渡辺範明と宇多丸『ドラゴンクエスト9』を語る

渡辺範明と宇多丸『ドラゴンクエスト9』を語る アフター6ジャンクション

渡辺範明さんが2022年2月17日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でプレイステーション3とニンテンドーDS時代のドラゴンクエストとファイナルファンタジーについてトーク。『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』について宇多丸さん、宇内梨沙さんと話していました。

(渡辺範明)はい。『ドラクエ9』。『ファイナルファンタジー13』にめっちゃ時間をかけちゃったんですけども。『ドラクエ9』は一方で、全然違う方向のチャレンジをしていまして。で、これは次の時代の準備をした作品だと思っているんですね。その次の時代とは何か? 一応、2つのことにわけてご説明しますけど。まあ1個は携帯ハードの時代っていうことですね。ニンテンドーDSで発売したってこと自体が『ドラクエ9』の最もチャレンジングな部分で。

(宇多丸)ああ、たしかに。

(渡辺範明)後にも先にもドラクエとかFFの本編、新作が携帯ハードで出たことって1回もないんです。この時だけですから。だけどやっぱりね、DSっていうのはそれまでずっと脇役だった携帯ゲームハードが、据置機と地位が逆転したターニングポイントなんですよ。

(宇多丸)ああ、そうか。

(渡辺範明)で、DSって同時代のたとえばさっきの『FF13』が出たPS3と比べても、PS3って8700万台ぐらいなんですけど。ニンテンドーDSって世界で1億5000万台売れてるんですよ。倍ぐらい差がついてる。それだけ売れてて。とにかくPS2と並んで歴代最も売れたゲームハードがニンテンドーDSなんですね。で、任天堂ハードで比べてもWiiってすごくヒットしたハードのイメージですけど、Wiiでも1億台なんですよ。だから1.5倍の差があるということで。だからDSっていうのの時代がその時に来ていたわけなんですよね。

で、しかもDSっての『脳トレ』とか『nintendogs』とかで、OLが通勤電車でゲームをしている光景みたいなのを当たり前にしたハードなんですよ。今ではスマホでみんなゲームしてるから、そんなの当たり前な感じがしますけど。でも親世代も取り込んで、とにかく老若男女みんなやってるゲームハードっていうのがニンテンドーDSだったんで。これはね、とにかく国民的RPG、最メジャーを常に志向しているドラクエにとっては最適のハードなんですね。

(宇多丸)なるほどね!

(渡辺範明)で、まあちょっと言っちゃいけないレベルのことは言わないようにしますけど。僕、当時スクエニの社内にいたわけですよ。で、アルファベータ審査会っていうのが社内にあって。それって僕らみたいなプロデューサーがみんな集められて、社内のプロジェクトのアルファ版とかベータ版とかを遊んでレビューするっていうシステムがあったんですね。だから社内のものでも、よそのプロジェクトってみんなほとんど知らないから。だからそこで初めて見るタイトルとかもすごい多かったわけなんですけど。「ああ、こういうのを作ってるんだ」みたいなで。そこで僕、この『ドラクエ9』に当たるものを遊ばせてもらったことがあって。その時は、でも『9』ってたぶん言ってなかったと思うんですよ。つまり、なんか外伝みたいなタイトルだったっていう。

(宇多丸)ああ、そうか。DSだから、ちょっとスピンオフっていうか。

(渡辺範明)そうそう。「ドラクエ外伝みたいなものでちょっとこういうのを作ってるんだ」と思ってたら、後に発表された時に「ああ、あれが『9』になったんだ!」って感じになって。それはもう本当にね、めっちゃ英断だなと思いましたね。

(宇多丸)それはやっぱり時代がそっちに。もうDSの売れゆきを見てもそっちに行ってるわけだからっていうんで。

(渡辺範明)そっちの時代に行ってるって、たしかに理屈で言うとそうなんだけど。でもやっぱりDSで出すっていうことは前作よりもグラフィックとかがしょぼくなるわけで。そのことを許容できるかって、すごい勇気がいると思うんですよね。

(宇多丸)「それで大丈夫」って踏み切るかどうかね。

(渡辺範明)そうそう。だからそこがやっぱりドラクエってなんだかんだで攻めてるんだよなとその時に思ったっていうのがありました。で、これって後にスマホゲーム市場がゲーム専用機の市場を食っていくっていう今の時代の先取りでもあるし。あ据え置き機、携帯機、スマホっていう風にゲームの主戦場がどんどんカジュアルにカジュアルに移っていくっていう時代の前準備段階でもあるんで、これはすごく示唆的な出来事だと思うんですよね。

(宇多丸)でも今はもうみんな、こうやってどこに行ったってスマホを眺めて何かしらゲームやってるっていう時代からすると、本当に先見の明ですね。それはね。

(渡辺範明)本当にそうだと思います。携帯ハードの時代。そしてもう1個はオンラインゲームの時代っていうのがありまして。当時『FF11』とかすでにオンラインRPGだったんですけど、やっぱりまだまだマニアックなジャンルだったんですよね。だけど、もう当時社内的には『ドラクエ10』がMMORPGになるっていうことは決まっていたんで。だから本格的なオンラインゲームの『ドラクエ10』が出る前に、『ドラクエ9』でセミオンラインゲームみたいなものをやらせて。で、ちょっとオンラインゲームの入門をさせてこうっていう意味もあったんじゃないかなと思っています。

(宇多丸)そうなんだ。慣れさせようと。

(渡辺範明)そうなんです。これって、このシリーズの初回にお話をした、たとえば『ドラクエ1』を出す前に『ポートピア連続殺人事件』を発売して。それでコマンド入力型のゲームに小学生に慣れてもらうっていう。

(宇多丸)ああ、おっしゃってましたね。

(渡辺範明)そう。わざわざ1作品使ってチュートリアルをするみたいな、ドラクエのとにかくメジャーに対して丁寧に丁寧に何かをプレゼンしていくっていう流儀が今もまだ生きているわけなんですよね。

(宇多丸)市場の、なんていうか土壌ごと耕すっていうかね。

(渡辺範明)そうです。だからある意味で一番、その新しい市場に遅れてやってくるのがドラクエでもあるんですけども。だけど、FFみたいなとにかく「ついてこれないやつは全部置いていくぞ。来れるやつだけ来い!」っていう感じで突っ走っていく人たちが振り落としていくお客さんを丁寧に拾っていくことができるっていうのがドラクエのこういうやり方だなっていうね。

(宇内梨沙)スクエア・エニックスとしてもう包括的に顧客を。

(宇多丸)でも、たしかになるほどな。だから、本当に対照的っていうのはそこまで……その姿勢からして、そうなんだな。

(渡辺範明)そうですね。で、『9』の頃ってオフラインのマルチプレイで、みんなでDSを持ち寄って友達同士遊ぶっていう、ちょっとモンハンみたいな遊び方ができたっていうのがオンラインゲームの前段階の体験としてすごくでかかったと思いますし。あとね、すごいやっぱりこの時だなっていう感じがするのが、すれ違い通信っていう機能がDSにあるんですけど。それを使って、宝の地図っていうのが交換できたんですよで。その宝の地図の中で当時、「まさゆきの地図」っていうのがすごい話題になって。

(宇多丸)まさゆきの地図?

まさゆきの地図

(渡辺範明)これはね、「まさゆき」っていうプレイヤーが発見した、めちゃめちゃおいしいメタル系のモンスターが出まくる地図があったんですね。

(宇多丸)そのまさゆきって本当に1プレイヤー?

(渡辺範明)1プレイヤーです。仕込みでもなんでもない、普通の1プレイヤーが「これ、めっちゃおいしいじゃん!」ってなったのを、2chで言ったんですよ。「こういう地図を手に入れたんだけど」って。そしたらみんなが「えっ、それめっちゃ欲しいんだけど!」ってなって。日時を決めて、秋葉原のヨドバシカメラの前でみんなで集まって配ったんですよ。すれ違い通信で。そしたら、その秋葉原でその地図を受け取ったインフルエンサーたち。1次のキャリアーになった人たちが、この地図ってすれ違い通信だけで、全国に一気に配布することはできないから。

DSとDSすれ違うことで、人から人へとにかく広がっていって。その秋葉原から広がっていったものが「関西についに到達した!」とか、「海を越えてついに北海道まで来た!」とか。そういうのがずっとネットでこう実況というか。当時は2chの時代なんで、そこでのコミュニケーションされていって。なんか、そういうのもすごく……まあ今のゲームってほとんどスマホのゲームも家庭用のゲームも、オンライン環境が前提になってますけど。それの黎明期というか。みんながそれにまだ慣れてなかったからこその盛り上がりっていうのがあったと思います。

(宇多丸)なるほど。でも実際にそうやって街に出てさ、「あそこに何とかがあるらしい」って。『ポケモンGO』とかもたしかにそういう感じもするし。なんだろうね。単純にその、2chっぽいですよね。まさゆきの地図って、そのネーミングがめちゃめちゃ2chっぽいけど。

(渡辺範明)そうですね。本当は、その名前は「見えざる魔神の地図レベル87」っていう地図なんですけど。でも、そこに発見者の名前が入ってるんですよ。「まさゆき」って。

(宇多丸)ひろゆきならぬ、まさゆき。

(渡辺範明)そう(笑)。で、「発見者の名前を入れた方が面白いんじゃない?」っていうのはやっぱり堀井雄二さんのアイデアなんで。ここですよ。ここが本当にアイデア。だから要は、みんなで盛り上がるためにはそういうのがあった方がいいよねっていう、この1個の仕様を入れたことによって、このめちゃくちゃなバズりっていうか、社会現象みたいなものを生み出せたわけですから。

(宇多丸)元々ね、ドラクエ自体がそのある種メディアミックス的なところから仕掛けられて出てきたものでもあるし。なんかそういう、元子供たちだけど。ユーザーとのコミュニケーションの意味でっていうのが濃いですよね。たしかにやっぱりね。

(渡辺範明)お客さんとのコミュニケーションが上手なんですよ。堀井さんは。

(宇多丸)そしてFFとは対照的!

(宇内梨沙)対照的!(笑)。

(渡辺範明)FFは意味がわかんないのを楽しむところがありますからね。

(宇多丸)そういう意味では、最初からおっしゃってるその2つのそのブランドの対照的なスタンスっていうのはずっと続いている。時代によってその形が変わっているだけで、その本質的なスピリットは本当に変わってないですね。『ドラクエ9』、一方、ストーリーは?

(渡辺範明)ストーリーの話はちょっと時間がないのでだいぶ圧縮しますけど。『ドラクエ9』ってそういうわけで、みんなで遊ぶセミオンライン的な要素が強かったんで。当時もあんまりストーリーとか注目してない人が多かったんですよ。で、この特集の発表がされた時もリスナーの中にも「『9』はすげえやりこんだけど、ストーリーとか全然覚えてないな」っていう人が多かったんですけど。でも今、あえて『9』をやってみると……僕もこの特集のためにもう1回、クリアしましたが。やってみたらね、やっぱり『9』ってすげえいいんですよ。トータル20時間ぐらいでクリアできて、すごいコンパクトだし。そのコンパクトな中に、主人公は天使なんですけど。まあその天界が崩壊しちゃって地上に落ちてから、みんな地上の人を助けながら旅をするっていうところの牧歌的な良さもあるし。で、そこにね、ギャル妖精のサンディっていうのがついてくるんですよ。

(宇多丸)ギャル妖精?

(渡辺範明)『ベルセルク』のパックみたいなやつがギャルなんですよ。で、このサンディがね、とにかくドラクエの主人公って一切しゃべらないじゃないですか。だから、その主人しゃべらない主人公に対して代わりにね、とにかく全てのことにリアクションしてくれるんですよ。で、なんかいろいろクエストの依頼とかされると、「なんかこの以来、めっちゃダルくない?」とか「そんなの自分でやれし!」みたいなこととかをすごい言って。横からいろいろ言うんですけど。それがね、俺はすげえいいなと思って(笑)。

ギャル妖精サンディ

(渡辺範明)で、全体的にとにかくやっていて胃もたれしないRPGっていうか。やっぱり我々もこの歳になってくるとだんだんね、この「ファルシのルシがコクーンからパージされてパルスへ行く話」って胃もたれするところもあるんですよ。それがほしい時もあるんだけど。あれはやっぱりマゾメシみたいなものなんで。

(宇多丸)時にはちょっと食いづらいもの。腹にベトッとしたものを食いたいっていうね。

(渡辺範明)その中で、もうちょっと胃に優しくて滋養のあるものを食べたいという時に今、『ドラクエ9』をやってもらうと本当にちょうどいいんで。で、最終的にそのサンディ、俺たちのことをめっちゃめっちゃ泣かせてきますから。なんか「のりゆきがそこまでやる必要ないじゃん」とか言ってくるから。「お人好しすぎるよ」って。

(宇内梨沙)ギャル妖精が(笑)。

(宇多丸)ちょっとその『どこいつ』的なそういうコミュニケーション要素っていうか。

(渡辺範明)そうなんですよ。本当ね、最後に泣かせてくるんですよね。本当、サンディと会いたくてやってましたね。今回のここ1ヶ月の『ドラクエ9』に関しては。ちょっと皆さんもね、ちょっと久々にやってみると「ああ、こんなにいい話だったんだ」って思うと思いますよ。で、『FF13』とこの『ドラクエ9』、どっちもたまたまですけど天使がモチーフになっている話なんで。この天使間の違いもね、本当に皆さんちょっと注目していただきたいところですね。

(宇多丸)比較しがいがるっていうことですね。といったところで、でもね、どちらもそれぞれにある種、ナーメラレテーター案件というか。でももう1回、改めてここがっていうのをやってみると面白い話ですね。なんかね。さすがでございます。ということでいよいよ次回はちょっと、もうほぼ現在っていうか、最新作?

(渡辺範明)そうですね。もう最新作まで来ちゃうん、ドラクエとFFを軸とした国産RPGクロニクルとしては最終回になるはずじゃないでしょうか。国産RPGとして他のタイトル……この間やらせてもらった『女神転生』編みたいに、他にもいろんなタイトルはあるので。そういうのはできるかもしれないですけど。FF・ドラクエとしては一応、今のところ出ている最新作の『FF15』と『ドラクエ11』のお話に次回はなると思います。

(宇多丸)ということで毎回渡辺さん、ありがとうございます。

渡辺範明と宇多丸『ファイナルファンタジー13』を語る
渡辺範明さんが2022年2月17日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でプレイステーション3とニンテンドーDS時代のドラゴンクエストとファイナルファンタジーについてトーク。『ファイナルファンタジー13』について宇多丸さん、宇内梨沙さんと話していました。

<書き起こしおわり>

アトロク「国産RPGクロニクル」書き起こしまとめ
TBSラジオ『アフター6ジャンクション』でドロッセルマイヤーズ・渡辺範明さんが『ドラゴンクエスト』と『ファイナルファンタジー』を中心に日本のRPGの発展の歴史を紹介したシリーズ「国産RPGクロニクル」の書き起こし記事のまとめです。

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