渡辺志保 Netflix『jeen-yuhs』カニエ・ウェストドキュメンタリーを語る

渡辺志保 Netflix『jeen-yuhs』カニエ・ウェストドキュメンタリーを語る INSIDE OUT

渡辺志保さんが2022年2月21日放送のblock.fm『INSIDE OUT』の中でNetflixで配信がスタートしたカニエ・ウェストのドキュメンタリーシリーズ『jeen-yuhs』についてDJ YANATAKEさんと話していました。

(渡辺志保)先週一杯、すごい目まぐるしい1週間だったなっていう感じですね。個人的にも、私の仕事の内容とかも含めて結構先週はいろんなことがありまして。かつ、追いかけねばならない新しい作品とかもたくさん出まして。目まぐるしかったですね。落ち着かない1週間だったっていう感じです。で、落ち着かなかった理由のひとつに皆さんもすでにご覧になられましたでしょうか? カニエ・ウェストの驚愕のドキュメンタリー作品『jeen-yuhs』がNetflix限定で公開されたというニュースがありました。ヤナタケさん、ご覧になりましたか?

(DJ YANATAKE)あのね、僕もなかなか忙しくしていたんですけど。志保さんのこの1週間のストーリーズとかを見ていたら、だいぶ腕まくりしていらっしゃったじゃないですか。

(渡辺志保)もう腕まくりしちゃって。まくる袖がないぐらいに(笑)。

(DJ YANATAKE)だからこれはね、少しは一緒にお話させていただかないとっていうことで。なんと、いつもこれ、10分前とかに打ち合わせをしたりするんですけども。その、わずか1分前。21時49分に見終わりました! 滑り込みました!

(渡辺志保)ありがとうございます。でも本当に生々しかったですよね。

(DJ YANATAKE)すっごい面白かったね。

(渡辺志保)私、4周はしたんですよ。最初は日本語字幕で見て、その後に英語字幕をONにしたんですね。っていうのは日本語字幕って文字数の制限がありますから。で、実際にカニちゃんと周りの方がしゃべっていることも日本語字幕で拾いきれない情報が英語字幕ではあって。英語字幕で見ると「今、この曲がかかっています」みたいなものも全部ではないんですが、字幕で出ることが多いんですね。印象的な一幕としてはカニエが車の中でジャーナリストの人とかとしゃべっていて。自分が今、どういう気持ちで夢に向かっているのか、みたいなことを熱く語るシーンがあるんですけども。その中でも「リル・キムが俺のビートを聞きたいっていうからスタジオに行って。その後に、他にもビートを聞きたいやつがいて。タクシー代を払う余裕がなかったから20ブロック走ったんだ」みたいなエピソードを話していて。

で、日本語字幕だとわからないんだけど。カニエは実際にはしゃべっているのでそれを聞き取る力がある方はわかると思うんですけども。そこも英語の字幕で見ると「ショーンがビートを聞きたがっているから」ってなっていて。「ショーンっていうことは、ショーン・パフィ・コムズ……パフ・ダディなのかな?」って思ったりとか。そういう小ネタなんかもあったり。でも、本当にたくさんハイライトはあって、皆さんに見てほしいなって思うんですけども。あと、たくさんのラッパーの方々がめちゃくちゃTwitterとかInstagramでリアクションをしていて。「めちゃくちゃインスパイリングだった!」とか「やっぱりカニエはすげえ!」みたいなそのリアクションの数もすごかったなって思ったんですけども。

やっぱり、ここ数年のカニエさんって本当にアップアンドダウンが激しすぎて。私ももちろん好きだけども、やはり彼の言っていることが100パーセント正しいとは思えないし、ちょっとどうなのかな?って思う節もたくさんたくさんあるけど、そういったことを抜きにしても彼のアーティストとしての生まれ持ったものというか。才能もそうだけど。もちろん運とかもあるんだろうけど。その、執着心っていうか。自分のやりたいこととか描いているビジョン……この第一幕のタイトル自体が『Vision』ですけども。自分が持っているビジョンに対しての執着心。そして絶対になにがなんでもやってやるぞっていう飽くなき欲望というか野望というか。やっぱりそれが普通の人とは桁違いだなっていうのを感じました。

(DJ YANATAKE)普通だったら心が折れちゃうっていうか。なかなか自分が認められないっていうのはいろんなアーティストが抱える葛藤だと思うんだけども。でも、やっぱりその確固たる自信とか、見えているビジョンとか、それに向かっていくことに対して恐れてないっていうか、ぶれてないっていうか。

(渡辺志保)そうそうそう。で、撮っているのはクーディーさんっていうカニエを20年もずっと追いかけている方で。元々ね、スタンダップコメディアンで、そこからヒップホップ番組の司会なんかもされていて。それから、自分が映像を撮る側に回ったという方ですけども。彼も、だから20年前にカニエに出会って「この男、ヤバい!」って全てを……自分の仕事とかも捨てて、カニエと一緒にニューヨークに渡り、ずっと密着していて。だから、第二幕、第三幕がどうなるかはちょっとわからないですけども。第一幕も基本、そのクーディーさんの視点でカニエがどんどんいろんなところに行ったり、いろんな賞をもらったりするっていうのを描いていて。

(DJ YANATAKE)だからカニエのドキュメンタリーではあるんだけども、クーディーさんのドキュメンタリーでもあるっていうことだよね。

(渡辺志保)そうなんですよね。私はでもその視点……カニエと視聴者の間にクッションをひとつ挟んでいるというか、ガイド役がちゃんといるっていうか。それはすごくいい構成だなっていう風に思いましたし。その分、忖度もなにもないカニエが見れるみたいな、そういう喜びもあったし。あと、なんといってもカニエの母親、ドンダさんの輝き方というか。彼女の一言一言が、もう彼女は今はこの世にはいないということを差し引いても、パンチラインだらけだなって思って。「巨人は鏡には映らないのよ、カニエ」って諭すシーンがあって。だから「傲慢になりすぎちゃうと自分の姿が自分でよく見えなくなっちゃうから、それはよくないよ」っていうことをおっしゃっていたりとか。

で、カニエもニューヨークに引っ越して、その後に自分の実家……母・ドンダさんのお宅にピンポーンって夜中に訪れるんですけども。お母さんがわざわざ「えっ、あんた、鍵持っているでしょ?」って言っているやり取りなんかもあって。そういうのもすごい生々しいと思いながら見ていたんですけども。そこで「俺が『Izzo』のビートをかけた時、ジェイ・Zはこんな感じでさ!」みたいなのを細かく細かく、自分のお母さんにやってみせる。で、お母さんもカニエのデモ曲をちゃんと聞いて、ずっとそれをカニエと一緒にラップしている。「あの時のあのリリック、よかったよね」みたいな話をしていて。こんなお母さん、いる?っていう。

だって、自分の息子が音楽を始めましたってなったら、「ちょっとあんた、なにやってんのかわかんなけどさ……」ってもしかしたら説教をするお母さんもたくさんいるのかもしれないけども。そんな中でも「あんたは大丈夫よ」って言って、あれだけがっつりとバックアップできるお母さん。そういったところもすごくインスパイリングだったし。あと、私は全く知らなかったんですけども。当時、本格的にデビューをする前のカニエっていうのはジェイ・Zがいるロッカフェラとあとはロウカスっていうニューヨークの老舗レーベルがありまして。ロウカスって結構コンシャスっていうかリリシストが集うレーベルっていうイメージがありますけども。そのどちらかでカニエは揺れていたんですね。ロカフェラとサインしたい俺。あとはロウカスからも声がかかって、そっちともサインをしたいっていう。

で、しかもびっくりしたんだけども。ロウカスのカニエを口説いていた担当者さんが「お前はストリートとハイファッションブランドの間にいる男だ」みたいなことを言っていて。「それってまさに今じゃん!」みたいなところもあったし。カニエも、これはクーディーさんがあえて入れたところだと思いますけども。カンファレンスみたいな催し物にパフ・ダディとかジャーメイン・デュプリとかとともにカニエも招かれて。でもカニエの名前だけフルネームじゃなくて「カニエ」だけだったんですね。で、カニエが「なんだよ、カニエって! カニエ・ウェストってちゃんと書けよ! こんなんだったら俺の名前、『Ye』でいいよ!」みたいなことを言っていて。「これも今じゃん! なにを予言しちゃってるの?」みたいな感じで。

(DJ YANATAKE)でも、本当にそうでさ。カニエって今はちょっと変わった行動もしちゃう人っていうか、そういうような、お騒がせセレブみたいな目で見られるようにもなっちゃっているけども。なんていうか、カニエがやってきたことや言っていることってこれを見ると、昔から変わっていなかったんだな、みたいな。だからその今までのカニエの伏線回収を全部ブワーッとやってくれている感じで。

(渡辺志保)たしかに、たしかに! 伏線回収、まさに!

カニエ・ウェストの伏線回収

(DJ YANATAKE)だからね、すごいカニエがやってきたことっていうのは突然、変なことを言い始めていたんじゃないんだよね。最近、名前を「Ye」に改名したっていうのもみんなさ、「www」みたいになっていたけども。そうじゃなくて、すごい前から言っていたことなんだとか。あと、育った家の話とかね。それに執着している理由みたいなのとかもさ、はっきりとわかるわけじゃん? これを見ると。

(渡辺志保)わかる! 本当によかったし。今はもう神みたいになっちゃっているけども。ちょっと行動が読めないっていうところも含めて神みたいになっちゃっているけども。すごい人間らしいっていうか、地に足がついているカニエ。で、「こんなドキュメンタリーを撮っているなんてすごいナルシスティックだよな」みたいな言葉もあって。それもさ、カニエがナルシストだっていうのも本当に今に始まったことじゃないんだとか思ったし。本当に第二幕、第三幕がめっちゃ楽しみ。で、いきなりロッカフェラのオフィスに行って『All Falls Down』を爆音でかけながら「どう? どう?」ってやるっていう。

(DJ YANATAKE)みんなが忙しくしている中で。

(渡辺志保)「えっ、なにこいつ?」みたいになっていて。でも普通、思うよ。「なにこいつ?」って。

(DJ YANATAKE)でも当時は今みたいにできた曲をパッと聞かせられる時代ではなかったっていうことを差し引いても、自分が認められるための努力をこれだけしてきたからカニエの今があるんだっていうことですよね。ちょっとDMでリンクを送ってさ、「全然反応ないな」とかじゃないんだよね。

(渡辺志保)そうそう。自分で足を運んで、こうやって聞かせないと。だから実際に第一幕はカニエ・ウェストがジェイ・Zの『Izzo』という大ヒット曲を手掛けたっていう。そのあたりから話が始まるんですけども。普通のプロデューサーとかビートメイカーだったらジェイ・Zのシングルを手掛けたというだけで「もう目標達成!」ってなっちゃいそうなところを、カニエはまだまだそれは序の口というか。今からだよっていう。そこの野心もすげえなって思ったし。『Jesus Walks』を聞かせてスカーフェイスが「いや、この曲じゃないな」って言っているシーンとかも「こんなことがあったのか!」っていう思いで見ましたし。

(DJ YANATAKE)あと僕は2点、あるんですけど。カニエはプロデューサーとして出てきた時に特徴的だったのが、『Through The Wire』とかでもそうでしたけど。早回し。サンプリングの曲をすごく早回しして、高い声になっちゃっているみたいなのが新しく聞こえて。でも、あのアイデアが結構No I.D.から来たみたいなのがあったと思うんですけども。No I.D.っていうのはコモンのトラックとかを作っていたから、シカゴにいたんだろうね。で、今や、ちょっと前にデフ・ジャムの偉い人とかにもなってましたけども。No I.D.からビート作りを教えてもらえる環境があったんだとかね。

(渡辺志保)そうね。

(DJ YANATAKE)その後にも教えてもらっている話があったりして。あと、先週50セントの『In Da Club』が2003年で、今から19年前から若い子たちは知らないみたいな話をしていたんですけども。カニエのソロのデビューシングル『Through The Wire』。これも2003年なんだよね。同じ年。だから今のカニエとかからしか知ってない人に言っておくんですけども。当時、僕はレコード屋とかで働いていて、プロデューサーとしてのカニエ・ウェストが出てきて「面白い、いいトラックを作る人だな」って思っていたのがいきなりラップってなった時に、そのカニエのラップって最初は「えっ?」ってなるようなラップだったのよ。

(渡辺志保)まあ、そうですよね。

(DJ YANATAKE)なんかちょっと変な節回しとか、歌い方とかもちょっと入っていたりとかで。すごく違和感があるラップだったことは間違いないの。だから「お前、プロデューサーだろ? お前がラップすんの?(笑)」みたいなのがこの作品にはいっぱい入っているんだけども。実際のリスナーとして、俺らも最初、そうだったんだよね。本当に。

(渡辺志保)うんうん。モゴモゴしてたしね。

(DJ YANATAKE)モゴモゴしてたし。ハキハキとスピットする感じじゃないし。

(渡辺志保)だってたしかに、その当時は本当に50セントが王者で、ジェイ・Zがいて、みたいな。そことは対極的なラッパーでしたよね。

ソロデビュー当時のカニエのラップの違和感

(DJ YANATAKE)なんだけど、やっぱり知らず知らずのうちに、あのラップに慣れてくるとどんどんハマってくるみたいなのは、ちょっと時間はかかったですけど、そういう流れは本当に最初はあった。俺もそうだったから。実際に。あと、名前が読めないっていうのもそうでしたね。

(渡辺志保)たしかに。なんかあの受付の人もね、「カイエン?」とかって言って。カニエってうまく発音できてなかったしね。

(DJ YANATAKE)「ケイン・ウェスト?」とかって言っていたりね。「えっ、カニ?」みたいなのは本当に言ってましたからね。

(渡辺志保)言ってました。本当ですね。そういうひとつひとつ、当時の自分の答え合わせみたいなのもめっちゃ面白かった。「ああ、ここでジャスト・ブレイズと? ここでDJクルーと?」みたいな。そういうのが次々出てきて泣いたしね。結構序盤からずーっと泣いちゃって。スーパーボウルのハーフタイムショーでも泣いちゃって。

(DJ YANATAKE)面白いね、ヒップホップね!

(渡辺志保)毎週極まりまくっちゃってね。で、そんなカニエさんなんですけども。前々からアナウンスしている通り、明日の2月22日に『DONDA2』が出るぞっていう風に言ってまして。で、フューチャーがエグゼクティブプロデューサーだっていうことも言われてますけども……。

<書き起こしおわり>

渡辺志保 Kanye West『DONDA 2』Stem Player限定配信を語る
渡辺志保さんが2022年2月21日放送のblock.fm『INSIDE OUT』の中でカニエ・ウェストの最新アルバム『DONDA 2』がAppleMusicやSpotifyなど各種ストリーミングサービスには配信されず、Stem Playerのみで限定配信される件について話していました。
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