山下達郎『OPPRESSION BLUES (弾圧のブルース)』を語る

安住紳一郎 山下達郎をラジオゲストに迎える緊張感を語る NHK FM

山下達郎さんが2022年6月25日放送のNHK-FM『今日は一日”山下達郎”三昧2022』の中でアルバム『SOFTLY』に収録されている楽曲『OPPRESSION BLUES (弾圧のブルース)』について話していました。

(杉浦友紀)特に今回、ぜひお話を伺いたいなと思っていたのが10曲目の『OPPRESSION BLUES (弾圧のブルース)』です。世界各地で続く争乱と圧政に苦しめられている人々への思いを達郎さんが歌っているということなんですけれども。どういう気持ちで書こうと思った曲なんですか?

(山下達郎)どなたでも感じる話なんですよね。で、ウクライナの問題が出ちゃったんで、これはそのために書いたみたいな誤解があるんですけど。曲自体は去年、作った曲なので。直接の原因はアフガンからアメリカが撤退した時にタリバンが出てきて、その時に「女に教育は必要ない」っていう風になって。それはその前のISも同じこと言っていて。やっぱりちっちゃな女の子を拉致したり、いろんなことをやってましたでしょう? あれと、香港の騒乱。若い女の子のリーダーがやっぱり拉致されていったりとか、ミャンマーの騒乱とか、あのへんから物事を考えて。

でも、あれはあくまでこっちのメディアに伝わってくる情報で。それの前からね、ウクライナも今、こんな大騒ぎになっているけども、その前からチェチェンやシリアなど、いくらでもあるわけですよ。そういう騒乱のことを自分の考えを歌に込めようという。でも、音楽家なので。音楽家は音楽で表現しようという、そういう主義なので、この曲にしました。時々……昔も『THE WAR SONG』なんてのありますし。時々、出てきますね。

(杉浦友紀)本当に力強いメッセージが込められた曲ですけど。

(山下達郎)まあ、ぼやきに近いですけどね。

(杉浦友紀)そうですか?(笑)。これ、6カ国語のリリックビデオも作られていて。

(山下達郎)あれは会社がそういう風にしようっつって。せっかく作ったからって。

(杉浦友紀)これからどんどん増えていくという。

(山下達郎)そうですね。

(杉浦友紀)20カ国ぐらい……。

(山下達郎)ああ、そうなんだ。僕が聞いた時は17だって聞いたけども。まだ増やすかっていう(笑)。

(杉浦友紀)どんどん増えていくそうなので。皆さんそちらも、いろんな言語で歌詞、リリックを楽しんでいただければと思います。その「音楽家は音楽で」っていうお話、ありましたけれども。今のこの音楽シーンの中で、山下達郎としてできることって達郎さん自身はどういうことをお考えですか?

(山下達郎)僕は党派が嫌いなので。徒党を組むのが嫌いなので。だから1人でずっとやってきた人間なので、いかなるそういうとこにも与したくないっていうのは高校から20歳になるぐらいまで、日本の場合には70年安保という政治騒乱があって。それにちょっと片足を突っ込んだぐらいのことで。やっぱりその時に感じたいろいろな党派性に対する幻滅とかね、そういうようなものがあるので。なるべくそういうところには与しないでいこうっていうあれなんで。そうなると、自分で何をするか?っていうのは完全に個的な世界ですよね。

だから、たとえばライブをやるとか、レコードを刷るとかいうのも、完全に一対一というか。僕の場合はだから割と、本当は別にミュージシャンなるつもりもなかったんだけど。そういう、20歳前後の高校を卒業するぐらいのところでやっぱりちょっとトラウマみたいなものがあって。まあ半分、不登校みたいなことになって。他にやることがなかったんで、音楽に助けを求めたっつったらおかしいですけど。音楽だけは嘘をつかなかったので。で、そういうような形でミュージシャンになったので。そういう意味では、割とあのオーディエンスとか、お客さんと僕の距離が近いんですよ。

いわゆるそのスターで「君、聞く人。僕、やる人」みたいな、そうじゃなくて。ライブをやっていても、そこに座ってる人がひょっとしたら僕のかわりにここに立っているかもしれない。僕がそこで見てるかもしれない。そういうような質の音楽だと自分では思っているので。そういう形で対リスナーの人にどういうことを届けるか?っていうことを、そういうスタンスで考えてきたんで。だからこの歌なんかもそういうような意味なんですよね。だからあまり声高にあれしすぎずに、静かな怒りの方が……なんかそういう、お客さんと自分の関係性の中で見て、そういう方が強いかなっていう。そういう考え方ですね。

(杉浦友紀)まあともすれば、本当に世界各地でのこの騒乱とか、戦いってなくならない。なくなってほしいという願いはあっても、なくならないっていうのが現実で。その中で、音楽家として何ができるか?って、時には無力感みたいなものを感じることもあるのかなと思うんですけども。

音楽で世界は変えられない

(山下達郎)音楽で世界は変えられないんでね。歌は世につれるけど、世は歌につれないから。だから音楽というのは音楽でしかないので。音楽を使って何するか?っていうことはありますよね。プロパガンダとしてはね。だからそういうものは僕、あんまりしたくないので。だから、チャリティーとか、そういうものはやりますけど。それは人に言う問題じゃないっていう。実際に僕、やってますけど。それは人に言うべきものじゃないっていうのが僕の主義なんで。黙ってやりますから。それは、知らなくてもいいっていう。

それで人によってはだからそうやって、「あなたみたいに社会的な地位がある人間はそういうことをアピールしないとダメだ」っていう、そういう意見もありますけど。それはその人の意見なんで。僕は違うんで。それはなぜかというと、何度も申し上げるように僕の20歳前後のそうした生活から生まれたひとつのフィロソフィーなので。それは変えられません。それを変えたら、僕がやってる行為そのもののを自己否定することになるので。

(杉浦友紀)そのフィロソフィーの中で何ができるか? で、生まれたのが今回のこの『OPPRESSION BLUES』なんですね。

(山下達郎)基本的にはだから、自分は政治的な意識は持ってますけど。でも政治的な歌を書こうという意志があんまりないんで。元々、そういうつもりで音楽を始めたんじゃないんでね。

(杉浦友紀)この曲調も本当にまさにブルースっていう感じですですけれど。

(山下達郎)そうですね。

(杉浦友紀)そのあたりは、どうしてそういう曲調に?

(山下達郎)この曲は元々だから僕、ほとんど曲を先に考えるんで。曲調を先に考えて、言葉から考える歌ってほとんどないんですよ。この場合はこの曲をレコーディングして、すごくこういう感じになったんで、これにどういう言葉が合うかな?っていうことを考えて、この歌にしたんですね。だからああいう『THE WAR SONG』なんかも全くそうなんです。常に音が先なんです。

(杉浦友紀)その音があって、「じゃあこの音に合うメッセージってこういうことだ」っていう? そうなんですね。なんか、こういう強いメッセージがある曲って、先に歌詞があるのかなって思っていました。

(山下達郎)そうでもないんです。先にメッセージを考えるのは本当に稀ですね。『蒼氓』なんていうのはそうですね。あれはそういう歌を作ろうと思って作ったんで。この歌は違いますね。ただ、こういう意識をずっと持ってるんですよ。去年、一昨年とそういうのを見ていて。「なんなんだろう、これ?」と思って。そういうのがあるんで。ここに潜在意識としてあるので。それがやっぱり出るんです。それは音に触発されて出るんで。言葉に触発されて音を作るんじゃないですか。

(杉浦友紀)音に触発されたんですね。

(山下達郎)そうですね。

(杉浦友紀)それでは、聞いていただきましょう。『OPPRESSION BLUES (弾圧のブルース)』。

山下達郎『OPPRESSION BLUES (弾圧のブルース)』

(杉浦友紀)『OPPRESSION BLUES (弾圧のブルース)』を聞いていただきました。ギターがかっこいいですね。

(山下達郎)自分で弾いちゃいました。

(杉浦友紀)いや、もう泣かせるギターといいますか。かっこいいです。

(山下達郎)お恥ずかしいです。

<書き起こしおわり>

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