黒沢薫 幡ヶ谷・喫茶 壁と卵・ポークビンダルーを語る

黒沢薫 幡ヶ谷・喫茶 壁と卵・ポークビンダルーを語る アフター6ジャンクション

ゴスペラーズの黒沢薫さんが2021年12月7日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で2021年のベストカレーを3つ、紹介。そのうちのひとつとして幡ヶ谷の喫茶 壁と卵のポークビンダルーについて話していました。

(熊崎風斗)さて、ここからは聞いた後に世界の見え方がちょっと変わるといいな、な特集コーナー「ビヨンド・ザ・カルチャー」。

(宇多丸)早速ですが今夜のメインディッシュにまいりましょう。ゴスペラーズ黒沢薫さん、2021年ベストカレー、ひとつ目はどちらのどんなカレーなんでしょうか?

(黒沢薫)はい。幡ヶ谷にあるお店、喫茶 壁と卵のポークビンダルーです。

(宇多丸)はい。ということで今、スタジオにその現物。喫茶 壁と卵のポークビンダルー。今日は熊崎くん、大変にお腹を空かせてやって来ていますね。

(熊崎風斗)もうこのために完全に胃袋、調子合わせてきましたよ。

(宇多丸)僕は昼にちょっとリンガーハットを入れてしまいましたけども。全然、お腹が空いてます。ああ、おいしそう! 匂いもいい!

(黒沢薫)はい。喫茶店なんです。で、壁と卵っていう名前の通り、すごい村上春樹さんの大ファンの夫婦がやってるお店で。村上春樹さんのことが好きになると、必然的に故・安西水丸さんのことも意識するようになるので。

(宇多丸)あのイラストの。

(黒沢薫)なので、カレーが好きになるんですよ。で、それぐらいの村上春樹ファンで。だからその店の中にも安西水丸さんのリトグラフとかが置いてあったりするんですけれども。元々、中目黒のレッドブックで修行をしていた主人のお店なんですけれども。レッドブックっていう店自体が実は旧オレンジツリーっていう、もう今はなくなってしまったお店。すごい名店があったんですけど。そこのレシピを踏襲していますが。それをさらに自分流にアレンジして……という形になっています。で、喫茶店のカレーなので、バランスが「ああ、辛い! こんなの食えない」でもないし、「うわっ、これはちょっとぬるいな」でもなくて。非常にやっぱりコーヒーに合うようにできているというところがすごく……あとはもう、「喫茶店カレー」っていうジャンルがあるとするならば、それの最上級品がこちらだと。

(宇多丸)いやー、喫茶店でだってこんな……まず、まだ我々はこれ、口にはしてませんけども。香りの時点で。

(熊崎風斗)しかも自分でインターネットで調べても、ここはたぶん喫茶店だからたどり着かないので。嬉しい!

(宇多丸)好事家たちはこれはもう、押さえてるわけですね?

(黒沢薫)そうですね。これは本当に、食べてみるとわかるんですけど。なにも過不足がないんだけど、あくまで優しい。で、なんか懐かしいんです。「ああ、喫茶店のカレーってこういう感じの雰囲気、あるよね」っていうところがありながら、でもそれがちゃんとアップデートされていて。とてもお勧めの……。

(宇多丸)ちょっと見た目の描写もちょっと実況しておいた方がいいんじゃない?

(熊崎風斗)これ、結構なんか「ポーク」っていう名がついてるだけあって、かなりルウよりも豚肉がガッガッガッとですね、見栄えがいいみたいな感じもありまして。横にお野菜とか、付け合わせのものもあったりして。

(宇多丸)あと、これね。パパドが。

(黒沢薫)パパドもついていて。で、ご飯がね、バスマティライス。インド米なんですね。

(宇多丸)いや、だからいわゆる喫茶店カレーっていうので想像されるものでは全くないですね。

喫茶店カレーらしからぬ見た目

(黒沢薫)だから最初はみんな、びっくりするし。「本格的だ!」と思って食べ始めるんですよ。で、本格的な味なんですけど、なんか食べ終わった後は「ああ、喫茶店のカレー、おいしいな」っていう風になるんですよ。

(宇多丸)ああ、ちゃんと喫茶店感に着地するんだ。マジか!

(黒沢薫)それで最後にコーヒーを飲むと「ああ、いいな」って。

(宇多丸)なんかアチャール的なものも。

(黒沢薫)そうです。アチャールがついていてね。だから本当にしっかりしていて。世界観もしっかりしているんですけどもね。

(宇多丸)じゃあ、これはいつも、このカレーをいただきながら、黒沢さんがこのカレーからイメージしたというか、このカレーの構造をまさに体現すると言っても過言ではない音楽を選んでいただいているわけなんですよね?

(黒沢薫)まあ、このカレーはやっぱりどちらかというと店のセレクトで今回、選んでみたんですけども。村上春樹さんのデビュー作『風の歌を聴け』のラジオDJがかけるというすごい有名なシークエンスがありまして。そこでかかっていた曲が結果的にこのカレーにぴったりという。これね、R&Bとか、いわゆるそのヒップホップとかじゃなくて。もうリズム・アンド・ブルースになってくるんですね。この曲を聞きながら食べていただきたいという。

(宇多丸)曲紹介をお願いします。

(黒沢薫)はい。ブルック・ベントンの『Rainy Night in Georgia』です。

(宇多丸)そして喫茶 壁と卵のポークビンダルー、いただきまーす。

Brook Benton『Rainy Night in Georgia』

(黒沢薫)このイントロがこの香りです。この漂っている香りです。

(宇多丸)ああ、たしかに!

(黒沢薫)この甘い感じね。

(宇多丸)甘いけど、ちょっとギターの酸味。これが酸味。そして……じゃあ、いただきます。

(黒沢薫)このカレーは思ったよりも中域が豊かです。はい。スパイシーだから、ひょっとしたらドンシャリなんじゃないかと。高域と低域が来るかと思うと、意外と中域を重視しているんですよ。でも、高域と低域がないわけではないという。

(宇多丸)いや、ちゃんと……なんだろう? 「バランス」とおっしゃってましたけどね。全部の音がバランスよく……。

(黒沢薫)で、このあたりからたぶんビンダルーの酸味が、甘酸っぱさが来ると思うんです。このサビの切ないコード進行が……。

(宇多丸)Bメロに向けてね。

(黒沢薫)そうですね。でも、コードがいいんです。これ、あんまりコードが動きすぎない感じなんです。ビンダルーとしてはちょっと酸味をわざと弱くして作ってあるんですね。これ。

(宇多丸)ああ、そうなんだ。これで弱めなんだ。

(黒沢薫)そうなんです。本当はもっとガツンと酸味が来る西インドのカレーなんですけども。そこはちょっとチューニングをして。あくまで優しい形に。

(熊崎風斗)たしかに優しい。

(宇多丸)うまっ! なんだ、これ? どう、熊崎くん?

(熊崎風斗)なんか全部が本当に黒沢さんがおっしゃったように強過ぎないですね。酸味も辛味も強過ぎないんですけど、全部が三位一体というか。おいしい! イナダさんも召し上がってます。イナダさん、いかがですか?

(イナダシュンスケ)おっしゃっていた「本格的なんだけど、喫茶店のアップデート版」っていうのがすごくわかります。だってこの後にコーヒーを飲んだり、ケーキを食べたりしても……。

(黒沢薫)そうなんです。これだと邪魔をしないんですよね。なんでちょっとね、やっぱりしっとりしてるんです。なんか湿度がある感じなんですね。で、これはもうやっぱり『Rainy Night in Georgia』だと。ジョージア州は元々湿度が高いですから。

(宇多丸)ああ、そうなの?

(黒沢薫)ええ。アメリカの中でも割と湿度が高い方なんで。しかも「Rainy Night」ですから。この湿度感っていうのはすごく、しっとり感もぴったりっていう。

(宇多丸)優しい。優しいけどちゃんと鳴っている。パパドも途中でポリポリやるといいかもしれない。

(黒沢薫)そうですね。これまたアクセントになりますね。

(宇多丸)パパドはおせんべいみたいなやつね。

(黒沢薫)豆のおせんべいですね。

(宇多丸)これ、コーヒーもいいけど、やっぱりちょっとビールも行きたくなるな。

(黒沢薫)ビールも置いてあるお店ですね。で、スイーツもコーヒーも全部おいしいです。

(熊崎風斗)たまたまコンビニコーヒーが横にあったんで一緒に行きましたけど……半端じゃないですね。本当にコーヒーに合うっていうのが今、コーヒーを飲んでみてよくわかりました。

(黒沢薫)お店だとドリップしたコーヒーがあるということですね。

(宇多丸)へー。粋な店だな。喫茶 壁と卵。これは幡ヶ谷のどのへんなの? 徒歩2分だって。

(黒沢薫)ちょっとね、隠れ家的な場所にあるんですけども。で、休みがたしかに2日間ぐらいあるのかな? だからそのへんだけ……でも今はね、SNSでチェックできますから。

(熊崎風斗)火曜と水曜が定休になっていますね。

(宇多丸)お値段がこれ、ポークビンダルーは1100円ということで。お店、行ってみたいです。村上春樹の世界、それ自体に浸りながら更に……ですもんね。

(黒沢薫)実はその村上春樹さんの小編集『カンガルー日和』の中に『とんがり焼の盛衰』っていう、もう知る人ぞ知る作品が出てくるんですけども。とんがり焼きっていうお菓子を元にした話なんですけど。そのとんがり焼きを自分で作ってしまっていて。「とんがり焼きってこんな感じじゃない?」っていう。

(宇多丸)ああ、イメージして?

(黒沢薫)それがね、めちゃくちゃうまいんです。スイーツとして。

スイーツ・とんがり焼きもおすすめ

(黒沢薫)焼き菓子とスイーツとカレーとコーヒーと。まあ、ビールもありますし。全てがすごくバランスのいいお店ですね。

(宇多丸)まさにカレーとか全部が、食もカルチャーと一体化している店って感じね。

(黒沢薫)そうなんです。

(宇多丸)すごいね! 黒沢くん、このお店!

(黒沢薫)すごいんですよ。だから……でもね、流行りすぎちゃうと僕、入れなくなっちゃうから。ちょっと困る(笑)。

(宇多丸)じゃあ、ここから先はちょっとぼかした感じで。「かふぇほははお」みたいな。

(熊崎風斗)そうですね(笑)。

(宇多丸)ちゃんと言いましょう。壁と卵(笑)。

(熊崎風斗)改めてお伝えしますと、京王電鉄京王新線・幡ヶ谷駅から徒歩2分のところにあります喫茶 壁と卵のポークビンダルー。こちら、ご紹介いただきました。価格1100円。テイクアウトも可能。定休日は火曜日と水曜日となっています。

(黒沢薫)他のカレーもあるんですけど、それも全部おいしいです。

(宇多丸)これ、でもやっぱり1食目……やっぱりさ、食べ終わったけど全然ドプッとしてないし。爽やかですらある。

(熊崎風斗)1食目としてよかったですね。

(宇多丸)流れ、考えているもんね。これね。

(黒沢薫)今日は結構流れをちゃんと考えないと。どのカレー屋さんもやっぱおいしく食べてほしいので。そこはこだわりました。

(宇多丸)黒沢くんが1年間、悩みに悩んで。カレーを食べながら、気が気じゃないっていう(笑)。

(黒沢薫)カレーもだけど、音楽(笑)。合わせる音楽チョイスがもう、これが一番毎年悩むところで。

(宇多丸)もうさ、当たり前のようにやらせてるけどさ。それが大変なんだよね(笑)。

(黒沢薫)だってさ、そんなカレー評論家、1人もいないんですよ?

(宇多丸)それはいないけど……それはいない方がおかしい。それは黒沢くんがやっぱりやっていかないとね。

(黒沢薫)まあ、そうですね。

(熊崎風斗)唯一無二ですよ。

<書き起こしおわり>

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