町山智浩『人質 韓国トップスター誘拐事件』を語る

町山智浩『人質 韓国トップスター誘拐事件』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年8月30日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『人質 韓国トップスター誘拐事件』を紹介していました。

(町山智浩)今日ですね、2本とも人質映画です。誘拐映画。1本目は9月9日から日本公開される『人質』っていうそのままタイトルですね。『人質 韓国トップスター誘拐事件』というタイトルの映画を紹介します。これは韓国の映画俳優が誘拐されるという話なんですが、主演がファン・ジョンミンさんというスターなんですね。で、この映画の中でもファン・ジョンミンの役なんですよ。だから山里さんが山里さんの役を演じているような感じです。

(山里亮太)本人役。

(町山智浩)本人役なんですよ。で、これが面白いのは、ファン・ジョンミンさんっていう人は、今まで、何にでもなっちゃう人だったんで、正体が全然わからない人だったんですよ。今までやった映画……韓国映画のブレークスルーだった『シュリ』の頃から出続けてるんですけども。『新しき世界』っていう映画だと、ヤクザの親分なんだけれども潜入捜査してきた刑事とちょっと一線を超えるほど仲良くなっちゃうという映画だったり。『アシュラ』だと非常にインテリの市長に見えるんだけど、ものすごい悪いやつとか。で、『哭声/コクソン』では、あの悪魔のような國村隼さんと、なぜかふんどしを交換し合ってる韓国の霊媒師っていう、よくわからない役でしたね。

(山里亮太)あの方だ! 僕、それで見てる。『哭声/コクソン』で。

(町山智浩)そう。2人とも、なんかふんどしを共有してるんで、謎だったんですけど(笑)。

(赤江珠緒)怖い、怖い(笑)。

(町山智浩)そこが一番怖いですね(笑)。「ちゃんと洗っているだろうか?」とかいろいろと心配になりますよ(笑)。

(山里亮太)『哭声/コクソン』、怖くなるポイントは他にいっぱいありましたよ!(笑)。

(町山智浩)そうか(笑)。あとはね、最近だと『工作 黒金星と呼ばれた男』という映画では、すごく真面目なサラリーマン風の、役人風の人なんですけれども、韓国の政府に雇われて北朝鮮に潜入するスパイの役とかね。だから見た目がすごい真面目なサラリーマンみたいな感じの人なんですよ。松重豊さんにちょっと似てる感じなんですね。だから、すごく真面目そうなんですけれども、裏では何をしてるかわからないっていう役とかがあったりね。非常に面白いんですけど。だから、この人本人がどういう人か、全然わかんなかったんですよ。

それを今回、ファン・ジョンミンという自分自身の役をやるという映画なんですが。で、これ、誘拐されちゃうんですね。BMWかなんかに乗っていたら、「いい車に乗ってるじゃねえか」ってことで誘拐されて監禁されるんですが。監禁されてお金をよこせと。「お前のその口座から俺たちへ渡さないと殺すぞ」っていう風に言われるんですけど。でも、関係ない人を一緒に誘拐しているんですよ。カフェのウェイトレスの女性かなんかを一緒に誘拐してて。「お前が逃げたりしたら、こいつを殺すから」って言われるんですよ。

(赤江珠緒)うわっ!

(町山智浩)だから、逃げられないんですよ。こういうすごいずるいことをやってくるのがこの犯人なんですが、これって実話なんですね。

(赤江珠緒)ええっ?

中国で実際に起こった俳優誘拐事件

(町山智浩)これね、中国で起こったことなんですね。北京で起こったことで。これ、2003年か4年にですね、これもまたすごく奇妙なんですが。中国のテレビで刑事役ですごく人気だったウー・ロウフーさんっていう人がBMWに乗っていて誘拐されるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? 実際にあった?

(町山智浩)実際にあった事件です。出、監禁されたんですけど。最終的には中国警察に助けられたんですけど。それが11年後ぐらいの2015年に映画化されております。既に。これ、『誘拐捜査』というタイトルで映画化されていて。誘拐される俳優の役はアンディ・ラウさんっていう香港のトップスターが演じてるんですけど。面白いのはこの事件を捜査する刑事の役をこの誘拐された本人のウー・ロウフーさんが演じてるんですよ。

すごく奇妙な映画なんですが。ただ、これは中国映画なんで。中国では警察を描く時には素晴らしいものとしてしか、描けないんですよ。だから捜査が失敗したりとか、そういうことは一切なくて。サクサクと犯人たちを捕まえて終わっちゃうんで、なかなかサスペンスがないんですね。

(山里亮太)なるほど!

(町山智浩)ところがこれ、今回韓国で映画化されると、韓国映画っていうのはもう何についてもエクストリームなんで、どんどん事態が悪い方向に進んでいくという。同じ事件がもとになってても、もう強烈さが全然違うんですよ。これね、すごい怖いのはね、犯人たちが改造銃っていうか、自作銃を持ってるんですよね。鉄パイプから作った。しかも、手榴弾をいっぱい持ってます。その手榴弾もですね、本当に近所のホームセンターの材料で作れるようなものなんですよ。で、ものすごく怖くて、非常にリアリティーのある話になってるんですけど。ただ、このファン・ジョンミンさんはただの俳優なので、そういう状況に追い込まれても何もできないんですよ。

(赤江珠緒)まあ、そうでしょうね。

(町山智浩)というのは実際にその中国の方で誘拐されたウーさんは軍隊経験者だったんですよ。だから、いろいろやったりとか、あとは拷問に耐えたりしたんですけども。ファン・ジョンミンさんはただの俳優さんなんで。体力的には普通なんですよね。で、果たしてこれでどういう風にこの凶悪な誘拐犯たちと戦えるか?っていう話なんですね。で、どうやって戦うかというと、ファン・ジョンミンさんの武器がひとつしかないんですよ。演技力なんですよ。

(赤江珠緒)演技力!?

(町山智浩)演技力なんです。芝居をすることなんですよ。で、ご覧になるとわかるんですけど、いろんなお芝居をして犯人たちを翻弄して。なんとかそこから脱出しようとするというサスペンス映画になってます。

(赤江珠緒)それは面白そう!

(町山智浩)これ、面白いですよ。自分で言うんですよ。「僕はハンサムでもないし、アクションがすごいできるわけでもない。ただ演技力だけでここまで来たんだ」って。で、まさにそれを武器に使って……それで犯人たちは何かすると、途中でわかんなくなるんですよ。「お前、芝居がうまいからどこまでが本当なのか、わかんないよ!」って犯人が言うんですね。このへんの駆け引きの面白さがこの『人質』という映画ですけども。これ、怖いのはね、もし身代金を渡しても自分が殺されちゃうことはわかってるんですよ。

(赤江珠緒)えっ、渡しても?

(町山智浩)これ、その前にこの犯人たちは何件か誘拐事件を起こして、身代金を受け取りながら、人質を全部殺しちゃってることを知ってるからです。

(赤江珠緒)また凶悪な……。

(町山智浩)これ、事実の方もそうでした。しかもね、身代金を稼いだ後、それを全部散財して使っちゃってるんですよ。犯人たちは。もうどうしようもない犯人だったんですけど。だから身代金を渡したところで絶対に殺されるから、脱出するしかないんですよ。で、自分だけ脱出はできないんですよ。1人、その関係ない人が人質に取られているんで。その人を残して逃げるわけにはいかないという、究極の状況でどのように脱出するか?っていう映画がこの『人質』なんですが。

『人質 韓国トップスター誘拐事件』予告

<書き起こしおわり>

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