山下達郎『FOR YOU』を語る

山下達郎『SPARKLE』を語る NHK FM

山下達郎さんが2023年5月4日放送のNHK FM『今日は一日“山下達郎”三昧 レコード特集2023』の中でレコード・カセットが再販売されることになったRCA/AIR時代の8作品についてトーク。『FOR YOU』について話していました。

(杉浦友紀)続いては、1982年リリースのアルバム『FOR YOU』です。もう私が最も、最も好きなアルバムでございますけれども。前作のアルバム『RIDE ON TIME』に引き続き、チャート1位を獲得した『FOR YOU』ですけれども。達郎さんといえば「夏」というイメージを形づくった作品でもありますけど、いかがですか? 今、思うと。

(山下達郎)まあ、本当にいろんなファクターがね。たとえば作曲、編曲、それから録音の状態。テープレコーダとか、テープの質とか、あとはレコーディングのコンソールとか、それとミュージシャンの技量。それからこっちのモチベ。曲に対するモチベとか、そういうようなものが一番、ピークになった……うまいこと全部、要するにバランスよく組み立てられたっていうアルバムで。

あとは、それのバックグラウンドとして潤沢な予算がかけられるっていう。『SPACY』の頃は本当に10曲入りのアルバムで、せいぜい12曲。だけど『FOR YOU』の時には17曲録って。で、17曲で8曲ですから、半分ですよね。それも、そうだな。『SPARKLE』は4回ぐらい録り直してるから。

(杉浦友紀)一発録りから、そのリテイクができるようになったと。

(山下達郎)そうです。それがやりたかったんです。だから『いつか』っていう曲はコーダのところで1小節、増えるんですけど。その1小節を増やしたいというのを、トラックを録ってから後悔するんですよ。でも、それができない。予算がないから。では、どうしたらいいんだ? それだったら、売れるしかないよね。「レコードを売りなさい。それだったらリテイクできますよ」っていう。だから僕がなんで売れたいと思ったかっていうと、もう1テイク録りたかった。それが全てなんですよ。別に有名になりたかったわけでも、お金儲けしたかったわけでもなくて。もう1テイク録りたかった(笑)。

(杉浦友紀)とにかく納得いく演奏をアルバムに入れたかった?

(山下達郎)そうなんです。

もう1テイクを録るために、売れたかった

(杉浦友紀)どの曲も大好きですけれど。これ、すごくずっと気になってるのが、インタールードを入れてるんですよね。このアルバム。

(山下達郎)これはスタッフのアイディアで。「そういうのを入れたらどうか?」って。やっぱり頭のアカペラとか、あったでしょう? だからそういう……本当はね、『RIDE ON TIME』もインタールードがあるんです。CDのボーナストラックに入れてますけど。それはインストゥルメンタルのインタールードで。結局、時間の関係で入れなかったんですよ。で、「ああいうのでアカペラを入れたらいいんじゃないか」っつってスタッフがあれしたんで、インタールードにしたんです。

(杉浦友紀)でも効果的に入っていますよね。なんか本当に1枚、ストーリーを見てるような感じがします。

(山下達郎)まあ、とにかく20代の後半でようやくブレークしてね、上り調子ですからね。

(杉浦友紀)ツアーの連続の中でのアルバムで。

(山下達郎)そうですね。だからこれも発売が遅れたんですよ。82年の1月発売なんですけど。本当は年末商品としてやる予定だったんですけど。ツアーでやっぱり年間70ぐらいやった年なんで。割と、その間でアルバムを作ってるので。結構ね、大変だったんですよ。

(杉浦友紀)『SPARKLE』に始まって、『MUSIC BOOK』『LOVE TALKIN’』など、どの曲もリズムが鮮烈だなと思うんですけど。この時期の作り方はどういう感じで作っていたんですか?

(山下達郎)パターンを作るんですよね。練習スタジオで。それで、それに基づいて……あのね、こうしたポリリズムの曲っていうのは実は、そのピアノの弾き方では作れないんです。今はね、コンピュータがあるので。要するにリズムボックスとか、そういうものを駆使すれば、そういうポリリズムを作れて。それで曲を作れるんですけれども。この頃は、やっぱりそんなに潤沢な……リズムボックスでもやっぱりある程度、限定されたものしか作れないんで。もっと複雑なポリリズムを作りたいと思ったら、実際にメンバーを呼んでやるしかないんですよ。

で、ドラムのパターンはこれ。ベースのパターンはこれ。ギターは自分でやって、キーボードはあれで……って。それで、難波くんは難波くんで忙しいんで。自分でピアノを弾いて、ドラムとベースをやって。それで家で考えて……みたいな。そういうことの繰り返しでね。で、たとえば『LOVE TALKIN’』なんていうのは、あれを考えるまでに、あの頃はシンセサイザーじゃなくて、なんつったらいいのかな?

まあ、シンセのようなキーボードがありますよね。そこに、Cの音にガムテを貼って、Cがずっと出るようにして。それで、ギターとドラムとベースのパターンを考えて。それをもとにスタジオに入って、そこでまたやるんですよ。そういうものの繰り返しかな?

(杉浦友紀)本当にじゃあ、1曲にかける時間がかなりかけられるようになったっていう感じなんですね。

(山下達郎)それで、リズムパターンができたら、実はまだメロディーはないんです。『SPARKLE』っていうの曲も、元々メロディーがないんです。あれはパターンから作ってる曲なんで。そうしないと、自分でキーボードを弾き語りしてメロディーを作るでしょう? すると、それに合ったリズムのパターンっていうのを作るのは非常にね、通り一遍なんですよ。だからこの頃のいわゆるロック、フォーク、ニューミュージックとか、特に歌謡曲のレコーディングだと、イントロだけかっこいいけど、Aメロになるといきなりガクッと来る。

あれがなぜか?っていうと、そこのリズムの音律というか、メロディーの音律がリズムパターンに合ってないんですよ。そうするとグルーヴが消えるので、ダンスミュージックとしてのファクターがなくなるの。だからどうしたらいいか?って考えたんですよ。そうすると、まずパターンを作って、それに合うメロディーを後で考えればいいんだって。で、『FOR YOU』の場合はメロディーの日っていうのがあって。で、あの『SPARKLE』のカラオケがある程度できたところで、スタジオでそれをかけながら「ラーララーラ♪」って考えるんです。で、『SPARKLE』とか『LOVE TALKIN’』とか全部、そうやって作ってるんです。

(杉浦友紀)まずリズムを録って。そこにあとでメロディーを……メロディーの日。メロディーだけ、とにかくやるっていう。

(山下達郎)そうです。からある程度、ダビングして色合いがついてきたら、それに合うメロディーを考える。『いつか』もそうだし、『DAYDREAM』もそうだし、全部そうやって作っているんです。今でも、そういう曲は多いです。

(杉浦友紀)特に『FOR YOU』はそれを?

(山下達郎)でも『MORNING GLORY』とかはまりやに書いた曲で。『YOUR EYES』なんかも弾き語りの曲だから、いいんですけど。そういうポリリズムの曲は完全にそうです。

(杉浦友紀)今、お話にもありました『LOVE TALKIN’』。私が最も好きな曲で。これはもう前回も……。

(山下達郎)変わってますね(笑)。

(杉浦友紀)でもこんなにもグルーヴ、グルーヴ、グルーヴっていう(笑)。

(山下達郎)これは絶対に弾き語りでは作れません。

(杉浦友紀)やはり、そのリズムのパターンがあったから構築できるという。

(山下達郎)だからギター1本で「これをやれ」って言っても無理ですね。あのグルーヴは出ません。だからラテンとか、そういうものに近いですね。

(杉浦友紀)ラテンもそうなんですね?

(山下達郎)ラテンミュージックはそうですね。

(杉浦友紀)では、聞いていただきましょう。『LOVE TALKIN’』。

山下達郎『LOVE TALKIN’』

(杉浦友紀)『LOVE TALKIN’』、聞いていただきました。いやー、好きだなー。大好きだな、この曲(笑)。さあ、続いてはですね、これもぜひこの曲でと思いました。『FUTARI』です。超絶バラードなんですね(笑)。

(山下達郎)これはよくできた曲だと自分でも思ってますけどね(笑)。

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ソニーミュージックエンタテインメント

<書き起こしおわり>

山下達郎 レコード・カセット時代のアルバム曲順決めを語る
山下達郎さんが2023年5月4日放送のNHK FM『今日は一日“山下達郎”三昧 レコード特集2023』の中でアルバム『FOR YOU』についてトーク。レコード・カセット時代にアルバムの曲順を決める際の基準について、話していました。
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