(川田十夢)っていう風に僕、読んでたんですけど。あと僕、『ゴリラーマン』で不思議なのが、すごいどうでもいい回。大きな物語がありながら、「なんでこれ、書いたんだろう?」っていうような回っていうのをはさみ込むじゃないですか。
(ハロルド作石)ありますね。
(川田十夢)あれってなんか、先生の当時の戦略なのか。ストーリーテリングみたいなのはあったんですか?
(ハロルド作石)その時はもうストーリーの作り方っていうのはあんまり考えてないですから。本当に、感覚でしかないですね。はい。
(川田十夢)僕、本当にすごい覚えてる回があって。授業中に急にコンドームが落ちてて(笑)。
(ハロルド作石)ありましたね(笑)。
(川田十夢)「あのコンドーム、誰のだ?」ってみんな、ザワザワしちゃって。で、みんなで「隠せ」みたいになっているんだけども。で、ザワザワしている時に先生がそれを見つけて。なぜか「ハッ!」として。パッと足で踏んで、なんか足を引きずってそれを持ち帰るみたいな。あの回、なんだったんだろうな?って思っていて。
(ハロルド作石)あの回、すごく印象に残ってることがあって。編集づてで聞いたんですけど。大友克洋先生がその編集とメシを食いながら、あの回は何回も見ながら、「なんでこれで話ができるんだ?」という風に言っていたっていうのを聞きましたね。
(川田十夢)ああ、やっぱり大友先生もわかってるんですね。
(ハロルド作石)いや、もうたぶん忘れてると思いますけど(笑)。
(川田十夢)でも、その同時代性も嬉しいですね。
(ハロルド作石)そうですね。嬉しいですね。
(川田十夢)でも本当に、「なんであれで話になるんだろう?」っていうのもそうだし。「なんでこれ、書いたんだろう?」とも思いましたけどね(笑)。
(ハロルド作石)そうですね。もう思いついちゃったとしか言えないですね。
(川田十夢)すごいなー。あの話と、そのゴリラーマンの大きな話がね、進んだかと思ったらまたムダな回っていうか。あと、人間模様の回とかね。「ノンフィクションでも見てるのか?」みたいな回がありましたからね。コンビニで働くおばさんの描写とか。
(ハロルド作石)ありましたね。はい。
(川田十夢)それはでも計算っていうよりは、それからお手本があったっていうよりは、感覚でやってたんですか?
(ハロルド作石)もう本当にその時は恥ずかしながら……原稿に、ネームというものに向かうまでは何も考えてないっていう状態で。本当、一瞬のひらめきの勝負みたいな感じでやってたんで。今、思うと本当に「よくそれでやってたな」っていう感じがありますね。
(川田十夢)いや、でもちゃんと分析したら、たぶんすごいロジックになるぐらいの話ですよ。なんか。
(ハロルド作石)ちょっと、そんな褒めていただくと……(笑)。
(川田十夢)本当に、本当に。細かい話を重ねながら、大きな話が動いていく。で、その大きな話の中で『ゴリラーマン』の全19巻の中で、転調みたいになっているのが僕は10巻だと思っていて。10巻でゴリラーマンがずっと謎めいてて。ずっとしゃべらないまま10巻まで来て。「どうなっていくんだろう?」と思ったら、同じ顔した三つ編みの人が出てきたんですよ。あれって、転調めいてますよね? 結構思い切った……。
(ハロルド作石)ああ、そう言われてみれば、そうかもしれないですね。
ゴリラーマン姉のモデル
(川田十夢)それも、感覚だったんですか?
(ハロルド作石)あれは、原体験ですよね。
(川田十夢)原体験!?(笑)。
(ハロルド作石)ゴリラーマンに似た友達がいたんですけど。ある日、下校してたら、そいつのお姉さんがブワーッて自転車で通ったんですよ(笑)。それがすごい強烈で。それを実際に原稿に書いたっていうことだと思います。
(川田十夢)へー! じゃあ、似てる友達のお姉ちゃんだか妹だかが通ったっていう?
(ハロルド作石)そうなんです。だからって、それを漫画にしていいのか?っていう話はありますけど。はい。
(川田十夢)ああ、でも根拠があるんですね?
(ハロルド作石)そうっすね。根拠は、自分の中ではあるんですけど。読者にとって根拠を感じたかどうかはわかんないですけど。
(川田十夢)でもなんか、本当に『ゴリラーマン』を読んでいてハラハラするのは、そういう喧嘩が強いみたいな一軸じゃなくて。「ああ、野球も上手なんだ」とか、そういう何漫画に転がるかわかんないスリリングさみたいなのもありましたよね。
(ハロルド作石)そうですね。たぶんそれはゴリラーマンというキャラクターのおかげで、いろんなのを書いても許されてるっていう、そういうところだと思います。
(川田十夢)そうなんですね。家族を出すって僕、結構話が変わってくるなって思ったんですけど。だってずっと謎めいていたじゃないですか。10巻まで。で、急に家族が出てきたからびっくりしましたけどね。という中で、ちょっと曲をお届けしたいんですけど。これもハロルド先生に聞きたくて。藤本が、よくジミヘンを聞いていたんですよ。
(ハロルド作石)そうですね。
(川田十夢)ジミヘンを聞いて、イヤホンでなんか歌いながら聞いてた曲があるんですけど。あれって、『Stone Free』だったんですか?
(ハロルド作石)ええと、さっきちょっと、この回のことは覚えてるんですけども。実際に書いたのは忘れちゃってるんで。だけどおそらくですけど、『ゴリラーマン』を書いていた時に僕の好きだった曲とか、藤本のシーンでこれを書くんじゃないか?っていうのだと、たぶん『Freedom』っていう曲だと思います。
(川田十夢)じゃあ、その『Freedom』をここでかけたいと思います。聞いてください。
(ハロルド作石)間違っていたら、すみません(笑)。
(川田十夢)ジミ・ヘンドリックスの『Freedom』です。
Jimi Hendrix『Freedom』
(川田十夢)ジミ・ヘンドリックスの『Freedom』をお届けいたしました。ハロルド作石先生をお迎えしてますけども。いろんな話をお聞きして。でも『ゴリラーマン』の話しかしなかったということですけども(笑)。
(ハロルド作石)いや、ありがたいです。こんなにいっぱいよく知っていていただいて。
(川田十夢)でも先生の中で、たくさんあるじゃないですか。『BECK』みたいな大ヒットもあるし。そういう中で『ゴリラーマン』という作品は、ご自身はどういう感覚なんですか?
(ハロルド作石)やっぱり一番最初の、技術も何もない時に、ゴリラーマンっていうキャラクターのおかげで世に出てきたっていうのもあるし。『ゴリラーマン』という漫画で勉強させてもらったこともあるし。またゴリラーマンというキャラクターを僕は十分、生かせてあげただろうか?っていう、そういう気持ちもあったんで。本当に特別なキャラクターであります。
(川田十夢)それまた、帰ってきたゴリラーマンがね、かつての藤本とかケンジとかがね、それぞれ歳を取っていてね。それもまた、いいんですよね。っていう帰ってきたゴリラーマンの現在、第3巻が9月6日に発売するということでございますけども。どんな人に読んでほしいとか、ありますか?
(ハロルド作石)もちろん川田さんのように、以前に読んでいただいた方に読んでいただきたいと思って書きました。あとはゴリラーマンを知らなかったとしても、なんかすげえ変なキャラクターの漫画だなっていう。前の作品を読んでなくても読めるようには書いてるつもりなんで。ぜひ、そういう方にも読んでいただきたいと思います。
(川田十夢)そうですね。新しく『ゴリラーマン』を……「今日、ずっと『ゴリラーマン』って連呼してるけど。なんなんだ?」っていう方もね(笑)。ずっと『ゴリラーマン』ありきの話をしていたけども、そもそもなんなんだ?っていう方にもね、ぜひ読んでいただきたいと思いますけども。
<書き起こしおわり>