町山智浩さんが2022年9月20日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でNetflixで配信中のドラマ『ナルコの神』について話していました。
(町山智浩)それで今日はですね、ちょっと潜入捜査物の映画がまとめて次々と日本で公開されるんで。それを一気にまとめて紹介しようと思います。で、1本はもう既に見れるんですけど。Netflixのドラマで『ナルコの神』っていうドラマなんですが。これ、韓国のものなんですけれども。6話連続なんですが。
「ナルコ」っていうのは女の子の名前みたいですけど、「ナルコティック」っていう……麻薬のことですね。で、『ナルコの神』っていうことで。これ、英語タイトルは『Narco-Saints』ということで。「ナルコの聖人」。まあ、カルトをやってるその教祖が麻薬王であるっていう話なんですよ。
(赤江珠緒)うわーっ!
(町山智浩)それでこれ、スリナムという南米の国が舞台なんですけど。ブラジルのちょっと北にあるところなんですが。そこであった、実話です。
(赤江珠緒)えっ、実話?
(町山智浩)そうなんです。そのね、南米のスリナムという国で韓国人がコカイン王になってたんですね。コカインという麻薬を仕切る王様になってたっていう話で。これ、主人公はカンさんというね、一生懸命働いてる人で。お金が儲かるっていうんで、魚のエイってあるじゃないですか。「エイがスリナムの方でいっぱい取れるんだけど、スリナムでは捨てちゃっている。それを韓国に送ったら、儲かるよ」って言われるんですね。で、韓国の人たちってエイを刺身で食べるんですよ。これね、僕は食べられないんだけど。ちょっとおしっこ臭いんですよ。
(山里亮太)すごいクセがあるんですよね。
(町山智浩)そう。臭いんで。ただ、好きな人は好きなんで。「それを韓国に送れば、タダの物がものすごいお金になるぞ」って言われて。それでカンさんがスリナムに行くと、彼は麻薬取引に巻き込まれちゃうんですね。で、そこで逮捕されて刑務所に入るんですけど。そこにですね、韓国の国情院というですね、だから韓国のCIAのエージェントがやってきて。「刑務所を出してやるぞ」って言うんですね。
で、国情院というのはね、昔、KCIAっていうのが軍事独裁政権の時。朴正煕政権の時にあったんですけど。それで金大中大統領候補を殺そうとしたりもしましたけども。で、その金大中さんが大統領になっちゃって、それで国情院っていうのを作ったんですね。KCIAは安全企画部っていうのになっていたんですけども、それを解体して、健全な情報局の国情院というのを作りまして。
で、そこは昔と違ってちゃんとしたことをやってるんですが。で、そこで「実はスリナムにはものすごい麻薬王がいるんだ。それは韓国人なんだ。それでヨーロッパにすごく大量にコカインを送ってるんだ。韓国にも送ろうとしている。だから、それを逮捕したいんで、内部に入ってくれ」と言われるんですよ。
(赤江珠緒)潜入捜査。
(町山智浩)「潜入捜査をしてくれ」って言われるんですね。で、普通の人なんですけど、このカンさんという人は実は柔道がめちゃくちゃ強くて。素人なんですけども、全然ヤクザにびびらないっていう人なんで。で、すごくお金ももらえるって聞いてその潜入捜査をやるんですね。で、この麻薬王、「すごい奴がいる」っていうことなんですが、最初はなにもわからないんですよ。どこにいるのかとか。で、このカンさん、麻薬のいろんなトラブルに巻き込まれてですね、スリナムには中国人がかなりいて。中国人のヤクザに絡まれるんですね。
「お前、なんか俺に黙って商売してるみたいだな? 俺にもちょっと分け前をよこせよ」みたいなことを言われて、圧力をかけられて。「ヤバい」っていうことでスリナムの韓国人街のところで、韓国人相手にやってる教会があって。そこの牧師さんに相談するんですよ。使徒ヨハネと同じ名前のヨハンさんという牧師さんに相談をすると、その人が「ああ、そうですか。私は神のために働いてるんで、あなたのために何とかしますよ」って言って、中国人マフィアとの交渉にヨハン牧師が来てくれるんですよ。
で、「あなたたち、争い事はやめなさい」とかなんか言うんですけど。それでヨハン牧師、その中国人ギャングのボスの近くに寄って「お前な、ふざけんじゃねぞ、この野郎……」って言うんですよ。すると、その中国人のギャングは「ああっ!」ってなっちゃうんですよ。実はこのヨハン牧師がナルコの神なんですよ。
(山里亮太)おおーっ!
牧師がナルコの神
(町山智浩)そのスリナムのコカインを握っているコカイン王なんですよ。という話なんですよね。
(赤江珠緒)じゃあ、助けてくれた?
(町山智浩)助けてくれたんですよ。でも、それでカンさんはその組織に入ることになるわけですよ。それでこの麻薬王のヨハンさんを演じているのは、ファン・ジョンミンさんなんですよ。ファン・ジョンミンは前も紹介した『人質』の主役ですね。あとは、『たまむすび』でも紹介した『工作 黒金星と呼ばれた男』という映画もありまして。それでは、普通のサラリーマンだった人がKCIAに雇われて、北朝鮮に潜入捜査をするという役だったんですよ。そちらも実話でした。要するに北朝鮮側のビジネスを取引するってことでもって、商社マンとして北朝鮮に行って。なんと金正日に会うというすごい映画で。その『工作』っていう映画は「これは本当に実話なの?」っていう、とんでもないオチが待ってるんですけど。
(町山智浩)それで潜入捜査を行った上でファン・ジョンミンさんが、こっちでは潜入捜査される側なんですよ。でね、これ、監督は同じなんですね。
(赤江珠緒)ああ、そう? 監督が同じで?
(町山智浩)そうなんです。それで逆になってて、面白いんですけど。で、このファン・ジョンミンさんがとにかくすごく地味なサラリーマンから……さっき言った『工作』という映画では、真面目な商社マンなんですよね。それから、ものすごいヤクザのボスとか、ものすごい悪徳政治家とかね。『アシュラ』っていう映画ではものすごい悪徳政治家をやってますけど。そんな役もできる、幅のある人なんで。二面性がある人なんですよ。松重豊さんとちょっと似てる感じの人なんですけどね。
(赤江珠緒)へー! その人がその、麻薬の神と。
(町山智浩)そう。牧師として神を語りながら、大量のコカインを世界中に送り出している男なんですよ。だから、二面性があるんですよ。「神はあなたは愛しています」って言いながら、「こいつ、ちょっとバラバラにしとけ」とか言ったりしてるんですけど。この人、ファン・ジョンミンじゃないとできないっていうね。
(山里亮太)なるほど。幅があるからこそ。
(町山智浩)そうなんです。ただね、この作品はスリナムという国。スリナム国家から今、抗議を受けていますね。これね、なぜ彼が麻薬王をやっていけるか?っていうと、スリナムという国と完全にもう癒着していて。スリナムの大統領ともう本当にマブダチで。彼には絶対に手が出せないんですよ。スリナムの中では。
(赤江珠緒)うわー!
(町山智浩)で、カルトをやってるんで。表向きはキリスト教っぽい宗教団体をやっていて。ところが、その国のトップと金で繋がってるんですよ。まあ、どっかの国みたいですね。極東のどこかの国のような話なんすけど。そういう風に描かれちゃったんで、スリナムが「こんな国じゃねえよ」って怒ってるというね。「どうなの、これ?」って思うんですけど、でも実話なんですよね。
で、とにかくスリナム国の中では軍隊まで味方してるから、このヨハン牧師には手が出せないんですよね。で、なんとか国外に連れ出そうとするんですよ。で、彼はヨーロッパにまでコカインを送ってるんで、もう要するにアメリカのFBIと、ヨーロッパのインターポールと、韓国の国情院の三つの合同作戦になってるんですよ。このヨハン牧師を捕まえるのがね。で、実際にあった事件では名前はヨハン牧師じゃないんですけどもね。本当にこのおとり捜査彼を国外に連れ出して逮捕に成功してます。実際に。
(赤江珠緒)ああ、実際に、本当にそこまで?
(町山智浩)はい。で、モデルなった人は「Kさん」っていう人で。名前は明らかにされてないんですけど、本当に潜入捜査してた人なんですよ。だから本当にこんなことがあるのかっていうね。で、僕もね、これなんとなく気がついててね。たぶん2000年代に旅行した人は空港で、「知らない人から荷物を渡されて『これをを届けてくれないか』って言われたら気をつけなさい」っていう警告がすごく多かったことを覚えてます?
(赤江珠緒)覚えてます。勝手に運び屋にされちゃって。それで罪に問われるっていうね。「危ないぞ」って言われましたね。
(町山智浩)それを大々的にやっていたのがこの事件なんですよ。で、とにかくスリナムだけじゃなくて、いろんな国の空港にコカインを持ったら密売者を送って。何にも知らない観光客にそれを持たせて、運び屋をやらせていたんですが。それがものすごいネットワークだったんですね。
(赤江珠緒)あった、あった! それがすごい言われてた時、ありましたね。
(町山智浩)実はそれをやってたのは、こいつなんですよ。というね、2009年に逮捕されたんですけどもね。そういう大事件があったんで、その実話で。後半の方は結構ね、ハリウッド映画みたいになっていっちゃって。本当の話と離れてくんですけどもね。まあ、そういう驚くべき実話っていうことで面白いんですけど。
『ナルコの神』予告編
Netflix「ナルコの神」が凄い。
韓国映画好きにとってはハジョンウとファンジョンミンが出てるってだけで面白い保証を貰ったも同然だけど本当にヤバかった。
約1時間×6話で1秒も退屈しなかった。しかも実話がベース!どの登場人物も信用ならなくて、そんな中での駆け引き、心理戦。面白くない訳がない pic.twitter.com/pyzLcYoDNd— Lady Goodman (@pennylane218) September 18, 2022
<書き起こしおわり>