町山智浩さんが2021年7月6日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でネットフリックスで配信中の『アメリカ THE MOVIE』を紹介していました。
(町山智浩)それで今、アメリカは建国記念日ということで。全て独立記念日の行事ばっかりになってるんですけども。で、映画とかも独立記念日向けの映画がネットフリックスとかで公開されたり。テレビもね、子供向けの番組で朝の番組。特に土曜日の朝っていうのはアメリカは漫画ばっかりやっているんですよ。土曜日とか日曜日は。で、こういう時期っていうのは大抵、そのアメリカの建国の父であるジョージ・ワシントンの伝記アニメとか、子供向けのドラマとか、そういうのをやるんですね。
で、大人向けのも作られまして。日本でも見れるんですが。今日、紹介するのは『アメリカ THE MOVIE』というネットフリックスの独立記念日向けアニメです。これはさっき言ったみたいにジョージ・ワシントンとかのアメリカの革命……イギリスと戦って独立した時の英雄たちのアニメなんですが。絵柄的にはそういうアメリカ独特のアメコミ調のアニメでやってるんですけども、大人向けなんで。なんというか、子供は見れない内容になっています。
(赤江珠緒)子供が見れない内容?
(町山智浩)子供は全く見れない内容になっています。っていうのはね、ジョージ・ワシントンがイギリス軍と戦うんですけれども。その戦う方法がですね、両手にチェーンソーを持って振り回してイギリス兵の首を切りまくるんですよ。
(赤江珠緒)ええっ? ジョージ・ワシントンが?
(町山智浩)で、「お前ら、桜の木の話は知ってるよな? 桜の枝はこうやって切るんだ!」って言いながら、イギリス兵の首をバババッと切りまくるんですよ。
チェーンソーを振り回すジョージ・ワシントン
3️⃣. America: The Motion Picture | @Netflix
Welcome to an utterly bonkers animated rewriting of American history where beer replaces tea at the Boston Tea Party and George Washington and Abe Lincoln are besties
The 10 movies you should watch this weekend: https://t.co/qDW5R87jqJ pic.twitter.com/NyJEue4PhS
— UPROXX (@UPROXX) July 2, 2021
(赤江珠緒)ええっ! あのエピソードをネタにしちゃうの?(笑)。
(町山智浩)そう。「どういうこと?」とか思うんですけども。そうすると、切られた生首とかから血がビュービュービュービュー吹き出すっていうね、めちゃくちゃな内容になっています。すごいです。で、日本ではネットフリックスで字幕がついて見られるんですけど。英語では、もういわゆるその「Fワード」という……まあ、ファックってやつを言いまくってめちゃくちゃになってるんですけど。で、イギリス兵の方も結構めちゃくちゃで。イギリス兵は2階建てバスでやってきます(笑)。
(山里亮太)ロンドンのね(笑)。
(町山智浩)そうそう。時代違うんですけども。2階建てバスにロボットみたいに足が生えたイギリス軍が攻めてくるっていうね、もうめちゃくちゃな内容になってるんですけど。で、なんでアメリカがイギリスに対して……元々は植民地だったわけですよね。アメリカはね。そこでイギリスから移住した人たちが自分たちの母国であるイギリスに対してなぜ、反逆を起こしてアメリカを独立させたか?っていう、その理由というのはですね、紅茶ばっかり飲まされるからっていう話になっているんですよ。
これ、違うのにね。本当の話はアメリカの人たちが普通に紅茶を飲んでいたら、その紅茶に対してイギリス政府がものすごく税金を高くかけてきたので、それに対して「我々は(選挙権がないため)政治的な議員をとかを選んでいない。選挙に参加できないのに税金だけ取られるのはおかしい!」っていうことで、アメリカの人々は武器を取って戦ったわけですが。
(赤江珠緒)ティーパーティー事件。習いましたね。
(町山智浩)そう。ボストン茶会事件ですよ。で、イギリスが運んできたお茶を海に捨ててね。で、そのボストン茶会事件のリーダーをしたのがサミュエル・アダムズという人なんですよ。で、それが全然違う話になっていて。「アメリカ人は本当はビールを飲んでパーティーをしたいのにお茶ばっかり飲まされて。ムカつくぜ!」っていうことで反乱を起こすっていう、全然違う理由になっていますね(笑)。
(赤江珠緒)すごいちっちゃい話になってるけど(笑)。
(町山智浩)すごいちっちゃい話になっているんですよ。っていうのはこれ、アメリカ人が見ると結構笑うのは、そのサミュエル・アダムズっていうボストン茶会事件のリーダーはアメリカではビールのブランドになっちゃっているんですよ。今。
(赤江珠緒)ああ、本当だ! ラベルになってる!
Samuel Adams‼️
American beer?
他にもバドワイザー、ミラー有ります?
七夕祭り始まったけどね?
暇なbarでゆっくりやるのも、良いよ?? pic.twitter.com/XEMfAari4A— Little New York (@Littlenewyork2) August 2, 2019
(町山智浩)そうなんです。で、アメリカ人でもあんまり勉強しない人はこの人はただのビール会社の親父だと思っている人が多いんで。
(赤江珠緒)嘘でしょう?(笑)。
(町山智浩)本当は革命の英雄なのにね。で、ビールを飲みたいというだけ革命戦争を起こすという話になっちゃっていて。もうめちゃくちゃなんですよ。ただね、その紅茶っていうのはイギリス側がアメリカ人を手懐けるための洗脳のための薬になっていて。アメリカ人がその紅茶を飲むとイギリス人になっちゃうという話になっているんですよ。
(山里亮太)めちゃくちゃだな……。
(町山智浩)そう。洗脳されちゃう。「改造されて従順なイギリス人になってしまう。だからお茶を飲むな!」って言ってるんですけど。で、その紅茶を飲んでアメリカ人がイギリス人になるっていう表現はね、歯並びがぐちゃぐちゃになるっていう表現になっているんですよ。これはね、アメリカ人は「イギリス人の歯並びが悪い」と思い込んでるんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そういうイメージがあるんですね。アメリカの中で。
お茶を飲むとイギリス人に洗脳される
(町山智浩)アメリカの中でのイメージがあるんですよね。これはね、アメリカ人の中にすごく根強く残る偏見なんですけども。彼らの考え方は「アメリカには貧富の差はないんだ」っていう。実際にはあるんだけどね。「イギリスで貧富の差がひどいから、貧しい人は歯を治すことができないんだ」っていう、昔からある……。
(赤江珠緒)歯の矯正をしてないと?
(町山智浩)そうそうそう。昔からあるイギリス人に対する偏見をこういうアニメで茶化してるんですけど。で、その他にもいろんなね、なんていうか政治ギャグばっかり詰まってるんですけど。たとえばイギリス兵たちが酒場で飲んでるんですね。その酒場のお店の名前が「ベトナム」っていうお店なんですよ。で、ジョージ・ワシントンが「そこに乗り込んであいつらと戦おう!」とか言うんですけども。そうすると「いや、やめとけ! 我々、アメリカ人はベトナムに入ると2度と出られなくなるぞ!」って言うんですけども。
それはベトナムにアメリカ軍が攻め込んで、ベトナム戦争になって、泥沼になったっていうことを茶化してるんですけどね。実際、ベトナム戦争よりもアフガン戦争の方が長くて、泥沼もひどかったんですけどね。そういうことをね、延々とやるというね。あと、内容的にひどいのはね、アメリカ人たちは要するに軍人じゃないんですよ。みんなね。ほとんどが農民なんですね。アメリカに来て畑を耕したいからの移民してきた人が多かったので。最初は。ところが、イギリス側はちゃんとした正規軍なんですよ。非常に訓練された軍隊で。
「それとどうやって戦うんだ? 我々は武器なんか持ってないじゃないですか!」とか言うんですよ。すると「ああ、アメリカではね、武器を買う時はスーパーマーケットに行けばいいんだ」って言うんですよ。で、スーパーに行くと、「あのー、これから反乱戦争を起こすんだけど。ライフルください」って言うと「はいはいはい。どうぞどうぞ」ってくれるんですよ。
(赤江珠緒)えっ、もう時代が……(笑)。
(町山智浩)そう。それは今のアメリカがそうだから。それで「身元のチェックとか、しないの?」「ああ、別にいいよ、いいよ。どんどん持っていって」ってスーパーで言われるんですけど。
(赤江珠緒)わー、そうやって皮肉っているところもあるんだ。
武器はスーパーマーケットで調達
(町山智浩)そう。皮肉っているんですよ。だから全然アメリカ側もよくも描かれていないんですけど。で、「こうして革命を起こして、アメリカ人は平等になるの?」とか言うと「じゃあ、黒人はどうするの?」とかね。「先住民の土地を奪っているよ?」とか。みんな怒っていたりとかですね。そうやって悪いところもちゃんと見せてるんですけどね。あと、ジョージ・ワシントンは行き当たりばったりで。あんまり何も考えないという典型的なアメリカ人になってるんですよ。勢いだけの人になっていて。で、こういう……歴史的事実とは全然違うんで、全く勉強にはならないんですけど。この建国の父たちを徹底的にギャグにするっていうことができるのは、やっぱりアメリカだなと思いますね。
(赤江珠緒)そうですね。
(町山智浩)これ、日本ではできないよね?
(赤江珠緒)そうですね。ナンセンスギャグの世界に引きずり込んでいる感じが……。
(町山智浩)そう。だから建国記念日に神武天皇コメディとかをやってもいいと思うんですけども。
(赤江珠緒)日本だとね、そういう話ですね(笑)。
(町山智浩)でも、やらないですね。「やるな」って誰も言ってないですけど、誰もやらないですが(笑)。元ネタを知らない人が多すぎてギャグが通用しないのかもしれないけど。でもね、やっぱりアメリカはこういうのやっちゃうところがね……すごいバカバカしいんですが。で、本人たちがアメリカ自体もバカにしてるんですけど。自分で。自虐ギャグなんですけども。そういうところも面白いなと思いますね。
(赤江珠緒)歯の矯正とか、町山さんに聞かなかったら意味が分からなかったかもしれないですね。見てもね。
(町山智浩)これ、結構ね、わかんないんですよ。ネタが(笑)。勉強した人だけが笑えるという。ということで、アメリカは今、もう完全に再起動です。ものすごい元気になっています。
(赤江珠緒)そうなんですね。『アメリカ THE MOVIE』はネットフリックスで配信中でございます。そして町山さんも7月5日、お誕生日。今日? そっちで言うと。おめでとうございます!
(山里亮太)おめでとうございます!
(町山智浩)もう嬉しくないですよ。来年で還暦になるから。
(赤江珠緒)あれですね。大谷翔平くんと同じ?
(町山智浩)そうですね。なのでみんながお祝いしていると、お祝いされているみたいでいいですよ。この誕生日。
(赤江珠緒)いやいや、おめでたいです(笑)。
(町山智浩)いつもみんな、(独立記念日の)花火でお祝いしてくれるから。毎年。3億人が(笑)。
(赤江珠緒)そうか(笑)。ありがとうございました。
(町山智浩)はい。どもでした。
『アメリカ THE MOVIE』予告編
<書き起こしおわり>