町山智浩 アメリカの俳優組合・脚本家組合ストライキを語る

町山智浩 アメリカの俳優組合・脚本家組合ストライキを語る こねくと

町山智浩さんが2023年7月18日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で現在、アメリカで行われている俳優組合、脚本家組合のストライキについて、話していました。

(町山智浩)元々、1910年代ぐらいまで、アイルランドは世界で一番貧乏な国で。餓死者がすごくて。アイルランドの人って子供を10人ぐらい産んだりするんですけど、ほとんどが死んじゃうっていう国だったんですよ。食べるものがなくて。それが今、世界一豊かな国になっていて。それでなにがあったのか?っていうことを今日はお話したいんですが。その前に、今、アメリカですごく話題になってることで。俳優組合と脚本家組合がストに入って、映画制作が全部ストップしたっていう話をまず、します。

(石山蓮華)はい。お願いします。

(町山智浩)で、トム・クルーズさんが『ミッション: インポッシブル』の最新作『デッドレコニング PART ONE』のプロモーションで日本に来るはずだったのが、たしかストップしちゃったんですよね?

(石山蓮華)なんかニュースとして聞きました。

(町山智浩)そうそう。ストライキ中だから、俳優として行動しちゃいけないのでね。まあ、彼自身はプロデューサーでもあるんですけど、一応俳優組合に味方するとプロモーションとかっていうのはできなくなるみたいなんですけど。どうしてストをしているのか?っていうのは、日本で報道はされていますか?

(でか美ちゃん)いや、しっかりと報道されているのは、普通に自分が自主的に見に行ったらあるんだけど……っていうぐらいですね。

ストライキを行う二つの理由

(町山智浩)たぶんちゃんと報道されてないと思うんですけど。まず二つ、大きい理由があって。ひとつは「配信」なんですよ。Netflixとか、いっぱい配信してますよね。Amazonとかね。それがね、見た分を……要するに、お客さんがどのくらい見たかでその利益を割って、俳優とか脚本家に割り振るっていうことが、できていないんですよ。

(石山蓮華)じゃあ、もう配信会社の1人勝ちというか?

(町山智浩)そうなんですよ。配信会社側はそれをどのぐらいの人が見のた?っていう数は企業秘密が公表できないって言っていて。Amazonなんかでも、1人1個ずつの作品をお金を払って見る場合は数字がきっちり出るんですけども。Amazonプライムの見放題っていう風になると、その数字は出せないってなっちゃっているんですね。

(でか美ちゃん)でも、どう見たって人気作品じゃんとかは、どんどんどんどん出てきてるわけじゃないですか。

(町山智浩)そうですそうです。でもね、いわゆる印税みたいに部数であったりする、その部数の部分は出せないって言うんですよ。で、そうなるとね、買い切りになっちゃうんで。だから、ちゃんとした印税みたいな形でお金を出すために、その見た視聴者数をはっきりさせろっていう風に俳優組合と脚本家組合は言っているんですけども。今ね、アメリカって本当に映画館に人が来なくなっちゃって。みんな、配信でしか見なくなっちゃったんですよ。で、みんなテレビ、デカいのを持っているから。

中国製のテレビ、すごくデカくていいのが、それこそ2万円ぐらいで買える世の中になっちゃったんで、映画館に行かないわけですよ。映画館に行って、後ろや横でくちゃくちゃくちゃくちゃ食べてる人にイライラしながら見たり、スマホいじったりしてる人にイライラしながら見たりしなくていいしね。映画館まで行かなくていいし。みんなね、配信で見てるんで。だからすごく俳優たちも困ってるんですけど。

で、もうひとつの問題は「AI」なんですよ。今ね、AIに関しては、それこそ今、後ろで『タイタニック』の曲が流れているのかな? 『タイタニック』程度は全て今、コンピュータの中で作れちゃうんですよ。

(石山蓮華)あんな大作をですか? 人は?

(町山智浩)俳優はね、1回、体とか顔とかの3Dデータをキャプチャーされると、その後は全部AIで作れるから俳優がいらないっていうことになってきちゃって。

(でか美ちゃん)そんな話なのかねって思うけど……。

(町山智浩)特にね、主役俳優は必要だって言うだろうけど、それ以外の人たち。後ろにいる人たちね。『タイタニック』だといっぱい死んでいく人たち、いますよね? 船と一緒に落っこちていく人たち。あれは全部、CGでいいから、エキストラの人たちはもうほとんどが解雇でいいという状況になってきているんですよ。

(でか美ちゃん)ええっ? でも、そしたら偏りがあるというか。主演級の俳優しかいないって、それって衰退ですよね?

(町山智浩)衰退ですよ。だって俳優を育てられないもの。だからみんなが「コンピュータに人間を入れ替えるな!」って言ってストを起こしている状況なんですが。トム・クルーズの『ミッション: インポッシブル』の話をしましたよね? 日本では今週公開かな? あれね、今回トム・クルーズが戦う敵はAIなんですよ。全世界のコンピュータネットワークに広がってるAIで、エンティティっていうAIと戦うんですが。

これがすごいのはね、この映画を見ると、たとえばトム・クルーズが走る列車の屋根の上で走るで格闘してるシーンがあるんですけれども。今までの映画って普通、それは列車のセットを作って、走ってるように見せかけて背景を流して戦っていたりするか、CGだったりするじゃないですか。だから「ふーん」と思うんですけど、この映画では本当に列車を走らせて、その屋根の上でトム・クルーズが戦ってるんですよ。撮影をそうやってやっているんですよ。

(石山蓮華)えっ、そこで走らせる意味って、何なんですかね?

(町山智浩)トム・クルーズがやりたかったんだと思います(笑)。

(でか美ちゃん)「トムが言ってるんだから」っていうことですよ(笑)。

(町山智浩)あと、カーチェイスがあるんですけど。ローマで女のスリと……スリですよ。俺の敵のスリと。

(でか美ちゃん)本当ですよね(笑)。

(町山智浩)あのね、ダブリンで安心していたから僕ら、スリにやられたんですけども。観光客が多いから、スリが世界中から来ちゃうんですよ。観光地、ローマとか、そういうところにはいっぱいスリがいるんですが。その女スリの人に手錠をかけたままの状態でカーチェイスをするんですよ。トム・クルーズが。

(でか美ちゃん)危ねえ……。

(町山智浩)これ、物語上危ないと思っても、撮影現場ではどうせスタントマンがやってるし。スタントマン自体、手錠をかけないでカーチェイスをしているから、安全に撮ったんだろうなと思うじゃないですか。でも本当にトム・クルーズが女優と一緒に手錠をかけて、実際に2人で運転しながらカーチェイスをしているんですよ。『ミッション: インポッシブル』は。

(石山蓮華)なんで?

(でか美ちゃん)トムがやりたいから(笑)。

(石山蓮華)トムがやりたいからか!

(町山智浩)そう。で、女優さんもね、しょうがないから。トレーニングをすごい長い間、受けているんですよね。

(石山蓮華)どれぐらいの期間、受けるんですか?

(町山智浩)もう3ヶ月以上、トレーニングしているらしいです。で、全員が体がものすごくバチバチに鍛えられるように、トレーナーがついているんですよ。

(でか美ちゃん)でも、そういう俳優を育成するみたいなことが後に繋がっていくわけじゃないですか。きっと。それが今、AIでやられちゃったら……。

(町山智浩)その通りで。AIになっちゃうと、「どうせAIでやってるんだろう」とか「CGでやってるんだろう」っていうと、映画館に人を来なくなっちゃうわけですよね。で、トム・クルーズは「そうじゃねえよ。全部命がけで俺がやってるから、映画館に来い!」って言ってるわけですよ。

(でか美ちゃん)なるほど! かっこいいなー。

命をかけるからこそ見たくなる

(石山蓮華)でも、その命をかけるからこそ見たくなるっていうのもわかるんですけど。やっぱりそれってトム・クルーズさんだからこそできるやり方であって。

(町山智浩)もちろんそうですね(笑)。

(石山蓮華)もっとふわふわっとした……。

(でか美ちゃん)もっと健やかに撮ったっていいっていうね。命をかけきらずに撮るという方法ももちろんあるからね。素晴らしい作品ね。

(町山智浩)あるけれども。それをやっていたら、みんなが映画館に来なくなっちゃったんで。「俺が命をかけるから、俺の命を買ってくれ!」っていう世界になっているんですよ。トム・クルーズは。

(でか美ちゃん)トム・クルーズにしかできない映画愛というか。

(町山智浩)それで、物語の中でもAIと戦うんですけども、現実の映画制作でもAIと戦ってるわけですよ。トム・クルーズは。だからね、映画なのか本当なのか、よくわかんなくなってくるんですけど(笑)。

(石山蓮華)思わぬところで繋がってますね。

(町山智浩)あとね、そうそう。トム・クルーズ、アイルランド系なんですよ。

(石山蓮華)そうなんですね。

<書き起こしおわり>

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