町山智浩 アイルランドが世界有数の豊かな国になった理由を語る

町山智浩 アイルランドが世界有数の豊かな国になった理由を語る こねくと

町山智浩さんが2023年7月18日放送のTBSラジオ『こねくと』の中でアイルランドが世界有数の豊かな国になった理由について、話していました。

(石山蓮華)先週は旅行先のアイルランド・ダブリンでパスポートを盗まれてしまって大変だとお伺いしましたが。

(町山智浩)まだダブリンにいます。まだね、グリーンカードが発行されてなくて。パスポートをアメリカ領事館が今、預かっていて。今、精査して発行準備になってるということで。この後、いつここから出られるのか、まだわからないんです。

(石山蓮華)じゃあまだちょっと、しばらくはダブリンにいらっしゃるという。今、そちらは何時ですか?

(町山智浩)朝7時ですね。

(石山蓮華)ありがとうございます。

(でか美ちゃん)大変な状況ではあると思うんですけど。やっぱり後ろに見えている景色が美しいですよね。

(石山蓮華)赤レンガの建物で。素敵ですね。

(町山智浩)そうなんですよ。すごく街は美しくて、過ごしやすくて。人がみんなフレンドリーで。ちょっと困ったりしてると、すぐ声かけてくれるようなところなんで。観光客が多いからなんですけどね。今ね、街を歩いてる人はほとんどが観光客です。で、アイルランドの人は今、どこに行ってるかというと、スペインとかイタリアに遊びに行ってるんですよ。どうしてか?って言うとね、気温が夏でも19度以上に上がらないんです。アイルランドは。

(でか美ちゃん)へー。過ごしやすいですね。

(町山智浩)すごい過ごしやすい。で、ヨーロッパに行ったアイルランドの人たちは、ヨーロッパって今、イタリアとかギリシャとかスペインとかが40度以上なんで。普段、19度で暮らしているアイルランド人があっちに行ってるんでね、みんなバタバタ倒れてますね。

(でか美ちゃん)うわっ、だって倍ですもんね。

(石山蓮華)本当ですよね。飛行機降りたら気温が倍。

(町山智浩)そう。慣れてないからね、そこで倒れたりしてると思うんですけど。アイルランド人は。こっちは逆にね、道を歩いているとイタリア語、スペイン語ばっかりですね。聞こえてくるのは。

(石山蓮華)じゃあ、避暑に来てる方が多いんですね。

(町山智浩)避暑っていうか、暑さが向こうは40度以上だから。もうほとんど避難ですね。

(でか美ちゃん)そうか。そのレベルですよね。

(町山智浩)はい。だから観光立国みたいになっちゃっいて。アイルランドは。だからすごく親切で、ホテルとかレストランとかもめちゃくちゃね、愛想がよくて。で、よく外国に行くとチップが大変だとか、言うじゃないですか。チップとかもね、全然要求しないし。10%、サービス料に入ってるっていうのもあるんですけど。でね、物価はそんなに高くない。

(石山蓮華)やっぱり国全体が今、潤ってるからそういうところに頼らなくても済むってことなんですかね?

(町山智浩)そうなんですよ。とにかく今、世界のGDPってありますよね? 国内総生産を人口で割った数字っていうのがだいたい、国民の豊かさを示すと言われてるんですけども。この間も言ったんですが、アイルランドは今年、世界第2位になるんですよ。

(でか美ちゃん)すごいですね。先週は3位ってお話をされていましたけども。

(町山智浩)先週は3位って言ったんですが、それは去年のデータだったんですけど。今年は2位になるということで。しかもね、1位がどこかっていうと、ルクセンブルグなんですよ。ルクセンブルクってね、佐賀県ぐらいしか面積がなくて。人口が60万人しかいないんですよ。ひとつの王の領地がそのまま国になってるだけだから、「国」と考えるとちょっとおかしいんですよね。で、ちゃんとした国で、面積も人口もいて、庶民もいっぱいいる国での世界トップって今、アイルランドなんですよ。豊かさは。

(でか美ちゃん)へー! その、コンパクトだからこそなんですかね?

(町山智浩)いや、それが違う理由なんですよ。アイルランドっていうのはかつては、世界で一番貧乏な国だったんですよ。

(でか美ちゃん)そうですよね。元々は。

かつては世界で一番貧乏な国だった

(町山智浩)元々は。1910年代ぐらいまで、世界で一番貧乏な国で。餓死者がすごくて。アイルランドの人って子供を10人ぐらい産んだりするんですけど、ほとんどが死んじゃうっていう国だったんですよ。食べるものがなくて。それが今、世界一豊かな国になっていて。それでなにがあったのか?っていうことを今日はお話したいんですが。その前に、今、アメリカですごく話題になってることで。俳優組合と脚本家組合がストに入って、映画制作が全部ストップしたっていう話をまず、します。

(石山蓮華)はい。お願いします。

(中略)

(町山智浩)あとね、そうそう。トム・クルーズ、アイルランド系なんですよ。

(石山蓮華)そうなんですね。

(町山智浩)アイルランド系の人で、アイルランド系だと思われてない人って、いっぱいいるんですけど。たとえばブラッド・ピットもアイルランド系ですねね。

(でか美ちゃん)へー!

(町山智浩)あとね、オバマ元大統領もそうです。

(石山蓮華)そうなんですか!

(町山智浩)はい。オバマ元大統領はお母さんの方がアイルランドから来た人の子孫で。僕、今暇だからアイルランド中を回っているんですよ。やることがないので。そしたらね、田舎のドライブインがね、オバマドライブインっていうんですよ。で、「なんで?」ってそのドライブインに入っていくと、オバマさんの写真があって。オバマさんが祖先がその村から出たからっていうので、来たんですって。で、オバマさんの名前の街みたいになっていて。オバマ名所になってるところがあってね。あと、今のバイデン大統領もアイルランド系ですね。

というのは、アメリカに住んでるアイルランド系の人の人口は、アイルランドに住んでるアイルランド人の人口より多いので、こういう感じになるんですよ。あと、アイルランド系で世界で一番有名な人はね、ビートルズです。

(でか美ちゃん)ああ、ビートルズも?

(町山智浩)ジョン・レノンとポール・マッカートニーはアイルランド系です。

(石山蓮華)へー!

(町山智浩)イギリスに移民したアイルランド系なんですよ。で、どうして世界中にアイルランド系の人が広がったかっていうと……そうそう。日本で一番有名なアイルランド系の人は小泉八雲ですね。

(石山蓮華)小泉八雲もアイルランド人なんですね。

(町山智浩)『怪談』を書いた人ですけど。あれ、元々は英語で書いたのかな? たしか。あの人はラフカディオ・ハーンっていうアイルランド人です。小泉八雲っていう日本名にしただけなので。でね、アイルランド人が全世界に3500万人いるんですけど。アイルランドには500万人しかいないんですよね。で、アイルランド人が全世界に広がった理由っていうのもちょっと話したいんですけれども。アイルランド人はね、元々ケルト人という民族で。イギリスはね、アングロサクソンという民族で、別の民族なんですね。で、イギリスのイングランドってのは「アングロ人の国」っていう意味なんですよ。

ちなみにその「アングロ」っていうのはどこか?っていうと、デンマークなんですよ。デンマークから来た人たちがケルト人の島だったイギリスとアイルランドの方に行って。それでイングランドを建てたんですけども。彼らはドイツと同じゲルマン系の人たちなんですね。アングロ人っていうのは。で、ケルト人はスコットランドとウェールズっていうイギリスの一部と、アイルランドと、あとフランスのブルターニュというところにもいっぱいいます。ブルターニュ地方の「ブルターニュ」はイギリスのグレートブリテンの「ブリテン」と同じ意味です。

(でか美ちゃん)ああ、そうなんですね。

(石山蓮華)そうだったんだ。知らなかった。

(町山智浩)フランスはね、ケルト人とゲルマン人のミックスの国なんですよ。フランスっていう国名は元々は「フランク」から来ていて。フランクはフランケンシュタインの「フランク」なんで、ドイツ系なんですよ。というね、ややこしいことになっていて。

(でか美ちゃん)ややこしい。いろんなのが繋がって、繋がって。あっちいって、こっちいって、みたいな。

(町山智浩)そうなんです。でも大きくはね、ケルト系とゲルマン系しかいないと考えていいです。だいたい、ヨーロッパは。ざっくり見ていくと。下の方は地中海系っていう、ローマとかギリシャは別の民族なんですけど。だから三種類ぐらいなんですよね。ゲルマン、ケルト、地中海系っていうね。ヨーロッパは。でね、ここアイルランドですごかったのは第1外国語はゲール語っていう言葉なんですよ。これはケルトの言葉で。英語に残ってるのは「ウィスキー」っていう言葉はね、ゲール語ですね。

(でか美ちゃん)へー!

(町山智浩)これね、ゲール語でどういう意味か?っていうと、「水」っていう意味です。

(でか美ちゃん)おおっ、かっこいいし、怖い! ウィスキーをお水と思っているなんて……。

(町山智浩)怖いでしょう?(笑)。「お前ら、ウィスキーを水だと思っているのか?」っていう感じで。

(石山蓮華)水は、その普通にアルコールの入っていない水そのものは、なんていうんですか? ウイスキーですか?

(町山智浩)アルコールの入ってない水のことを「ウィシュケ」とかいうんですけれども。こっち、水道のマンホールにはウィシュケってゲール語で書いてあるんですね。まあ「ウィスキーは水だ」って言いながら飲むわけですよ(笑)。

(でか美ちゃん)強いなー(笑)。

(町山智浩)ただね、元々すごく貧乏な国で。雨が毎日降って、陽も差さないで気温も20度より上に上がらない。で、地面はほとんど石灰岩なんですよ。で、表土がほとんどないので小麦が育たないんですよ。それで何も食べるもなかったんですけど、15世紀にアメリカが発見された後に、南米からジャガイモが届いて。それを増やして、ジャガイモで食べてきたんです。そこから、ジャガイモなんですよね。ところがそれが、1845年にジャガイモ飢饉が起こって、みんな死んじゃうんですよ。ジャガイモが。

で、その時にアイルランドはイギリス人に占領されていて、ほとんどのアイルランド人が小作人で。イギリスの地主の下で働いてたんですけども。要するに、みんなジャガイモが取れないから年貢を納められないわけでしょう? 年貢が納められないとね、イギリス人の領主は彼らの家を破壊して、追放しちゃったんですよ。で、家もなければ食べ物もないアイルランド人が100万人以上、死んだと言われているんですね。

(石山蓮華)ひどいですね……。

ジャガイモ飢饉で多くの人が死ぬ

(町山智浩)ひどいんですよ。それで、もう食べるものがないからイギリスとかアメリカとかカナダとかオーストラリアにみんな、船で難民として渡ってきて。今のトム・クルーズであるとか、ケネディ大統領、オバマさん、バイデンさんっていうのは、みんなその難民の子孫なんですよ。食べるものがない人も難民なんですね。政治難民だけじゃなくて。ただ、それだけイギリスの領主がアイルランド人に対してひどいことをしたんで。アイランドに残った人はものすごい恨みを持っていて。でもイギリス政府に占領されてるわけじゃないですか。で、1916年からとうとうアイルランド人の武装蜂起が始まるんですよ。で、英国軍に対して銃を持って挑んで、独立戦争になっていくんですけど。それを英国軍は武力で鎮圧しようとして。たとえばアイルランド人がフットボールの試合をしてるところに装甲車で突っ込んで、機関銃で観客や選手を虐殺したりしているんですよ。

(でか美ちゃん)ええっ? 何の罪もない人を?

(石山蓮華)ちょっと、あまりにもなやり方ですよね。

(町山智浩)そうなんですよ。でも、あまりにもひどいことをやったんで。みんな、ゲリラ戦で戦って。それでアイルランドは独立したんですけれども。その後も、アイルランドは調子が悪くて。やっぱり食べ物がないのと、カトリックがものすごく支配してるんですよ。カトリック教会が。でね、ちょっと信じられないんですけど。同性愛が禁止だったっていうのは何となく、わかりますよね。カトリックだから。それで、離婚も禁止だったんですよ。法律で離婚もできなかったんです。だから、どんなにひどい旦那でも別れられなかったんです。アイルランドでは。この間まで、1990年代まで。

(でか美ちゃん)つい最近ですよ。30数年前まで。

(町山智浩)そうなんですよ。で、人工中絶ももちろん禁止なんですが、避妊も禁止されていて。避妊具とかも買えなかったんです。カトリックで。

(石山蓮華)じゃあ、その望まない妊娠をした人は、どうやって生きるんですか?

(町山智浩)望まない妊娠をした人は、罰として修道院に監禁されるんですよ。子供と一緒に。

(石山蓮華)罰?

(でか美ちゃん)妊娠するっていうことは、相手がいるやん?って思いますけども。

(町山智浩)相手がいるんだけども、相手は全く罰せられなかったんですよ。アイルランドでは。で、女性だけが婚外子とか、未婚で女の人が子供を産むと、子供と一緒に修道院に監禁されて。そこで死ぬまで強制労働をさせられるんです。で、すごいのは生まれた子供を修道院が没収して、アメリカとかに売っちゃってたんですよ。

(石山蓮華)これはひどいですね……。本当に、いろんなひどいことが全部繋がっていて。なのに、妊娠させた側の人は一切お咎めなしって、怖いですね。

(町山智浩)一切、罰せられない。ひどい女性差別で。離婚もできないしね。で、それを全部変えた1人の人がいるんですよ。1990年にメアリー・ロビンソンさんという人が初めてのアイルランドの女性大統領になるんです。で、彼女がその離婚も避妊も中絶も同性愛も全て、合法にしたんです。で、そういう差別がもうなくなったんですよ。

(でか美ちゃん)合法化にしたら、やっぱりちゃんとなくなっていくものなんですね。

(町山智浩)だって、法律で禁止しないんだもん。で、その修道院も閉鎖されて。そして男女の雇用を完全に均等にするって頑張ったんで、ものすごい景気がどんどん良くなっていったんですよ。アイルランドは。で、その彼女、ロビンソン大統領の支持率って93%ですよ。全国民ですよ、ほとんど。

(石山蓮華)本当にすごいですね!

(町山智浩)すごいんですよ。それからずっとアイルランドは経済成長を続けていて。特にイギリスがEUを脱退したんですけど。「難民が来るから嫌だ!」って脱退したんですが。その年に、アイルランドは国民のその1人当たりのGDPがいきなりボーンと25%かなんか、跳ね上がるんですよ。それはね、世界中にあるAppleとか、マイクロソフトとかの企業があるじゃないですか。アイルランドに本社を作って地元の人を雇用すれば、税金をすごく安くするっていうことをしたんで、全世界のIT企業がアイルランドに本社を置いて、合弁企業とかを作って、地元の人を雇ったんです。それでいきなり、もう経済がよくなっちゃって、という話なんですね。

(石山蓮華)すごい切れ者ですね。

(町山智浩)すごいんです。まあ、この大統領だけじゃなくて、その後2人の大統領が同じような政策をしていったんですけれども。だから今、もうアイランドは最低賃金が1400円で、日本の1.4倍。毎年の賃金上昇率が4.3%とかで。で、貧困率は日本が15.7%なのに対して、7.4%ということで。貧困率が日本の半分ですよ。でね、すごいのは年金の平均支給額が月25万円ですね。

(でか美ちゃん)羨ましい!

(町山智浩)日本の5倍です。だからこれ、全部政治の力なんです。

(石山蓮華)投票率もすごく高そうですね。

全部、政治の力

(町山智浩)ものすごく高いです。だってこれ、アイランドは他の国と違って、戦って自分たちが作った国だから。

(でか美ちゃん)そうですね。もう大元が戦ってきたっていう歴史もあるし。

(町山智浩)そこら中にね、内戦状態になったんで。イギリスとの戦争も、国内で戦ったわけですけども。そこら中に記念碑が建っていて。「ここで何人の兵士が死んだ」とかね、「アイルランドの独立ためにここで誰が死んだ」っていうので名前が書いてある碑がいっぱい街中に建っています。イギリスと戦ったんでね。で、まあ政治の力なんで、それで世界一豊かになっていて。ただね、日本人はアイランドに来るといいと思いますよ。ここ、日本食レストランがダメなんです。まだ。

(でか美ちゃん)あら! それはもう、ビジネスチャンスかもしれない。

(町山智浩)これ、ビジネスチャンスなんで。日本食を作れる人はアイルランドに来るといいと思います。喜んで受け入れられると思いますんで。

(でか美ちゃん)これは最後にいいことを聞きましたよ?(笑)。

(石山蓮華)ねえ。いいことを聞きましたね。生の情報をいただきました。

(町山智浩)で、夏でも19度です。

(石山蓮華)日本食作れる人、聞いてますか? アイルランドですよ!

(町山智浩)ぜひアイルランドの日本食をよくしてください。

(石山蓮華)今日は町山さんに滞在中のアイルランドのお話をいただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

町山智浩 アメリカの俳優組合・脚本家組合ストライキを語る
町山智浩さんが2023年7月18日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で現在、アメリカで行われている俳優組合、脚本家組合のストライキについて、話していました。
町山智浩 アイルランドの好景気ぶりを語る
町山智浩さんが2023年7月11日放送のTBSラジオ『こねくと』に滞在中のアイルランド・ダブリンから出演。現地で感じたアイルランドの好景気ぶりについて話していました。
タイトルとURLをコピーしました