渡辺志保 ドレイク VS ケンドリック・ラマー 2024年5月13日現在の状況を語る

渡辺志保 ドレイク VS ケンドリック・ラマー 2024年5月13日現在の状況を語る INSIDE OUT

(渡辺志保)そう。それがよかったみたいにジョー・バドゥンが言ってて。それが面白いところだったみたいな記事を読んだんですね。で、私自身は、個人的にはそうは思えないし。私が2024年の令和のビーフって怖いなって思ったのが、AIを使ったことも怖いなって思ったし。あとはやっぱり、これは自分のbayfmのラジオでもちょっと話したんですけど。今回、リアルタイムの配信者みたいなのとか、リアクション配信者みたいな人たちもアメリカというか、世界中にたくさんいるわけなんですけど。やっぱり彼ら、すごいディス曲がボンボンボンボン出て、それにいちいち「やっべー! こんなのが来た!」みたいに興奮する様子。これはAkademiksとかもそうですけど。彼も配信中にケンドリック・ラマーのディス曲が出て。しかも、そのディス曲にAkademiksの声がサンプリングされていたんですよね。それに対して「えっ、マジかよ!」みたいな感じになって。

その一瞬の興奮みたいなものがどんどんどんどんソーシャルメディア上に溢れていって、なんかそれがさらに……ヘイトに基づく興奮みたいなものがめっちゃ可視化されてしまう。それで、たとえばケンドリックの個人的な恨みつらみで始まったビーフかもしれないけれども、それが大人数を巻き込んで「みんなでドレイクをキャンセルしよう」みたいな感じになっちゃうんだったら、ここ数年、問題視されてるそれこそキャンセルカルチャーの怖さとあまり変わらなくなっちゃうんじゃないか?っていう風にも私は思ったんですよ。かつ、ビーフの曲のリリックの内容も結構、暴露合戦みたいな。もう週刊誌のゴシップ暴露合戦みたいになっていって。それも「えっ、隠し子いるの?」とか「えっ、ケンドリック・ラマーって実はホイットニーにDVしてたの? それをTDEが隠して証拠隠滅してたの?」みたいな、そういうところにどんどんどんどん論点がずれていくというか、広がっていくというか。なんかそれって、本当にそれでいいのか? みたいなところもすごく強く感じたんですね。

(DJ YANATAKE)なんかね俺もね、先週、志保さんにまず、思ってることとか、解説みたいのをちゃんと聞こうと思って。先週、ずっと黙って聞いていて。「なるほどな」と思う点がいっぱいあったんですけど。それで放送自体、すごい面白かったし、勉強になったんですけど。そのことで知った事実みたいのを後日、また考えていくとなんか気持ち悪いなっていうか。なんていうか、大人の喧嘩でさ。さっきもさ、「お互いの暴露合戦みたいなのって、トップランナーの2人がやることなのか?」とか。家族のこととか子供に……たとえば、ドレイクの息子のアドニスくんにこう言ったとか。そういうのも、後から考えたらすごい気持ち悪いなと思って。そこに子供とか奥さんとかを持ち出してきちゃったのもなんか、嫌だなってすごいずっと思っていて。で、お互いにそれをやり合っているわけだから、喧嘩両成敗みたいなことなんだろうけど。なんかずっとそういう風に思ってる間に終わっちゃったんで……っていう感じかな?

(渡辺志保)そうですよね。で、今回のこの数日間とか、数週間でケンドリック・ラマーは過去のカタログ作品が本当に再生回数がアップした。かつ、さっきもちょっと触れたけど『THE HEART PART 6』の中でドレイクが『Mother I Sober』のタイトルをもじったいじりをしたっていうのも関係したのかどうか、知らないけど。また『Mr. Morale & The Big Steppers』の再生回数も伸びてるっていう。その反面、ドレイクの過去のカタログ作品の再生回数は減っているみたいな。そういうところでもケンドリックに軍配が上がっているみたいな感じになっていて。

(DJ YANATAKE)でも、その見るソースと自分の考え方によって……「自分はこういう風に思いたい」みたいなので語る角度が変わっちゃうから、何とも言えないですけど。数字とかでもドレイクの方がいい数字を出すニュースメディアもいっぱいあるし。ケンドリックの方がいいっていうメディアもいっぱいあるから、どこを切り取るかだけで全然、印象が違うから。そこは一概にね、どっちが勝ってるっていうのを言えないなって。まあ、『Not Like Us』の記録的なのはわかるけど。

(渡辺志保)うんうん。そうなんですよね。で、私がざっとアメリカのメディアを見ていて。たとえばHotNewHipHopとかXXLとか、いわゆる一般的なヒップホップメディアに関しては本当に「速報!」みたいな感じで結構、ビーフを面白がるというか。エンターテイメントとして楽しむような感じの記事が多い。まあ、性質的にそりゃそうだって感じなんだけど。私が興味深かったのはピッチフォークとか、あとNPRとか、そういう総合的なメディアは結構、軒並み今回のビーフに関して否定的で。「ちょっとこれは……」みたいな。で、イギリスのガーディアンというメディアも「このビーフはアグリー(醜い)だ」っていう風に、それを見出しにしているぐらいで。「ないでしょ?」みたいな感じのトーンだったんですよね。しかも皆さん、めちゃめちゃ長い記事をそれぞれのジャーナリストの方たちがしたためていて。それを読むだけでもめちゃめちゃ勉強になったんだけど。

それで今、名前を出したNPRとか、あとはピッチフォークとか、そうしたメディアに共通しているひとつの視点があって。それも非常に勉強になったし興味深かったんですけれども。それは何かというと、一番強いトーンで書いていたのはRefinery29っていうメディアが一番強いトーンで書いていたんですけれども。今回、一番傷を負ってる被害者は歌詞の中で言及されてきた女性たち……ドレイクがもしもセックスオフェンダーであるとしたら、実際にその性被害を受けた人たち。あとはケンドリック・ラマーのパートナーであるホイットニー。女性たちが最大の被害者なのでは?っていうと、そういう論調の記事が割といくつもあったんですよ。それこそ、繰り返すけどNPRだとかピッチフォークとか。本当にでかいメディアの今回のビーフまとめ記事みたいなのでも、何行かそのことについて触れていて。たとえば、そのRefinery29というメディアの記事の中では「これからケンドリック・ラマーのパートナーのホイットニーも、たぶん過去のInstagramとかを粗探しとかされるだろう」って。

一連のビーフの被害者は女性たち(Refinery29)

Women Are The Collateral Damage In Rap Feuds & Drake Vs. Kendrick Is No Exception
Drake vs Kendrick Lamar has expose a long standing tradition in battle raps: using women as pawns and fodder for slingin...

(渡辺志保)それで実際、ドレイクが以前、自分のライブで17歳の女の子をステージに上げて、キスしたみたいな。それも、そのキスをされた女の子が「当時、私はステージに上げられたけれども。それは無作為にドレイクのスタッフが選んでいて。別にドレイク自身が若い女の子とキスしたくてそういうことをしたんじゃないですよ」みたいなことをわざわざ釈明していて。それもめちゃめちゃ、とばっちりじゃないですか。その女の子にとっては。かつ、ヒップホップは去年、誕生から50周年を迎えて、セレブレーションとかがあったけれども。結局、こういうビーフで取り沙汰されるのって、その女性を物のように扱うという、そういう姿勢は本当によくないみたいなことを書かれていて。まあ、私はそういう記事を探して読んじゃうから、それが印象に残ってしまうんですけれども。

たとえば前も、それこそ『INSIDE OUT』でもちょいちょい触れたと思うけど、ドレイクがメーガン・ザ・スタリオンのことを茶化すようなリリックも過去にあったわけなんですよね。その時も、メーガンのことを撃ったトーリー・レインズを擁護するようなドレイクの言動が当時も女性たちの間……特に黒人の女性たちの間で問題になって。そういうことがあるから結構、ドレイクはその界隈ではキャンセル気味だったみたいなことを今回、また記事にしてるようなところもあって。なかなか、さっきヤナさんがおっしゃってたみたいにどこを見るか? どこに光を当てるか? によって、こういうのって全然、捉え方が違うんだよなってめっちゃ感じましたね。

(DJ YANATAKE)俺も本当にそうで。だからすごい、こういうとこでしゃべって自分の意見として、自分のね個人の感想として言うのはもちろんいいんだが。さらにもうちょっと、いかに中立に考えれるかな? みたいなのはすごく気をつけるようにしてるっていうか。

(渡辺志保)うんうん。そうですよね。なんで、その二大巨頭のビーフっていうシンプルなことではあるが……。

(DJ YANATAKE)だからすごい、本当に大雑把に言っちゃうとものすごいこれが売り上げになって、盛り上がって、世の中の話題をかっさらって。数字も出たけど……なんか「これがみんな、見たかったことなのかな?」って思うと、全然そうじゃないよねっていう後味の悪い感じがするよね。今。

(渡辺志保)うん。そんな感じがしてますよね。それにプラス、メディアはこれをどう報じるべきだったのか、みたいな論調の記事もありましたし。私も、報じる側というか、伝える側として気をつければなって思ったことはいくつもあったし。で、私もちょうど先週、子供をイオンで遊ばせながらビーフの行方を追っていた5月3、4、5、6日ぐらい。本当にずっとSNSを……特にXをずっと見ちゃっていて。もうアルゴリズムが素晴らしいですから、それ関連の投稿ばっかりになっていくわけですよね。おすすめフィードみたいなところが。だから、本当に目にするもの全てがやっぱドレイクとケンドリックに関することばっかりになっちゃって。自分自身で「ああ、ちょっとやばいな。ちょっと距離を置かないとやばいな」みたいな感じになって。なんで先週の月曜日の『THE HEART PART 6』が出て以降はちょっと……かつ、そのドレイクの家でシューティングがあったみたいなニュースを見て以降は。

(DJ YANATAKE)そうそう。そのシューティングのニュースがあって、もちろんケンドリック側がやったなんて思ってないし。コンプトンから、あんな国境を越えてカナダまで行って、そんなことをしに行くわけがないんで。全然、ケンドリックがとかは思ってないが。やっぱりそんな渦中でそういう、怪我人みたいのが出ちゃったことがものすごい報じられたから。そこでハッとしたよね。やっぱりね。「本当にこれ、ちゃんと考えなきゃダメじゃん」みたいな風に思ったかな。

(渡辺志保)そうそう。だから冒頭でも話したけど。ロンドンでもOVOのお店が荒らされてっていうことがあったから。

(DJ YANATAKE)なんていうか、フィジカル的な感じになってくるとね。ちょっとね。

(渡辺志保)だからファンとして、ねえ。ビーフをエンターテイメントセットとして楽しむのももちろんありだと思うし。こういうコンペティティブ、競争心を煽るような、そして競争を大事にするっていう。「自分がいかに優れているか」ということを言葉で、ラップで表現するのがヒップホップの面白さでもあるから、そこを楽しむのはもちろんありなんだけど。じゃあ、その1ファンとしてどうあるべきか、みたいなこともやっぱり同時に考えさせられたし。さっきのキャンセルカルチャーの話にも戻りますけれども。これで「やっぱりドレイクがダセえよな!」みたいな感じになって、よからぬ行動を取ってしまうなんていうことは、もうなし中のなしじゃないですか。でもね、世界中に何を考えてるかわからないリスナーもたくさんいるだろうし。そういうところで、この両者のビーフがどんどん過熱してしまって、エスカレートしてしまうのが怖いなって思った。SNSの力もあるし。いろんなことをやっぱ考えさせられてしまいました。

(DJ YANATAKE)そうですね。それで今、後味としてのトーンでこんな感じでしゃべってるけど。なんか、ラップゲームとしてすごく面白いなと思っちゃった部分もすごいたくさんあったし。こんなスピードでね、トップランナーたちが曲を投げ合うなんて他のジャンルじゃたぶん考えられないし。ヒップホップならではだなって。その内容的なことはちょっと置いといてもね。だからそういうことに、もちろん熱狂していた瞬間もあるんで。なんか、難しいね。ただ反省するっていうだけじゃないんですけど。すごい面白かったんですけど。

(渡辺志保)そうね。面白いし、やっぱり私もヤナさんもそうだと思いますけど。ずっと、こういうヒップホップを追ってきて、やっぱり熱くなる瞬間っていうか。興奮しちゃう瞬間っていうのはやっぱり間違いなくあったしっていうね。そこをどう自分の中で整理をつけて楽しむのか? それとも距離を置くのか?っていうのはもちろん、個人の判断に委ねられているし。あとは、ちょっと離れた日本から見ているからこそわかることというか、感じる問題点みたいなのもおそらくあるのかなと思ったし。もしこれが私がアメリカにいて、アメリカのそういうヒップホップメディアのど真ん中にいたら、同じように「我先に!」みたいな感じで。スクープ合戦みたいな感じで、やってたのかもって思いますしね。

(DJ YANATAKE)これが……その内容の話に戻るとさ、たとえば日本人のラッパー同士がそういうことになりましたって言った時にさ、「お前の子供が……」とか「お前の奥さんが……」とかって言ってたら、たぶんドン引きすると思うんだけどね。

(渡辺志保)ドン引きですよね。

(DJ YANATAKE)だからそのへんもそうだし。あと、ちょっと周りもさいろいろ仕掛けたりしてたじゃない? メトロ・ブーミンのトラックに乗せて、とか。ああいうのも、アイディアとして素晴らしいと思ったし。「ああ、こんなやり方あるんだ!」みたいな。それでみんなに勝手にディスソングを歌わせるとかっていうのも。まあ、全然ディスソングじゃなくてもいいんだけども。メトロ・ブーミンがトラックを投げて。『BBL Drizzy』っていうトラックを出して「これにうまくラップ乗せたやつには賞金1万ドルと俺のビートをあげるぜ! 2位のやつにもビートをあげるぜ!」みたいな。ビーフの曲を勝手に、もう無尽蔵に世界中のラッパーに作らせるっていうので。「これは新しい!」と思ったけども。

(渡辺志保)新しいですよね。

Metro Boomin『BBL Drizzy』チャレンジ

(DJ YANATAKE)それで世界中の人が勝手にドレイクに攻撃するみたいな。あれもすごいアイディアだったけど。でも結局、自分の喧嘩だったわけじゃなくて。そもそも当事者じゃない人たちがなんかひょいひょいと気軽にそれに乗っちゃって。今、こうなった時、その曲はどうなのよ、みたいなのもなんか気持ち悪いし。

(渡辺志保)そうですね。日本からもねチャレンジしてらっしゃる方がいて。Kamuiくんのやつめっちゃクリエイティブで、リリックも本当うまいなと思って。さすがやなって思ったんですけど。

(渡辺志保)だからそのへんのチャンスを……。

(DJ YANATAKE)チャンスだと思って、それをもちろんチャレンジすることはいいことだけど。そのいっちょ噛み具合もこれ、本当に気をつけないとな、みたいな。

(渡辺志保)本当ですよね。

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