渡辺志保 YoungBoy Never Broke Againアルバムチャート1位獲得を語る

渡辺志保 YoungBoy Never Broke Againアルバムチャート1位獲得を語る MUSIC GARAGE:ROOM 101

渡辺志保さんがbayfm『MUSIC GARAGE:ROOM 101』の中でYoungBoy Never Broke Againのアルバム『AI YoungBoy 2』がビルボード・アルバム総合チャートで1位を獲得した件について話していました。

(渡辺志保)続いて、このコーナーではYoungBoy Never Broke Againのアルバム『AI YoungBoy 2』について特集でお届けしたいと思います。なかなか聞き慣れない名前かもしれないですけども。というか、名前が長いよね。YoungBoy Never Broke Again。で、またの名を「NBA YoungBoy」。こちらでも知られている若手ラッパーですね。で、「Broke」には「壊れる」っていう意味もあるけど「破産する」とか「金がない状態になる」っていう意味もスラングではあって。「絶対にもう金をなくすことはない=常に金持ちだ」っていう、そういう意味を込めた名前がYoungBoy Never Broke Againというラッパー名なわけです。

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で、彼はルイジアナ州出身の20歳。まだまだ若いラッパーということなんですけれども。ルイジアナっていうとニューオーリンズがね、あります。大きな都市です。なのでルイジアナ出身のラッパーってすごく多くてですね。有名なところだと、それこそギャングスタ・ラップの歴史を作ってきたマスター・Pもそうですし。あとはリル・ウェインとかね、あのへんもみんなルイジアンナのニューオーリンズ出身ということです。で、彼が『AI YoungBoy 2』という最新ミックステープアルバムをこの間、リリースしたばかりなんですけれども。これがなかなか面白い記録を更新しておりましたので。それで今日はこのコーナーで取り上げたいなと思った次第です。

で、なにが面白いかというと、この『AI YoungBoy 2』というアルバムがなんとビルボードのアルバム総合チャート1位を記録したんですよ。で、いまやヒップホップのアルバムがチャートのトップを飾るということは全くもって珍しくなくて。このコーナーでも以前紹介しまししましたけれども、最近だとダベイビーの『KIRK』というアルバムとか。あとはポスト・マローンのね、『Hollywood’s Bleeding』も言うまでもなくっていう感じですけども。あれも総合アルバムチャート1位を獲得したという。ただ、YoungBoy Never Broke Againってもちろんラップ好きにはすごく知られた存在ではありますけれども、そんなに全米規模で熱い支持基盤があるラッパーってことではぶっちゃけないんですよね。

発売初週で1億4500万回のストリーム再生回数を記録

で、彼がアルバム首位を獲得した理由なんですけれども数字がですね、なんと発売初週が1億4500万回のストリーム再生回数。1億4500万回。1週間で。すごい! で、その数字がだいぶ後押しになってアルバムチャートで1位になったんですけども。ただ、CDの売上としては約3000枚のみの数字しかつかなかったってことなんですねね。これ、おそらくパッケージとして……「フィジカルCD」と言いますけれども。店頭に並んだディスクにプラスして、たとえばiTunesとかでアルバムを1枚デジタルで販売するっていうこともありますけども。そのデジタルもフィジカルも合わせてですね、約3000枚にとどまってしまったという売り上げの枚数だと思います。

かつてはですね、たとえばそれこそリル・ウェインが全盛期に『Tha Carter III』というアルバムがありましたけども。あれとかもCDが初週に100万枚売上げて。それでチャートの1位を獲得したっていう背景もあるんですけど。いまや初週3000枚の売り上げだけでもストリーミングの回数が多ければ全米首位を獲得するんだなっていう。それがすごく……そのストリーミングと実際のアルバムの販売数の差がこれだけ大きくても1位になれちゃうんだっていう。そのマジックみたいなものが非常に面白いなと思ったわけです。

で、全く逆の場合もありまして。ストリーミングは弱いんだけれども、CDの売り上げがめちゃめちゃ大きくて、それで1位になったアーティストっていうのも、今年2019年においてもまだまだいまして。その最たる例というのがあのテイラー・スウィフトなんですよね。テイラー・スウィフトの最新アルバム『Lover』に関してはこの逆の現象が起きていて。熱心なファンが買っているCDとしての売り上げ。彼女はいろんなね、「バンドル商法」って言いますけども。グッズを付けたりして、CDプラス何かを一緒に売るっていうのが彼女のひとつのマーケティング方法ですけども。

その売り上げが大きくて……あまりストリーミングは振るわなかったものの、そのCDの売り上げが大きくてアルバムチャートの1位を獲得した。なので、本当にいま、音楽業界と言いますか、このビルボードのチャートひとつを取ってもいろんな内訳がある。いろんな角度からのその1位への上り詰め方があるということで。ますます混沌としそうだなと思った次第です。で、このYoungBoy Never Broke Againくんなんですけども。なぜこれだけストリーミングで数を稼いでるかと言いますと、その理由のひとつとしてはですね、彼は結構お騒がせタイプのラッパーで。

今年の夏にしばらくの間、ちょっと刑務所に入ってきて。で、出所したのが今年の8月ということでして。私もすごく思い出深いんですけども、今年の5月にマイアミで行われた ローリング・ラウドという一大ヒップホップフェスに遊びに行ったわけなんですけれども。そこでこのYoungBoy Never Broke Againもステージに立っていた。ただ、すごいのはその数時間前にシューティング……銃撃事件に彼自身が巻き込まれてるんですよ。で、何者かによって銃で撃たれてしまった。それは彼自身じゃなくて、なんと彼の恋人が撃たれてしまったという。

で、その数時間後にはもう普通にステージに立って……まあ彼の胸中は図りかねますけども、自分の恋人が撃たれた数時間後にステージに立ってフェスに出てる。で、その数時間後に彼自身もその襲撃事件に関わる余罪で逮捕されてしまったっていう、この数時間の間にすごいドラマティックな事件が起こっていて。で、幸い撃たれた恋人も命には別状はなかったんですけども。すごいやっぱりそのいまのヒップホップというか、いまのアメリカの黒人の若者を取り巻く環境っていうのを私も垣間見た気がしてですね。彼のライブでのステージっていうのは非常に忘れられないものになったんですね。

ただ、そういったものが良くも悪くも話題を作って、若者たちの数字というか注目を集めている。であるがゆえに、この1億4500万回のストリーミングの数字をたたき出したんじゃないかなっていう風に思っております。というわけで、実際にどういうラップをするアーティストのか、ここで1曲聞いていただきたいと思います。ではお届けしましょう。YoungBoy Never Broke Againで『Carter Son』。

YoungBoy Never Broke Again『Carter Son』

(渡辺志保)はい。いまお届けしたのはYoungBoy Never Broke Againの最新ミックステープ『AI YoungBoy 2』から『Carter Son』をお届けしました。で、この曲のリリック、歌詞の中でも言っているんですけども。「I’m the top on YouTube, fuck a new school, I don’t use no Vevo」っていうラインがありまして。「俺はYouTubeのトップにいる」っていうラインがあるんですけども。YouTube、私も普通に使いますけども。じゃあ、どれだけの数字を持っているんだ?っていうことで彼のページを見てみたら、YoungBoy Never Broke AgainくんのYouTubeチャンネル、登録者はなんと600万人以上。

で、この「600万人」っていう数字も多いのはわかるけど、どれだけ多いのか?っていうのはちょっとわからないよっていうことで。ちょっとわかりやすいところでHIKAKINさん……日本のトップYouTuberであられるHIKAKINさんは何人ぐらいかな?って見てみると、777万人。これもまあ、めっちゃ多い数字だけど。でもYoungBoy Never Broke Againが600万人。HIKAKINさんが777万人ってあの、めっちゃ多いし100万人以上の差はあるけども、まあ大きな目で見たらに近いっちゃ近いっていう風に思った。無理やりね、思ったのね。

なので、日本のトップYouTuberさんにはちょっと劣るが、それぐらいの数字を持っているということですよね。で、日本のYouTuberの方も音楽活動をしてらっしゃる方、たくさんいると思うけど。やっぱりすごい人数をライブとかでも集められるわけじゃないですか。なのでなんとなくの感覚だけど、トップYouTuberが曲を出すと……しかもそれにすごく話題性が乗っかると、こんだけチャートの数字にね、そしてストリーミングの数字に反映されるんだみたいなことが、ちょっとわかりにくいかもしれないけど私の実感として感じたところではあります。

で、実際にYouTubeの音楽チャートでは1位になっているんですよね。だから「Top on YouTube」っていうのは本当に間違いない事実でして。で、このいま紹介した歌詞の中に「I don’t use no Vevo」っていうラインがあって。「Vevo」っていうのはこれもYouTubeでアーティストの公式のミュージックビデオを見る時に端っこの隅の方にですね、「Vevo」っていうロゴが入ってるのを見たことがある方……特に洋楽をよく聞いてらっしゃる方ならたくさんいると思いますけど。Vevoってそういうアーティストのオフィシャルの作品をYouTubeに流通するディストリビューションみたいな機能なんですよ。

なんだけど、このYoungBoy Never Broke Againに関してはそのディストリビューションすら使わず自分で直接アップロードして、それがこんだけ数字につながっていて金を稼いでるんだぜっていう。そういったことを自慢したいという、そういうラインがね、ちゃんと歌詞の中に入ってるっていうことですね。で、さらに私が驚いたのはこのアルバム『AI YoungBoy 2』なんですけども、目立った事前の告知とかは一切なくて。

アルバムの宣伝は自分のSNSだけ

自分のSNSだけで宣伝したんですよ。しかもそれがアルバムの数日前ということで。まあ、普段「アルバムを出しますよ」ってなったらまあ、正攻法で言うと数ヶ月前から準備をして。「◯月◯日にここに広告を出す」とかね、「◯月×日からこのプロモーションを始める」とか。そういったもの、セオリーがもちろんあると思うんですけれども。もう自分のSNSだけで告知して1位を取れちゃうんだからすごい時代ですよね。

で、最近そのアルバムのサプライズリリースっていうのがここ2、3年本当に続いていて。まあ本当にその最たる例がカニエ・ウェストっていう感じもするんですけど。ドレイクとかも全く事前告知なしでいきなりサプライズでアルバムをリリースする。その「いきなりリリースする」ということ自体がもうプロモーションになってるという、そういうご時世なんですけども。またね、ひとつのやり方をこのYoungBoy Never Broke Againくんが証明してくれたのかなという風に思います。

で、もうひとつ、ちょっと面白い点がですね、このアルバムなんですけど目立ったフィーチャリングアーティストが全然いないんですよ。1曲だけQuando RondoとNoCapというラッパー……2人とも結構ハードコアなラッパーですけれども。その2人をフィーチャーした曲というのが1曲あるだけで。で、フィーチャリングゲストの名前を使って宣伝したというわけでも全く無いんですよね。なので、たとえばデビューアルバムとかでもすごく豪華なゲストを招いたりとか。

この間、紹介したダベイビーのアルバムなんかも、チャンス・ザ・ラッパーからグッチ・メイン、ニッキー・ミナージュなどヒットラッパーがこぞってフィーチャリングアーティストとして参加して。それでヒットになるっていうその図式は本当によくわかるっていう感じがするんですけども。このYoungBoy Never Broke Againはゲストラッパーもミニマム。宣伝もミニマム。なんだけども、YouTubeとかストリーミングサービスで膨大な数を稼いで。だから本当に若者の支持基盤が厚くてチャートの1位に輝いたという面白い例でした。

なので、本当にヒットの作り方の構造自体がどんどんと変わっているなというのを、いまのヒップホップシーンを見ていれば常に感じることではありますが、またひとつ面白いやつが出てきたなと思った瞬間でした。ということで、このYoungBoy Never Broke Againの最新ミックステープ『AI YoungBoy 2』からもう1曲、お届けしましょう。『Make No Sense』。

YoungBoy Never Broke Again『Make No Sense』

<書き起こしおわり>

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