ハロルド作石と川田十夢『ゴリラーマン』を語る

ハロルド作石と川田十夢『ゴリラーマン』を語る J-WAVE

ハロルド作石さんが2022年9月2日放送のJ-WAVE『INNOVATION WORLD』に出演。川田十夢さんと漫画『ゴリラーマン』について話していました。

(川田十夢)今夜はですね、もうこれは本当に僕はハロルド先生が大好きで。実は結構前からお願いをしてて。たぶん先生もね、連載とかいろんな合間があるんで。このタイミングで、お越しいただきまして。ハロルド作石先生をお迎えしております。初めまして。

(ハロルド作石)初めまして。どうぞよろしくお願いいたします。呼んでいただいて、すごく光栄です。ありがとうござい。

(川田十夢)お迎えできてとても光栄なんですけども。ここはJ-WAVEっていうラジオ局でして。先生は音楽関係が好きだから、お越しになっていそうですけども。初めてということで?

(ハロルド作石)もう敷居の高いところですから。はい。

(川田十夢)お迎えできるのが嬉しいですね。僕、久しぶりにヤンマガを買えましたね。やっぱり『ゴリラーマン』を連載で読みたくて。それぐらい、やっぱりゴリラーマンが帰ってくるのも衝撃的だったし。でね、帰ってきた『ゴリラーマン40』が最終回をヤンマガで迎えたばかりというところでございますが。反響はいかがですか?

(ハロルド作石)そうですね。どうなんでしょうね? さすがに最終回なんで、気になって、Twitterのそういったものを少し見てみたんですけど……どうなんですかね? いいのかな? それとも「うーん」っていう人もいるかもしれないし。ただ、僕のすごく大事な友達が「すごく良かったよ」っていうLINEをすぐ、朝にくれたんで。それだけでも、きっと良かったんじゃないかなという風には思いますけど。

(川田十夢)もう、あれなんですね。僕は少年時代とか中学生時代は、漫画を読んで感想って葉書とか送る時代でしたけど。今はもう先生自身がTwitterで読むんですね。

(ハロルド作石)そうですね。滅多には……ちょっと僕も小心者なんで。あんまり見ないんですけど。さすがに最終回はもう、なんですかね? 「これだ!」っていう感じのつもりで出しましたから。さすがにちょっと気になったっていう次第です。はい。

(川田十夢)その『ゴリラーマン40』はそもそもヤンマガ40周年の企画として。それで『ゴリラーマン』が帰ってきたんですよね?

(ハロルド作石)はい。

(川田十夢)そして『ゴリラーマン』。僕、本当に当時、連載で読んでましたけど。コミックスの最終巻が発売されたのが1993年。なので、29年ぶりに帰ってきたという。

(ハロルド作石)ああ、なるほど。そう言われると、正気の沙汰じゃないですね(笑)。

(川田十夢)正気の沙汰じゃないですね(笑)。漫画って、大半は帰ってこないですからね(笑)。終わって、もう閉じられたら帰ってこないですからね。「あ、帰ってきた!」って思って。本当に嬉しかったですけど。あれですよね。その間の先生はいろんな作品を重ねていらっしゃいますけど。『ゴリラーマン』だけで考えても、かなり漫画を作る環境とかも変わってきてるんじゃないですか?

(ハロルド作石)そうですね。もう当時は……今は「アナログ」っていう言い方しますけど。当時はそのアナログしかないわけで。そういう書き方をしてましたね。

(川田十夢)あれですか? Gペン派ですか?

(ハロルド作石)そうですね。Gペン派ですね。

(川田十夢)じゃあGペンから、今って書く時はどうされているんですか? ペンタブとか?

(ハロルド作石)今は、人物を書くところまではアナログの作業は変わらずなんですけど。そこから仕上げの作業はもうデジタルですね。

(川田十夢)そうなんですね。じゃあ、ちょっとあれですね。連載当時の絵柄……絵柄はそのキャラクターの絵とかってよりもやっぱり、背景とかがね、いろいろ読み味が変わってるなとは思いましたけども。デジタル化なんですよね?

(ハロルド作石)デジタルっていうのもあるし。やっぱり当時はデビューしたのが10代ですから。まだ下手すぎましたよね。今読んでも「すごい絵が下手だな」っていう風に思いますから。

(川田十夢)でも、本当に今考えると不思議で。僕、先生とそんなに年齢は変わらないんですけど。不思議なんですよ。だって、もう読んでいた時には、先生は19歳とかで。連載が始まったのって、そうですよね?

(ハロルド作石)はい。

(川田十夢)10代で『ゴリラーマン』を始めていてっていう感覚がちょっと常人離れしていて。その感覚がよくわかんないですよね。どういう心持ちで書かれたんですか? 当時は。

(ハロルド作石)いや、もう本当に当時は心持ちも何も……ただ、ひたすら一生懸命書く以外は何も考えてないですね。はい。

(川田十夢)当時のヤンマガって、すごい覚えていますけども。僕、当時中1だったんですけども。僕らの年代って、やっぱり不良文化というか。『ビーバップ』とか『シャコタン☆ブギ』とか、『バレーボーイズ』とか、あのへんの……で、ヤンマガもそういう漫画で連載されてまして。そういう中で、明らかになんか、ちょっと不良テイストもあるけど。でも、なんか違うぞ?っていう。ざわざわした思い出がありますけど。

(ハロルド作石)ああ、そうですね。おっしゃる通りかもしれないですね。

(川田十夢)あれはなんか、先生の意思なのか? それとも編集部とかとのいろんな話なのか? とりあえず「不良漫画を書いてくれ」っていう話にはなっていたんですか?

(ハロルド作石)いや、「不良漫画を書いてくれ」というのはないですね。僕は元々、「君はエッチな漫画を書け」って言われたんですよね。それで、それを書いても書いても、編集に言われた通りにやっても全く結果が出ないんで。それで「君は次、ダメだったらもういらないね」って言われてたんで。「じゃあ、最後に自分の信じられる、本当に好きなものを書きたい」と思って書いたのが『ゴリラーマン』なんです。

(川田十夢)なんで最後、ゴリラになっちゃったんですかね(笑)。

(ハロルド作石)そうっすね(笑)。まあ、それまでとは全然全く違うもので。編集の人も「いったい君はどうしたんだ?」って言われたんですけど。はい。

(川田十夢)エロいのを待っていたら、『ゴリラーマン』を書いてきたんですか?

(ハロルド作石)おっしゃる通りですね。はい。

(川田十夢)それもまたすごいですね(笑)。でも僕、読み味としてすごいびっくりして。なんか開いてる漫画の感じがして。先生以前の漫画って、漫画の世界は漫画の世界で閉じていたような気がするんですよ。でも、なんか普通にお笑いを見たりとか、野球を見たりとか、普通の文化的な横の……なんか抜けのいい漫画だなっていう感じが当時、しましたけどね。

(ハロルド作石)「抜けがいい」なんてすごく素敵な表現ですね。

(川田十夢)いや、そういう風に読んでいましたよ。あと、ベンジーとか大好きだったけど、ベンジーとか出てくるし。なんかそういう、なんでしょうね? なんでも書いていいんだっていうか(笑)。

(ハロルド作石)フフフ(笑)。たぶんもう若さゆえだと思います。あと、今みたいなそういう風ないろいろとうるさい時代じゃなかったんで。なんでも好きに書いてたような気はします。はい。

しゃべらない主人公

(川田十夢)なんか、いろいろ聞きたくて。まず『ゴリラーマン』って、先生の連載のデビューじゃないですか。で、ルールを設定する時に、まず主人公のゴリラーマンがしゃべらないって、結構な縛りだと思うんですよね。

(ハロルド作石)そうですね。最初は、ネームっていう状態のものがあるんですけど。そこでは、ちょこちょこしゃべってたんですよ。要は、ゴルゴ13みたいに。で、それを編集と打ち合わせするたびに「このセリフ、いらないんじゃないかな?」とか「このセリフはもう、いらないんじゃない?」ってやってるうちに、その担当が「もういっそのこと、全部セリフをなくしちゃったら? ハハハッ!」って笑ったんですよ。それを聞いた時に「それだっ!」と思ったんですよね。だから、もうそこから一切セリフはなくしてっていう感じになりましたね。

(川田十夢)でも、スタート時はそういう風にしてセリフをなくしました。まさかその後、19巻続く間も一切しゃべらない漫画になるとは、その時は思ってなかったですね?

(ハロルド作石)そうですね。もう本当に、なんですかね? ただ一生懸命に書いていただけなんで。あんまり、「もうどうとでもなれ」って書いてたと思います。はい。

(川田十夢)そのハロルド先生の中の一生懸命さと、あとはなんか、漫画の中ですごいふざけるじゃないですか。カロリーメイトが出てきたりとか。タバコの銘柄もすごいマニアックだし。その引き出しとかっていうのは、どういうことになってたんですか? それはもう学生時代からそういうのが?

(ハロルド作石)そうですね。おっしゃる通りですね。もうカロリーメイトっていうのは本当に僕が学生の時に出始めたもので。みんな、友達とかが「すごい飲み物がある。あれは一体何だ?」っていうので評判になったし。あのタバコのリベラっていうのも、「すごいまずいタバコがあるんだ」っていうので話題になったりとかしてたんで。そういった高校の時とかにしてたみんなの会話のその空気感がそのまま漫画になってる感じがあります。はい。

(川田十夢)なんかそういうのも抜けがよくて。たしかに僕らはクラスの中で「あれがダサい」とか「かっこいい」とかっていう中で、その線の、本当に狭いストライクゾーンのことを同級生としゃべっていた気がするんですよ。その感覚が強いとか弱いとかでもない、そういうなんかずらしの価値観みたいなのが……。

(ハロルド作石)表現がすごい素敵ですね。

(川田十夢)いやいや、でも本当に漫画の中でそういうのが出てきて。「ああ、これは僕らと同じ価値観だ」っていうのが当時、あったんですよ。だって漫画って、雑誌全体的に喧嘩が強い・弱いの漫画でしたから。他には『AKIRA』とかもありましたけども。『AKIRA』もなんだかわからなかったですけども。未来か、破滅かみたいな。でも、そういうことじゃない、でも僕らとしてはすごいリアリティーのあるもので。衝撃がすごいかったんですよね。

(ハロルド作石)そう言っていただけるとなんか嬉しい感じです。

(川田十夢)でも、そういうチョイスはやっぱり学生時代からのものだったんですね?

(ハロルド作石)そうですね。もう本当に、なんですかね? その時の感性ですよね。で、担当編集者も若かったんで。僕のやりたいと思うものをすごく面白がってくれたんですよ。この感覚がやっぱり編集とずれちゃうと、「これ、なんなの? これ、なにが面白い?」って言われちゃうと、シュンとなってもう次からそういうネタが出てこなくなっちゃうんですけど。その当時の担当は本当に「いや、これ、一部の人しかわかんなくても、どんどんやろうよ」っていう感じだったんで。そういうのが、もしかしたら川田さんに響いていただいたことかもしれないですね。

(川田十夢)いや、とても素晴らしくて。あと、その小物のチョイスもそうですし。ああいうのって何システムっていうんですかね? なんかベンジーとか出しちゃう感じとか。

(ハロルド作石)なんですかね? 適当ですよね(笑)。

(川田十夢)そういう……誰か、同僚の漫画家さんとかと競ってたわけじゃないですよね?

(ハロルド作石)ああ、全然。そんなことはないです。

(川田十夢)なんだろうな? 僕はとりあえずベンジーが出てきて嬉しかったし。あと、泉谷しげるとかね。そういう、いろんな方々が名前こそ違えどね。まあ、似てる方なんでしょうね。似てる方が出ますけど。

(ハロルド作石)たしか浅井さんは「出てるよ」っていうのを聞いた時に、「なんか恥ずかしいな」っていう風におっしゃったっていうのを聞きましたね。

(川田十夢)ああ、そうですか。じゃあ、怒ってはいないわけですね?

(ハロルド作石)怒ってなかったと思います。はい(笑)。

(川田十夢)でも、絶妙なんですよね。出てくる方々がね。だって、鈴木ヒロミツ、出ていましたもんね(笑)。

(ハロルド作石)よくご存知で(笑)。ヒロミツさんはその後、お会いしました。ヒロミツさんの息子さんがすごく僕の漫画のファンで。で、「お父さん、出てるよ」って教えたみたいで。

(川田十夢)でも、先生の書き方が愛のある書き方だから、そんなに怒る人はいないのかもしれないですね。

(ハロルド作石)そうだとありがたいですね。はい。

(川田十夢)なんか怒られたことはないですか?

(ハロルド作石)怒られたことはないですけど。今の時代はちょっと本当に怖いなと思います。はい。

作品内に登場するバンドT

(川田十夢)いや、でもなんか出てくる人を好きになっちゃうところはありましたからね。あと僕、改めて読み直したんですよ。で、読み直してると、なんか共通するものがあって。それは、文化っていうものありますから。今って、バンドTが流行ってるんですよ。なんかすごい若い人たちも着ていて。それで『ゴリラーマン』にもバンドTがすごい出てくるじゃないですか。当時もたしかに流行ってたし。当時はなんか、着方が違ってましたけどね。聞いてるバンドのを着ていましたけども。今ってなんか、結構ファッション的に……。

(ハロルド作石)ありますよね。なんか全然普通の感じの女性がサブ・ポップのTシャツを着ていて。「マジっすか?」っていう感じになりますよね。

(川田十夢)そう。なんか聞いてるとかじゃないんだけど。今、ファッション的に着ているんですけども。僕が当時、『ゴリラーマン』で嬉しかったのが、あおいちゃんがマノ・ネグラのTシャツを着ていたんですよ。

(ハロルド作石)ああ、マノ・ネグラ、いいバンドでしたね。

(川田十夢)いいバンドでしたよね。

(ハロルド作石)すごい好きでした。

(川田十夢)で、マノ・ネグラって連載当時もあんまり周りの人、知らなくて。

(ハロルド作石)そうですね。そんなすごい有名なバンドじゃなかったですね。

(川田十夢)フランスのバンドですからね。

(ハロルド作石)ですね。はい。

(川田十夢)フランスのミクスチャーバンドですけど。「いや、ハロルド先生、やっぱりわかってんな」って思って。

(ハロルド作石)なんか、そのミクスチャーというものがちょっとポチポチ出始めた時期で。すごくいいバンドでした。

(川田十夢)とてもなんかそういうチョイスがね、だからそういう文化的な広がりのある漫画だったなって思いますよね。なんか、漫画って音楽はまあ、聞こえない。『BECK』の時もそういうね、難しい問題はあったと思うんすけど。でもなんか、文化的に開くことで空気感がなんか漫画から伝わるような感じで。やっぱり『ゴリラーマン』は……先生の作品は全部そうですけどね。なんか文化的な時代性がそこにあることでわかることがありますよね。

(ハロルド作石)なるほど。

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