町山智浩さんが2021年8月17日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカ軍のアフガニスタン撤退により攻勢に出たタリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧し、勝利を宣言した件について話していました。
“They literally sold us out, there was no government resistance.”
Afghans in Herat and Kandahar express shock and anger at the swift fall of their cities to the Taliban https://t.co/ovaUnbQZhT pic.twitter.com/F0Vg3EuVH0
— Al Jazeera English (@AJEnglish) August 14, 2021
(町山智浩)今日はアメリカっていうか、僕の家の近所は結構大変な感じなんですね。アフガニスタンでですね、原理主義の勢力タリバンが首都カブールを制圧しまして、勝利を宣言したという形なんですけども。
(赤江珠緒)そうですよね。もう空港も大変なことですよね。市民が殺到して、アフガンから逃れようとしていますけども。
(町山智浩)もう既に、アメリカに協力してこの前の体制だったガニ政権側にいた人たちの処刑が始まってると言われていますけどね。で、僕はすごくアフガニスタンの人たちは非常に親しい存在なんですよ。というのはアメリカにアフガニスタン系の人たちは15万人ぐらい住んでるですが。その最も多く住んでるのはこの近所なんですね。フリーモントっていう街に一番住んでいて。そこは電車ですぐなんですよ。家から。で、そのへんにかなりの多くの人たちが住んでいて。
だから子供の学校とかも一緒だったりするんですけども。もう随分前から難民の人たちがこっちに移り住んでますんで。で、やっぱり彼らの話とかを聞いてると、まあタリバン政権というのはすさまじいものだったんですね。で、特にここで育ったカーレド・ホッセイニさんという作家の人にインタビューをしたことがあったんですけども。
彼は『カイト・ランナー』という小説がベストセラーになって、映画化されて。『君のためなら千回でも』というタイトルで映画化されたので、まあ彼に話を聞いたんですけれども。本当にひどいことがタリバンの政権下で行われていて。その中で一番ひどいのは公開処刑ですよね。で、処刑する相手は女性ですからね。
(山里亮太)うわあ……。
公開処刑される女性たち
(町山智浩)つまり、女性には自分で自由に結婚をしたり、恋愛をする自由がなくて。13歳とかで無理やり嫁に出されてしまって。一夫多妻制でね。で、夫以外の人に顔を見せたとか、そういうことで……夫とか親以外の人には顔を誰にも見せちゃいけないんですよ。で、それを疑われたりしたら、みんなが石を投げて殺すんですよね。
(赤江珠緒)うわあ……。
(町山智浩)でも、男の人が女の人に手を出しても、男は何もされないからね。女性だけを殺すんですよ。まあ、それが結構いろんなところで報じられてることなんですけども。もっと詳しく、そういったアフガンで起こっていたことみたいなものを知ることができるのは、アニメーションになるんですが。子供向けのアニメーションがありまして。Netflixで今、見れるんですけども。『生きのびるために(The Breadwinner)』っていうタイトルのアニメーションがありまして。それはパキスタンに逃げてきた人たちからの聞き書きを集めて作った物語なんですけども。そのタリバン政権下で女の子たちに読み書きを教えているお父さんがいるんですね。っていうのは、女性は読み書きをすることは禁じられているからです。
(赤江珠緒)そうですね。教育を禁じられていますもんね。
(町山智浩)で、学校に行くこともできないので、そういうお父さんがいまして。ところが、そのお父さんが言いがかりをつけられて政治犯で逮捕されてしまう。そうすると、アフガニスタンのそのタリバン政権下では女性は女性だけで外出することを許されてないんですよ。だから、その一家は……生活ができなくなるわけです。だから、娘が髪の毛を切って、男の子のふりをして働きに出るっていう話がその『生きのびるために』というアニメーションなんですね。だからそういう状況がタリバン政権が戻るとまた復活するんじゃないかと。
(山里亮太)それで、ああやって国外に何とか出ようとしてる人たちが……。
(赤江珠緒)そうですよ。だって飛行機にすがりついていくっていう、普通では考えられないような事態になってでも逃亡しようとするんですもんね。
(町山智浩)はい。女性は昨日までは大学とかに行けてたんですけど。政治家になったり、あとは教育大臣が女性だったりしたんですね。で、そういった人たちの今後は非常に危険だと思いますよ。で、これでやっぱり一番問題なのはバイデン大統領だと思います。「アフガンの人たちが私たちと一緒に戦う気がないんだから、彼らのために戦う必要はない」っていうことで撤退を正当化する演説を今日、したんですけれども。でも、そこに残された人たちがどうなるか?っていうことなんですよね。
で、これはすごく悪いメッセージを世界中に……日本に対しても発していることになって。これは「アメリカは、危険だったら逃げる」っていうメッセージになっちゃっているんですよ。で、これはアメリカのために戦った人たちを裏切った形になっているんで、これは非常に国際社会の中でアメリカに対する信用度をものすごく落とすことになると思いますね。
(赤江珠緒)そうですね。
国際社会でアメリカの信用度を落とすメッセージ
(町山智浩)はい。非常によくない選択をしたと。ただ、やっぱり他の地域と違ってアフガニスタンっていうのはそこをアメリカが友好国としたところで、メリットがほとんどないわけですよ。何も出ないんだもん。そのために、これだけのアメリカ兵が死んでいる。で、やっぱり損得勘定で出たんでしょうけども。でも、損得勘定では計算できない、そこに住んでる人たちの運命っていうものがあるんですよね。
(赤江珠緒)そうですよね。でもアメリカもそれ、ちょっと手を付けた状態で撤退というのはね……。
(町山智浩)すごく難しい選択だったとは思うんですけれども。やっぱりこれはすごく裏切りになってしまったなと思いまして。ちょうど、そういったことを描く映画が続けて日本で公開されるので、今回2本(『ホロコーストの罪人』『アイダよ、何処へ?』)、紹介したいのですが。
(赤江珠緒)はい。
(中略)
(町山智浩)(ユーゴスラビア紛争の映画『アイダよ、何処へ?』を紹介して)そう。これはひどい。それで結局、8000人以上がそれで殺されているんですよ。これはね、スレブレニツァの大虐殺と言われている事件なんですけれども。でね、この2つを映画を見るとね、やっぱり今のアフガニスタンと繋がってくるところがあるんですよ。「守る」って言ってきた人なのに。ねえ。これは厳しいですよね。
(赤江珠緒)それ以外にもう救いがないっていう状況でね。
(町山智浩)そうなんですよ。でも、自分の命が危うくなったらじゃあ、どうするのか?っていうね。これはね、もう本当に厳しくて。今、国際社会がアフガニスタンに対してね、何ができるか?っていうことになってくると思うんですよ。今、タリバンの裏側に中国ロシアがつこうとしているんで。まあ、アメリカはどのような形でこの状況に対して対応していくのかってことはまだ、何も正式に表明されていないんですけどね。でも、少なくとも難民の人たちは引き受けなきゃなんないと思うんですよね。日本も含めてね。
(赤江珠緒)そうですね。
(町山智浩)これから起こることで、非常に恐ろしいことが起こらないようにしないとならないと思うんですけども。すでに1回、起こっていることなんでね。
(赤江珠緒)もうずっと、本当に同じようなことを繰り返してますね。
<書き起こしおわり>