渡辺志保 5lack・6lack問題を語る

渡辺志保 5lack・6lack問題を語る MUSIC GARAGE:ROOM 101

渡辺志保さんが2022年1月14日放送のbayfm『MUSIC GARAGE:ROOM 101』の中でSNS上でバイラルとなり拡散した日本のヒップホップアーティスト5lackの表記がアメリカのアーティスト6lackの表記と似ているという件について、その問題点などを話していました。

(渡辺志保)ここでもう1曲、気になったトピックと共に皆様にお届けしたいと思います。新年早々、Twitterで話題になっていた出来事があって。その件についてぜひ、皆さんにもシェアしたいなという風に思った次第です。1月3日ぐらいですかね? アメリカのTwitterアカウントがあの日本のラッパーの5lackさんのSpotifyのアーティストページのスクショと共に「冗談でしょ?」みたいなコメントをつけたツイートを発したんですね。

(渡辺志保)一応、説明しておくと5lackさんはその名前の表記が少し変わっていて。数字の「5」を「S」と読ませるんですね。なので「5lack」と書いて「スラック」と読ませるラッパー名なんですね。

数字の「5」だから「ごらく(娯楽)」とも読めるっていうことで、エンターテインメント(娯楽)という意味もこう自分の名前にダブルミーニングとして込めて「5lack」という名前で活動していらっしゃいます。今は福岡を拠点にしてらっしゃいますけれども。元はというか、お兄さんがPUNPEEさんで、一緒に活動をしていて……っていう。そういったバックグラウンドを持つアーティストの方で、まあ日本のヒップホップを聞いてらっしゃる方にとってはもう本当にスーパースターレベルの、とてもとても才能のあるアーティストさんなんですけれども。

(渡辺志保)その5lackさんが、だからちょっと悪い方向にTwitterで話題になってしまったんですよね。で、まあアメリカの人からしてみればちょっと面白い名前に見える。かつ、その「冗談でしょ? マジかよ?」みたいな感じで彼、5lackさんのアーティストページがTwitterで話題になってしまったんだけど。このツイートで何が言いたいか?って言うと「5lackが6lackをパクっているのでは?」っていうことなんですね。

で、そもそも6lackというアーティストがアメリカにはいます。この6lackさんも5lackさんと同じようにちょっと表記がユニークで。数字の「6」から始まるスペルで「ブラック」と発音をするんですね。アトランタを拠点に活動しているアーティストの方で、もちろんこの番組でもこの6lackさんの曲を何度もかけたことはあります。

(渡辺志保)だからアメリカのヒップホップリスナーにとっては、6lackと5lackの2人が並んだ時に、なんていうの? 数字の6から始まる6lackの次に、数字の5から始まる5lackがいて。かつ、それが「6と5が並んでいてちょっと面白いじゃん」っていうことだけではなくて、「5lackさんが6lackさんのことをパクったんじゃないか?」っていう、そういったことも含めてTwitter上でバイラルになってしまったんですよね。

Twitter上でバイラルとなり拡散

(渡辺志保)なので、「こういう2人が並んでいて、ウケるね。面白いね」っていうことだけで終わらずに、どんどんどんどんそれがTwitter上で拡散して行ってしまって。私がすごく胸を痛めることになったのが、どんどんそれがそのアジア人に対するヘイトであるとか、「日本人のアーティスト、アジア人のアーティストがヒップホップを盗んでいる」とか「ブラックカルチャーを盗んで5lackっていう名前を付けているんだろう?」っていう、そういったアジアンヘイトを内包するやり方でバイラルになってしまったんですね。それが本当に見ていて胸が苦しくなりました。

で、私が見た中で一番多かった返しがですね、「こいつはその5lackじゃなくて、エイジアンだろう?」っていう反応が一番多かったんですね。で、「エイジアン」っていうのもその数字の8から始めて「8sian」っていう風に名前を改名しろみたいな、そういうツイートも多かったですし。で、実際に「アジア人はまた、盗んでばっかりなんだね」みたいな、そういったツイートもいくつか見ました。

でも、今日の放送の冒頭にも言いましたけど、ザ・ウィークエンドだって最新のアルバムで日本人の音楽をサンプリングしているし。


(渡辺志保)今、アメリカの若いラッパーの方たちの間では日本のアニメキャラみたいなアートワークもすごくたくさん見られますし。昨年においても、ヤング・サグとかジュース・ワールドとか、彼らのアートワークを手がけたのは日本の若いクリエイターであるということもありますし。その、なんというか、なんでそのツイートひとつ、スクショ1枚でここまでひどいことが言えるだろう?っていうことをとてもとても感じてしまいました。

で、日本のウェブメディアのfnmnlさんがそれを記事にしていらっしゃいましたけども。5lackさんは元々は「S.L.A.C.K.」っていう表記のMCネームを使っていらっしゃったんですね。それを現在の数字の5から始まる5lackという名前に変更したのは2011年頃のことであると。で、これは6lackさんがファーストアルバム『FREE 6LACK』でデビューした2016年よりも前のことだという。ただまあ、6lackさんの方も元々インディーアーティストとして脈々と活動をしていましたから、活動の歴はもちろんかぶっているんですけども。でも、だからといって「5lackが6lackをパクっただろう」っていうのはめちゃめちゃ無理があるロジックなんですよね。

アメリカのヒップホップシーン・SNSに内在するアジアンヘイト
新年早々不快なニュースが飛び込んできた。昨年アルバム『Title』を発表するなど、長いキャリアを持ちながら精力的に活動を続けるラッパーの5lackが、メロディアスなフロウとパーソナルなリリックで支持を

(渡辺志保)これはちょっと調べれば分かることだと思うんですけれども、そうしたこともせずに、本当にツイートひとつ、バイラルになった写真1枚だけでみんな、すごくそこにこう加担してるっていう。

キャンセルカルチャーがなんていうか、まざまざとこう広がり始めるのは本当にその目で、その瞬間的に見てしまった、目撃してしまったっていう感じがすごくあって。かつ、私もじゃあここで何かをSNS上で発表すれば……「すごく不快な気持ちですよ」ということを発表すれば良かったのかもしれないですけれども、ちょっとそうしたこともできない、なんかちょっと臆病な自分みたいなものもいて。そういったことも含めてモヤモヤしてしまいましたね。

文化の盗用問題とアジアンヘイト問題

(渡辺志保)で、なんか映画とかドラマを見ててもそうだし、ヒップホップアーティストの振る舞いを見ててもたまに思いますけれども。「アジア人だったらいじっていい」みたいな感じがあるような気がします。たとえば、アジア系の俳優のオークワフィナという方がいらっしゃいますけれども。オークワフィナもすごくブラック系のコミュニティーからめちゃめちゃ叩かれている俳優でもあるんですよね。ちょっとこのへんの問題は私も肌感で分かっていない部分もあるので踏み込んで今、お話しすることは控えますけれども。

なかなかのその歪みみたいなものを見てしまったっていう感じがします。で、まあ言うまでもなく、ヒップホップのカルチャーっていうのはアフリカン・アメリカンの皆さんが作り上げた文化であり。近年ね、特に本当に文化の搾取であるとか、様々な人種問題が浮き彫りになってしまって。オリジネーターである彼らが、他の人種や他の民族の人間がヒップホップをリプリゼンテーションすることにとてもとても敏感になっていることは理解しているし、その文化の盗用ということにおいては非常に気をつけねばならない、慎重にならなければいけない問題だとはあると思うんですよね。

でも本当にこのバイラルな、ひとつのツイートだけを元にして、まるで5lackさん自身も文化を盗用してる痛いアーティスト、罰するべきアーティストみたいな感じでワーッと広まってしまったのが本当に……もうこれは絶対に間違ってるなという風に思いながら、とてもやきもきしつつ。あとは自分自身もどうあるべきかということを考えさせられました。というわけで非常に長くなってしまいましたが、5lackさんの素晴らしい楽曲『俺の成り立ち』をここで聞いていただきたいと思います。

5lack『俺の成り立ち』

<書き起こしおわり>

5lackとPUNPEE「5lack」への改名の意味とアルバム『KESHIKI』を語る
5lackさんがJ-WAVE『SOFA KING FRIDAY』に出演。自身の表記を「5lack」に変えた経緯やアルバム『KESHIKI』についてPUNPEEさんと話していました。
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