渡辺志保 Beyoncé『Cowboy Carter』詳細解説

渡辺志保 ビヨンセ『COWBOY CARTER』を語る MUSIC GARAGE:ROOM 101

(渡辺志保)ちなみにこの『BLACKBIIRD』なんですけれども。元々、ポール・マッカートニーが1960年代のアメリカの公民権運動の様子を見ていて。そこで耐え忍ぶというか、不遇な扱いを受けている黒人女性にインスピレーションを受けて書いた曲ということなんですね。で、今回ビヨンセがこの曲をカバーしたことはもう非常に誇らしいことで、非常に素晴らしい仕上がりであるということをですね、ポール・マッカートニー本人も発表もしておりました。

そんなこんなで『BLACKBIIRD』、若手の黒人女性カントリーシンガーたちが参加をしていて。それで先日、また別のカントリーミュージックのアワードがあって、そこで披露をしてたんですが。『BLACKBIIRD』に参加した4名の黒人シンガー、みんなお揃いのタトゥーを入れたというニュースが発表されておりまして。それほどにですね、結束力を高めるチャンスだったんだな。非常に素晴らしい機会だったんだなということを実感しました。

Beyoncé 『BLACKBIIRD』

(渡辺志保)他にも、カントリーラッパーの黒人ミュージシャンのシャブージーであるとか。あとは黒人女性として初めて商業的に成功したレジェンダリーのカントリーシンガーのリンダ・マーテルが参加していたり。これまで、あまりメインストリーム的なスポットライトが当たらなかったブラックミュージシャンたちをビヨンセは集結させております。で、私もこの『Cowboy Carter』がリリースされてから知ったんですけれども、アメリカにはカントリーミュージックを愛するブラックのミュージシャンやファン、そして関係者が集う団体「Black Opry」があるそうで。彼らのこの『Cowboy Carter』に対する見解であるとか、取材記事なんかもいくつかアップされておりまして。そちらも非常に興味深かったので。

実際今、アメリカのブラックのカントリーミュージシャンたちの間でどんなことが行われているか?っていうことを知りたい方は、ぜひこのBlack Opryについて調べていただくと新しい情報、いろんな気づきが得られるんじゃないかなという風に思います。で、Black Opryにザ・ワシントンポストが取材をしていたんですけれども。やっぱり今まで、白人の人たちが多いカントリーミュージックシーンで肩身が狭い思いをしていた。メンバーの1人は金曜日、『Cowboy Carter』がリリースされた日の朝6時30分にアルバムを聞いて、もうすぐに泣いてしまったという風にも語っていらっしゃいました。

そして、この『Cowboy Carter』にはそうした若手カントリーミュージシャンの他にも、様々な大御所たち……ウィリー・ネルソン。そしてドリー・パートンが参加しているということで。本当にドリー・パートンとビヨンセが一緒に歌ってるのを聞いて、私はたまげましたね。で、ドリー・パートンについては、先週のこの『Room 101』でも紹介して、『JOLENE』という曲をかけたんですけれども。ドリー・パートンは3曲にわたって参加しているんですよね。

3曲に渡って参加したドリー・パートン

(渡辺志保)で、ひとつが『DOLLY P』というドリー・パートンからビヨンセにコール電話をかけるシチュエーションのインタールードが入ってんですけど。そこで1曲、参加している。で、その後に『JOLENE』がアルバムの中には収録されてるんですけれども。こちらはドリーの声は入っていないが、ドリー・パートンが書いた曲ということで、間接的に……ほぼ直接的にそこに参加している。あともうひとつ、アルバムの終盤に『TYRANT』という曲が収録されていて、そこでドリー・パートンと正真正銘、デュエットをしているわけなんですけれども。この曲ですね、​d.a. got that dopeという名前のプロデューサーが参加してまして。​d.a. got that dopeって本当にエミネムであるとか、アメリカのヒットラップ曲を多数手がけているプロデューサーなんですよね。

なので普通にクラブとかでもかかれるような感じなんですけれども。そんなサウンドの上にドリー・パートンが参加して乗っかってるっていう。で、ビヨンセとデュエットしてるっていうのが非常に「えっ、これ、本当に2024年なのかな?」みたいな。いい意味で次元が歪んでいるぐらいあり得ないコラボレーションだなと思って、非常に楽しく私は聞いた感じなんですけれども。そんなレジェンドたちも参加していて。

Beyoncé, Dolly Parton『TYRANT』

(渡辺志保)あとは、フィーチャリングアーティストではないがバックミュージシャンとして、さっきもね名前を出しましたがスティービー・ワンダーがいたり。ポール・マッカートニーがいたり。あとナイル・ロジャース……ナイル・ロジャースは前作の『RENAISSANCE』にも参加しておりましたけれども。ナイル・ロジャースであるとか。あとはジョン・バティステであるとか、あとはゲイリー・クラーク・ジュニアなんかも参加しているということで。本当にどこを切ってもめちゃめちゃ豪華で濃密なアルバムに仕上がっております。

収録楽曲数も非常に多くて、全部で27曲が収録されていてトータルで78分。約80分に及ぶ超大作なんですよね。で、今回の『Cowboy Carter』はCD盤とヴァイナル、アナログ盤も同時にリリースされているんですけれども。やはり、そのプレスのスケジュールの関係で、CD盤はちょっと短いバージョンが収録されていて。たしか5曲ぐらい少なかったんじゃないかな? で、最終的なSpotifyとかApple Musicで配信されているデジタル版とは違う内容が収録されているということで。コアなファンの方は聞き比べてみるのも面白いかもしれません。

そんな超大作のビヨンセの最新アルバム『Cowboy Carter』なんですけれども。最初の1曲目がですね、『AMERIICAN REQUIEM』ということで始まっていて。最後は『AMEN』というですね、祈りの曲で終わっております。非常にその「アメリカよ、私の声が聞こえますか? 私たちの声を聞くことができますか?」という問いかけでアルバムが始まるわけなんですけれども。本当にアメリカ建国の歴史みたいなものを背負ったアルバムなのかなという風に思いました。

ビヨンセのアルバムはどんどんどんどんスケールが大きくなってきているわけなんですけれども。アメリカで一番、馴染みがあるといってもそのカントリーミュージックとか、あとはブルーグラス的な音楽、フォークミュージック、ルーツミュージック……アメリカーナという風にも言いますけれども。そうしたサウンドを題材にして、ここまで広く広くサブジェクト、主題を伸ばしていくような作業をして。それを何層にも重ねて、歴史であるとかカルチャーであるとか、そして個人のパーソナルな出来事……それこそ2016年のカントリーミュージックアワードでちょっと受け入れられていないと感じたような、非常にパーソナルな感情も交えながら、ミルフィーユのように何層も何層も物語というか、ナラティブを重ねながら、ひとつの素晴らしいエンタメ作品として、アート作品として昇華させてアルバムを作るという、本当にもう「ビヨンセ芸」という風にも言いたくなるような彼女の才能ですけども。それが本当にこれまで以上にスケールのデカい形で昇華、完結しているという。本当に何度、聞いても新たな発見があるアルバムだなという風に思いました。

『RENAISSANCE』ももちろんそうだし、その前の『Beyoncé』とか『Lemonade』っていうアルバムに関してももちろんそうだったんですけれども。いやー、なかなか自分自身の見識も深まるような、非常にすごいアルバムですよね。壮大なアルバムだなという風に思いますし。そのひとつの曲に関して、どういう人が参加しているんだろうとか。これはどういうリリックなんだろうっていうことをひとつひとつ、紐解いていきながらまた新たな発見が数珠つなぎのように……「ああ、こういうことだったんだ。こういうことだったんだ。こういうビヨンセの実体験があって、こういうリリックになってるんだな」っていう風に、本当に気づきが止まらないみたいな。

でも、なんかその数珠つなぎの気づきみたいなところって、私がまさにヒップホップにハマったきっかけでもありますので。「ああ、こういう歴史的事実があって、こういうことをジェイ・Zはラップしてるんだな」みたいな。そうした、私自身における原体験というか、最初の初期衝動的な面白さっていうのをまた蘇らせてくれたアルバムだなという風にも感じました。で、この『Cowboy Carter』に関して、アルバムが出る前にWeb版の『Time』なんですけれども。「Beyoncé Has Always Been Country」という。「ビヨンセは常にカントリーだった」という記事が発表されているんですよね。

これはテイラー・クランプトンさんというジャーナリストの方が書いた記事なんですけれども。「なんでビヨンセ、いきなりカントリーになったんだろう?」みたいな、そういう声がたぶんたくさんあったと思うんですが。「いやいやいや、ビヨンセは元々、テキサスにルーツがあるし。さらに彼女のお母さんのルーツなんかを紐解くと、めっちゃカントリーだったんだぞ」というような記事が発表されておりまして。それが非常に素晴らしい記事なんですけれども。

「Beyoncé Has Always Been Country」

(渡辺志保)記事の中で最後の方に「カントリー音楽界におけるビヨンセの存在感というのはまさに新たな時代の幕開けであり、まさにルネッサンスと言える」というですね、非常に素晴らしい結びのセンテンスがあるんですけれども。この記事の見出しになった「Beyoncé Has Always Been Country」というのが非常にインパクトのある見出しということで。ビヨンセ自身がこの「Always Been Country」という特別Webサイトを今、作っておりまして。さらに見出しをそのままプリントしたTシャツも作っていらっしゃいまして。これ、めちゃめちゃ音楽ライター冥利に尽きる出来事だなと。テイラー・クラプトンさん、マジですごいなと。そういうところにもですね、ドキドキしてしまいました。自分がとあるアーティストについて書いた記事の見出しを、そのアーティストがグッズ化するって、なかなかないことですよね。私もいつか、目指すところはそこだなと思って。自分自身の新しい目標もできましたという感じです。

Beyoncé Has Always Been Country
"Without uttering a single word, Beyoncé has used her stardom to highlight those who have never left country music."

(渡辺志保)というわけで、またまたしゃべりすぎてしまいましたので、このへんでビヨンセの最新アルバム『Cowboy Carter』から1曲、お届けしたいと思います。UKの大人気アーティスト、レイもソングライティングに関わってており。カシャカシャカシャカシャみたいなパーカッションの音が入ってるんですけど。それはビヨンセが自分のネイルをですね、カシャカシャカシャカシャとパーカッション代わりにして、楽器代わりにしてレコーディングしたと。で、これはドリー・パートンも使っていた手法ということらしいんですね。なんで、そうしたちょっと小技にも注目して聞いていただきたいなと思います。ちょっとアイリッシュっぽい感じのアレンジが施されております。ビヨンセで『RIIVERDANCE』。

Beyoncé『RIIVERDANCE』

<書き起こしおわり>

渡辺志保 ビヨンセ『COWBOY CARTER』を語る
渡辺志保さんが2024年4月5日放送のbayfm『MUSIC GARAGE:ROOM 101』の中でビヨンセの最新アルバム『COWBOY CARTER』について話していました。
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