春風亭一之輔と博多大吉 寄席と吉本の劇場公演の違いを語る

春風亭一之輔『電気グルーヴのオールナイトニッポン』から受けた影響を語る 大吉ポッドキャスト いったん、ここにいます!

春風亭一之輔さんが2023年7月5日配信の『大吉ポッドキャスト いったん、ここにいます!』の中で寄席と吉本の劇場公演の違いについて話していました。

(春風亭一之輔)ダウンタウンさんも、中学ぐらいに『ダウンタウン汁』っていう番組があって。東京だと深夜だったんですけど。大阪でも深夜だったのかな? それで、大喜利のコーナーとかあって。で、電気の2人がゲストで出て、トークやったりなんかして。そういうのは見てましたね。まあ、もちろん『ごっつええ感じ』とかも見てましたけど。だから、ミュージシャンっていうか、ラジオスターとして僕は電気で。で、テレビの中の芸人さんとしてはダウンタウンさんが大きい感じで。で、噺家はやっぱり1回、ガツッと通ったのは談志師匠ですね。そのへんは大きいですね。

(博多大吉)改めて、その談志さんとの出会いはどこだったんですか? いつぐらい?

(春風亭一之輔)高田先生のラジオを聞いていて……もちろんその談志師匠のお話が出るわけですよ。で、すごいそういう存在がいて。でも中学ぐらいの時は実際に見に行けるような人だと思ってなかったんで。で、高校の時に本当にもう落語にハマって。「談志師匠ってどこでやってるんだろうな?」と思ったら、国立演芸場で毎月、『談志1人会』っていう自分の独演会を定期的にやってると。で、「それに本当に僕みたいな田舎の高校生が行けるのかしら?」みたいに思ったら、ぴあでチケットが取れたんですよ。で、「行ってみよう」と思って、詰襟で通ってましたね。高2の後半ぐらいから。で、毎月は行けないんですね。

(博多大吉)ある程度、お金を貯めて。

詰襟で談志1人会に通う

(春風亭一之輔)独特でしたね。その頃、たぶん談志師匠は50になったばっかりぐらいかな? もう客席も、中高年……30代もいたかな? そんな、1人で来ている男の人ばっかりで。詰襟を着た高校生なんか、いないんですよね。

(博多大吉)でも、なんだろう? 独特な空間でしょう? 寄席とは全く違う、談志さんの世界観を味わいに来て。まあ、こういう言い方したらあれだけど。「今日は失敗だ」って言っても成立してる会でしょう?

(春風亭一之輔)その後、必ず……落語を最後に終わった後、まあ解説……やや悪く言えば、言い訳みたいな(笑)。緞帳はすぐに閉めずに言うんですよ。「今のは……」っつって。それをお客さんも「うんうん」ってうなずいてる人もいれば、メモを取ってる人もいれば。うん。だから、しくじった落語も聞けて幸せ。まあ、言っちゃ、「来ない」っていう状態を見ている。で、弟子が一生懸命、繋いでる。それも、「いいもんを見たね」っていう、ヤバい空間で(笑)。

(博多大吉)本当ですよね(笑)。

(春風亭一之輔)どうかしてるなっていう。

(博多大吉)すごく誤解されては困るんだけど。これが美学みたいになってるけど。本来、あり得ないことじゃない? ショービジネスに関して言うと。看板が来ないって、どういうことだ?っていう。

(春風亭一之輔)どういうこと?っていう。でも本当にもう、あれはどこだったかな? 池袋のメトロポリタンかどこか、宴会場みたいなところでやっていた落語会があって。談志師匠がトリなんですけど。なんかね、ちょっと場違いな笑い方する若い女の子がいたんですよ。変なところでキャキャッていうような。もう、すぐにやめちゃって。「笑い方にも品があって……」っていう話を始めて。客席がなんか凍り付いて。本当に「ああ、いたたまれないな、これは」ってていうようなことがあって。

で、またそれを見て、そういう場に居合わせたのも「うーん。いい空間にいたね」っていうような空気が場内にあって。まあ、でもちょっと影響は受けましたけど。「いや、落語ってこればかりじゃないだろう」っていうのも思いつつ。それと並行して寄席に……いわゆる鈴本とか浅草とか池袋、新宿みたいな、そういう定席っていうのにも通い。

(博多大吉)いろんな落語家さんを見て。

(春風亭一之輔)いわゆる談志師匠が「あんなところに出てられるか。冗談じゃねえぞ。あんな奴らと一緒にされてたまるか」と言われていた芸人……まあうちの師匠とか、うちの大師匠とかも含めて。そういうところにも並行して行っていたんですけども。「俺が向いてんのは、こっちだな」っていうような、その緩い方に舵を取った感じですね。大学の3年生ぐらいから。

(博多大吉)今、漫才師ってもう、ないんですよ。師弟っていうのが。もう、ほぼないんですよ。吉本ももう1組、2組ぐらいしかいないんじゃないかな? でも落語家さんって、基本そうでしょう? むしろ、誰の弟子でもない落語家さんっていないでしょう?

(春風亭一之輔)基本、フリーというのはあり得ないというような流れではあるんですけどね。

(博多大吉)だからこれ、何の愚痴でもないけど。本当に僕が入った30年前と変わったのが、若手が袖で先輩のネタというか、出番を見ないんですよね。で、僕らの時は、まだ結構みんな見ていたんですよ。それは「見ろ」って言われていたし、見たかったから。だから、師匠方ですね。阪神・巨人さんとか、大助・花子さんとかの舞台はもう、穴が開くほど見たし。師匠たちが出番の時は袖にいるのがマナーぐらいの。

(春風亭一之輔)残って、トリまで待つっていう。

若手が袖で先輩の出番を見なくなった

(博多大吉)そうそう。そういう感じやったけど。今はもうみんな、忙しいし。個人戦に入ってるから。まあ、僕らがやっていても、誰も見てないのが当たり前で。別にそれはそれでいいんですけど。結局、人の舞台を見てないから、何かが起こった時にどうしていいかわからないっていう漫才師が増えてるのも、事実なんですよ。さっき言ったように変な笑い方をするお客さんがいた時に、見ていたら「ああ、あの師匠はこんな風にやって対応してたな」とか。「あの師匠はこうやって酔っ払いをいなしていたな」とかっていう、教科書的なものを僕らは読んでいるけど。今の子はそれを読んでないから、ちょっとうろたえてる場面なんかもたまに目にするんですけど。一之輔さんとかは、ずっと見てるわけでしょう? 寄席で働いていて。

(春風亭一之輔)そうですね。っていうか、浴びる感じですよね。楽屋と高座が、新宿末廣亭なんかもう障子1枚なんで、否が応でも聞こえてくるんですよ。で、高座で今、何をやってるとか、どういう状況だっていうのはみんな、わかってるんですよ。ほぼ同じ空間なんで。だから働きながら……着物を畳んだり、お茶を出したりしながら、それが聞こえてくるんで。否が応でも、落語家っぽいしゃべり方。「いわゆる」ですよ。善し悪しは別として。とりあえず落語家っぽい流れ、メロディーでしゃべるというのが身に付かなきゃいけないんですけど。

それが、体で浴びることによってどんな……落語をを聞いたこともなくて、なんか落語家になっちゃったようなやつでも、1年ぐらいすると噺家っぽいしゃべり方ができるようになるんですよね。そこから先、自分で崩してったり、オリジナリティーを身につけていくんですけど。それが寄席っていう環境によって……僕らは修行の場としての寄席の価値っていうのは、そこにあると思うんですよね。

(博多大吉)だからちゃんと修行時代もあるし。ちゃんと師弟関係もあるから、いろんなストックがある状態で高座に上がられるじゃないですか。で、瞬時に……「この場合はどうしよう?」ってなった時に、たとえば談志師匠がポッと浮かんだりとか。一朝師匠が浮かんだりとか。それとも違う人が浮かんだりとか。

(春風亭一之輔)ああ、あります、あります。不意の場のね、その対応の仕方もそうだし。あと、なんだろうな? 「ああ、ここのフレーズの言い方とかって、うちの師匠じゃなくて、あの師匠になってるな」っていう、そういう時ありますよ。だから別に習ったわけじゃないのに、この師匠のこの落語のこのオチの言い方とか、いいなと思っていたのが、なんか自然に聞いてるうちにそういう風になってるっていう。それはたぶん、「芸は盗め」ってよく言うじゃないですか。実際に習うわけじゃなくて。「これは、そういうことなのかな」っていうのは思いますね。だからそれは袖で聞いたりとか……「なんでタダで聞けるのに、聞かないの?」っていうのは、ありますね。

(博多大吉)それはね、本当にありますよね。いや、「なんかわけわからんYouTubeを見たり、わけわからんゲームをする暇があったら、見りゃいいのに」って僕はめっちゃ思うんですけど。まあね、僕も弟子上がりじゃないから「見れば」とも言えず。まあまあまあ……。

(春風亭一之輔)いや、上の人って、やっぱりすごいっすよね。漫才の人もそうだし。なんか、型ができてるっていうのもそうだし。僕は1回、大阪の繁昌亭っていうところに上がったんですけども。間に入れていただいて。で、宮川左近ショーっていうのが昔、宮川左近さんっていう方は浪曲が元の人で。で、漫才をする。三味線の人と、ギターの人と真ん中で……浪曲漫才っていうのかな? 昔の人なんですけど。そういうのを、YouTubeで見たりなんかして、「すごいな」って。で、暁照夫さんっていう三味線の人。あんまりしゃべらないんですけども、早弾きとかする師匠が今、お二人で……もう亡くなっちゃったんですけども、その時に若い方と組んでお二人でやっていたんですよ。

で、僕は暁照夫師匠の後に上がることになって。5、6年前に。もう、袖で見てて、なんだろうな? 「芸ってこういうことだな」って思いましたね。途中で曲弾きをシャシャシャシャシャッ!ってすごい早く弾いて。客が今までギャンギャン笑ってたのが、それでヌーッと飲み込んでいって。バーン!ってやめて。

「なんでこんな、うまいんやろ?」っつっただけドーン!って受けるんですよ。それを横で聞いてて、「ああ、本当の芸って……」って。僕なんか、言っちゃ覚えてしゃべってるだけなところもあるんですけども。そういうのが、本当の芸で。で、その後に上がるのが、また上がりやすくて。お客さんが綺麗になってるんですよね。場が。冷めているんじゃなくて、ワンランク上がって、すっとならされている状態で。

(博多大吉)もうちゃんと、舞台が整えてあって。

(春風亭一之輔)で、落語をやる時に本当にやりやすくて。まあ、落語以外の方を僕ら東京の寄席だと「色物さん」って言うんですけど。色物さんのなんかあるべき形っていうのは、こういう師匠のことを言うんだろうなって。東京で言うと、紙切りの正楽師匠の後なんか、すごい上がりやすいし。ひとつ、お客さんを上げておいての「どうぞ、落語家さん、やってください」っていうような。また、そういう人たちのプライドもありますしね。「なんで俺、こいつの前に上がらなきゃいけないんだ?」みたいな。正楽師匠ってすごい癖のある人で。自分の仕事はやるんですけど、ちゃんと落語家を見てるんで。「ああ、こいつの前だったら……」みたいな。なんだろう? 口には出さないけど、空気を感じるんですよ。すごく。

(博多大吉)なるほど。「こいつなら」とか。「こいつはもう、こんくらいにしておくよ」みたいな。

(春風亭一之輔)言わないですよ? 絶対に言わないんですけど、なんかそういう空気をすごい感じて。この師匠の後に上がるのが夢だったけど、この師匠の後に上がる芸に自分が本当になってるのかな?っていうのを考えながら今、結構トリとかを取らせていただきますね。

(博多大吉)まあ、吉本の公演も一応、意識するんですけど。全体の構成とかを。でもやっぱり寄席とは比べ物にならないと思うんです。スケジュールの関係で、すぐぐちゃぐちゃになるし、あれですけど。寄席は本当、プレッシャーすごいでしょう? 最後の大トリ、主任とかになると。まあ、ある程度したら慣れてくるでしょうけども。

(春風亭一之輔)そうですね。でもまあ、なんだろうな? みんなで作り上げていくっていう、そういうのがあるんで。で、また10日間、同じプログラムでやるっていうので。「今日がダメだったら、また明日だな」っていう、そういう結構気楽なところがあるんですけどね。

(博多大吉)それは誰か、注意するんですか? 「お前、ちょっと違うぞ」みたいなことは。「お前、流れをちょっと断ち切っているぞ」みたいな。

(春風亭一之輔)いや、それがまたね、あんまり言わなくなってきてますね。本当は僕らの世代が一番、言わなきゃいけない下の世代で。一番とんがってなきゃいけないのは、たぶん僕らの世代と思うんですよ。40代半ばとか、50ちょっと、入りかけが。で、だんだんみんな、丸くなってくるじゃないですか。僕らが入った頃の40そこそこの人って、結構怖かったんで。

(博多大吉)一之輔さんもよう言われました? 昔は。

(春風亭一之輔)前座の頃なんか、言われましたね。「前座でこの噺、なんでやるんだ?」とか。「これは後の人がやりにくくなるから、こういう噺はやるな」とか。そういうのをちゃんと伝えてくれる人が、僕らの世代はギリギリいたんで。まあ、言わなきゃいけないっていうかね。嫌がられても。嫌がられるのを嫌がっちゃダメなんだろうなと思うんですけどね(笑)。

(博多大吉)ねえ。なかなかね……ちょっと湿っぽい話になっていますけども。

(春風亭一之輔)湿っぽいですけども。でも、どの世界でもたぶん共通すると思うんですけどね。

(博多大吉)だから吉本で言うと、僕はちゃんと寄席をやりたいんですよ。なんかもう、ちゃんとしたのを見せたいけど、コンテスト前になると、残ってるやつの出番をバッと増やして。たとえばM-1前やったら、M-1ファイナリストの子をなんか8組くらい連れてきて、4分ネタをダーッと見せて。

(春風亭一之輔)要は、稽古をさせるっていうことですか?

(博多大吉)そうです。で、最後だけ僕らで。「はい、15分」とか。いや、もうこんなのはぐちゃぐちゃやから……って。

(春風亭一之輔)まず、「お客さんのことを考えましょう」ってことですよね?

(博多大吉)そう。「育てるのは大事やけど、これはあんまりじゃないの?」っつって。で、M-1はまだいいんですよ。漫才やから。R-1の時期はピン芸人でそれをやるから。

(春風亭一之輔)ピン芸人がドドドドドッと?

(博多大吉)もうみんな、個性あふれる……もうはっきり言って、わけわからんことばっかりやるから、もう収拾がつかないんすよ。「全部尻拭い、できると思うなよ?」ってよく、会社内では言うんですけども。まあ、向こうにも言い分があるし。で、こんな、ねえ。若い子のためにやってるからな……とか。うーん(笑)。

賞レース決勝前は劇場出番がカオスになりがち

(春風亭一之輔)吉本だと、芸人の中で寄席の構成をつかさどるまではいかないけど、顔付けに何か言えるとか、プロデューサー的な立場の人はいないんですか?

(博多大吉)いないと思いますね。はい。今、東京吉本にはいないんじゃないかな? たぶん僕らがキャリアで言うと、相当……上から2番目ぐらいの。ネタ組で言うとですね。で、なんかお芝居とか、ミニミニ新喜劇で今田さんとか東野さんとか出られてますけど。漫才師やったら僕らになるかな?

(春風亭一之輔)噺家の場合は、寄席によってはトリが「前はこの人にしてください」とか、結構言うんですよ。「トリの前の色物さんは○○でお願いします」とか。「うちの一門の○○をちょっと深いところに入れてあげてください」とか。若手を。結構、そういうのは言えるんで。「ああ、この顔付けはこの師匠の意見が結構出てるな」とか、そういうのはありますけどね。

(博多大吉)やっぱり言っていかな、いかんですよね。ある日の公演が熊田まさし、ハイキングウォーキング、とにかく明るい安村って3組、続いていて。「いやいやいや、ここを固めるんじゃないよ」って。で、その2個、後にもりやすバンバンビガロっていうジャグラーのやつが出てきて。「いやいや、もうちょっとバランス、考えなさいよ」っていう。

(春風亭一之輔)ちょっとジャンクな……もうちょっと、ところてんとか(笑)。

(博多大吉)なんか、こういうのだろうなって。「直接、言われたことはないけど。高田文夫先生が嫌いなのって、こういうところだろうな。吉本の……」っていうのは、あるんすよ。だから、機会があったら謝っておいてください。何とか内部で、僕も改革しようと頑張ってるんですけど。

(春風亭一之輔)そうですね(笑)。

<書き起こしおわり>

春風亭一之輔『電気グルーヴのオールナイトニッポン』から受けた影響を語る
春風亭一之輔さんが2023年7月5日配信の『大吉ポッドキャスト いったん、ここにいます!』の中で『電気グルーヴのオールナイトニッポン』についてトーク。電気グルーヴのお二人から受けた影響について、話していました。
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