宇多丸 三宿Web閉店を語る

宇多丸 三宿WEB閉店を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2020年5月15日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で老舗クラブの三宿Web閉店について話していました。

(宇多丸)では、ちょっとここで私にとってのというか、私の周りの音楽仲間とかも含めてなんですけど、ちょっと非常に重大なニュースが入りまして。その話さしていただけたらいいですか?

(山本匠晃)ええ。

(宇多丸)三宿のWebっていうクラブ、分かりますか?

(山本匠晃)三宿Web……聞いたことはあります。

(宇多丸)行ったことはない?

(山本匠晃)そうですね。

(宇多丸)三宿の交差点があって、角に松屋があるんですけど。その松屋の横っちょの、上には香港麺新記っていうね、美味しい中華料理を出すお店があって。そこの地下が三宿Webというクラブ……まあいわゆる、音楽をかけてお酒を飲んで踊ったりするクラブですね。1994年からずっと営業している昨年には25周年を迎えた老舗クラブ。なおかつ、私も関係するイベントをいっぱいやっていて、本当にお世話になったクラブなんですが、この三宿Webが店長の長澤さんがブログで自ら「閉店することになりました」ということを本日、5月15日のブログで発表されて。

結構、この我々周りにはですね、もちろんこのコロナ禍の中でクラブ営業はなかなか辛いものがあるということで。渋谷のVUENOSが閉まりますよとか、いろんなことが伝わってきましたけど。ちょっとこのWebというお店に対する思い入れは我々、ケタ違いのものがありまして。

(山本匠晃)ああ、そうですか。

(宇多丸)ちょっとね……ちょっと、本当にかなり食らってるぐらいの感じですね。ちょっとね、これに関してメールもいただいておりまして。紹介させてください。ラジオネーム「コメカミ」さん。「宇多丸さん、山本アナ、こんばんは。本日、宇多丸さんやDJ OFFICE LOVEさんが出演されていた『申し訳ないと』の会場でもあった三宿Webの閉店という衝撃的なニュースが飛び込んできました。三宿Webは秘密基地のような狭い空間で、アイドルソングから80’s洋楽まで様々な音楽が流れる最高な場所で、出演者との距離が驚くほど近く、クラブ通い慣れしていない僕にとってクラブといえば三宿Webでした。

宇多丸さんには何度もお声がけいただき、映画の話から僕が好きな星野源さんのことまで、面と向かって話をしたり、多くのタマフルリスナーさんとワイワイできる貴重な場所でした。宇多丸さん、何度もシャンパンをご馳走してくれてありがとうございました。また三宿Webが復活する時には盛大に番組イベントとかやってくれるとうれしいです」とかですね。

あとはラジオネーム「俺のネズミ」さんも「残念ながら三宿Webが閉店されるとのことです。何か思い出話が聞きたいです。功績をたたえた特集コーナーも聞きたいです」ということで。そうなんですよね。とにかく三宿Webの特徴を一言で言うならば、なんていうの? アーティストズ・クラブというか。ミュージシャンとか僕みたいなそういうプレイヤー……他で音楽活動をしてるような人が一種の隠れ家的に自分のイベントをやったりする場所というか。

なのでたとえばもういつ行っても、スカパラの谷中敦さんが飲んだくれているとかね。そんぐらいの……僕は谷中さんとしっかり話したのは三宿Webでが初めてだし。あとは僕が実際に直接深く関わるようになる前に『Two,Three,Breaks!』というヒップホップイベントと言っていいのかな? そこでMummy-DがずっとDJをやっていて。僕はその途中から『申し訳ないと』というDJ OFFICE LOVEさんとかとずっとやってたイベントが、最初は宇都宮発祥だったんですけど。

その『Two,Three,Breaks!』のゲストDJingをきっかけに、前からその三宿Webに遊びには行っていたんだけど、本格的に関わることになって。それが2000年代初頭……2003年とか2004年とか、そんな感じだと思いますけど。なので僕は関わりだしたのは途中からって感じなんだけど、そこからの濃密な関わり方っていうか。本当に……もちろん、毎週に近いぐらい行っては何かやっていましたし、そうじゃなくてもたとえばね、NONA REEVES西寺郷太さんとNONA REEVESの『Love Alive』っていう曲をやって。それで「すごいかっこいい曲ができたね!」って。それで「車の中で爆音で聞こうぜ!」って郷太くんの車の中で聞いていたら2人ともテンションが上ってきちゃって。「これさ、三宿Webに行かね?」っつって。三宿Web、その日は営業してなかったのに長澤さんに電話して無理やり開けさせたっていう(笑)。

(山本匠晃)優しい(笑)。

(宇多丸)そうそう。だから長澤さんはそういう我々のワガママみたいなのにもすごい付き合ってくださったし。「付き合う」という意味ではたとえばイベントが朝方に終わって。そうするとみんなで「ご飯食べに行こうぜ!」って近所のファミレス行って。そこにも長澤さんとかスタッフとか来て。そのスタッフも込みワイワイやったりとか。僕、そのお店のスタッフとか込みでプライベートでも一緒に遊びに行く……たとえばカラオケ行ったりとか、年末はみんなで鍋を囲んだりとか。そういう長澤さんが主催でそういう、みんなスタッフがいる中に僕も紛れ込んでワーッとやるみたいな。そんなの、他のお店ではないから。一番、ある意味親しく……本当に家族のように付き合わせていただいてたお店でもあるし。

店員まで含めて家族のように付き合う

で、もうありとあらゆる思い出があって、いろんな……空間がいろいろあるんだけど、その空間一つ一つにね、「ここではこんなことがあった、ここではこんなことがあった」って、なんかね、いろいろ思い出が染み込んでいるような感じだし。あと何よりもやっぱり三宿Webはね、お酒が美味しい。クラブっていうといろんなクラブがあるけども。三宿Webはやっぱりちょっと大人っていうか。ちゃんとお酒も美味しいっていうとこも売りだったりとか。あと長澤さんが作ったスパムおむすびを食べたりとかですね。

とかね、僕はだからイベントをやっで。自分で『申し訳ないと』とか『80’s Night』っていう、これは西寺郷太くんとやっていたんだけども。そういうところにたしかにコメカミさんとかとかをはじめ、いろんなファンの方が来ていただいて。そうするとやっぱりね、お店に対してる貢献もあるし、そういう来てくれた皆さんに「ありがとうね」っていうのも込みでどんどんシャンパンを入れてですね、皆さんに振る舞ってですね。だから基本的にはイベントをどんだけやろとものすごい赤字になっている。でも、それも含めてね、素敵な楽しい夜をありがとうございますという店でもあったりなんかして。

(山本匠晃)アットホームですね。

(宇多丸)うん。アットホームだし、やっぱりいろいろ面白い試みもさせていただきましたし、ということで。うん。クラブ、いろいろある中で、もちろんね、たとえば渋谷のファミリーであるとかハーレムであるとか、それぞれも思い出深いですけど。一番やっぱり本当にもう、がっぷり四つに組んで仲良かったという意味ではもうWebでしょうね。で、これは僕に限ってはこうだけど、それぞれがこの勢いなんですよ。たぶん。たとえばふかわりょうさんは『ロケットマン』っていうずっとやっていらっしゃるDJイベントがあったりとか。もうイベントやってるそれぞれがこの濃度で三宿Web、付き合ってきてるから。三宿Webがあったからこそ、いろいろ育まれたものもあったりして。郷太くんなんかと親しくなったのも間違いなくWebだもんね。

Webでいろいろ話してるうちに「ああ、郷太くん、こんな面白いことをやってるんだったら番組に来て話してよ」っていうところからこういうあれになったりとかっていうのもあるんで。うん。で、その閉店に関してはもちろんコロナの影響もあるということなんですが、いろいろな事情がおありのようで。たぶん三宿Web、単純にお金がなくて閉じるっていうだけなら、クラウドファンディングを募れば本当に普通に億から集まると思うんですね。

(山本匠晃)ああ、たくさん仲間がいるから。

(宇多丸)そうそう。もちろんすごく活躍されている方も多いから。なんだけど、単純にそういうことだけでもないのかな? ちょっと本当の本当のところの理由までは僕はまだわかりませんけども。ただ本当に、まあオーナーの方がそういう風に決断をされて、店長の長澤さんもそれを受けて……ということのようなので。ひとまずは三宿Web閉店というニュースをお伝えしつつ、それが非常に大事な店だった。文化的に非常に大切なポイントだったということをこの場では軽くお話させていただいて。いずれこれは三宿Web特集ということをやってですね、三宿Webという中でどういう人たちが何をやっていて、どういう文化が育まれていたのか。

小箱が生み出す文化

これは要するに三宿Webという一店のみの話ではなくて、こういう小さな小箱。そしてそこで自主的に、草の根的に夜な夜な行われる、そういうところから何かが生まれてくるという。そういう小箱文化というのかな? それこそ、コロナになって非常に厳しくなってしまってはいるけども、いかにそれが大切なことであるか。大資本が入ってトップダウンでやるのでは絶対に生まれない何かが……というあたりで三宿Web特集、本当にやりたいぐらいだということを長澤さんに間接的にお伝えしつつ……。

(山本匠晃)今、ものすごく聞きたくなりました。三宿Web特集。本当に知りたい!

(宇多丸)うん。山本さんにもそういう風に思っていただければ幸いですけども。ただね、僕自身はちょっと近年はだいぶご無沙汰しちゃっていて。イベントもやっていなかったし。だから長澤さんに「こういう時だけ深刻になって惜しがっているんじゃねえよ」って思われちゃうかも……だからね、本当にそこは申し訳ない限りです。なので……まずは三宿Webが閉店に向かうということ。まだいつ、どのような形でというところまでは詳しくは決まっていないようですが。

(山本匠晃)一応、早くて今月中、遅くても来月末には閉店してしまうという……。

(宇多丸)ねえ。長澤さんもなにも区切りなしで終えてしまうのは……ということをお考えのようですが。まあこのご時世ですのでどうなるか、ちょっとわかりませんが。とにかく、なにかしらこの三宿Webに関してはこの番組でもお話したいなと思っている次第です。

<書き起こしおわり>

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