朝井リョウさんとドンデコルテ渡辺銀次さんが2026年8月10日放送のNHK AM『ウチらと世界とエンタメと』で対談。大衆小説と純文学の違いについて話していました。
(朝井リョウ)そうだな。じゃあちょっと漫才をお勧めいただいたっていうこともあったので。私はちょっと純文学とお笑いって実はかなり似ている気がしていて。その代表例のような二作をご紹介したいなという風に思います。これは『良夫婦』っていう今村夏子さんの小説です。で、もう一つが『ミスター・チームリーダー』っていう石田夏穂さんという方の小説なんですけれども。
私、本当に本を読んでいると、特に小説の中でも大衆小説と純文学って一応、分かれていて。先ほど、おっしゃった時代小説はおそらくジャンルでいうと大衆小説に分類されるのかなと。で、まあ世の中には純文学に分類される小説もあって。よく「その違いって何ですか?」みたいなことを聞かれることがあるんですよね。
(渡辺銀次)たしかに。
(朝井リョウ)で、自分なりの答えを用意しておかなきゃなとある時から思い始めて自分なりに考えた結果、世界と個人があるとしてその順番で大衆小説と純文学というのが分かれるんじゃないかなと思っていて。
(渡辺銀次)わっ、面白い。何ですか? 順番?
(朝井リョウ)世界が先にあって、その世界に後から個人がやってきた話に関しては私は大衆小説に分類される可能性が高いのかなと思っていて。たとえば主人公が「こっちが前である」って言った時、その後に続く文章が「なぜなら私の後ろに壁があるから」っていう世界が大衆小説。で、読んでいる人も「ああ、たしかに後ろに壁があったらこの主人公が指さす方が前だな」っていう風に思いながら読んでいく。だから善悪とか倫理もある世界の中で展開されていく物語。すでに決定されて、それが読者と共有されている物語で。善悪や倫理が共有されている状態で進む物語が大衆小説なのかなと思っていて。つまり、だからそうするとやっぱり粋とかも実現しやすいというか。お互いに善悪や倫理が共有されているから「これって粋だよね」って言えるっていう状態なのかなと思うんですよね。
で、純文学の場合は主人公が「こっちが前である。なぜなら私がそう思うから」っていう世界なのかなと思うんです。だから物理的に目の前に壁があったとしても主人公が「前です」って言えばそれが前になる前提で物語が進んでいくのが純文学なのかなと思っていて。そうなると読み手とは何も共有されていない……善悪とか倫理とかが共有されてないから、主人公が何かとんでもない行動に出たりとかするように見えるんだけれども、それは主人公が設定している「前」が読者が設定している「前」と違うだけっていう世界なのかなっていう風になんとなく言語化している部分があるんですね。
(渡辺銀次)なるほど。
(朝井リョウ)それで言うとやっぱりお笑いって、それこそ先ほどの(ドンデコルテがM-1で披露した)スマホのネタとかも世の中で共有されている「前」っていうのは現実を見つめること。その上で自分を理解したりとか、その上で成長したりとか、前進したりとかするようなことなのかもしれないけど。渡辺さんが設定している「前」はそもそもそうじゃないっていうところがすごく重要なわけですね。
(渡辺銀次)そうですね。ああ、じゃあ僕らは純文学寄りなんですね?
(朝井リョウ)すごくそれを思いました。「ああ、この人にはこの人の前がある」っていう風に思って。でも、それがすごく大事だなと思っていて。で、今回挙げた小説、『良夫婦』の方は読んでいくとあんまり違和感なく読んでいけるんですけれども。途中で「あっ、そういう人だったんだ!」っていうのがゾッとする形で……ちょっとホラーの楽しみ方もできると思うんですけど。大変、なんて言うのかな? これね、この今村さんの小説は全体的にそうなんですけど。笑っちゃう怖さがどの作品の中にもあって。「ゾッ!」っていうかもう「はっ!」っていう笑っちゃう怖さがどの作品の中にもあって。でも、それが一番怖かったりもするじゃないですか。本当に怖い……。
(渡辺銀次)もう怖すぎて笑っちゃうこと、ありますもんね。
(朝井リョウ)っていう小説で。しかも、それが大げさに書かれてないんですね。もしかしたら全く気づかずに読み終える方もいるかもしれないっていうくらい、なんかその「ここでずれてますよ」っていうのがものすごくさりげなく提示されてその怖さがある小説で。
(渡辺銀次)うんうん。
(朝井リョウ)で、『ミスター・チームリーダー』っていうのはものすごく体を鍛えている30代の男性が社内でチームリーダーになるんですけれども。その人が人を体脂肪率でしか見られなくなっていく話で。
(渡辺銀次)アハハハハハハハハッ!
(朝井リョウ)これ、めちゃくちゃ笑えるんですけど。体脂肪率でしか見られなくなっていくから……。
(渡辺銀次)筋肉量じゃないんだ。体脂肪率なんだ。
(朝井リョウ)そうなんです。体脂肪率があるかどうかっていうので。筋肉量は自分でコントロールできるもの。鍛えれば増やせるし、自分の意思で動かせるもの。でも体脂肪っていうのは自分の意思が届かない部分っていう判断になっていくので、その社内で自分の意思通りに動いてくれない人間を「体脂肪」だと思うようになっていくんですね。で、それをいかに削いでいくかっていう。で、そうなっていくとたとえば主人公から見て体脂肪が多い人の笑い声とかが「ブヨヨ」とかになっていくんですよ。「ワハハ」じゃなくて(笑)。
(渡辺銀次)へー! 『ホムンクルス』(山本英夫)みたいな……『ホムンクルス』っておかしなやつがおかしな見た目に見えてくるっていうのですけど。
(朝井リョウ)そうです。本当におっしゃる通りで。
(渡辺銀次)それは音が変わるんですね?
(朝井リョウ)音が変わって。所作とか、そのオノマトペがどんどん変わっていっちゃったりとかしていて。その主人公の視点がひたすら貫かれているので、本人は至って真面目に語っていてもどんどん面白くなってくるっていう作品なんですよ。で、それが思わぬ展開に結びついていくんですけれども。なんか、すごく私はお笑いの作り方というか……何を「前」に設定するか?っていうところが実はすごく似てるんじゃないのかなと思って。なので面白がっていただけるのでは?っていう作品ですね。
(渡辺銀次)ああ、面白いですね!
(朝井リョウ)本当、急にですけど。どんな風にネタって作られてるんですか?
(渡辺銀次)ああ、そうですね……もしかしたら、そのネタを作る行為は大衆小説なのかもしれないなと思いました。今、聞いていて。その、ウケる人のことをずっと考えてるので。ウケるかどうかを。
(朝井リョウ)ああ、まず観客が持ってる善悪だったり倫理を?
(渡辺銀次)たぶんそこがずれてる人っていうのはネタを作るのがめちゃムズいと思いますね。
観客が持っている善悪や倫理をベースにネタを考える
(朝井リョウ)ああ、そうか。最初から本当にずれてたらむしろ笑わせるのって難しい?
(渡辺銀次)難しいと思います。その、いわゆる「天然」っていう部類に入るのかもしれないですね。「芸」というよりは。
(朝井リョウ)なるほど。ちょっと「笑われてる」と「笑わせてる」との違いになっちゃうかもしれないですね。
(渡辺銀次)そうかもしれないですね。そっちで突き抜けてる人ももちろんすごいんですけど。そういう人はやっぱりアスリート出身の方とかが多くなりますね。その、本当に突き抜けて。本当に純文学やってる方……朝井さんの言う純文学をやってる方から生まれる。なのでネタ作りはもしかしたら純文学がたとえばその世界との落差なんだとしたら、いかに純文学を出すか?っていうことを考えてるんで。大衆文学の視点をいかに持ってるか? なのかもしれないですね。
(朝井リョウ)なるほど。私絶対に執筆の依頼、もう銀次さんに来てると思うんですけど。「絶対に来る」と思っていて……それはエッセイなのか、小説なのか、わかりませんが。
(渡辺銀次)わかんないですけど、なんか「書いてみませんか?」と言われたことはありますけど。
(朝井リョウ)絶対に来てますよね?
(渡辺銀次)本当にその、書くことのしんどさを誰よりも知ってるつもりですから。全部、「勘弁してください」と頭を下げています。
(朝井リョウ)なるほど。これはでもね、いつか……。
(渡辺銀次)いや、無理です、無理です!
(朝井リョウ)「いつか、きっと」とは思ってしまいます。
(渡辺銀次)本当に小説家の先生の前でこんな……。
(朝井リョウ)いや、私のことはそんな風に思わないでいただきたいですが。
(渡辺銀次)私は大先生だと思ってますけど。
(朝井リョウ)ぜひ、気になったら読んでみてください。
(渡辺銀次)はい、もちろんです。読ませていただきます。ありがとうございます。







朝井リョウさんによる大衆小説と純文学との違い解説、とても納得感がありますね。渡辺銀次さんのネタ作りの方法も非常に興味深かったです!
ウチらと世界とエンタメと 渡辺銀次 × 朝井リョウ
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— らじる (@nhk_radiru) August 10, 2026


