高橋芳朗さんが2025年2月10日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション2』で2025年のグラミー賞を振り返り。ビヨンセの最優秀アルバム賞&最優秀カントリーアルバム賞受賞という快挙について話していました。
(高橋芳朗)今回の授賞式で最も注目を集めていたのはR&Bシンガーのビヨンセですね。彼女のカントリーミュージックを取り入れたアルバム『Cowboy Carter』をグラミーがどう評価するかが最大の関心事だったんですけども。結果、自身初の最優秀アルバム賞を受賞。そして黒人アーティストとして初の最優秀カントリーアルバム賞も受賞しました。
(宇多丸)これ、カントリーアルバム賞を取った時のリアクションが面白かったね。
(高橋芳朗)もう今、ミーム化もしていますけどもね。完全に素のビヨンセ。あんなビヨンセは見れない。
(宇多丸)そうだよね。基本的にバキバキだし。なのが本当に冗談抜きでこうやって固まるっていうか……固まって、手のひらをこうやって伸ばして。
(高橋芳朗)あんな油断しているビヨンセは見たことないです。
(宇多丸)で、キョロキョロみたいな。手のひらを下に伸ばしてパーッてやって、キョロキョロ。こんなの、ないから。
(高橋芳朗)ビヨンセ、いつも360度、完璧ですから。
(宇多丸)しかもそれが壇上に登ってからも結構、続いていて。
(高橋芳朗)それはまた後で触れますけれども、いかに最優秀カントリーアルバム賞を受賞するのが困難かという話で。
ミーム化したビヨンセの受賞発表の反応
I'm screaming at Beyoncé's reaction to winning the Grammy for Best Country Album. queen!!!!! pic.twitter.com/BArMrfQG4q
— Spencer Althouse (@SpencerAlthouse) February 3, 2025
Beyoncé wins the #GRAMMY for Best Country Album. https://t.co/CbojGLDvaP pic.twitter.com/hM383RSi7z
— Variety (@Variety) February 3, 2025
(宇多丸)事前にやったグラミー展望特集でも伺いましたけども。いわゆるカントリーのコアなシーンは白人が多い。まあ、トランプ支持者も多いでしょう。みたいなところからは、ビヨンセは黙殺されていたっていう。だからきっと「もう無理っしょ」っていう感じだったんだよね。
(高橋芳朗)それがあのビヨンセのリアクションにつながったんだと思います。あれはリアルでしたね。びっくりしてましたね(笑)。まず、最優秀アルバム賞から触れさせてください。最優秀アルバム賞、67回を数えるグラミー賞で黒人女性が受賞したのは今回のビヨンセで4度目です。1999年にローリン・ヒルが『The Miseducation of Lauryn Hill』で受賞して以来、26年ぶりの快挙でした。ビヨンセ個人としてもこれは悲願の受賞だったんですよね。彼女の昨年までのグラミー賞の通算受賞数は32回。これ、史上最多なんです。でも、主要部門での受賞は1回だけ。2010年の『Single Ladies (Put A Ring On It)』での最優秀楽曲賞を受賞したのみ。ビヨンセはいつも、常に小さい賞。サブカテゴリーに押しやられてきたんです。
(宇多丸)それでね、みんなからは「おかしいじゃないか」みたいに言われてましたよね。
(高橋芳朗)特に最優秀アルバム賞はこれまで4度、ノミネートされて。その都度、有力候補に挙げられながらも受賞が叶わなかった。その間にテイラー・スウィフトは4回取ってるんです。アデルは2回取ってるんです。それを考えてもグラミー賞の選考は公平性に欠けるのではないかと問題視され続けてきたんですよ。で、このビヨンセへの処遇がグラミー賞の旧態依然とした体質の改善を求める声の高まりに繋がっていたところがあるんじゃないかなと。
(宇多丸)ボイコットとかもありました。
ようやくたどり着いた最優秀アルバム賞受賞
(高橋芳朗)それが今回、ようやく。最初の最優秀アルバム賞ノミネートから15年ですよ。15年の時を経て、念願の受賞になったということです。だから受賞スピーチで「It’s been many, many years」ってビヨンセ、言っていました。「とても長い年月でした」って言っていたけども、まあ本当にその一言に尽きるかなと思いますね。で、この最優秀アルバム賞に匹敵する快挙だったのが、さっき宇多丸さんからも話があった黒人アーティストとして初の最優秀カントリーアルバム賞の受賞ですね。
まあR&Bシンガーのビヨンセがなんでカントリーアルバム賞にノミネートされているか、改めてその経緯を簡単に説明しておきますと今、彼女は元々黒人が成り立ちに大きく関与しながらその事実が忘れられてしまった音楽とか文化の起源を再確認するプロジェクトを進めてるんですよ。で、その第1弾がハウスミュージックに焦点を当てた2020年の『Renaissance』で。で、昨年には『Cowboy Carter』というアルバムでカントリーミュージックを題材にしたわけです。
(宇多丸)この流れでいうと次はロックなんですかね?
(高橋芳朗)たぶんそうだと噂されてますね。で、この『Cowboy Carter』が非常に高い評価を獲得する一方で、やっぱり宇多丸さんも言ってましたけども。カントリーは保守層の白人がメインのリスナーっていうこともあって、ビヨンセのこの試みに対しては拒絶反応もめっちゃ多かったんですよ。実際に去年9月に開催されたカントリーミュージックの最大規模のアワードのカントリーミュージック協会賞ではビヨンセの『Cowboy Carter』は完全無視。
(宇多丸)ノミネートさえもなく?
(高橋芳朗)もう完全スルーです。そういう経緯も踏まえても、やっぱり黒人アーティストが最終カントリーアルバム賞を取るのはとんでもない高い壁で。
(宇多丸)やっぱりリル・ナズ・Xとかはちょっと一過性のというか、そういう扱いだって感じ? 色物みたいな。
(高橋芳朗)そうですね。カントリー部門の賞には及んでない感じですかね。だから本当に、さっきも言ったけどビヨンセが最優秀カントリーアルバム賞の受賞発表を受けて完全に素で固まってキョロキョロしちゃったっていうのは、彼女自身も本当に取れるとは思ってなかったんだと思うんですよ。
(宇多丸)グラミー的にも……もちろん、グラミーはみんなで投票してるから、みんなで決めてるんだけど。グラミーはこれで行くっていうね、意思表示もあるよね。
歴史的な最優秀カントリーアルバム賞受賞
(高橋芳朗)だから本当に歴史的な受賞だったし。またプレゼンターがテイラー・スウィフトだったんですね。それがまた、ちょっとよかったですね。花を添えたようなところがありますね。で、ビヨンセが授賞式終了後のインタビューでこんなことを話していました。「願わくばカントリーミュージックを愛し、リスペクトする人々に対して彼らのバックグラウンドに関わらず、カントリーの扉を開放し続けてくれることを期待します」という。そんな風に言ってましたね。
じゃあ、ちょっと『Cowboy Carter』から1曲、最大のヒットとなった『TEXAS HOLD ‘EM』を聞いてもらいたいんですけど。ビヨンセ、同じ授賞式終了後のインタビューでカントリーミュージックを象徴する楽器のひとつ、バンジョーについてですね、「バンジョーには深い歴史があって、私はその失われてしまった歴史の一部を紹介できたことを光栄に思っています」っていう風にコメントしてたんですけど。
この『TEXAS HOLD ‘EM』では黒人カントリーミュージシャンのリアノン・ギデンズという人のバンジョーをフィーチャーしてるんですね。で、この曲がリリースされた当時、リアノン・ギデンズは自分がバンジョーを弾いてる曲で様々な人種の人たちが踊っているのをTikTokで見て、思わず感極まってしまったなんていうエピソードもあったりします。じゃあ、聞いてください。ビヨンセで『TEXAS HOLD ‘EM』です。
Beyoncé『TEXAS HOLD ‘EM』
(高橋芳朗)はい。ビヨンセで『TEXAS HOLD ‘EM』でした。
(宇多丸)だからビヨンセのそういう、なんていうかな? 音楽の再定義……歴史も込みの、本当に偉大な活動をしてると思うけど。それがだからある意味、今回……前のハウスの時(『Renaissance』)以上に。だからこれで取ったのって、結構いいなって。
(高橋芳朗)R&Bアルバムじゃなくてカントリーアルバムでね。
(宇多丸)ある意味、一番攻めた時に取ったのって、すげえいいかなって気がする。
(高橋芳朗)歴史に残りましたね。
(中略)
(宇多丸)続いてのメール。「ついについに獲得、ビヨンセの最優秀アルバム賞。人種の壁をぶち壊しての最優秀カントリーアルバム賞受賞。ビヨンセ本当におめでとう。今まで芳朗さんの詳しい解説をアトロク2で聞いてきたので、ビヨンセの感動とその重みの感じ方がまさに段違いです。こうしてや歴史的な新しい流れを目にすることができる幸せをかみしめつつ、さらに新しく生まれ変わってくる未来がまた楽しみであります。芳朗さん、最高すぎる解説をありがとうございました。また来年もどうかよろしくお願いします」ということです。
(高橋芳朗)僕も2012年、3年ぐらいからTBSラジオとかいろんな番組でグラミー賞の解説してきたんですけども。本当にずっとビヨンセの動向を追ってきてるところもあるんで。この受賞はやっぱり感慨深いところがありますよね。
(宇多丸)ある意味、ビヨンセの活動のスタンスにいろんなことが集約されてるっていうか、象徴されてるっていうかね。ゆえのスーパースターっていうか。だからただ単に人気がある人じゃないんだよね。ビヨンセは。やっぱり引っぱってるというか、切り開いているというか。戦っているし。
(高橋芳朗)ビヨンセとあと夫のジェイ・Z。この2人がグラミー賞の最多ノミネートなんですよ。でも毎回、主要部門は取れなくて。でもそれでも諦めずにずっと、セレモニーに出席し続けたんですよ。その成果でもあると思います。諦めずに。
(宇多丸)なるほどね。
最優秀カントリーアルバム賞を受賞した時のビヨンセのリアクション、めちゃ面白かったですねー。なんか猫がびっくりしてフリーズした時みたいな感じで笑ってしまいました。本人も「まさか……」と思うような自体だったことがよくわかりますし、普段は絶対に見れない素のビヨンセが出ていたという意味でも貴重な瞬間だったんだなとこのお話を聞いていて思ってしまいました。改めてビヨンセ、おめでとう!

