高橋芳朗さんが2023年4月24日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でBTSのラップラインのj-hope、RM、SUGAの3人のソロ活動についてトーク。SUGA(Agust D)ソロアルバム『D‐DAY』について、話していました。
(宇多丸)RMさんのアルバム、すげえかっこいい。『Indigo』、聞きます。ちゃんと。さあ、続いて。
(高橋芳朗)3人目、行きましょう。
(宇多丸)そして、じゃあ出したばっかりのシュガさんですね?
(高橋芳朗)そうですね。先週末、4月21日にアルバム『D‐DAY』をリリースしたシュガですね。シュガは明後日、26日のニューヨーク公演を皮切りにワールドツアーが始まって。6月には来日公演が決定しています。で、シュガはラッパーとしてだけでなく、プロデューサーとしても活躍しておりまして。たとえば今回のアルバムにも参加している韓国の国民的歌手のIUなんかを手がけたりしてますね。で、ソロで活動する際にはさっき、宇多丸さんも言及されておりましたが。Agust Dという別名を名乗っています。これはシュガの出身地の大邸(テグ・Daegu-Town)の頭文字とシュガ(Suga)を合わせて、それを反対から読んだものになります。「Daegu-TownのSuga」っていうことですね。
で、ソロとしては2016年に最初にミックステープの『Agust D』を発表して。その後、2020年2作目のミックステープ『D-2』をリリースしてます。こちらは全米アルバムチャートで最高11位にランクインしてますね。で、音楽性としては、j-hopeとRMが比較的オーセンティックなヒップホップサウンドを好んでいるのに対して、シュガはトラップとか、エモラップとか、あとドリルとか。現行ヒップホップのスタイルを打ち出してくることが多いですかね。
そういう背景もあって、2019年に亡くなった画もラップを代表するアーティストのジュース・ワールドと二度、コラボを行っていたりします。で、このシュガのAgust Dみたいにオルターエゴ(別人格)を生み出すことによって自分の内面を掘り下げていくっていうアプローチは、結構多くのラッパーが通る道で。中でも、エミネムにとってのスリム・シェイディなんかが有名ですけど。まさにシュガはエミネムに触発されてこの手法を取り入れたんですって。で、エミネムがそうしたようにそのAgust Dという別人格を借りて、自分の怒りだったり、苦悩だったり、過去の記憶をラップしてるんですね。
そんなこともあって、シュガに比べるとAgust Dのラップはやや攻撃的な傾向にあります。で、このオルターエゴ設定はミュージックビデオでうまく生かされていて。今、BGMで流れている2作目のミックステープ『D-2』に収録されてる『대취타(Daechwita)』という曲と、あとは今回のアルバム『D‐DAY』からのシングル曲『해금(Haegeum)』。この両曲のミュージックビデオは両方とも、2人のシュガ。もしくはシュガとAgust Dが対峙する構成が取られてるんですよ。
(高橋芳朗)この2本のミュージックビデオ、ちょっと連作気味になってるので比較すると面白いんですけど。じゃあ、ちょっとここでその最新作の『D‐DAY』から『해금』を聞いてもらいたいんですけど。もうひとつだけ付け加えておくと、このBGMで流れている『대취타』と『해금』は現行ヒップホップのトラップビートに韓国の伝統的な音楽を取り入れてるっていうことが共通しているんですね。
で、『대취타』は軍隊の式典などで演奏されるタイトル通りのデチタって呼ばれる軍楽、行進曲ねみたいなのを取り入れていて。『해금』は弦楽器の一種の奚琴が導入されています。これ、イントロから使われてますけども。楽器を見るとね、「ああ、これ知っている」っていう方も多いと思うんですけども。ちょっとそのあたりも踏まえて聞いてみてください。Agust Dで『해금』です。
Agust D『해금』
(高橋芳朗)Agust D『해금』を聞いていただいております。
(宇多丸)今、ミュージックビデオも一緒に拝見していたんですけども。完全に韓国ノワールっていうか。
(高橋芳朗)そうですね。ノワール調ですね。
(宇多丸)ちょっとバイオレントな雰囲気も漂いつつ。
(高橋芳朗)ちょっと『オールド・ボーイ』的なね。
(宇多丸)本当だね。そういう2人の違う立場の人が後に出会うんだろうっていう。今、まだ途中なんだけど。で、「解禁」っていうか。なにかを解放するとか、そういうことなのかな?
(高橋芳朗)そうなんです。さっき言った楽器の「奚琴」というものも意味するし。「解禁」っていう意味もあるんですね。
(宇多丸)同じ響きなんだ。なるほどね。ダブルミーニングなんだ。面白い!
(高橋芳朗)で、この解禁っていうフレーズともちょっと繋がってくるんですけど。この『D‐DAY』というアルバムは、2016年のミックステープ『Agust D』。2020年のミックステープの『D-2』から続く三部作の完結編で。テーマは「解放」なんですよ。タイトルの『D‐DAY』は「ネガティブな思考から解放される日」を意味してるんですね。で、それを踏まえてアルバムを聞いていくと、曲が進むごとにネガティブな感情が浄化されていくような構成になっていることがわかるんですね。曲調も次第に穏やかになっていくっていうか。
(宇多丸)ああ、そうなんだ。へー!
(高橋芳朗)で、アルバムの後半。「夜明け」を意味する『Dawn』っていうタイトルのインタールードの次にくる、ある種のアルバムの大団円を飾る曲。解放に到達した曲といえるのがですね、ちょうど今月来日してた韓国のロックバンドのThe Rose(ドロジュ)のボーカルのウソンと、あと先日亡くなった坂本龍一さんがピアノで参加した『Snooze』という曲です。シュガは特に影響を受けたミュージシャンに坂本龍一さんを挙げていて。去年、来日した時に面会が実現してですね。それで今回のコラボに繋がりました。
で、この様子はですね、Disney+で配信されてるドキュメンタリーの『SUGA: Road to D-DAY』で見ることができます。この曲でシュガは苦しみを乗り越えた自分の経験を踏まえて、自分と同じ夢を追う後輩たちに「大丈夫。きっと全てがうまくいくから。いつも僕がついてるから、心配しないで」っていう風にエールを送ってるという。そういう内容の曲になっています。アルバムのもう大団円というか、三部作の大団円にふさわしい、非常にドラマティックな曲ですね。では、聞いてください。Agust D Ft. Ryuichi Sakamoto & WOOSUNG『Snooze』です。
Agust D Ft. Ryuichi Sakamoto & WOOSUNG『Snooze』
(高橋芳朗)はい。Agust D Ft. Ryuichi Sakamoto & WOOSUNG『Snooze』を聞いていただいております。
(宇多丸)ねえ。出だしのあたりとか聞くだけで「ああ、教授のピアノだ」ってわかる感じですね。
(高橋芳朗)ぜひ、ドキュメンタリーの『SUGA: Road to D-DAY』、見ていただきたいですね。坂本龍一さんとの交流は非常に感動的なので。
(高橋芳朗)で、そのドキュメンタリーによるとですね、シュガはRMに続いてアンダーソン・パークともレコーディングを行ったようなので。いずれ、発表になるんじゃないかなと思います。どんな形で出るか、わかんないすけどね。
(宇多丸)しかし、3人のラップラインのそれぞれがもう見事に色が違うっていうか。
(高橋芳朗)本当に違いますね(笑)。
(宇多丸)まあ、ちゃんと考えてもいるんだろうけど。全くね、方向が違うけれども、それぞれヒップホップアルバム、ラップアルバムであるというところがね、いいですね。さすがですね。「本当に好きなんだな」っていうか。なんか、本人たちがやりたいことの方向に嘘はないっていうか。それがすごい伝わってきますね。
(高橋芳朗)そうですね。あと、このソロ活動を通じて、たとえばj-hopeとJ・コール。あとRMとエリカ・バドゥ。シュガと坂本龍一さん。3人とも、この機会に憧れのアーティストとの競演を実現させてるんですよ。だからこれが今後のそのボーカル担当のソロ活動にも継承されていくのが非常に楽しみなところで。で、噂レベルなんですけども。ジョングクがジャスティン・ビーバーとレコーディングを行ったっていうような情報もあったりするので。
(宇多丸)なるほど。
(高橋芳朗)なので、ボーカル担当のソロ活動もまたいくつか、揃ってきたら、どこかのタイミングで紹介できたらなと思ってます。
(宇多丸)はい。ということで、ここまではBTS、3人のラップラインのアルバムをそれぞれ聞き比べをしてきました。
<書き起こしおわり>