町山智浩 『スーサイド・スクワッド』を語る

町山智浩 『スーサイド・スクワッド』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でDCコミックスの悪役キャラクターたちが集結した映画『スーサイド・スクワッド』について話していました。

(赤江珠緒)そして今週の映画もアニメ絡みですもんね。

(町山智浩)あ、原作はコミックですね。これは『スーサイド・スクワッド』というアメリカで3週連続トップで大ヒットしている映画を今日、紹介します。これ、『スーサイド・スクワッド』っていうのは「自殺部隊」って直訳するとなっちゃうんですけど。まあ、「死ぬような危険な任務に参加させられる部隊」っていう意味です。これ、原作は『スーパーマン』とか『バットマン』とかのDCコミックスっていう漫画シリーズがありまして。それに出てくる『スーパーマン』や『バットマン』に捕まって刑務所とか精神病院に入れられた悪党たちが主人公です。今回は。

(山里亮太)はー! もう面白そう。

(町山智浩)で、刑務所に入っていて、「罪を軽くしてやるからその代わり、この作戦に参加しろ」って言われると。で、それは普通だったら死ぬかもしれない作戦であると。途中で逃げ出そうとできないように、『バトル・ロワイアル』方式で体内に小型爆弾を埋め込まれるんですね。

(赤江珠緒)ああ、一応そういう保険みたいなのはかけるんですね。

(町山智浩)そうなんですよ。一応、逃げようとしたらそれで爆破するという作戦に主人公たち、悪党たちが連れて行かれるっていう話なんですけども。で、これはどういう人たちが出ているか?っていうとですね、ウィル・スミスが出ていますね。ウィル・スミス、ご存知ですよね?

(赤江珠緒)はい。

ウィル・スミスの悪役

(町山智浩)まあ、『インディペンデンス・デイ』とかね、『バッドボーイズ』とかの人ですけども。彼がね、今回はじめてに近い感じですね。2回目ぐらいですね。悪役なんですよ。

(赤江珠緒)だってこの人、正義の顔してますもんね。

(町山智浩)だって地球を救う役ばっかりやっている人ですからね。

(赤江珠緒)そうそう(笑)。

(町山智浩)それで久々に悪役でですね。若い頃、1回やっているんですよ。詐欺師の役を。で、久々なんですけど。彼。で、デッドショットという漫画に出てくる曲撃ちの人なんですね。射撃の見世物ってあるじゃないですか。サーカスとかでやっている。それをやっていた人で、最初はそれでバットマンの敵として出てくるんですけど、刑務所に入ってグレちゃって。プロの狙撃手になるんですよ。で、お金をもらって人をバンバン殺しているんですけど。百発百中のスナイパーなんですね。それをウィル・スミスが演じるんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、これでちょっとウィル・スミスがなんでこの作戦に参加するか?っていうと、実は離婚した奥さんとの間に娘がいて。その娘に会いたいんですよ。でも殺人者で刑務所に入っているから会えないんですけど、娘に会わせてくれるっていう約束でこの作戦に彼は参加します。

(山里亮太)なんか、極悪人感がちょっと……

(町山智浩)ちょっとね、そこでウィル・スミス入っている感じなんですけど。原作はデッドショット、もっと変な人で。たしかにそのスーサイド・スクワッドに参加するんですけど、彼の夢っていうのは素晴らしい、美しい殺し方で殺されることなんですよ。

(山里亮太)へっ?

(町山智浩)自分が殺しの芸術家だから。誰かが私をものすごく美しく殺してくれないかしら?っていうことを思っているという、もうどうしようもない人なんですよ(笑)。

(赤江珠緒)もう理解不能な状況になっちゃっている。

(町山智浩)理解不能な人なんですけど。『ゴールデンカムイ』っていう漫画に全くそういう人が出てきますけども。

(山里亮太)はいはいはい!

(町山智浩)出てきますよね? あれ、デッドショットの原作がちょっと近いんですけどね。それはマニアックな話なんで置いておいて……はい。で、今回ね、すごい人気になっていて日本でもアメリカでも大変な騒ぎになっているのはヒロインなんですね。で、彼女はハーレイ・クインっていう名前なんですよ。で、これはですね、ジョーカーっていうバットマン最大の敵がいるんですね。

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)そのジョーカーの彼女なんですよ。

ヒロイン ハーレイ・クイン

(赤江珠緒)ふーん! 彼女がいたんだ。

(町山智浩)はい。彼女がいたんですね。で、ジョーカーっていうのは道化師ですけども。まあ、要するにジョーカーだから”ジョーク”を言って、いつもふざけているのがジョーカーなんですけどね。ふざけてどんどん人を殺したりしてるんですけど。で、ハーレイ・クイン(Harley Quinn)っていうのも道化師っていう意味なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから道化師の格好をしているんですね。で、彼女はね、もともと博士だったんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、精神科のお医者さんで。ジョーカーっていうのは無目的に殺人とか破壊をしているんで、刑務所じゃなくて精神病院に入っているんですね。だから治療が必要だっていうことで、彼女がその担当をするんですよ。お医者さんだから。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ところが、逆に彼女の方がジョーカーに洗脳されちゃうんです。

(赤江珠緒)ええーっ、そういうこと?

(町山智浩)そうなんです。で、ジョーカーを愛してしまって。で、そのジョーカーみたいになっちゃうんですね。っていうのはジョーカーは顔が真っ白なんですけど、あれは道化師として白塗りをしているんじゃなくて、化学薬品に入って色素が抜けちゃったんですよ。

(赤江珠緒)えっ、ピエロみたいに塗っているんじゃなくて?

(町山智浩)塗っているじゃないんですよ。あの後、ジョーカーは他の人に変装する時に逆に肌色でドーランを塗るんですよ。色素が抜けちゃったんで。で、「お前も俺みたいになれ!」って言って、化学薬品にハーレイ・クインを突き落とすんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、おんなじように真っ白になってジョーカーと一緒にテロリストになっていくんですね。で、そんなに悪いやつらがいいことをしなきゃならないっていうところが今回のキモなんですよ。でも、『ワイルド7』みたいなね、感じですよね。

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(赤江珠緒)……うん?

(町山智浩)『ワイルド7』っていう漫画があるんです。はい。もう、いいです。行きましょう(笑)。でもね、こういう囚人部隊っていうのは実は歴史上たくさんあるんですよ。珍しくないんですよ。

(赤江珠緒)こんなことが?

(町山智浩)うん。ドイツはやっていたんですよ。ナチスは。実際に凶悪な殺人犯とかそういうのが刑務所に入っているじゃないですか。それにメシを食わしていてもしょうがないっていうんで、そいつらを戦場に連れだしていったんですよ。武器を持たして。ねえ。だって彼ら、殺しが大好きですからね。大虐殺しましたよ!

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だから、移動虐殺部隊っていうのはそういう死刑囚とかを連れて行ったんですよ。それでウクライナとかそっちのソ連の方に連れて行って民間人の虐殺をやらせたんですよね。ドイツはね。

(赤江・山里)ええー……

(町山智浩)ひどい話だね。でもね、ソ連もやっていました。はい。ソ連はドイツとすごい戦闘をしていたから、満州から違法に日本の領域に入ってきたじゃないですか。ソ連って。その時、要するにあんまり兵隊がいないわけじゃないですか。実際にこっちは。だから、囚人兵を使ったんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)だから満州にいた開拓団の日本人の人たちは、もう殺されたりレイプされたりしたんですよね。

(赤江珠緒)ええーっ、そうだったんですか!

(町山智浩)そうですよ。あいつら、殺人鬼とか連れて行ったんですよ。まあ、そういうひどい話なんですけども。で、ところがね、今回の『スーサイド・スクワッド』はそのドイツとかソ連の囚人部隊に比べたら、みんないい人ですね。

(赤江珠緒)いい人?

(町山智浩)だって子供のために参加したりしてるんですよ。

(赤江珠緒)まあ、そうですね。子供に会いたいとかね。

(町山智浩)そう。で、ハーレイ・クインは「とにかくジョーカーさんに会いたいわ」って参加してるんですよ。

(山里亮太)それって、ちょっと覚めちゃわないですか? みんな。「なんか悪人が弱いな」っていうか……

(町山智浩)「いい人じゃん!」っていう感じなんですよね。そう。でもね、これは監督の作家性なんですよね。デビッド・エアーっていう監督なんですけども。で、僕はこの間インタビューをしてきて。僕、何回かインタビューしてるんですね。いままでね。『フューリー』っていう戦争映画も彼が監督したんで僕、取材してるんですけど。

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(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)このデビッド・エアーっていう人はね、この映画を作ったっていうのは結構みんなに「えっ?」って言われたんですよ。

(赤江珠緒)なんでですか?

デビッド・エアー監督作品の特徴

(町山智浩)要するに、コミックものの娯楽映画を作るような人じゃなかったんですよ、いままで。非常にバイオレントで現実的な、リアルな善と悪の区別がつかないようなものを撮っていた人なんですね。どうしてか?っていうと、このデビッド・エアーっていう人はね、ギャングの中で生まれ育った人なんですよ。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)ロスアンゼルスにサウス・セントラルっていう世界最凶悪なギャング地帯があるんですね。黒人とメキシカンのギャングが麻薬と拳銃で殺しあっているところがあるんですけど。そこで彼は少年時代をすごすんですよ。で、周りがもうそんなのなんですけども、彼自身の青春時代をモデルにした映画を1本、彼は撮っています。ものすごい低予算で、本当に現場でギャング地帯を撮っているんですけど。それは『バッドタイム』っていう映画なんですが。主人公はギャングの中で育って、麻薬を売ったり拳銃を撃ったりしているんだけども、警察官になりたくて警察の試験を受けようとしたりするんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それが普通なんですって。その地域では。

(赤江珠緒)なれるの? それでなれるの?

(町山智浩)なれるんです。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)たまたま警官になっているか、たまたまヤクザになっているかなんですって。日本でもそういう地域があるらしいですけども。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)で、このデッドショットは途中で軍隊に入っちゃたんですけども。そうじゃない人たちではもともとギャングとして育って警察官になった人もかなりいるわけですよ。その地域は。で、大問題が次々と起こって。要するに、警察官なのに麻薬の取引をやったり、麻薬のギャングからヤクを奪ってそれを売ったりしていた人が捕まるっていう事件も起こっているんですよ。ロスアンゼルスでは。

(赤江珠緒)そうかー。どっちに行くかも紙一重だもんね。

(町山智浩)紙一重なんです。だから正義も悪も紙一重で、もう裏表なんだっいうてうことを彼は実体験で知っていて。で、それを映画にしたのが『トレーニング デイ』っていう映画を彼が脚本で書いているんですけど。それが実際にロスアンゼルスであった汚職警官を描いているんですね。デンゼル・ワシントンが演じていました。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)ただ、警官はこう言うんですよ。「私がこうやって麻薬ギャングみたいなことをしているのは、悪の中に入ることによって悪を知り、悪をコントロールするんだ」って言うんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)彼は本当にそれを信じているんですよ。アメリカの警官はそういう人がかなり多いんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)まあ日本でもそういう……『日本で一番悪い奴ら』っていう映画がありましたね。

(赤江珠緒)もうあれ、境界線がないですよね。

(町山智浩)あれが現実なんだってデビッド・エアーは言うんですよ。ギャングの中に入って、もう麻薬とか全部取引の中に警官が入っちゃうことによって……要するになんでも知っている状況にした方が安全なんだっていう考え方なんですよね。

(赤江珠緒)たぶんそうしないと、捕まえられないというね。

(町山智浩)そう。だから『日本で一番悪い奴ら』って、彼は完全にヤクザとつるんでいて。汚職している状態なのに自分は正義をしていると信じこんでいたでしょ? 主人公の綾野剛くんは。

(赤江珠緒)はいはい。北海道県警の。

(町山智浩)あれはアメリカでも全く同じ状況なんですよ。で、デビッド・エアー監督はその中にどっぷり入っていた人なんですよ。友達がそれとか、そういう感じなんですよ。

(赤江珠緒)そういう生い立ちの人だったんですね。

(町山智浩)そうなんですよ。で、それを他のハリウッドの監督でそんな話を書ける人はいないわけですよ。実体験を持っている人がいないから。だから彼は圧倒的な経験者として、インサイダーとしてそういうシナリオを次々と書いていって、そういう映画を撮っていった人なんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから、突然漫画の映画化って、そういう人にできるの?って言われたんですよ。でも、よく考えるとぴったりなんですよね。彼が。

(山里亮太)ドンピシャですよね。

(町山智浩)ねえ。悪にも正義があり、正義にも悪があり……っていう。どっちもどっちなんだ、みたいな感じですよね。彼のリアリズムっていうのは。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だからあの『フューリー』っていう映画もアメリカ軍がドイツに攻め込んでいく戦車隊の話をブラッド・ピット主演で描いていたんですけど。あれもいままではね、アメリカ軍っていうのは正義でドイツが悪いんだっていう風に言われていたのが、現場ではそんなことないっていう形で。アメリカ軍が自分たちの身を守るために、子供でも殺すじゃないですか。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)そういう現実をデビッド・エアー監督は描いてきたんで。だからすごく、この映画では意外とハマっているんですよ。

(赤江珠緒)ああー、そうか。

(町山智浩)だから逆に言うと、悪人の中にもいいもの……正義とか愛とかそういった普通の人の感情を見出してしまうっていうところがデビッド・エアーの体質なんですね。だから、殺し屋でも家族のことを思っていたり。で、この『スーサイド・スクワッド』の中にはディアブロっていう炎をコントロールすることができる超能力のメキシコ系ギャングが出てくるんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、彼は要するに人間ゴジラみたいな、とんでもない存在なんですけど。彼自身が抱えている心の傷っていうのは、愛する家族のことだったりするんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、そういうところがね、逆に悪とかと触れ合ったことのない人にはわからない、悪のいい面っていうのをデビッド・エアーは見出していくんだなと思いましたね。

(赤江珠緒)そうかー。なんか悪人の方が動機がはっきりしている分、交渉しやすくて。正義の方がタチが悪い場合があるっていうことも言われたりしますもんね。

(町山智浩)はい。だからね、面白いのは漫画なのに彼自身はそれを非常にリアルなものとして描こうとするのが面白いんですよ。ただね、この映画、アメリカで公開される直前にですね、試写とかで批評家の人たちが『スーサイド・スクワッド』を見てですね、炎上したんですね。結構。

(山里亮太)炎上? どういった……

『スーサイド・スクワッド』炎上

(町山智浩)「「これはちょっとよくないよ」というような人たちがいてですね。なんでそうなったか?っていうと、まさにそのデビッド・エアーが描いた部分で。ハーレイ・クインっていうヒロインのキャラクターのあり方なんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、彼女の「ハーレイ・クイン」っていう名前は道化師のことなんですけど、もう1個、ひとつ意味が絡んでいてですね。ハーレクイン・ロマンスってあるじゃないですか?

(赤江珠緒)本がありますよね。

(町山智浩)ハーレクイン文庫とか、ハーレクインコミックってあるんですよね。で、あれを実際に中で読んでいるんですよ。刑務所の中で、彼女は。

(赤江珠緒)ほう。

(町山智浩)で、とにかくジョーカーのことばっかり考えているんですよ。「ジョーカー、好き好き! ラブラブ~♪」なんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)で、「あまりにもこれは恋愛脳すぎるじゃないか。女というのは恋愛のことばっかり考えているんだと思っているのか?」っていう批判がバーッと来たんですよね。

(赤江珠緒)ああ、そっちの批判。はあ。

(町山智浩)そうなんですよ。だから、彼女はたしかに戦闘能力もあって圧倒的に強いんですけど、全ての動機がジョーカーと結婚してお嫁さんになりたいっていうことだけなんですよ。

(赤江珠緒)うん。でも、この人が別に女の人の代表だからっていうわけじゃないから、いいような気がしますけど……

(町山智浩)そういう風に思うんですけど。これ、インタビューをね、ハーレイ・クインを演じたマーゴット・ロビーに僕、インタビューしたんで。彼女のインタビューの音声を聞いてもらえますか?

(赤江珠緒)はい。

(インタビューの音声が流れる)

(町山智浩)はい。ちょっと僕、音声をかぶせますけども。彼女が言っているのは、「ハーレイ・クインっていうのは強い女として……たしかにケンカとかは強いんだけども、強い自立した女としてみんなの見本になるようなキャラクターじゃないのよ」って言ってるんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、「ハーレイ・クインがあまりにも恋愛ばっかり考えすぎていると批判されるけど、そういう人もいるでしょう? 悪い男にだまされちゃって、彼に夢中になっちゃって、彼のことしか考えられないっていうかわいそうな女の人もいるでしょう? だから、それを演じているだけなのよ」って批判に答えているんですね。このインタビューでは。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でもね、これ、僕は見ていて思ったのは、すごくだから古風な人なんですよ。ハーレイ・クインっていうのは。だって、このジョーカーの色に染められちゃうんですよ。

(赤江珠緒)そうだよね。

(山里亮太)あなた色に。

(町山智浩)文字通り、白い色に染められちゃうんですよ。ねえ。これって、テレサ・テンの『時の流れに身をまかせ』の世界ですよね。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)「あなた色に染められ♪」っていうね(笑)。「一度の人生それさえも♪」っていうやつですよね。

(赤江珠緒)そうですね。まあ、男性側からしたらすごく都合がいい感じですもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。だからね、結構批判されているところがあるんですけども。ただね、これちょっとね、彼女が出てくる時にハーレイ・クインのテーマっていうのがかかるんですね。で、それもちょっと聞いてもらえますか?

(町山智浩)これね、カバーなんですけど。オリジナルは1960年代に作られて大ヒットした歌なんですね。『You Don’t Own Me』っていう歌なんですよ。で、これはどういう歌詞か?っていうと、「私はあなたのおもちゃじゃないの。私はあなたの所有物じゃないのよ。私を見せびらかすために連れて歩かないで。私に『ああしろ、こうしろ』言わないで」っていう歌詞なんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)これがかかるのが、「ハーレイ・クインと逆じゃないか!」って叩かれているんですよね(笑)。

(赤江珠緒)ああー、本当ですね。

(町山智浩)で、これを歌った人はレスリー・ゴア(Lesley Gore)っていう人なんですけども。この歌が画期的だったのは、これ1962年ぐらいの歌なんですけども。世界でほとんどはじめての女性の男性からの自立を歌った歌だと言われているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)「私はあなたのものじゃないのよ! 私は私でいるの!」っていう歌なんですよ。

(山里亮太)えー、なんでそれを合わせたんだろう?

(町山智浩)そう。歌詞の中でも、「私をあなたの思ったように変えようとしないで」って歌詞が出てくるんですよ。

(山里亮太)ああ、真逆だ。変えられたい。

(町山智浩)そう。逆なんですよ。だからこれ、歌の選択としていいの? とか言われてるんですよね。

(赤江珠緒)でも、あえてこの曲を?

(町山智浩)まあ、逆説的につけているんですよ。だから。

(山里亮太)意味はあるんですね。もちろん。

(町山智浩)意味はあるんですよ。だから、それは。彼女はそれにとらわれちゃっている人として、反語的に歌をつけているんですね。で、これが面白いのは、日本でカバーしたのはつちやかおりさんでしたね。

(赤江珠緒)えっ、そうなんですね。

(山里亮太)あの、飛び出しちゃいましたよね。フッくんから。

(町山智浩)そうなんですけどね(笑)。いろいろと、はい。つちやかおり、すげー!って思いましたけど。はい。で、これね、オリジナルを歌ったレスリー・ゴアっていう人はこの後、自分がレズビアンであることをカミングアウトしたんで。本当にこの歌はね、アメリカのフェミニストの間では非常にアイコン的な歌なんですよね。

(山里亮太)また、これをそうか。そこにぶつけちゃったから、怒る人もいるのか……

(町山智浩)そうなんです。これ、でもね、じゃあこの映画はジョーカーに惚れてハーレイ・クインがめちゃくちゃやるっていう、まあ「彼氏がシャブ打ってるから私もシャブ打ちました」みたいな世界なのか?っていうと、デビッド・エアーっていう人はそうしないんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)どういう風にしたか?っていうと、ジョーカーのキャラを変えてきましたね。

(赤江珠緒)えっ? ほう……

(山里亮太)それも、物議を醸し出しそうな。

(町山智浩)そういうところもあるんですよ。だから、そのへんがいろいろと面白いです。『スーサイド・スクワッド』は。

(山里亮太)へー! やっぱりジョーカーもカリスマ的な人気があるから。そこらへんね、難しいところかもしれないですけど。

(町山智浩)すごいですよ。これ、ジャレッド・レトが演じてるんですけど、ロシアまで行って、実際の連続殺人鬼に会って、連続殺人鬼の気持ちを取材してきたって言ってましたけどね。はい(笑)。

(山里亮太)そんなこと、できるんですか?

(赤江珠緒)役作りのために?

(町山智浩)お金を払えば、ロシアは連続殺人鬼にも会えるそうですよ(笑)

(山里亮太)ええーっ?

(町山智浩)金次第ですね。ロシアは(笑)。

(赤江珠緒)ロシアよ……へー(笑)。

(町山智浩)という怖い話でした。

(山里亮太)これ、楽しみですね。10日!

(赤江珠緒)なんかいろいろ盛り込まれた映画になりましたね!

(町山智浩)あとね、最後に一言。ウィル・スミスね、「あなたはこの映画で悪役なんですけど、悪いことをなんでもできるとしたら、なにをやりたいですか?」って聞いたんですよ。そしたら、「僕はね、破壊とか犯罪とか暴力には全く興味ないね。ただね、ものすごい悪いセックスがしたいんだよ!」って言ってましたね。

(山里亮太)(爆笑)

(町山智浩)「すっげーいやらしい、すっげー悪いセックスがしてえんだよ!」って言いましたよ。ウィル・スミス。

(山里亮太)どんな!?

(赤江珠緒)もう、なんなんですか、そのインタビューは?(笑)。

(町山智浩)これ、本当ですからね。これね。みんな、そう思ってこれからウィル・スミスを見た方がいいですね。はい(笑)。

(赤江珠緒)はい(笑)。日本では9月10日から公開される注目の映画『スーサイド・スクワッド』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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