞に貢献してくれた、ある男性に感謝の言葉を伝えたい。僕に失恋を経験させてくれて、ありがとう。君が僕に4つのグラミーをとらせてくれたんだよ』と。これはつまり、元カレに対する謝辞を述べたわけですね。

(荻上チキ)『絶対にキレイになってやる!』みたいな(笑)。

(高橋芳朗)まあ、そういうことだと思いますよ(笑)。

(荻上チキ)それより、なんかキザな感じがしますね。

(高橋芳朗)いや、まさにそういう感じだと思います。で、さらにサム・スミスはですね、こんなことも言ってるんですね。『僕の音楽を1人でも多くの人に聞いてほしくて減量に励んだり、いろんなことを試してみた。でもある時、自分自身をさらけ出すようになってから、みんなが僕の音楽に耳を傾けてくれるようになった』。要はカミングアウトしてから、僕の音楽の受け止められ方が変わったってことを言ってるんですね。

(荻上チキ)はい。

(高橋芳朗)だから、自分が同性愛者であることをさり気なくふれながら、かつ、同時に性的マイノリティーの人を勇気づけようとしている。このへんの振る舞いがね、サム・スミスは非常に好感が持てたなと思いました。

(荻上チキ)ええ。それを聞くだけでも、アメリカは演説文化なんだなって感じますね。

(高橋芳朗)そうですね。結構スピーチの良し悪しが評価されますね。はい。で、ちなみにですね、同性愛にまつわる作品っていうことではですね、今回のグラミーの最優秀楽曲賞にノミネートされたホージア(Hozier)というアーティストの『Take Me To Church』っていう曲があるんですが。この曲はですね、ロシアの反同性愛法を、ロシアのゲイ差別を題材にして作られた曲で。このへんからもですね、去年のグラミーの余波が見て取れると思います。

(荻上チキ)ええ。

(高橋芳朗)で、この曲、ミュージックビデオが非常にショッキングな内容になっていてですね。ゲイの男性をリンチするような、かなり過激なビデオになっているんで。ちょっとまあ、興味のある方は、かなり、ちょっとびっくりすると思うんですけども。ぜひ、見ていただきたいなと。

(荻上チキ)実際にロシアで起こっていることですからね。

(高橋芳朗)そうですね。はい。チェックしていただけたらと思います。なんでちょっと、ここでじゃあさっそく、サム・スミスの曲を聞いていただけたらと思います。最優秀レコード賞とですね、最優秀楽曲賞の受賞曲になります。で、今回、授賞式のパフォーマンスでも披露したですね、メアリー・J.ブライジとのデュエットバージョンで聞いていただけたらと思います。サム・スミス feat.メアリー・J.ブライジで『Stay With Me』。

(高橋芳朗)サム・スミス feat.メアリー・J.ブライジで『Stay With Me』、聞いていただきました。この曲はやっぱ寄り添い力がすごいですよね。

(南部広美)サム・スミスの歌い方ね。

(高橋芳朗)ねえ。ちょっとこれ、冬曲っていう感じがしますよね。人肌恋しい季節にちょっとピッタリかなという。

(荻上チキ)そうですね。一緒に肩寄せあいながら。

(高橋芳朗)まさに『Stay With Me』という感じがしておりますけれども。で、お話、ちょっとグラミー賞の方、続けさせていただきますとですね。いま聞いていただきました、主要四部門でノミネートされたサム・スミスなんですけど。彼にはですね、1981年の第23回グラミー賞のクリストファー・クロス以来となる主要四部門制覇の期待が実はかかっていたんですよ。

(荻上・南部)ほう。

(高橋芳朗)主要四部門、彼、ノミネートされていたんで。

(南部広美)クリストファー・クロスはとっているっていうことですね。主要四部門。

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プリンスのスピーチ

(高橋芳朗)そうですね。彼しか、いまのところ唯一。主要四部門制覇した人はいないんですけども。でも、それはですね、最優秀アルバム賞をベック(Beck)が受賞したことによってですね、叶わなかったわけなんですね。で、この最優秀アルバム賞のプレゼンターを実はプリンス(Prince)が務めたんですね。プリンスからベックにトロフィーが授与されたんですけども。その際に行ったプリンスのスピーチが今回のグラミー賞のひとつの気分というか、テーマを表してたところがあるんですね。

(荻上チキ)はいはい。

(高橋芳朗)で、プリンスはこんなスピーチを披露したんです。『みんな、アルバムって覚えている?アルバムはまだ大切だ。書物や黒人の命と同じように、アルバムは大切なものなんだ』と。

(荻上チキ)うん。

(高橋芳朗)英語で言うとですね、『Albums still matter. Like Books and Black lives, albums still matter.』という感じのスピーチを披露したんですけども。数々の傑作コンセプトアルバムを作ってきたプリンスだからこその、重みを伴うスピーチとして、とても大きな反響を呼んだんですけどれども。あと、ダウンロード配信が主流になってきた時代に、アルバムの存在意義を改めて世に問う素晴らしいスピーチだったなと。

(荻上チキ)作品群でコンセプト、テーマを浮き上がせるっていうことは、1曲だけではできないんですか?

(高橋芳朗)そうですね。ただですね、このスピーチはですね、アルバムの存在意義を問うのと、もうひとつ、非常に重要なメッセージが託されているんですね。で、プリンスがここで失われつつあるもの、あるいは軽視されつつあるものとして、アルバム、書物・本と一緒に並べて挙げている黒人の命。『Black lives』ですね。挙げていることに注目してほしいんですけど。

(荻上チキ)ええ、ええ。

(高橋芳朗)これですね、アメリカン・ダイアレクト・ソサエティー(American Dialect Society)。訳すとなんでしょう?アメリカ方言学会、アメリカ英語学会みたいになるんでしょうか?アメリカン・ダイアレクト・ソサエティーがですね、2014年今年の言葉。今年のワードに選出した『Black Lives Matter(黒人の命は重要)』っていうフレーズに呼応したものになるんですね。

(荻上チキ)ええ、ええ。

(高橋芳朗)で、この『Black Lives Matter』がどういう背景から出てきた言葉か?と言いますと、2014年7月のニューヨーク、あと、8月のミズーリ州ファーガソン。昨年アメリカであの、無抵抗の黒人男性が相次いで白人警官に殺害されて。それがいずれも不起訴処分になって、大きな社会問題になった件がありました。

(荻上チキ)すごく大規模になりましたね。

(高橋芳朗)で、そうした状況に抗議するためにスローガンとして使われた言葉が、『Black Lives Matter』になるんですね。で、いまやもうこの言葉、言葉っていうかひとつのムーブメントになったと言っていいと思うんですけども。で、去年のグラミー賞における同性愛者支援のようにですね、今年のグラミー賞にもなにかひとつのテーマを見出すとするならば、今年はこの『Black Lives Matter(黒人の命は重要)』っていうことになると思うんです。

(荻上チキ)うん。

(高橋芳朗)つまりグラミー賞は2年に渡ってこう、マイノリティーへの差別に目を向けたと言えるんですけども。去年はグラミー側がそのメッセージを主導していた。運営側が主導していたところがあったのに対して、今年はグラミーが意図したものを超えてですね、アーティスト側が率先して自発的にそのムードを引っ張っていったところがあったような印象を受けました。

(荻上チキ)やっぱりアーティストがね、その社会的メッセージをどう出すのか?っていった時に、たとえば若者が自殺に追い込まれるような事件。特に同性愛当事者がっていった時には、ライブとかそうしたパフォーマンスの場で、レディ・ガガとかいろんなミュージシャンがスピーチをするっていうのがあるわけですね。『この曲を捧げる』とか。あるいはYouTube上でなにかこう、ムーブメントを起こすとか。そうしたものがグラミー賞のその舞台でも、むしろその注目をされて、大きく語られるということになるわけですね。

(高橋芳朗)そうですね。スピーチやパフォーマンスで、このテーマが浮き彫りになっていくっていう感じなんですけど。で、もともと僕、個人的に今年のグラミー賞は例のファーガソンの一件にどんな意思表示するか?非常に注目していたんですけれども。で、今回の授賞式ではですね、最後。大団円のパフォーマンスにR&Bシンガーのジョン・レジェンド(John Legend)とラッパーのコモン(Common)が共演した『Glory』っていうゴスペルの曲を最後に持ってきているんですね。

(荻上チキ)ふんふん。

(高橋芳朗)で、これはマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの伝記映画の『セルマ(Selma)』のテーマソングで。ゴールデングローブの主題歌賞もとっている曲なんですけども。この曲はキング牧師だけじゃなくて、ファーガソンの事件にも言及してるんですね。だから、まあこの『Glory』を授賞式のフィナーレに持ってきたグラミーの計らいには、もう、『グラミー、グッジョブ!』っていう感じだったんですけども。

町山智浩 キング牧師を描く映画『グローリー/明日への行進』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でマーティン・ルーサー・キング牧師の誹謗力闘争と血の日曜日事件を描いた映画『セルマ』を紹介していました。

(荻上チキ)音楽がもうスピーチであるみたいな。

(高橋芳朗)ええ。で、授賞式トータルの流れで見ていくとですね、この大団円『Glory』に向けて、様々な黒人アーティストたちがスピーチなり、いまチキさんがおっしゃったようにスピーチなりパフォーマンスで意味を肉付けしていったというか。どんどん。『Black Live Matter』というテーマとかメッセージをいろんなアーティストが強化していったところがあったんですね。

(荻上チキ)うーん。

(高橋芳朗)で、それは先ほど紹介したプリンスの『書物や黒人の命と同じように、アルバムは大切』っていうスピーチにしてもそうですし。たとえば今回、三部門で受賞したファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)。彼の大ヒット曲の『Happy』。彼、パフォーマンスした際ですね、この曲を。非常に楽しい曲ですよね。『Happy』。非常に重厚なアレンジで披露したんですね。

(荻上チキ)ええ、ええ。

(高橋芳朗)で、さらに曲の途中で大勢のダンサーと一緒にこう、手のひらを上に上げる、『Hands up,Don’t shoot(手を上げるから撃たないで)』というジェスチャーをファレルとダンサーでやってみせたんですね。

(荻上チキ)まさにデモの時に『黒人を撃つな!』っていうメッセージを出したように。

(高橋芳朗)これもあの、『Black Lives Matter』と同様に、ファーガソンの事件に抗議を示すジェスチャー、フレーズとして有名になったんですけれども。で、この『Hands up,Don’t shoot』のジェスチャーをですね、ジョン・レジェンドとコモンの『Glory』の直前にステージに立ったビヨンセ(Beyonce)も、さり気なく取り入れてですね。彼女は『Take My Hand. Precious Lord』というゴスペルのスタンダードを歌ったんですけども。

(荻上チキ)ええ、ええ。

(高橋芳朗)その時に聖歌隊が両手を上げるジェスチャーを行っているんですね。

(荻上チキ)うん、うん。

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コモンとジョン・レジェンドのパフォーマンス

(高橋芳朗)で、そんな流れもあって、最後のジョン・レジェンドとコモンの『Glory』はおそらくグラミー、主催者側の想像以上に感動的に、かつ、重く響くことになったと思うんですけども。さっきも触れたようにですね、この『Glory』、キング牧師の伝記映画の『セルマ』の主題歌なんですけども、歌詞の内容的には過去と現在の黒人の人種差別の戦いの歴史をつなぐような内容になってるんですね。

(荻上チキ)ええ、ええ。

(高橋芳朗)コモンのラップの一部。キモの部分を紹介いたしますね。こんな内容になっています。『1人の男が死んだ。彼の魂は我々のもとに帰ってくる。我々の中には真実と生命が息づいている。抵抗する意思だってある。だからローザ・パークスはバスで白人専用の座席に座った。だから我々は両手を掲げてファーガソンを行進する。打ちのめされても、我々は前を向く。警官に「下がれ」と言われても、我々は立ち上がる。銃声が鳴って地面に伏せても、カメラは上を向く。キング牧師がたどりついたあの山の頂きを目指して我々は駆け上がる』と。

(荻上チキ)うーん。

(高橋芳朗)で、この部分の歌詞なんですけど、基本的に韻を『US(我々)』とか『UP(立ち上がる)』だけで踏んでいくんですね。非常にシンプルなライミングなんですけど、それがまた聞き手の魂を鼓舞するようなところがあって。だから、ある意味ですね、韻にもメッセージが込められているとも言えるんじゃないかなと。

(荻上チキ)シンプルなシュプレヒコールであるようで、でも、そのキング牧師が目指した頂きを目指すっていうことは、まだたどり着いてないんだっていう暗の批判でもあると。

(高橋芳朗)そうなんですよ。あの、黒人の人種差別を扱った曲って60年代からずっとそうなんですけど、この『Glory』もそうなんですけど。かならず『Oneday』とか『Someday』っていうフレーズが出てくるんですよ。『いつか、いつか』ってずっと歌い続けているんですね。それはもう60年代からいままで、いまだに変わらないっていうのがちょっと・・・

(荻上チキ)『I have a dream』の有名な一節にも『Someday』。

(高橋芳朗)そうです。そこがちょっと、いつまで『Oneday』『Someday』って歌い続けなくちゃいけないんだ?っていう。

(荻上チキ)ええ、ええ。『Today』じゃないっていうっていうことですね。

(高橋芳朗)はい。悲しさがあるんですけどね。じゃあちょっと、そのへんに注目して曲を聞いていただけたらと思います。ジョン・レジェンド&コモンで『Glory』です。

(高橋芳朗)ジョン・レジェンド&コモンで『Glory』を聞いていただいております。

(南部広美)鳥肌ですね。

(荻上チキ)素晴らしいですね。

(高橋芳朗)で、この『Glory』で歌われているようにですね、ファーガソンの事件を受けて全米各地で大規模な抗議運動が行われて。『Black Lives Matter』のムーブメントが盛り上がっている現在の状況はですね、公民権運動やブラックパワームーブメントが台頭した60年代中盤から70年代前半の黒人を取り巻く状況と非常に重ねあわせやすいかなっていう気がするんですね。

(荻上チキ)そうですね。

(高橋芳朗)で、そんなことを踏まえて、一旦またさっきのプリンスのスピーチ。『アルバムはまだ大切だ。書物や黒人の命と同じように、アルバムは大切なものなんだ』っていうフレーズをちょっと思い出してほしいんですけども。公民権運動とかブラックパワームーブメント隆盛にはですね、当時の黒人音楽。ブラックミュージックも大きな貢献を果たしているんですね。

(荻上チキ)はい。

(高橋芳朗)特に60年代後半から70年代前半は黒人音楽の非常に大きな変動期で。まさに黒人たちを奮い立たせるようなメッセージ性の強いコンセプトアルバムがたくさん作られたんですね。

(荻上チキ)うん。

(高橋芳朗)アーティストで言うと、マービン・ゲイ(Marvin Gaye)とか、ダニー・ハザウェイ(Donny Hathaway)、スティービー・ワンダー(Stevie Wonder)、カーティス・メイフィールド(Curtis Mayfield)、スライ・アンド・ザ・ファミリーストーン(Sly & the Family Stone)。で、音楽が運動を後押ししたり、民衆を奮い立たせたようなところがあったんですけど。そう考えるとですね、プリンスの『アルバムはまだ大切だ。書物や黒人の命と同じように、アルバムは大切なものなんだ』っていうスピーチは、60年代・70年代に数々の名盤が社会運動を支えたように、『今度は俺達がそういう役割を果たさなくてはいけない』と同胞に呼びかけているようにも受け取れるかなという気もするんですね。

(荻上チキ)そうですね。

(高橋芳朗)いまこそ、音楽がモノを言う時なんだ!と。

(荻上チキ)『Book』っていうのを入れていることによって、たとえばジャーナリズムの力とか言葉の力とか、その他業種にも呼びかけているっていう・・・

(高橋芳朗)ところもあるんじゃないかと思います。はい。で、事実ですね、『Black Lives Matter』のムーブメントに触発されてですね、今年は間違いなく黒人音楽、ブラックミュージックが熱いことになると思います。はい。で、ブラックであることに向き合ってですね、ブラックであることを強調するような作品が増えてくると思うんですね。はい。そういう萌芽とか兆しはすでに、今回のグラミー賞にも現れているんですよ。

(荻上チキ)そうですね。

(高橋芳朗)で、まず、そういう作品としてご紹介したいのが、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)というラッパーの『i』という曲でですね。小文字の『i』なんですけども。これは今回のグラミー賞で最優秀ラップソング賞など二部門を受賞している曲になります。

(荻上チキ)おおー。

(高橋芳朗)ケンドリック・ラマーはまだメジャーでは1枚しかアルバムを出していないんですけれども。実質、いまのヒップホップシーンのエース格という存在です。で、この『i』の歌詞をざっくり言うとですね、『まず自分を愛そう。そうしなくちゃ、他人も愛せない』っていうような内容でですね、黒人に団結を促すと同時に、まさにブラックパワームーブメントのスローガンでした『Black is beautiful』。ありましたね?あれにも通底するようなメッセージを持った曲になっております。はい。ちょっとじゃあ、さっそくその曲、聞いていただけたらと思います。今年のグラミー賞最優秀ラップソング受賞曲です。ケンドリック・ラマーで『i』です。

(高橋芳朗)ケンドリック・ラマーの『i』を聞いていただいております。このケンドリック・ラマーですね、グラミー賞の翌日にさっそく新曲を発表したんですけれども。そのタイトルが『The Blacker The Berry(ベリーよりも黒い)』。ベリーは果物のベリーなんですけども。

(荻上チキ)はい。

(高橋芳朗)で、このタイトルがウォレス・サーマン(Wallace Thurman)というハーレムのルネッサンス期の黒人作家が1929年に刊行した同名の小説に由来しているというですね。これは来てるな!と。だからアルバムにもかなり期待できるんじゃないかな?と思います。

(荻上チキ)やっぱり音楽の曲の歌詞の中とかね、パフォーマンスの中にアイデンティティーとかを見出すようなファンっていうのを巻き込んで、たとえば音楽が流行したり、あるいは場合によってはムーブメントになったりしますからね。そうした本質に回帰しているのかな?と。

(高橋芳朗)まさにそういうところがあります。その流れで、ちょっともう1曲、紹介したいんですけども。今年のグラミー賞のパフォーマンスの目玉だった曲なんですけど、リアーナ(Rihanna)とカニエ・ウェスト(Kanye West)、あとポール・マッカトニー(Paul McCartney)の3人のコラボレーションによる『Four Five Seconds』。

(荻上チキ)すごいな。

(高橋芳朗)紹介したいと思います。この曲はですね、カニエ・ウェスト。彼も今年のキーマンになってくるアーティストだと思うんですけど。カニエ・ウェストが監修を務めるリアーナのニューアルバムに収録される予定の曲になります。リアーナはですね、ここ最近EDMというか、ダンス・ポップ寄りの作風が目立っていたんですけども。彼女もね、次のアルバムはブラックを意識した方向性にシフトしてくるんじゃないかな?という気が、この曲から垣間見えました。

(荻上チキ)ポールが加わることによって、あの時代からの連続性みたいなものが、更にね。

(高橋芳朗)そこも浮かび上がってくると思います。で、実際この『Four Five Seconds』でのリアーナのボーカルは珍しくブルージーでちょっとゴスペルっぽいニュアンスもある歌を披露しているので、ちょっとそこに注目して聞いていただけたらと思います。リアーナ、カニエ・ウェスト、そしてポール・マッカトニーで『Four Five Seconds』。

(高橋芳朗)リアーナ、カニエ・ウェスト、ポール・マッカトニーで『Four Five Seconds』、聞いていただきました。

(荻上チキ)うーん。

(高橋芳朗)今年のグラミー、結構ゴスペルを意識させる場面も多かった感じがありましてですね。この曲もそうですし、あと、ジョン・レジェンドとコモンのさっき聞いていただいた曲もそうですし、あと、ビヨンセ、ファレル、サム・スミスもゴスペルのテイストありますよね。あと、マドンナもパフォーマンスの時にゴスペルクワイアを引き連れてたんですけど。これも『Black Lives Matter』とは無縁ではないのかな?という気がちょっとします。はい。

(荻上チキ)うーん。すごい組み合わせですね。

(高橋芳朗)というわけで、まとめますと、今年のグラミー賞はですね、主役となった最多受賞のサム・スミスで昨年からの同性愛の流れを汲みつつ、全体的には『Black Lives Matter(黒人の命は重要)』っていうメッセージを強く打ち出した年だったなという感じですかね。

(荻上チキ)そうやって聞くと、広く公民権運動ってまだまだ続いているんだなっていう。

(高橋芳朗)そうですね。本当にもう、『Oneday』に向けての戦いはずっと続いているんだなっていう感じはしますね。

(荻上チキ)カニエ・ウェストで思い出すと、ちょうど10年前ですか。ハリケーンカトリーナの時にメディアなどを通じてカニエ・ウェストは政府批判とメディア批判をしてましたよね。有名なエピソードですけど、たとえばメディアがカメラを向ける時に、白人が物資を持って移動している時は、『支援物資を探している・必要としている』っていう話をしてるんだけど、黒人を映す時は『略奪している』って報道してるじゃないか!みたいな。そうした、メディアの側とか語る側のバイアスっていうものを批判して。そうした本当に貧困っていうものに向き合っているんだろうか?人種差別がそこにあるんじゃないか?っていうような。そうしたことを声高に主張していましたよね。重要な事だと思いましたけど。

(高橋芳朗)ジョージ・ブッシュは黒人を一切ケアしていない!っていう風に言ってましたよね。

(荻上チキ)それから10年たって、また前進しているのか?と言えば、むしろより悲劇的な出来事も起きてしまっているという状況で。うーん。メッセージの意味というものが、まだまだ続くわけですよね。

(高橋芳朗)なので今年は本当にブラックミュージック、注目だと思います。はい。

(荻上チキ)今後出る曲に・・・グラミー賞って、その年の総括であると同時に、翌年のアーティストへのメッセージだったりもするじゃないですか。

(高橋芳朗)まさにプリンスのスピーチは、まあ2015年を予見するようなスピーチだったんじゃないかな?という気がしますね。

(荻上チキ)そうですね。いやー、気になりますね。音楽のテイストとしてはどうですか?歌詞の中身とかじゃなくて、たとえばナンバーのテイストといいますか。

(高橋芳朗)そうですね。たとえば、なんですかね?この『Black Lives Matter』のムーブメントを牽引する代表的なミュージシャンとも言えると思うんですけど、ディアンジェロ(D’Angelo)がやっぱり70年代ファンクみたいな、そういうテイストを強めているアルバムを出していたりするので。そうですね。やっぱりそのブラック・イズ・ビューティフルみたいなスローガンを打ち出した頃のソウル・ミュージックだったりファンクだったりとか。そういうところのエッセンスは当然、打ち出されてくるんじゃないかな?と思いますけれどもね。

(荻上チキ)だとするとやっぱり、歴史の再解釈っていうものを、こうしたことを通じて若いアーティストや年配のレジェンドたちが交流しながら作っていくっていうことになりそうで。まさにこの、ポール・マッカトニー、カニエ・ウェスト、リアーナっていうのは、それを象徴するような世代間のミックスな気がしますね。

(高橋芳朗)うん。さっきのケンドリック・ラマーも70年代のアイズレー・ブラザーズの曲をサンプリングしてたりするので。

(荻上チキ)はい。というわけで今年もグラミー賞の総括をしていただきました。また来年もね、もういまから予約してますよ!

(高橋芳朗)よろしくお願いします(笑)。セッションファミリーとして。

<書き起こしおわり>

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