鳥嶋和彦と平信一 エンタメの生み出す価値を語る

鳥嶋和彦と平信一 エンタメの生み出す価値を語る TOKYO M.A.A.D SPIN

鳥嶋和彦さんと電ファミニコゲーマー編集長 平信一さんが2023年8月28日放送のJ-WAVE『ゆう坊とマシリトのKosoKoso放送局』の中で「エンタメの生み出す価値」について話していました。

(鳥嶋和彦)どうですか? Nazさん。こういう業界に関わられていて、エンタメとは?

(Naz Chris)みんなを楽しませるけど……みんなを楽しませるために自分が一番楽しむことがエンタメなんだっていう大前提があると思ってるんですけど。ちょっとコロナとか、あったじゃないですか。で、「エンタメ不要論」みたいなのと結構戦っていたところがあって。「とにかく全部やめてください。補償しないけど、イベントも何もかもやめてください。音楽も外で鳴らさないでください」って言われて。「まず、それなんだ……」っていうので若干、絶望に陥ったところがあって。

(鳥嶋和彦)それでいうとね、僕はやっぱりさっき震災の話があったけど。子供の視点で言うと、学校も行けない。どこにも行けない。外で遊べない。そうなると、最初にやっぱり一番必要なのは生命を繋ぐための食料だったり、いろんなインフラ周りなんだけど。しばらくすると、子供は飽きてきて。親も持て余し始める。そうなると、実は本とかフィクションとか、繰り返し見れるなにかっていうのがものすごく大事で。それで言うと、1冊の少年ジャンプがさ、何百回もそこの施設とか、いろんなところで読まれて。で、それが「奇跡の1冊」って言われたエピソードがあるんだけど。1冊のジャンプがね、子供も日常を非日常を持っていってくれる。救ってくれる。そういう意味で言うと、本とかフィクションとかってものすごく大事なんだなって。

(Naz Chris)そうなんです。それで最初は「やめてくれ」って言われたけど、ライフラインが確保されて生活が安全だって思うと、やっぱり次はみんな、それが必要になるわけで。震災でボランティアに行った時もそうで。「電気が復旧してないところで演奏しても、しょうがないね」ってことになったんですよ。それで1回、復旧を手伝うことにして。キャンドルとかで、だんだん明かりが戻ってきてしばらくすると、やっぱりみんな退屈してきて。「なんか笑いたい。なんか非日常がほしい」ってなって、そこでエンタメが求められるっていうのを見て……必要なんですよ。必要だけど、「必要だし、価値がある」ってことをなんか、大人たちがどこかで……。

(鳥嶋和彦)それとね、ジャンプも初代編集長が言った言葉があるんだけど。「少年漫画誌は主食じゃない。おやつだ。でもね、おやつがある方が日常が豊かじゃない? 楽しいじゃない? だから主食にはなれないけど、楽しみに待つおやつにはなろうよ」っていうね。

(Naz Chris)泣ける!

(堀井雄二)その主食はなんなの?

(鳥嶋和彦)主食は教科書だったり、もっと真面目な本だったり、そういうことでいいわけ。だけど、やっぱりおやつが……遠足に行っておやつを決められた予算の中で、誰が何を持ってきたかとか。そういうことを含めて、楽しみじゃない? おやつって、一大イベントじゃない? やっぱり大事なんだよね。僕はね、最初は漫画にあんまり馴染めなかったけど、そういう話を聞いたりするうちに「ああ、なるほどね。漫画とか子供向けの何かって、やっぱり意味があるんだな」って。

(Naz Chris)それこそペルソナとかドラクエでも少し似たような共通点があると思ってるんですけど。「自分なんて本当はないんだよ」って。その上で、でも新しい自分が見つけられたり、自分ってこうなんだっていうのが発見できる場がエンタメの中にはあると思っていて。私、エンタメって突き詰めるとそこにあるんじゃないのかな?っていう風に思うんですよね。

(鳥嶋和彦)平くんはどうですか? 平くんのエンタメ。ずっと、ほら。ネットのいろんなものをウォッチングしてるあなたからすれば?

(平信一)結構僕はそこには一定の答えは今、出ていて。これ、僕はフロム・ソフトウェアの宮崎さんっていう方と結構仲が良くて。鳥嶋さんはご存知だと思うんですけども。彼と1回、ゲームもしたことがあるんですけども。特にゲームはですけど、世の中の価値を増やすのにすごく向いてるよねっていう話をしていたんですよ。要は、戦後とかは物質的な価値が高まることが幸せに繋がっていたんだけど、最近はそれが飽和してるし。あるいはエネルギーとかが足りなくなってきて。

必ずしも、その物質的な価値でイコール、幸せが増えるわけではない。だけど、やっぱりゲームとかエンタメって物資的ではないかもしれないけれども、その人にとっての価値を増やす役割をすごく果たしてるなと思っていて。そういう価値を増やすもの。人々にとっての価値が増えるものを作ってるっていうところにはやりがいもあるし、誇りも感じれるよねっていう。僕的にはそういう理解です。

(鳥嶋和彦)なるほどね。

世の中の価値を増やすエンタメ

(Naz Chris)人によって変えられるものだと思うんですけど。エンタメに出会ってなかったり、エンタメと接してなかったら人生、変わってないか?って。自分だったら明らかに言えるなとは思うんですよね。なんか、きっかけを作ってくれるものだったり、パワーチャージしてくれるものであったりとか。希望を感じさせてくれる役割はあるよなっていうのは思いますよね。

(平信一)わかりやすい例で言うと、たとえばポケモンGOっていうゲームがあって。あれって、本当は何もない現実のフィールドにピカチュウが出ますよとかって言われると、おそらくその現実世界、地球上の本当は何もないところに価値を追加している。

(鳥嶋和彦)わかるわかる。そうすると、普段見慣れている日常が違って見えるよね。

(平信一)そうです。そうです。そしてそのゲームの新しい面白みをそこで生み出すことができるので。これってなんかすごく意味のあることだし、世の中のその価値の総量をやっぱり増やしてるんじゃないかな?っていう気がしています。

(鳥嶋和彦)なるほどね。だから、あれだね。ドラクエもペルソナも、それを遊ぶことによって多少人生が豊かに、幅が広がってるんだね。

(平信一)それこそ、なんか結構編集部とか、あるいは若いライターとかと話す時に、要は子供の頃の武勇伝ってあるじゃないですか。もちろん、そのかけっこで一番を取ったとか、勉強で◯◯ができたっていう人もいるとは思うんだけど。一方で、それができない人の方が大半だったりして。でも、じゃあそういう人たちが何をその子供の頃、「こういうことやったぜ」って語るかっていうと、それが実はポケモンだったりするわけですよ。

ポケモンを努力して、めちゃめちゃ強いポケモンをゲットしたとか。「あの時、苦労したな」とか。ドラクエも一緒で。僕、ドラクエ3でしあわせのくつっていうのがほしくて。めちゃくちゃ頑張ってプレイしたんですけども。たとえば、そういうそのゲームの成功体験というのが結構、子供の心の中にあるんだなっていうのは感じるんですよね。

(鳥嶋和彦)それで言うとさ、ビートルズは音楽をワールドワイドで聞いていれば、国が違っても人種が違っても、そのワンフレーズについて口ずさめばコミュニケーションが取れる。その段階でもうなんか、すごく素敵じゃない? 通じるものがあるよね。漫画も一緒で「悟空」って名前を言えば、ある種の共有体験ができる。やっぱりエンタメって、そういう意味で言うとコミュニケーションツールでもあるんだよね。よくできてるものってね。

(中略)

(Naz Chris)中国の20代の子たちと一昨年ぐらいに……結構大勢の子たちと話したことがあって。情勢的にも際どい局面って、過去のことを思うとよくあるじゃないですか。でも、若い世代と話すと「日本となんか戦争したくないです」って言うんですよ。「どうして?」って聞くと「ドラゴンボールとかドラえもんとかドラクエとかポケモンとかみたいな、あんなにいっぱいいいものがある国と戦いたくない。大好きなんで」っていう。だいたい、やっぱりそういうものが出てくるんですよね。だから文化っていうか、エンタメってやっぱり素晴らしいものというか。国防であり外交になるんだなって。

国防や外交になるエンタメ

(鳥嶋和彦)そうだね。だからそれはよりパーソナルなところに落ちる、個人的な体験の豊かさ、共有性がやっぱりある種の潤滑油になっていくっていうかね。というところがあるんだよね。やっぱりその国と国の政治的な問題って、意外と政治家が作っていたり、プロパガンダだったりするから。そこで個人的な体験がその嘘を暴いていくっていうかね。それは大事なことだと思う。

(Naz Chris)文化遺産で、国防で外交なのに、なんでこんなに……もうちょっとね、押し出してもらえないのかな?っていう不満は常にありますね。

(鳥嶋和彦)それで言うとこの前ね、たまたま深夜見たNHKのBSの番組で「人間と暴力」っていう話があって。実は古代からずっと今に至るのは暴力があふれているように見えるけど。かなり殺される人の数は減っている。そのうちの、なぜそうなってきたか?っていうひとつの理由がね、文学。フィクションというのがひとつ、あるんですよ。そうすると、人間って人と自分は違うけれど、ある種の感情……「この人はこういう風に思う」っていうことの共有性、想像力がある。

それは、本を読むことによって。それが結構、大きな要素のひとつを占めてるっていうのがあってね。まさかそういう分析が出てくるとは思わなくて。非常に見ていてびっくりしたんだけど。そういう意味で言うと、人間の中には悪魔も天使もいてね。だから、どうバランスを取るか?っていうことでいうと、いろんなことが起きるっていう。

<書き起こしおわり>

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