渡辺志保とDJ YANATAKEが選ぶ2021年ヒップホップ年間ベスト大賞

渡辺志保とDJ YANATAKEが選ぶ2019年ヒップホップ年間ベスト大賞 INSIDE OUT

(中略)

(渡辺志保)じゃあ次はニューアーティスト・オブ・ジ・イヤー。今年のルーキー、最も輝いた新人賞を発表したいと思います。まずUSサイドはベイビー・キーム! これも異論なしだと思うんですけどもね。

(渡辺志保)でも、これもめっちゃ悩んだ。私もたしかに……何と悩んだかというと、EST Geeと悩んだんだよね。でも、ちょっとシーン全体におけるインパクトと言えばベイビー・キームかなと思って。で、ベイビー・キームもこれまでに『Orange Soda』とか『hooligan』とか、シングルヒットは数年前からありましたけれども。今年、満を持してアルバムデビュー。しかもそこにはケンドリック・ラマーもがっちりバースで参加していて、そのバックアップ体制も素晴らしかったし。で、ケンドリック・ラマーもたとえばこのベイビー・キームの『family ties』という曲でも結構さ、なんかちょっと皮肉るっていうか、ちょっと強気なバースみたいなものを披露していて。

久しぶりにケンドリックのラップが聞けた。しかもなんか、ちょっとイケイケなことをラップしてるみたいなところもすごく、たまらなかったので。で、ケンドリック・ラマーの後継者みたいに言うとすごくご本人は嫌がるかもしれないですけれども。でもまあ2021年になって、そういう存在がラップシーンから出てきたんだなっていうのも非常に「うんうん」と納得するような気持ちで彼のアルバムを聞いておりました。というわけで、もちろん今後の活躍も楽しみですねということで、ベイビー・キームを選出しました。

(DJ YANATAKE)そうだね。どうしてもそのなんか七光り的にさ、2曲あったしね。そういう捉えられ方が最初はあれだったけど。結果、でもアルバムの評価が本当に高かったもんね。

(渡辺志保)いや、本当にね、すごいそのストリーテリングとか、あとはビートスイッチのすごさっていうか。で、かつそこに負けない存在感……やっぱその存在感っていうのがめちゃくちゃ光っていたなという風に思いますし。私、いまだにその『The Melodic Blue』はよく聞くアルバムになっていますね。

(DJ YANATAKE)なんかケンドリックのさ、ラスベガスだかどこかでライブをやった時にゲストでベイビー・キーム、シークレットでバーッと出てきてめっちゃ盛り上がっていたもんね。

(渡辺志保)そうなんですよね。だから今後もね、それこそフェス事情がどうなるか分からないところでもあるけれども。でも、どんどんデカいフェスにも出まくるんじゃないかなという風に期待してますね。

(DJ YANATAKE)また今度、逆にケンドリックのアルバムにも参加しそうだしね。

(渡辺志保)絶対にするでしょう。どんな風にね、そうそう。楽しみですよね。

(DJ YANATAKE)そうか。ケンドリックも出るのか。

(渡辺志保)来年のね。今年、もしかしたら……っていう感じもするけど、まあ来年かな?

(DJ YANATAKE)では、ニュアーティスト・オブ・ジ・イヤーの国内編、行きたいと思います。国内編はなんと……該当者なし。

(渡辺志保)該当者なしかー。

(DJ YANATAKE)いや、これはあるんです。逆にありすぎて、なしみたいなところにしました。

(渡辺志保)本当に、そう。我々、この番組が22時から始まるけど。21時55分ぐらいまで、この話をしていたんですよね。

(DJ YANATAKE)一番最後まで、結局決まんなかったっていうのも正しいのかもしれないですけど。たとえば、T-STONEとか、あとは今だったらDADAとかね。めっちゃ2人ともバズッているじゃないですか。なんですけども、去年がやっぱりこの枠、LEXだったんですよね。で、もちろんそのぐらいまで行ってるのか?っていうところを比べるのもあるし。でも、なんというか、まだまだ来年かな? アルバム、2人とも来年でしょう?

(渡辺志保)そうね。さらなる活躍が見込まれるっていうね。

(DJ YANATAKE)それで今、やっぱりさ、いろいろとT-STONEもDADAもTikTokで……TikTokはやっぱりさ、アメリカとかを見ていても、どうしても一発屋製造機みたいなところありますからね。でも2人は実力がめちゃくちゃあるから、そんな一発屋では終わらないと思うんで。逆にそれを見せてもらった上でなんか、もっと番組とかで紹介させてもらいたいなっていう気持ちの方が勝ったということかな。

(渡辺志保)本当、そうですね。なので、なんか「誰もいないや」っていう感じの該当者なしではなくて、本当に繰り返すけど選びきれなかった該当者なしなんですよね。私も本当に、たとえばCYBER RUIちゃんとか、Tokyo Galちゃんとかの活躍も本当にめざましかったし。あとつい最近はCarzくんとか百足くんとか。あとはついこの間、『POPCORN』というアルバムが出ましたけども。Only Uさんとかもやっぱすごいトレンドを作ってきたっていう。今年1年を通してめちゃめちゃトレンドセッター感あったし、そのハイパーポップみたいな新しい景色を見せてくれたなっていう風に思うんですけれども。ただ、もうちょっとデカいブレイクみたいなものを彼らは作ってくれるだろうっていう、その期待を込めてという感じですよね。

(DJ YANATAKE)今、だからすごい才能がどんどん出てきているのは間違いない。で、今年作った土壌……今、出てきたような名前は来年、バーンとぶちかましてくれればね、我々ももっと。まあ、そんな偉そうなあれじゃないんですけども。逆に紹介させていただければ、嬉しいなって。

(渡辺志保)本当ですよ。お話をさせていただければっていう感じです。というわけで、苦渋の決断で該当なしということで、私とヤナさんが決めたんで。もう苦情は受け付けますっていう感じです。

(DJ YANATAKE)次はソング・オブ・ジ・イヤーですかね。

(渡辺志保)これも本当、9時55分まで悩んだ。マジで悩んだ。

(DJ YANATAKE)特にUSな。

(渡辺志保)で、まず今年のベストソング・オブ・ジ・イヤー、USのヒップホップ。私たちが選んだのはJ・コール『m y . l i f e feat. 21 Savage, Morray』でございます。

J. Cole『m y . l i f e [feat. 21 Savage, Morray』

(渡辺志保)まあ、これも異論がないといえばないのかもしれない。まあ、すごく皆さんの心に刺さる曲であったことは間違いないが……。

(DJ YANATAKE)僕はもう、アルバムを聞いた時はこれが一番最初、キャッチーに聞こえて好きでしたね。ファラオ・モンチサンプリングなんでおじさんホイホイだったんだよね。

(渡辺志保)っていうこともあるし。やっぱりJ・コールと21サヴェージのコンビっていうのはもう既にね、『a lot』の大ヒットがありますから。そこで間違いないなっていうのもあったし。そこに今回はモレイという、あの渋めの声で歌う男性シンガーがまた入ってきて。さらにすごい深みのある作品になったなと思うし。モレイもこのJ・コールのアルバムがきっかけで非常に高く評価を得たというところもあると思いますので。まあ、そういったところも含めて、この『m y . l i f e』を選んだんだけど。でも本当に本当に悩んだのは、あとはポロ・Gの『RAPSTAR』もめっちゃ悩んだの。

(DJ YANATAKE)そうなんだよね。そこは1個、ゲームチェンジの瞬間だったじゃない? ミーゴスをアルバムチャートで倒してね、1位を取ったから。

(渡辺志保)そうそう。今年の夏、ポロ・Gの『Hall of Fame』っていうアルバムとミーゴスの『Culture III』が同日発売だったんですよね。で、知名度とかから言うとミーゴスがより売れるんじゃないかと思ったけれども、蓋を開けてみたらポロ・Gがビルボードチャートの首位をそれで獲得したっていう。私は結構それが、そもそもミーゴス好きだったし。結構びっくりで。今年、完璧に世代交代したんだなっていうのを感じたんですね。

で、この『RAPSTAR』は記録的にも申し分ないですし、キャッチーだし。ウクレレの音色とかもね、めちゃくちゃ耳に残るから。本当に間違いなく今年を代表する1曲ではあるが……でも、ちょっとこれはあとでまた話すかもしれないけど。やっぱりJ・コールのラッパーとしてのすごさみたいなものに私は圧倒されたなっていう。それも今年、自分の感想としてはあるので、『m y . l i f e』を選びましたね。

(DJ YANATAKE)やっぱなんかJ・コールの説得力が1位にさせましたね。

(渡辺志保)重みっていうかね。だからカーディ・Bの『Up』とかもめっちゃ悩んだし。もちろんカニエ・ウェストの『Off The Grid』とかも悩んだんだけど。取りあえず、今年のベストソングはJ・コールのこの『m y . l i f e』に決めました。

(DJ YANATAKE)というわけで、じゃあ国内編に行きますか。これはでもね、最初から決めてました、みたいな。行ってみたいと思いますけども。『INSIDE OUT』が選びますソング・オブ・ジ・イヤー、国内編は……BAD HOP『Friends feat. Vingo, JP THE WAVY, Benjazzy, YZERR & LEX』でございます。

BAD HOP『Friends feat. Vingo, JP THE WAVY, Benjazzy, YZERR & LEX』

(渡辺志保)あらららら。まあ、でも予想をしていた方もいらっしゃるのではないでしょうかっていう感じですね。

(DJ YANATAKE)これ、どれだけみんなが「ありがとう!」とかさ、クラブで……(笑)。

(渡辺志保)たしかに。本当だね(笑)。

(DJ YANATAKE)いや、これはVingoの頭から最高ですよ。だし、さっきの「モブモブしいビデオ」っていう意味ではこれが本当にいいですよ。本当はビデオ・オブ・ジ・イヤーでもいいんですよ。だし、本当に今年、『BAD HOP WORLD』のデラックス盤が出て、そこに新曲がたくさんは入っていたんで。どんなデラックス盤を出してくるのかなと思ったんですけど、『Suicide』のリミックスから始まりましたけど。この『Friends』はもう本当に……さっきの日本語ラップをうまくかけるのがDJのキーワードだ、なんて言いましたけども。どんだけこの曲にDJのみんな、助けられました?

(渡辺志保)そうか。現場でもねっていうことね。でも本当、今までBAD HOPってあれだけの活動をしてきながら、自分たちの作品外からゲストを呼ぶことっていうのが皆無だったわけですよね。で、そこにやっぱりこのデラックス盤でガツンとみんなが聞きたいアーティストが全員入っているみたいな。で、この『Friends』でWAVYくんと、ちょっと世代が1個下のLEXくんを呼んだっていうのも熱いなって思いながら聞いてましたね。

(DJ YANATAKE)ここで、やっぱり本当にいい曲といい環境とさ、いいアーティストとが呼び合われあうとさ、本当にカマしあっているっていうかさ。「いや、まあなんかやってます」みたいな感じで言うけどさ、めちゃくちゃ頑張っているだろうしさ。もう、これWAVYくんも素晴らしいですけどね。最後のLEXくんも……もちろんBAD HOPも、どこを取っても最高です。『Friends』。

(渡辺志保)輝いている1曲っていう感じですね。では、『INSIDE OUT』が選んだ2021年のベストアルバム。これも非常に悩みに悩んだが、さっきとちょっと重なるところもあるが、今年はベストアルバムのUS編、J・コールの『The Off-Season』に決めました。異論は、認めません(笑)。

J.Cole『The Off-Season』

(渡辺志保)で、なぜか?っていうと、さっきもヤナさん、ちょっとTikTokのこととかもおっしゃってたけど。やっぱりその瞬発力のあるヒットに我々は頼り過ぎていないか? 迎合し過ぎていないか? みたいなのが私の中でもちょっとあって。で、この『INSIDE OUT』でもこの『The Off-Season』が発売された時に言ったかと思うんですけれども。やっぱりJ・コールのMCとしての愚直さっていうか、ストレートさ、真面目さみたいなものが非常に表されたアルバムだったなという風に思うんですよね。で、彼はバスケも本当にプロ級なレベルでやってますけども。

(DJ YANATAKE)なんなら1回、プロに行ったもんね。

(渡辺志保)アフリカのリーグに入りましたし。で、このリリースの時におっしゃってたのが、「ラップもバスケもシーズンオフの時に頑張って。そこでスキルを付けて、初めてそこで自分のものになるんだ」みたいな。なんか、そういうマインドでがっつりラップを真剣に、もう人生かけてやってますみたいなことがこのアルバムを通してすごい私は感じてしまって。だから今、私が……まあ個人的なあれで申し訳ないけど。今、私が聞きたかったラップアルバムってこれかもなっていう感じもしました。で、『Rolling Loud』の雨の中でやっていたパフォーマンスもすっごいもう、すさまじいものもありましたし。なんかそういったものも全て含めて、J・コールのアルバムを選んだっていう感じです。

(DJ YANATAKE)これはね、もちろんいろんな時代の移り変わりがあって、それぞれのヒットの仕方が出てきたり、変わったり。俺らもそれを頑張って追いかけなきゃいけないし。それがトレンドを作っていることは間違いないんですけど。やっぱりね、ここでアルバム・オブ・ジ・イヤーで『The Off-Season』は、なんか去年にZORNくんの『新小岩』を選んだ時のようなね。

(渡辺志保)そうかも。初心に返るじゃないですけど。

(DJ YANATAKE)「なんかやっぱりラップってかっけー!」みたいな。それをアルバムを通して。

(渡辺志保)そうそう。やっぱりドレイクの『Certified Lover Boy』とかももちろんいいアルバムだし。商業的にもめっちゃ成功してるけど。でも、なんかそのやっぱりトレンドに押されてる感が透けて見えるっていう感じがあって。あと、本当にタイラーのアルバムとかカニエの『DONDA』とかとも悩んだんですけど。でも今、ラップでヒップホップでっていうことを考えると、この『The Off-Season』だったかなという風に感じておりますね。私は。

(DJ YANATAKE)なので、ラップでここまで説得力をアルバムで聞かせてくれるものが逆にフレッシュに見える瞬間というか。

(渡辺志保)本当に本当に。そうそういう感じでした。で、日本の方では……ということになりますが。どうでしょうか?

(DJ YANATAKE)はい。これも54分まで悩んでましたね(笑)。

(渡辺志保)ああでもない、こうでもないとねという話になりましたけれども。

(DJ YANATAKE)はい。決めました。『INSIDE OUT』が選ぶアルバム・オブ・ジ・イヤー、国内編は……LEXで『LOGIC』でございます。

LEX『LOGIC』

(渡辺志保)うわー、悩んだね。これも悩んだけどね。本当にね。なんか、LEXに頼りすぎな1年になっていいのかというところもありますが。

(DJ YANATAKE)でも、そんぐらい引っ張っていたし。もちろんやっぱりさ、危なっかしさみたいなのは今でもあるだろうけど。でも、どんどん人間として成長してるっていうか。

(渡辺志保)そうですね。本当に何かこう、災害があった時には皆さんに呼びかけるとか。あと、すごいリマーカブルだと思ったのはちょっとホモフォビアっくなリリックが出た時にも真摯に謝る、謝罪する姿勢を見せたりとか。そういったところも本当に新しいなって。世間的には当たり前かもしれないけど、ヒップホップの、この国内のヒップホップシーンということにおいては新しいなという風に思いましたしね。

(DJ YANATAKE)そうだね。まあ、その『NAMIMONOGATARI』の時にもさ、話になったけどさ。やっぱりもう本当に新しいリーダーになってくると思うんですよ。LEXは。やっぱりそういうSNSを通して見えてくる世界っていうのはさ、俺らにもすごく近くてさ。なんか、そういうところのアティテュードひとつひとつ、もう本当に見られているんだよね。評価されているんだよね。だからやっぱり、別にさ、なんか全員が善人じゃなきゃいけないとも思わないし。全員が道徳感にのっとっていなきゃいけないなんて全く思いませんけど。

でも、その彼らが自分の中で考えたこととか、出てくるものが見えちゃうから。それで何を見せてくれてるのかな?っていうのはみんな、見ているんだよね。だからそういうのも含めて、やっぱり1個1個、成長じゃないですけど。そういうを感じる面白さがまたこのアルバムに詰まってるような気がしますよ。

(渡辺志保)本当に。まあ『LOGIC』ね、まだ聞いてない方はいらっしゃらないかとは思いますけれども。ぜひ聞いていただきたい今年の作品ですね。というわけで残すところ最後の部門になりました。もうスーパー駆け足でお届けしてまいりましたが、最後に残しているのはアーティスト・オブ・ジ・イヤーという部門でございますね。

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