荻上チキ「東京アラート」発動を語る

荻上チキ「東京アラート」発動を語る 荻上チキSession22

荻上チキさんが2020年6月2日放送のTBSラジオ『荻上チキ Session-22』の中で東京都が新型コロナウイルスについて、独自の警戒宣言「東京アラート」を発動したことについて話していました。

(南部広美)新型コロナウイルスの新たな感染者が34人。東京都が「東京アラート」の発動を決定。東京都は今日、新型コロナウイルスの感染者が新たに34人、報告されたと明らかにしました。1日の感染者数が30人を超えるのは先月14日以来のことです。感染拡大の兆しがあることなどから、小池知事は東京都独自の警戒宣言・東京アラートの発動を決定しました。また新型コロナウイルスのクラスターが発生した東京小金井市の病院で今日、新たに入院患者ら15人が感染していることが分かりました。

この病院での感染者は合わせて31人となり、病院では全ての職員らのPCR検査を進めています。こうした中、西村経済再生担当大臣は新型コロナウイルスの集団感染が発生した、接待を伴う飲食店とライブハウスの感染防止策を検討するため、専門家らによる協議を始めたことを明らかにしました。今後、営業再開に向けたガイドラインを策定するということです。

一方、東京都品川区は区民およそ40万人全員を対象に独自の給付金を支給する方針を決めました。支給されるのは1人3万円。中学生以下なら5万円ということで「品川区は区民の負担を軽減し、活力を取り戻したい」とコメントしています。この他、映画館を運営するTOHOシネマズは今週金曜日から首都圏の劇場の営業を再開すると発表。これで全ての劇場で営業を再開することになりますが、再開にあたっては館内の換気を徹底するほか、原則として前後左右に1席ずつ空間を開けて指定券を販売するなど、感染防止策を徹底するということです。

(荻上チキ)さて、新型コロナウイルスの新たな感染者、都内34人ということで。東京アラート、こちらが発動されるということになっています。小池都知事の会見の音声がありますので、その模様を一部お聞きください。

(中略)

「東京アラート」とは?

(荻上チキ)はい。「東京アラート」なるものを発出しますよというような、そういった会見だったんですけれども。東京アラートって一体なんだ?っていうことですが、簡単に言うと「黄色信号なのでみんな気を付けてね」っていう、そんなことですね。いくつかの基準というものを東京都は設けていまして。たとえば「新規陽性者数が20人を超える」とか、あるいは「新規陽性者における接触不明者(リンク切れ)が50パーセントを超える」とか。そうしたようなものが数字上、現われてきた時に、これは外出自粛とか、あるいは休業要請というものを実際に発出していくという、次の再発出、再要請というものに近づいていくので。「その手前の段階まで来ていますよ」っていうことで注意喚起するためのものです。

だから今回、東京アラートうんぬんということが言われても、具体的に人々の生活とかに何か具体的影響……規制がかかるとか、要請がかかるというものではないんだけれども。「都からのお願いです。今、黄色信号なので気をつけてくださいね」というようなことを述べているんですね。まあ東京アラートというネーミングについては、まあどうでしょうね? いいネーミングかどうかというのは別として、共通のワードを作るということはそれはそれで重要にはなるわけです。そうした場合、「今はこういった状況になってるからちょっと行動面で気をつけよう」っていうような、そうしたことが伝わるような仕方が一番いいわけですよね。

本当であれば、自治体ごとに名前を変えるのではなくて。たとえば「黄色信号が東京都内で発出されました」とかね。

(南部広美)「このワードが出たら、こういうことなんだ」っていうのをみんな、一律認知するっていう感じですか?

(荻上チキ)そうですね。そういったような格好がベターなんですけれども。ともあれ、今ある状況がどういったものなのかということは、いろいろと認識していくことはいいのかなと思います。で、すごく今、怖いなと思っていることがひとつあるですが。この新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、いろんなところでの差別・偏見というものに気をつけなくてはいけないよねっていうことを言ってます。で、恐らくこれからまた、そうしたような機運というものが拡大すると思うんですよ。

それは根拠なく言っているわけではなくて、今は「感染者」に対する差別もそうだけれども、「感染を生み出した業種」に対する攻撃っていうものが浮かびやすいというか、起きやすい環境を行政が作り上げているんですよ。どういうことかと言うと、「今これだけの数が出てきたら行動自粛を幅広くかけますよ」っていうことを言っている。ということは、特定の産業とか特定の業態から感染者がバーッと出た時に「連帯責任」っていうようなね、そういったの格好でペナルティーが与えられるかのようなルール付けが今、されていることになってしまっているわけですよ。

連帯責任的なルール付けが導くもの

(荻上チキ)あたかも今、日本社会というのは学校化していて。悪しき意味での連帯責任的な、古き悪しき学校化をしていて。先生の言うことに従わなくて、その結果で何かがポシャるような行動をしたりとか、足を引っ張るような子がいたならば、クラス全体が連帯責任で罰を受けなくていけないみたいな。そういったようなルールづくりに今、仕組み上なってしまっているわけです。そうした状況の中では、やっぱり今回、たとえば「夜の街クラスター」という言葉とか、そうしたものが強調されることもそうですが。特定産業に対する否定的な言説、言い回しというものがやっぱり増えますよね。

で、たとえば数年前にホストクラブとかキャバクラとか、そうした店舗の実態について僕はリサーチをしたことがあるんですけれども。でもやっぱり、そこで労働してる方々というのは、たとえば貯蓄率が低かったりとか。要は、「働かないと生きていけない」っていう比率が一般平均と比べてよりシビアであるということが言えるわけですよ。となると、やっぱりお金って大事ですよね。でも、そうしたその「お金」の面で言うと、この間に行政は何をしたかと言えば、その風俗産業であるとか、さまざまな業態で働いている人たちに対しては「世の中の理解が得られないよね」っていうようなやり方で、たとえば休業要請に従うかどうかとか、そうした手当の対象外に一時、していたとか。

その後のたとえば雇用調整助成金とか、そうしたものの対象になる・ならないという線引きがそこに生まれたりというものがあったりしたわけですよ。要は、「暮らしに困っている人がいる。そこに対してケアをしませんけれども、そこで生まれたらバッシングします」っていうような状況が生まれている。これはとてもいびつですよね?

(南部広美)おかしいですよ。

(荻上チキ)それは自然発生的に生まれたものではなくて、行政の線引きによって生まれることもある。そして元々、「一定人数の感染者が拡大すればまた自粛しますよ」っていうことが相互監視や特定の業態などに対する厳しい目を向けてしまいがちな、そういったルール作りになってしまっているというところがあるわけです。だから、「このルールが不合理だ」っていう風に言ってるのかというと、そういうことではなくて。こうしたルールはしばしば、他人への品定めとか査定とか、あるいは攻撃とか排除とか。あるいは「あいつのせいだ」っていう恨みとか。そうしたものに働きがちな面があるから。そうしたような方向に機能しないようにすることもとても重要だということになるわけですよ。

だから「行動変容、行動変容」っていうことを言うのであれば、そうしたある種の認知面……人々に対して「このことを否定的な仕方で捉えないでください。誰にでも感染症になり得るし、経済的打撃は皆さんも味わっていることで、お互いさまです。だからそうしたような形で攻撃し合うような形にはしないようにしてください」というようなメッセージを発信することもとても重要になってくるんですよね。

そういった意味で、そのニュースの取り上げ方であるとか、政治家の振る舞い方。あるいはそもそも、行政の対応、措置。助成であるとか給付の対応なのが適切にあるのかどうかというところにも、ぜひとも注目してほしいなと思います。

<書き起こしおわり>

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