高橋芳朗さんが2023年7月24日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』でNewJeansがリリースした新作EP『Get Up』のサウンドを解説。『Super Shy』の2ステップ・ドラムンベースサウンドついて話していました。
(宇多丸)さてさて、ということでヨシくん、今回はどんなお話をしてくださるんでしょうか?
(高橋芳朗)はい。今回はK-POPの5人組ガールグループNewJeansが7月21日にリリースしたEP『Get Up』のサウンドを3曲のシングル曲を中心に解説したいと思います。
(宇垣美里)やったー!
(高橋芳朗)第1弾シングルの『Super Shy』が全米シングルチャートで66位にランクインして。今年1月のこのコーナーで特集した『Ditto』と『OMG』を超える自己最高位を更新してるんですよ。で、来週には全米チャートに3曲同時ランクインする可能性が高いという。
(宇多丸)いよいよ、だから布石ができてきて。だんだんだんだんと、もうちょっと高位を狙えるようになってくるかもしれないっていうことですかね。
(高橋芳朗)ちょうどこの7月でデビューから1年なんですけど。ここまでやることなすことがうまくいっている音楽プロジェクトもなかなかないんじゃないかなと思いますけどね。
(宇多丸)出す曲、どれもいいしね。改めて、ちょっとNewJeansをご紹介しておいた方がいいんじゃない?
(高橋芳朗)はい。韓国の芸能プロダクションHYBEの新レーベルのADORから2022年の夏にデビューした5人組のK-POPガールグループでございます。今年の5月にはアメリカのタイム誌が選ぶ次世代のリーダーにK-POPアーティストとして唯一、選出されています。他ではフローレンス・ピューとかが入っていたんですけども。
(宇多丸)そんなところに。
(高橋芳朗)で、トレンドセッターとしてザ・ウィークエンドを始めとする数々の大物アーティストが彼女たちをお気に入りに挙げていたり。あと今や、もう名だたるグローバル企業が彼女たちとコラボしてるんですよ。マクドナルド、リーバイス、ナイキ、コカ・コーラと来て、今回のEPではAppleとタッグが実現してるんで。たった1年でここまでの状況を築き上げるのは結構すごいと思いますね。
(宇多丸)そうだよね。デビューからだもんね。というNewJeansです。今回のNewJeansのEPを例によってヨシくんが洋楽の全体の動きというか。
(高橋芳朗)そうですね。トレンドとかを踏まえて解説したいと思います。
(中略)
(宇多丸)ということで今回、まずは先週金曜日されたNewJeansのニューEP『Get Up』のサウンド解説をしていただきます。
(高橋芳朗)今回の特集は1月のNewJeansの『Ditto』と『OMG』の解説はもちろんなんですけど。3月にお届けしたロンドンのシンガーソングライターのピンクパンサレスの特集。このへんとも大いに関連してくるんですよ。なので現行のトレンドのサウンドに対する理解が深まると思うので、ぜひそちらもポッドキャストで合わせてチェックしていただきたいなと思いますね。
(宇多丸)実際、この一連のK-POP分析を通したトレンドの解説みたいなのがめちゃめちゃ勉強になっています。
(高橋芳朗)ありがとうございます。なんか今年、やっている特集は全部、連なってる感じがありますね。で、今回取り上げるのはNewJeansが7月21日に出した1年ぶり、2作目のEP『Get Up』。全6曲、収録してるんですけど。今回はシングルの3曲を中心に紹介していきます。まず歌詞の言語について触れておくと、従来通り韓国語と英語のミックスではあるんですけれども。このEPでは今まで以上に英語の割合が多いですね。
(宇多丸)やっぱりアメリカのチャートに本格進出するには、基本的には英語詞モードにしてくるっていう……YOASOBIだって英語詞のを実装したことによって、世界的にさらに……っていうのはありましたもんね。
(高橋芳朗)英語詞と韓国語詞の比率が7対3とか、8対2とか、そんな勢いですね。
(宇多丸)それでも韓国語がね。韓国語がちゃんと混ざってるところこそがね、実は注目かもしれない。
(高橋芳朗)で、音楽的には今、BGMで流れています。去年12月にリリースした『Ditto』以降のモードを踏襲してきてるっていう感じかな?
『Ditto』以降のモードを踏襲
(高橋芳朗)NewJeansは去年の7月のデビュー以降、リリースごとに異なるサウンドを打ち出してきてはいたんですけど。やっぱり初めて全米チャート入りを果たした『Ditto』や『OMG』の成果に大きな手応えを感じ取ってるということなのかと思うし。実際、この2曲は決定的な楽曲だったなと思います。で、今回のEPで特に大きくフィーチャーされているサウンドが『OMG』にもそのエッセンスが入っていた2ステップですね。6曲中、半分の3曲で2ステップの要素が取り入れられています。
(宇多丸)ちょっともう1回、2ステップの説明をしておこうか。
(高橋芳朗)はい。これもね、1月のNewJeansの『Ditto』と『OMG』の解説やピンクパンサレスの時に説明したんですけど。ハウスミュージックから進化したUKガラージのサブジャンルとして、90年代後半から2000年頃にかけて流行したイギリス生まれのダンスミュージックです。今ではUKガラージと2ステップはほぼ同義になってるようなところがあります。音楽的な特徴としては、ちょっとつんのめるような変則的なビートが挙げられるんですけど。言葉で説明するより、後でちょっと実際に聞いてもらった方が理解は早いかなと思います。
で、今回のEPの2ステップを取り入れた3曲では、共通した3人のプロデューサー、ソングライターが制作に携わってるんですね。まずプロデューサーでは『OMG』のプロデュースも務めていた韓国のパク・ジンス。あとニューヨークに拠点を置く新進気鋭のフランキー・スコカという人。あとソングライターではデンマーク出身のR&Bシンガーのエリカ・ド・カシエールという人。で、ここではですね、この3人の中から今回初参加のエリカ・ド・カシエールとフランキー・スコカをキーパーソンとして注目したいんですけど。
この2人はこれまで発表した自己名義の曲だったり、プロデュース作品なんかで今回のNewJeansの楽曲に繋がるようなサウンドを披露しているんですね。それを踏まえてのキャスティングなのかもしれないですけど、結構興味深い曲が多いので。2ステップやUKガラージのおさらいも含めて、NewJeansの楽曲と聞き比べてみたいと思いますはい。まずは今回のEPから先行で公開された第1弾シングルの『Super Shy』から行ってみたいと思います。
この曲では、2ステップと、そのルーツにあたるドラムンベースっていうダンスミュージックの要素を取り入れてるんですけど。実際に聞いてもらう前に、同じようなサウンド打ち出しているエリカ・ド・カシエールとフランキー・スコカの関連曲を聞いてみたいと思います。最初はエリカ・ド・カシエールが2019年にリリースした『Intimate (Club Mix)』を1分ほど、聞いてください。
エリカ・ド・カシエールとフランキー・スコカ
(高橋芳朗)エリカ・ド・カシエール『Intimate (Club Mix)』を聞いていただいております。清涼感のあるドラムンベースっていう感じですね。
(宇多丸)ピンクパンサレスの時にも言ったけど、ちょっとアンビエントな空気も漂わせつつ、でもビートは2ステップ的なつんのめるようなスピード感があるビートで。そこにすごいフワーッと優しいというか、ちょっとウィスパーに近いような女性ボーカルが乗るみたいな。
(高橋芳朗)オリジナルのハードなドラムンベースより、ちょっとソフトな感じですね。
(宇多丸)そうだね。すごいベッドルームダンスミュージックっていうか、そういう感じですね。
(高橋芳朗)まさにそんな感じです。じゃあ、続いてフランキー・スコカがプロデュースを手がけたニューヨーク在住のシンガーソングライターのCarliane Tamaraが今年1月に発表した最新シングル『Kiss In Public』をこちらも1分ほど聞いてください。
(高橋芳朗)はい。Carliane Tamara『Kiss In Public』を聞いていただいております。これもピンクパンサレス以降っていう感じですね。
(宇多丸)そうだね。あと2ステップ的なものの特徴は2曲続けていくと、さすがになにか……。
(高橋芳朗)ちょっとドラムンベースですね。
(宇多丸)ああ、こっちはドラムンベース。
(高橋芳朗)今ね、国を問わずこういうタイプの曲が毎週、たくさんリリースされています。で、この2曲を踏まえてNewJeansの『Super Shy』を聞いてもらいたいんですけど。『Super Shy』はドラムンベースと2ステップのコンビネーション的なビートと、あと『Ditto』で取り入れてたジャージークラブのビート。ジャージークラブもこのコーナーで何度も説明してますけど。ひとつの小節にバスドラムが5回入るっていう、5つ打ちのビートが特徴ですね。「ドン、ドン、ドンドッドッ♪ ドン、ドン、ドンドッドッ♪」っていう。これが交互に切り替わっていくっていう。
(宇多丸)じゃあ美味しいとこ取りみたいな。
(高橋芳朗)そうですね。じゃあ、聞いてください。NewJeansで『Super Shy』です。
NewJeans『Super Shy』
(高橋芳朗)はい。NewJeansで『Super Shy』。ポルトガルのリスボンで撮影したミュージックビデオを含め、非常に夏らしい開放感のある曲ですが。いかがですか?
(宇多丸)いや、もう今のいいところ、美味しいところ取りっていう感じですね。
(高橋芳朗)ちょっとジャネット・ジャクソンっぽいなっていう感じもしましたね。
(宇多丸)そもそも、その浮遊感のある、優しいボーカルでっていう。その路線を確率したのがジャネットだから。それも含めて。
(高橋芳朗)ジャネット・ジャクソンとか、アリーヤとかの系譜を。
(宇多丸)たしかにアリーヤ感もあるな。だからどっちにしてもY2Kな感じですね。
(高橋芳朗)はい。じゃあ、今度は『Super Shy』の次に公開されたシングル曲の『Cool With You』に行ってみたいと思います。
<書き起こしおわり>