宇多丸 RHYMESTER・17年ぶりの武道館公演を振り返る

宇多丸 RHYMESTER・17年ぶりの武道館公演を振り返る アフター6ジャンクション

(宇多丸)これ、どういうことかと言いますと、ずっとね、岡村さんが「とにかくRHYMESTERの武道館でコントをやりたい」と言い張っていて。「ダメです」って言ってきたんですけど。でも、数日前に「ちょっと、その最後のリハーサルでやっぱり不確定要素が入ってきちゃいました」って言っていましたけども。勘のいい人は気づいたでしょう。これ、つまり岡村さんのコント要素が入ってきたわけです。なんか、曲を流しながらその上であの例の「Yo, Yo, Yo!」みたいなやつをやるっていう。「ああ、なるほど。曲を流しながらだったらこのグルーヴを途切れさせずに、でもおもしろを」って。

で、実際に僕、『マクガフィン』はいきなり始めるともう曲が終わっちゃうから。ちょっとひとネタ欲しいなとは思っていたんで。実はこの岡村さんの提案を「ありだな」って思って。「ああ、そっちの方がいいかも」ってなって、採用になったんです。でね、ご覧になった方はおわかりの通り。後にね、映像化をいろいろされると思うんで、ぜひそれを見ていただきたいんですけど。とにかく「好き放題か!」っていう狼藉の限りを尽くしてですね。岡村ちゃん、自分のライブではMCを絶対しない人なのに「普通、こんなことまでします?」っていう狼藉の限りをして。で、最終的には出てきて。ずっと網の中で……。

(宇垣美里)あれ、なんで網の中に?

狼藉の限りを働く岡村靖幸

(宇多丸)あれも当日、なんか……本当は出てきて話す予定だったんだけど。もう網から出てこないから。「じゃあ、もうそこでいいです」って。でもたしかにここから出てきた方が劇的っていう。だからどんどんどんどんよくなっていったんです。だから結構、その場のアドリブでどんどんどんどん完成度が上がっていったっていうのもあって、これは本当に岡村ちゃん、ありがたかった。で、要するに岡村ちゃんが「ラップ、やります」って言ってやるんだけども。それを聞いて「できてねえじゃねえか!」っていう。これがやりたかった。「俺、ラップやります! ナントカカントカ……♪」ってやっていって。で、岡村ちゃん「俺が『ジェームス・ブラウン、ゲロッパ!』って言うたびに止めてください」って言っていて。そこだけ決め事として決めておいて。「なんすか、それ?」なんて。で、俺はライブの中でも言っていたけども昔、高校生の時に武道館で……あの日も高校の時の友達が来てたけど。「俺、ジェームス・ブラウンをここで見ているんだから。その思い出が汚されるみたいでダメなんですよ。はい、やめて、やめて!」なんつって。で、一通りやってから「岡村靖幸!」って言ってバーン!って曲を始めるっていう。

(宇垣美里)曲が始まればかっこよかったですよね。

(宇多丸)始まったら、かっこよかったじゃないですか。で、バーン!って終わりました。そこで俺が「岡村靖幸さんでした。ありがとうございます。ええと、出禁です!」って言ったっていう(笑)。

(宇垣美里)やりたい放題しすぎっていう(笑)。

(宇多丸)愛にあふれた出禁っていう。

(コーナーを締める音楽が流れる)

(宇多丸)あ、ああっ、もう時間だ。もう行けって。

(宇垣美里)ええっ、足りなっ!

(宇多丸)岡村ちゃん、注意されながら出禁でした。

(宇垣美里)でも本当に素敵でした。

(宇多丸)ちょっと残りの話は番組内で追ってしていきたいと思います。本日のメニュー紹介です。

(中略)

(宇多丸)武道館メール、いっぱいあるんで。もうちょっと読んでいっていいですか? 本当にちゃんと全部、今夜中には読破しますからね。

(宇垣美里)読むのはもちろん、毎回目は通していらっしゃいますから。

(宇多丸)でもね、これはメンバーも喜ぶと思うよ。本当に。「宇多丸さん、宇垣さん、スタッフの皆さん、こんばんは。武道館ライブ、富山から参加しました。土木工事の現場技術者の私は元旦に起きた令和6年能登半島地震の対応で急に忙しくなり、ライブの参加を一時は諦めかけたのですが、『全部やるっきゃない!』と決意し、連日の残業、休日出勤を乗り越え、武道館の日を迎えることができました」。頑張って準備していただいて。すいません。ありがとうございます。「ライブは初め(『After 6』)から全員、アトロク2リスナーかと思うほどの大合唱で、Reiちゃんの熱いギタープレイにたぎる気合に心が揺れました。

その後も次々と登場するゲストたちのセッションはどれも素晴らしく、何度も落涙をこらえることができませんでした。メンバーの皆さんがMCで『まだまだ上手くなりたい。もっといろんなところでライブしたい』とベテランになっても高いところに目標掲げていらっしゃることに、同年代の私も大変勇気づけられました。100%なんてまだ本気とは言えませんよね。声を枯らしても観客を煽る宇多丸さん、かっこよすぎです。3月に金沢での再会、楽しみです」。3月に金沢公演がありますんでね。「そして私は月曜から再び、災害復旧工事に本気出す!」という。今日からまたやってらっしゃるんですね。お疲れ様。ありがとう!

(宇垣美里)もしかしたら、お仕事終わりに聞いてくださってるかもしれないですね。

(宇多丸)「最後に皆さんの健康とご多幸をお祈りしております。本当に最高の時間をありがとうございました」という。皆さん、だからこの方はまさに能登半島地震のね、本当に力になってる立場なわけで。ご自身も大変だとは思いますが。ご自愛くださいってことだし、ありがとうというか、お疲れ様とも言いたいし。皆さん、でも本当にそれぞれの事情とか、それぞれのいろんなあれを背負って、会場に来ていただいていて。たとえば、もう一通。「こんばんは。東京都在住40歳です。武道館ライブ、私も参加しました。17年前、友人が『KING OF STAGE VOL. 7』武道館ライブDVDを貸してくれて、それをきっかけにRHYMESTERを聞くようになりました。17年後の今回の武道館ライブも最高でした。前回と比べてRHYMESTERの存在感。そして客層がさらに大きくなったことを肌で感じました。すごかった。本当に来れてよかった。私が今回の武道館に来るきっかけを作ってくれた友人は昨年、この世を去ってしまいました。彼女がたくさん聞いていた頃のクラシックスが流れ、DJブースのロゴがカタカナのグラフィティ調になった時……」。

これはだから、クラシック。昔の我々の曲をやる流れの時に、その時代のロゴに変わるという演出をしたんですね。カタカナのグラフィティ調はだから『グレイゾーン』期ですかね。2004年のアルバムですけども。「不意に落涙してしまいました。少しでもいいけど、やっぱり全部がいいな。今日のことを全部、彼女に届けと思いました。宇多丸さん、Mummy-Dさん、JINさん、素敵なライブを本当にありがとうございます」という。そうね。ぜひ……ねえ。そうなんですよ。だからいろんな皆さんが、もちろん新しい方も来ていただいてるし。あと、子供たちももちろん来ているし、とかね。

(宇垣美里)もう、いっぱい。まだまだ、このタイミングで来たメールもたくさんありますし。この方は……「金曜日の武道館ライブ、参戦しました。アトロクリスナーも多かったのか、2階の関係者席を気にしているお客さんが結構いました」。まあ、騒いでたんでね(笑)。「私は37歳。64歳の母親を連れて行ったんですが、最初から最後まで立ちっぱなしで楽しんでいました。アルバム曲と過去曲の織り交ぜ方も素晴らしかったです。豪華なゲストたちの競演もさることながら、やっぱりお三方、RHYMESTERの力強さと、キング・オブ・ステージぶりに勇気をもらい、終演後、3週間前に振られた彼女に連絡をしました。すぐにやり直すとか、そういうことではないですが今週、食事をすることになりました。私の人生、RHYMESTERのおかげで『Open the Window』できています」。よかったねー! その、なんていうんだろうな? 悔いが残ることなくね。最後に伝えることがもしかしたら、できたかもしれないと思うと、の一助になったわけですよ。

(宇多丸)いろんな背中を押しているわけだな。

(宇垣美里)64歳のお母様も、立って。

(宇多丸)そうかー。私は全然、そっちに近いんでね。あれですけどね。俺がね、「おい、この野郎! もうすぐ55。54の俺がこんだけあれしてんのに、あんたたち、そんぐらいの声でいいんですか!?」なんてね。それで「跳べ!」って跳んで……やっぱり私、スパルタなんで。最後ですよ? 最後。『待ってろ今から本気出す』で。どの会場でも言ってますけども。「ジャンプ、低いんだよ!」っつって。

(宇垣美里)なんか、怒られた。「声が80点だ」って言われてめっちゃ頑張って出したら「100点! だけど120点を目指そう」って。

(宇多丸)これね、聞いてください? これね、私どもの未熟というか、なんというか……っていうところなんですけども。会場によっては……武道館もそのひとつなんだけども。皆さんの会場のワーッていう轟音のごとき声がですね、ステージに届きづらいタイプのステージというのがあるんですよ。

(宇垣美里)広いからっていうのもあったんでしょうか?

(宇多丸)たとえば、実は日比谷の野音もそうなんですよ。野音も届きづらいんですけども、武道館もやっぱり縦が長いですから。基本的にはそういう……。

(宇垣美里)霧散しちゃうっていうかね。

(宇多丸)だから、それもある。だから「おいっ!」っつって。「言えよ、ホーッ!」「ホーッ!」「おい! 全然声、出てねえぞ?」「ワーッ!」「声、出てねえぞ?」「ワーッ!」っていう。もうこういう悪循環が起こるっていう。

(宇垣美里)必死、みたいな。でも、その分、なんでしょうか? 勝手な、自分の中のかけているリミッターを外せた感じがあったので。

(宇多丸)そうでしょう? 私、やっぱりね、そのブートキャンプをし慣れてるんで。

(宇垣美里)『ビリーズ・ブートキャンプ』みたいな?

(宇多丸)そう。『宇多ーズ・ブートキャンプ』があるわけです。だから「今の感じが100とするならば……」、とかね。「今はこんぐらいだからこれ、行けるね? 行ける! そしてさらに……行ける! 今、行ける、行ける、行けるっ!」って。こうやって引き出していく。

(宇垣美里)引き出されちゃった!

(宇多丸)で、引き出したあげく、「僕たちは! 素晴らしい!」って。

(宇垣美里)そう! なんかあそこまで大声を出したからこそ、やっぱりすごく鼓舞された気がするので。

(宇多丸)で、あたかもこうやって私が計算づくでやってるっていう風に見えているかもしれませんけど。てめえの声、枯れてるんで。全然計算できてません。恥ずかしい。穴があったら入りたい……。

(宇垣美里)いやいや、楽しかったですー! 本当に(笑)。

(宇多丸)で、そのライブの話をしてくとね、いろいろあったじゃないですか。たとえば、SOIL&”PIMP”SESSIONSのね、あのライブコーナーも。ただ、武道館となりますと、元々楽器の数が多いところにして、ちょっと高いところに来て。で、俺たちはこう、サイドにいるんだけど。SOIL&”PIMP”SESSIONSとフィーチャリングのReiちゃんががこう、ガーッとせり上がってきて。

(宇垣美里)うん。Reiさん、素敵だった!

(宇多丸)すごいかっこよかったよね。なんだけど、あの上ってせり上がりの台の上なんでちょっと、あの人数がいると揺れるんですよ。

(宇垣美里)えっ? ドキドキしちゃう。

(宇多丸)ちょっとなかなかドキドキする。そう。その感じもあったり。で、本当は普段だったらステージを横切って。ピアノソロの時はJOSEIくんのピアノに合わせて、2人で並んでこうやってラップするんだけど。「この感じでちょっと移動、あぶねえな。揺れているし、狭いし……」って。たとえば帰り際にドンガラガッシャーン!ってなったら、これはもう目も当てられない。そんなことになったらもう、あとは俺にできることって逆ギレしかないんで。「おいっ! どうも申し訳ありゃっせんした!」って。ねえ。それしかないから。で、ソイルをやって。その後にハイパヨちゃんが出たじゃないですか。

hy4_4yhちゃんと一緒に、彼女たちと作った『なめんなよ1989』を……あ、ちなみにハイパヨちゃん、『Keep Running』っていう曲を武道館の日に配信リリースを始めて。これは実はその亡くなったプロデューサーの江崎マサルさんがパソコンに残していたトラックとリリックの一部をもとに、そこから先は彼女たちが初めて自分たちの力で作り上げた曲で。で、その制作過程でもちょっとだけアドバイスとか、しましたけども。彼女たち渾身の一作、サブスクが始まってるんで。『Keep Running』。ぜひ皆さん、聞いてみてください。本当にグッと来る曲で。我々の『Once Again』をもとにしたような、彼女たちなりの『Once Again』になっているんで。

hy4_4yh『Keep Running』

(宇多丸)でね、そのハイパヨと共演してる時に『なめんなよ1989』の最後のチャンチャラのバースの特に後半部、すごくエモくなっていくところで、これは非常に恥ずかしいことを告白しますと、結構ガチ泣きしそうなって。ちょっと、突然。今まで一緒に曲も作ってきたし、何度もライブをやってるし。グッとくる瞬間もあったし、ちょっと涙があふれてくる瞬間もあったんだけど。彼女たちのストーリーというのに。なんかね、この武道館の時はもちろん、江崎さんが亡くなって。その後、いろいろあるんだけども。それ以上にやっぱり2006年からずっとやってきて。で、いろんなことあってここに至っているその彼女たちの長い長いストーリーみたいなものが一気に去来して。結構、サングラスでよかったですけど。「これはまずいな」っていうぐらい、ガチ泣きしかけてですね。慌ててもう、なんか嫌なことをいっぱい考えて。

(宇垣美里)えっ、そういうやり方?(笑)。

嫌なことを考えてガチ泣き回避

(宇多丸)「チッ、なんか今月の事務所からの振り込み、そんなんじゃねえな?」とかね。。そういうことを考えて。

(宇垣美里)現実的な嫌なことを(笑)。

(宇多丸)そうですね。だからもうその瞬間にすぐ。泣きそうになったから瞬間、舌打ちですよ。「チッ!」って。それで持ち直したんで。どうも、ありがとうございます。

(宇垣美里)でも本当、より力強さっていうか、なんて言うんでしょうね? グッと来るものがありました。「本当に、たどり着いたんだな」っていう感じがしましたね。

(宇多丸)でもここからがさらにね、また長い道のりかもしれないけど。その第一歩でもあるし。

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