町山智浩『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』を語る

町山智浩『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』を語る たまむすび

町山智浩さんが2023年1月10日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』を紹介していました。

(町山智浩)それでもう1本ね、1月13日に公開の映画で。 『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』っていう映画があって。

(山里亮太)ああ、今、CMがすごい出てる!

(町山智浩)これね、「She Said」って「彼女は言った」っていう意味なんですけども。ハーヴェイ・ワインスタインというハリウッドの映画プロデューサーがいまして。ミラマックスという映画会社で1990年代にアカデミー賞を次々と取るっていう人だったんですけど。その人がですね、何十年間にもわたって80人以上の女性をレイプないしレイプしようとしたということで……・

(赤江珠緒)80人!?

80人以上の女性が被害に遭う

(町山智浩)80人以上です。で、2010年代の終わりにそれが暴かれまして。それを記事にしたニューヨーク・タイムズという新聞の女性記者2人がいかにして、その暴露記事を掲載したかというのを描く実録映画なんですね。これね、日本語タイトルはね、『その名を暴け』ってなってるんですけど。これ、ちょっと内容が違ってて。ワインスタインであることは最初からわかってるんですよ。ところがそれを、なかなか……まあ、彼は結局逮捕されて。懲役23年の刑になったんですけども。なかなかその彼が裁かれないできた理由っていうのは、実はそれまでにも告発した女性が何人もいたんですね。ところが、それが全部もみ消されてきたということなんで。彼の名前は既に暴かれているんですが、逆にその証言をいかに取るかというサスペンスものになっています。

で、とにかくね、20年ぐらい前に既にアシュレイ・ジャッドというハリウッド女優さんが彼を告発してるんですよ。ところが、誰も言うことを聞かない。で、彼女自身はハリウッドから干されちゃうということがあって。それで結局ですね、その80人……ほとんど同じ手口で襲われてます。「部屋に来てくれ」って言われて行ってみると、ハーヴェイ・ワインスタインが全裸で立っているという。で、「マッサージしてくれ」って言うんです。それを拒否するとクビにするっていう。それを繰り返すという感じで。

それで、クビにしただけじゃなくて、「他でしゃべってはいけない」っていう誓約書を書かせてるんですね。お金をたくさん払って。で、そうなっちゃうと、今度はしゃべっちゃうとそのお金を受け取ったこととかもあるんで、彼女たち自身が逆にまずい立場に追い込まれるってことで。あとは業界から干されたりして。業界、ハリウッドで生きていこうとすると、もう何も言えないということで全部、もみ消してきたんですけども。それを全部、1人1人説得していくんですよ。この女性記者2人がね。

で、この女性記者は元々、トランプを追っかけてた人なんですよね。トランプ大統領がセクハラを起こして、2016年の選挙の時にそれが暴かれて。それなのに、彼は当選しちゃったじゃないですか。それで、ものすごくこの記者たちは失望するわけですよ。アメリカという国に。だって実際に彼がいろんなセクハラをしていたことは事実なのに、なぜそれなのに彼にみんな、投票しちゃうの? この国はどうなってんの?っていうことで、がっくり落ち込んで。その女性記者の1人なんて、それでうつ病みたいになっちゃうんですよ。

ところが「もう1回、戦おう!」ってことで、このハーヴェイ・ワインスタインを暴く調査報道に参加していくっていう話で。さっき、『エルピス』の話をしたんですけども。『エルピス』もそうだからね。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)で、『エルピス』の場合には、あそこの中で描かれていた政府関係者……まあ、あのドラマの中では政府関係者になっていましたけども。政府に非常に近い人物が女性に対するレイプ事件を起こしたのを、政府の有力者をもみ消したということが安倍政権下で実際にあって。そのことはでも、実名で全くドラマにはできなくて。『エルピス』はもう話をすごくフィクションにしなければ、それを描くことはできなかったんですけど。この 『SHE SAID/シー・セッド』はもう全部、実名ですからね。

(赤江珠緒)実名!

(町山智浩)全員実名です。そのハーヴェイ・ワインスタインの弁護士でもみ消しをやってた男っていうのは、なんとビル・クリントン政権の法律顧問だった人なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)めちゃくちゃ民主党の大物なんですけど。それにこの記者2人が証言をさせるんですよ。もうこれ、キャリー・マリガンが名演技なんですけど。「あんたさ、そうやってもみ消してきたわけでしょう? ここで、言っちゃいなよ!」って言うんですよ。「言わなかったらあんた、後で大変なことになるよ?」って。その駆け引きがすごいですよ。かっこよくて。なかなかね。キャリー・マリガンって、17歳の少女を演じてすごく評価された人で。ずっと少女役が多かった人なんですけど。もうベテラン記者の貫禄十分のね、素晴らしい演技をして。もう政治家の、民主党の大物弁護士に自白させるというシーンが素晴らしいですよ、これ。駆け引きでね。

まあ、こういう映画は結構多くて。『スキャンダル』っていう映画はFOXニュースというテレビ局のCEOがやっぱり次々と社員をレイプしていたっていう事件があって。それを暴いた映画も、全部実名でしたからね。だからアメリカってこういうのは普通に全部、実名です。日本はいつになったら実名でできるのか?っていうね。

(赤江珠緒)そうですね。本当ですね。

(町山智浩)『エルピス』ぐらいで「攻めた」とか言われてて。「いや、ちょっと待て!」っていう。

(赤江珠緒)そうですね。『エルピス』も最後は「うーん……」っていうところまでね。

(町山智浩)でも、こっちは全部実名で。ハーヴェイ・ワインスタインのそっくりさんまで出てきますよ。という、すごい映画が 『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』です。この2本をぜひ、ご覧いただけたらと思います。

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』予告

<書き起こしおわり>

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