町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』でX-MENシリーズ最新作『X-MEN:フューチャー&パスト』について解説。X-MENのメインテーマ『差別』について詳しく語っています。
(赤江珠緒)今日の本題、町山さん、お願いします。
(町山智浩)はい。今日はですね、X-MENっていう映画のシリーズで。X-MENの新作ですね。フューチャー&パストという映画について紹介します。これ、いまアメリカで大・大・大ヒット。もうすごいですよ。もう、これ。日本では今週金曜日公開ですね。
(山里亮太)そう。もうじき公開です。
(町山智浩)はい。で、X-MENっていうのはもう7作も作られてるんですけど。1本ぐらい見てますかね?
(山里亮太)僕、ウルヴァリンのやつ(ウルヴァリン:SAMURAI)、見ました。
(町山智浩)あ、ウルヴァリン。あれはX-MENの中で1人だけ出てくる話ですね。
『ウルヴァリン:SAMURAI』
(赤江珠緒)日本に来るというやつですね。
(町山智浩)日本に行くやつですね。日本でお風呂入って、垢すりしたりとか。あの、ご飯食べたりとかって。どんな映画だよ、それ?っていう(笑)。
(山里亮太)そうですね(笑)。ウルヴァリンのPVみたいになっている。
(町山智浩)観光映画かよ!っていう感じですけど(笑)。あの、ウルヴァリンもX-MENの1人なんですけど。X-MENっていうのは実はああいう特殊な能力を持っている人たちを、みんなX-MENって呼んでいるんですよ。で、どういう能力を持った人がいるか?っていうとですね、今回のフューチャー&パストに出てくる人でいちばんすごいのはクィックシルバーっていうお兄ちゃんが出てくるんですけど。この人は人の何十倍、百倍ぐらいのスピードで動くことができるんですね。
(山里亮太)ふん。
(町山智浩)だからこの人が動いていると、周りの人は完全に止まっているように見えるんですよ。で、たとえばだからメガネかけてる人が止まっているように見えるから、そのメガネを外したりっていうイタズラをできるわけですね。こういうAVがありますよ!
(山里亮太)(笑)
(赤江珠緒)えっ?そうなんですか?
(山里亮太)町山さん、僕ね・・・
(町山智浩)そういうAVがあって。女の子たちが止まったままでですね、それにイタズラするっていうAVシリーズがあって。シリーズが出てるんですけど。どういう需要があるか、よくわからないんですが(笑)。
(山里亮太)町山さん、『時間よ止まれ』シリーズね。
(町山智浩)時間よ止まれシリーズ。なんで詳しいんですか!?ファンですか?
(山里亮太)(笑)。いや、嫌いじゃないですよね。
(町山智浩)嫌いじゃないですか。そういうの、好きな人って本当に・・・だって、女の人、無表情なんですよ、あれ。
(山里亮太)男の夢・・・
(赤江珠緒)そっち展開していかないでいいから!
(山里亮太)町山さん、帰って行きましょう。X-MENに帰って行きましょう!
(町山智浩)いやいや、そういうことができる人とか出てきたりとかですね。X-MENってエッチなことをしている人たちじゃないんですけど。
(山里亮太)違いますよ。特殊能力ですから。
(町山智浩)で、あとね、このX-MENのリーダー。2つのグループに分かれているんですけども。ひとつの方のリーダーのプロフェッサーXという人は、考えるだけでどんなものでも動かす力を持っているんですね。で、人の心にも話しかけられるし、人の心も動かすことができるんですよ。
(赤江珠緒)えっ?心まで?
(町山智浩)そうなんですよ。だからものすごい精神の力の人ですね。この人は。ただ、頭あんまり使いすぎてね、年取ってハゲちゃうんですけど。この人は。
(山里亮太)ツルンツルンのね。スキンヘッドの人。
(町山智浩)そのライバルに、マグニートっていう人がいてですね。マグニートっていう名前からわかるように、マグネットの力を持っているんですね。
(山里亮太)磁力。
(町山智浩)そう。磁力の力で。この人はありとあらゆる金属と電磁波を操れるんですよ。だからこうするとほとんど万能で。たとえばコンピューターも磁力で動いているわけですし。電磁波で動いてますし。電波も操れるそ。あと、金属ならなんでも動かせるから。人間の体の血液の中に入っている鉄分まで動かすことができるんですよ。
(赤江珠緒)ええっ!?
(町山智浩)だからものすごい力を持ってるんですね。
(赤江珠緒)そこまでって聞くと、すごいですね。
(山里亮太)強いの。めっちゃ強いの。
(町山智浩)そのかわり、金属がないと全くなんの役にも立たないんですよ。だから日本の農家で釘とか使っていない民家とかに行ったら、なにも役に立たないんですよ。この人。
(赤江・山里)(笑)
(山里亮太)マグニート、そこに来ないでしょ!
(町山智浩)囲炉裏の鈎ぐらいしか動かせないんですね、この人ね。それもまた問題なんですけど。
(山里亮太)カチャッてちょっと動かすぐらい(笑)。
(町山智浩)そう(笑)。そういうすごい能力なのか、すごくないのか自分でも言っていてよくわかんなくなっちゃいましたけど(笑)。
(山里亮太)すごいです。マグニート。
(町山智浩)すごいですね。はい。あと、ミスティークっていう女の人が出てきます。この人はね、そこに写真があると思うんですけど。青い女の人ですけど。この人はどんな姿にもなれるんですよ。で、カメレオンみたいな感じなんですね。体の感じ。爬虫類みたいなウロコが生えてて。青いトカゲみたいな女の人なんですけど。この人はいちばんすごくてですね。男にも女にもなれて、その人のしゃべり方とか言語とか、全部コピーしちゃうんですよ。コピー人間なんですけどもね。で、こういう人たちがすごい能力をもってなにをするか?っていうと・・・普通、こういう人たちが出てきたら、世界の平和を守る!とか、そういう話じゃないですか。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)そうじゃないんですよ。やるべきことっていうのは。X-MENっていうのは、差別されているんですよ。
(赤江珠緒)えっ?こんな力を持っているのに?
(町山智浩)突然生まれてきた特殊能力を持った人たちなんで。まあ、新人類なわけですね。だからいまの普通の人類の人たちは、この人たちに地球を乗っ取られると。要するに旧人類から新人類に進化するから、旧人類は駆逐されてしまうってことでもって、新人類を弾圧しているんですよ。
(赤江・山里)はー!
(町山智浩)要するに、駆り立てて殺そうとしてる人たちとかいるわけですね。で、それに対して新人類たちがミュータントと言われてるんですけど。この中ではX-MENは。その新人類、ミュータントが自分たちを守るっていう話なんですよ。だからすごく不思議な話で。不思議っていうか、ヒーロー物では珍しい、マイノリティーがマイノリティーを守るっていうのがヒーロー物語になってるんですね。これはだから、アメリカっていう多民族社会で生まれてきたマンガらしいストーリーなんですけども。
(赤江珠緒)へー。でも、読む人だったり、映画を見る人は旧人類の、人間っていう立場じゃないですか。そこに対立するミュータント。敵でいいんですか?
(町山智浩)まあ、これはネタ割っちゃうとあれなんですけど・・・完全にマイノリティーの人なんてこの世にいないですよ。人間は誰かは何かにおいてマイノリティーですよ。だからそこの部分で孤独っていうものを抱えたり、自分は人と違うんじゃないか?っていうのを抱えてない人がもしいるとしたら、それはもうかえって恐ろしい人なんで。だからそこの部分で共感するようになってるんですけども。
(赤江珠緒)なるほど。
マンガ『X-MEN』が登場した時代背景
(町山智浩)もっと具体的には、1963年にこのマンガは描かれ始めたんですね。で、これちょっと説明しておかないとね、なぜこういうマンガが出てきたのかわかんないと思うんですけど。これ、その当時アメリカはものすごいですね、黒人が自分たちの人権を勝ち取ろうとして、ものすごい弾圧されていた時なんですよ。で、南部っていうのは南北戦争が終わってから100年ぐらいずーっと差別が続いていて。同じバスに乗れないとか、同じ学校に行けないとか。あと選挙権がないとか。そういう形で、南部では黒人差別がずっと続いていたんですけども。それに対してマーティン・ルーサー・キングJrっていう黒人の牧師の人がですね、平等を勝ち取ろうということで、非暴力でもを。ただただデモをするだけ。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)ただただそこに座っているだけ。黒人は座っちゃいけないというところに座るわけですよ。ね。そういう非暴力行動で、我々がいかに酷い目にあっているか?っていうことを世界に訴えていたんですけども。それに対して南部の白人たちは暴力でもって潰しにかかったんですね。放水かけたり、警棒で殴ったり、犬をけしかけたり。酷い時は射殺もしてます。で、徹底的に暴力で潰そうとしたんですよ。黒人の平等運動を。それが1963年で。その時にX-MENが生まれてるんですよ。
(赤江・山里)はー!
(町山智浩)だからこれは超能力の話といいながら、実はその時にアメリカで起こっていた黒人差別との戦いっていうものに影響されて描かれたマンガなんですね。
(赤江珠緒)そんな時代背景があったんですね。
(町山智浩)はい。もうひとつは、これを描いた人っていうのはスタン・リーという人で。スパイダーマンの原作者でもあるんですよ。で、この人はユダヤ系なんですよ。で、アメリカのユダヤ系の人たちって、特にスタン・リーの世代っていうのはヨーロッパで弾圧されてアメリカに渡ってきた人たちの息子なんですね。で、ヨーロッパに残してきた親戚たちは第二次世界大戦でかなり殺されているんですよ。ヒットラーの、ナチのホロコーストによって。だから、いつ我々は、要するにユダヤ系の人たちは他の白人と見た目は同じなんですけども、いつ我々はミュータントのように。まあ、このX-MENというのは普通の人たちと一緒に生活して、自分は特殊能力を持っていることを隠していることが多いんですね。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)バレるとみんなからバケモノ扱いされるから。でも、ユダヤ系の人たちも普通に暮らしているわけじゃない。白人の人たちと。でも、いつ『お前はユダヤ人だ!』ってことでもって虐殺されるかわからないと。で、前に映画で『グランド・ブタペスト・ホテル』っていう映画の話をしましたけど。あれは要するにオーストリアで完全にユダヤ人差別がなくなって、ユダヤ人は国会議員にまでなっていて。で、完全に平等だと思っていたら急にユダヤ人刈りが始まって皆殺しになったわけですよね。
(赤江・山里)うん。
(町山智浩)だから、いま平等だからって、いつひっくり返るかわからないと。いう怖さっていうのを持っていて、それも込めているんですね。このX-MENっていう原作には。で、これが映画化されてもう10年ぐらいたつんですけども。そのシリーズなんですよ。で、今回どういう話か?っていうと、もう未来の話で。2000何年かな?タイトルが『フューチャー&パスト』っていうのは、『未来と過去』っていう意味ですけど。2023年に、ミュータントを一人ひとり探し出して殺していくロボット。センチネルっていうロボットがですね、ミュータントをかなり殺して。もうほとんど残っていない状態になってるんですよ。
(山里亮太)ほー。
(町山智浩)で、どうやったらこれを、俺たちは生き残れるのか?と。そのセンチネルっていうミュータント皆殺しシステムが実際に採用される前に行って止めればいいんだ!ということで、そんな無茶なことができるのか?と思ったら、要するにタイムマシンとか使わなきゃいけないじゃないですか。で、そうじゃなくてある超能力者の女の子がいて。その人は、ある人の気持ちを、心をですね、その人の若いころに飛ばすことができるんですよ。
(赤江・山里)おー!
(町山智浩)そうするとこれ、タイムトラベルって物理法則に反しているから不可能なんだけど、心を飛ばすことだったらできそうじゃないですか。それでその人の、ウルヴァリンの心を飛ばして。ウルヴァリンっていうのはすごく寿命が長い人なんで。
(山里亮太)頑丈なんですね。
(町山智浩)そう。だから何十年前でも変わってないんですよ。この人だけは。だからその人の若いころに現在のウルヴァリンの気持ちを飛ばして、で、時代を変えて、そのセンチネルっていうミュータント皆殺しシステムがアメリカ政府に採用されないようにしようとする話が今回のフューチャー&パストなんですよ。
(赤江珠緒)面白い能力ですね。
(町山智浩)これ、ものすごく夢があると思いません?
(山里亮太)ある!
(町山智浩)僕のいまの記憶とか心をこのまま10才のころの僕に移し替えたいですよ!
(山里亮太)危なくない!?町山さん!いまの町山さんの発想を10才には・・・ちょっと重くない?
(町山智浩)ダメ!?
(山里亮太)ダメ!
(町山智浩)ダメか?だって、株でめちゃめちゃ儲けられるよ!
(山里亮太)あーあ!バック・トゥ・ザ・フューチャーでいちばんダメなやつだ!ビフだ、ビフ!
(町山智浩)そうそう。あのビフとおんなじですよね。でもこれ、夢あるなって。心をタイムスリップって、むちゃくちゃ夢ない?これ。あの時の失敗を二度と繰り返さないっていうの、できるじゃないですか。これ。
(山里亮太)あー!ある!この能力、ほしい!
(町山智浩)でしょう?あんなものに引っかかっちまって・・・とかね。あるでしょ?
(赤江珠緒)どんなものに引っかかったの?
(山里亮太)ありますよー!
(町山智浩)で、それはX-MENと関係ないんでやめますが。いろいろ妄想しましょう(笑)。ということでね、戻るんですけども。それで1973年に戻るんですね。73年ってこれは何か?っていうと、ベトナム戦争にアメリカが負けた年なんですよ。ベトナム戦争が終わったんで、和平協定っていうのを結ぶんですね。アメリカとベトナムが。それをパリで結ぶんですけど、そこにトラスク博士っていうのが行ってですね。要するに東側、共産主義側と資本主義側の首脳に対して、そのセンチネルシステムを売りこんだんですよ。
(赤江・山里)うん。
(町山智浩)で、どうやって売りこんだのか?っていうと、『我々はイデオロギーとか、いろんなことで国家同士対立している場合ではない。我々には共通の敵がいる。このミュータントというのを潰すために我々は手を組もう!』っていう風に言って、センチネルが採用されていくんですね。
(赤江・山里)へー!
(町山智浩)これも怖いんですよ。実際にヒットラーがユダヤ人を虐殺するっていうのをしたっていうのが、ある程度ヨーロッパ統一のために、ひとつのスケープゴートとしてユダヤ人という共通の敵を作るっていうことで、たとえばソ連とも反ユダヤ人ってことで手を組んでいるし。実際にはウクライナとかいろんな国の中にいる反ユダヤの勢力と、ナチは手を組んだんですよ。実際に。で、ユダヤ人虐殺とかをやったんですけど。各国で。それと同じことをやろうとするわけですよ。
(赤江珠緒)そうなると、まとまりやすいんですね。人間っちゅーのはね。
(町山智浩)そう。だれか共通の敵を作れば、敵と味方がなくなるみたいな凶悪な考え方なんですけども。で、そこに止めに行くという話なんですけども。そこで勝手に彼らの気持ち、X-MEN側の気持ちを無視してですね、暴れまわっているお姉ちゃんがいてですね。それがあの、誰にでもなれる女の子なんですね。ひみつのアッコちゃんみたいな。ちょっと鮫肌なんですけども、ミスティークなんですよ。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)これね、ジェニファー・ローレンスっていう女の子が演じてるんですけど。この人、アカデミー主演女優賞を『世界にひとつのプレイブック』でとった人。
(赤江珠緒)あー!ぜんぜんわからなかった。
(町山智浩)ぜんぜんわからないでしょ?アカデミー主演女優賞をとった、もうハリウッドの大・大・大スターがですね、この映画ではほとんどずーっと裸なんですよ。この青い、トカゲのような肌のミスティークの役でですね。これ、ほとんど裸ですよね。
(赤江珠緒)あ、そういうこと。ボディーに直ですか。
(町山智浩)直ですよ。ずっと。ほとんどこの姿なんですよ。それか、別の人に変身してるかなんですよ。アカデミー主演女優賞とって、こんな裸仕事やらされるのか!と思ってね(笑)。
(山里亮太)そうだ。断らないんですね。
(町山智浩)大変だなと思いましたよ。ねえ。まあ、おっぱい大きいからいいんですけど。
(山里亮太)いやいや、理由(笑)。それ、見る方の理由じゃないですあk.
(町山智浩)この映画ね、ひとつ問題がね、いつもだったらかならず脱いでいるヒュー・ジャックマンとマイケル・ファスベンダーがぜんぜん脱がないのがちょっと問題ですね。
(山里亮太)あら?ヒュー・ジャックマンって、ムッキムキのボディー見せたがりですけどね。結構。
(町山智浩)ねえ。もったいないですね(笑)。そういう感じの映画なんですけども。これがね、ものすごくややこしい映画なんですよ。
(山里亮太)ややこしい?
(町山智浩)要するに、過去に戻って過去の事件を収束しようとしてるのと、現在にセンチネルが現在のX-MENを殲滅しようとするのが並行して描かれるんですよ。わけわかんなくなってくるんですよ。見ているうちに(笑)。どんどんね。
(山里亮太)そっか。いまどっちだ?と。
(町山智浩)そう。これはもう、すっごいことになってるなと思いましたけどね。はい。
(山里亮太)でも、あれですね。町山さん。最近その、いいやつのグループがいて。で、悪を倒す、ドタバタするみたいな話よりも、ちょっとどっちが結局正義で、どっちが敵で、みたいなのが、あんまりはっきりしないけどメッセージ性がこめられているっていうやつ、多いんですね。
(町山智浩)これね、マグニートっていうのがもうひとりX-MENの中にいてですね。X-MENっていうのは2つにわかれてるんですけども。キング牧師みたいに、さっき言った非暴力によってX-MENの人権を勝ち取ろうとしているグループっていうのがいるんですね。で、それに対して、要するに人間っていうのはものすごく悪いやつらなんだから、滅ぼせばいいんだ!って言っているX-MENもいるんですよ。それがマグニートで、これは原作が描かれた当時、黒人の人権運動にも2つ派閥があって。非暴力派のキング牧師じゃなくて、白人はこれまで俺たちを奴隷にしてきたり酷いことをしてきたんだから、あいつらをやっつければいいんだ!っていう、ブラックパンサーとかマルコムXっていう、暴力を辞さない派もいたんですね。
(赤江・山里)ふん。
(町山智浩)それがマグニート側なんですよ。
(山里亮太)なるほど!
(町山智浩)だから実際にあったことを反映してて。しかも、その1973年に戻るんですけど。その時、ニクソン大統領なんですが。マグニートはその時にケネディ大統領暗殺犯として逮捕されてるんですね。この話では。どうしてか?っていうと、ケネディ大統領っていうのは、どうもミュータントに関してある法律を制作しようとしてたんで暗殺されたっていうことになってるんですね。この話では。で、実際はケネディ大統領は黒人の差別をなくすっていう公民権法っていう法律を作っていたんですよ。暗殺された時に。で、暗殺されたんでその次のジョンソン大統領がその公民権法を実際にサインするんですけど。だからケネディ大統領が暗殺されたっていうのは、実は公民権法で黒人を平等にしようとしたからだっていう説もあるんですよ。
(赤江珠緒)じゃあちょっと歴史に絡んできてるんですね。
(町山智浩)だからそこでまたX-MENの出自と絡んでくるんですね。そういう非常に政治的な事実が背景にあるんで、わからないで見てるとなんだかわからないと。そのへんをちょっと、事前のお勉強の話、僕してますけど。
(赤江珠緒)いや、最近のね、アメリカのヒーロー物って、キャプテンアメリカとかスーパーマンとかも、いろいろとそういうメッセージ性が強いですね。
(町山智浩)そうです。特に今回のっていうか、X-MENシリーズの映画をずっと作っている人はブライアン・シンガーっていう監督なんですけども。この人はユダヤ系であって、しかもゲイの人なんですね。だからゲイも隠して。差別されるからっていうことで、悩んだりしてるっていうんで、ミュータントと同じところがあるんで。ミュータントが自分が超能力を持っていることを隠してて。親にバレると、親から『お前は俺の息子じゃない』みたいに言われるシーンもあったりするんですよ。X-MENシリーズには。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)あと、親が、お母さんが『あなた、ミュータントをやめて普通の人になれないの?』って言ったりするシーンがあって。それ、ゲイの親が特に言ったりする言葉ですね。『ゲイっていうのはやめられないの?』っていうことをね。だからそのへんもね、さらに載せてるんでね。ユダヤ人差別とか黒人差別に、さらにもちろんミュータントの話ですから身体障害者差別っていうのも入っていて。で、そこにさらにゲイ差別って。いろんな差別をのっけて、差別全般の物語にX-MENっていうのはなっているんですけども。特に今回の映画を見る際、フューチャー&パストを見る際、事前にその知識として知ってほしいことがあって。
(山里亮太)ええ。
(町山智浩)これ、ハーヴェイ・ミルクっていう人が1973年に暗殺されたんですけども。この人がゲイであることを表明しながら、サンフランシスコの市会議員になった、ゲイであることを表明して政治家になった初めての人なんですね。ハーヴェイ・ミルクっていう人は。で、この人の演説が引用されています。この映画の中で。
(赤江・山里)へー!
(町山智浩)それを知らないと、演説しているシーンの、これなんのことを言ってるんだろう?ってわからないと思うんで。どういう演説か?っていうと、『お医者さんとか弁護士とか成功している人とか有名な人は、自分がゲイである場合、ゲイであることを世間に表明してください』って言ったんですよ。ハーヴェイ・ミルクが演説の中で。
(赤江珠緒)ええ。
(町山智浩)これを『カミングアウト』っていうんですね。『自分がゲイであることを表明することを。で、そういう人たちが自分がゲイであることを言うことで、ゲイであることを悩んで誰にも言えなくて辛い思いをしている人たちが助かるんです!そういう少年たちが救われるんです!希望を持てるんです。あなたたちがカミングアウトすることで』と。さらにそのハーヴェイ・ミルクは、『私は同性愛者についてだけのことを言ってるんじゃない。希望ということは、黒人でもアジア人でも身体障害者でも老人でも、全ての差別されている人、マイノリティーが同じことなんです。いちばん大事なのは希望なんです!』という演説をしたんですよ。『だからカミングアウトしてください!』と。
(赤江珠緒)ああ、そうなんだ。
(町山智浩)その有名な演説が、このX-MENで非常に重要なものとして出てきますんで。まあ、是非見ていただきたい。
(赤江珠緒)それは知っておかねばなりませんね。
(町山智浩)と、いう感じなんですけども。ちょっと1曲かけたかったんですけど、もう時間ないですね。はい。さっき言ったクィックシルバーが時間を止めて走り回るシーンで、すごくいい曲がかかるんで。そのへんもちょっと、1973年のヒット曲がかかりますんで。注意して見ていただきたいということで、お時間でした。
(赤江珠緒)はい。もりだくさんでありがとうございました。もう、まもなく日本でも公開。今週金曜日に公開されます。X-MEN フューチャー&パスト、ご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。
(山里亮太)ありがとうございました。
(町山智浩)どもでした!
<書き起こしおわり>