町山智浩『ユニコーン・ウォーズ』を語る

町山智浩『ユニコーン・ウォーズ』を語る こねくと

町山智浩さんが2024年5月21日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『ユニコーン・ウォーズ』について話していました。

(町山智浩)その『関心領域』を超えるものが映画なんですよね。『関心領域』の外側を見せてくれるものなんでね。それで今日、紹介する映画もそういう映画なんですけど。これもたまたま今週、公開なんだ。俺がこういう風にアレンジしてるわけじゃないんですけどね(笑)。でも、今週公開なんですよ。『ユニコーン・ウォーズ』という映画を紹介します。

(曲が流れる)

(石山蓮華)おっ、ユニコーンだ。こっちのユニコーンなんですか?

(町山智浩)いや、全然関係ないです(笑)。ユニコーンだから、かけたかっただけです(笑)。奥田民生さんは出ていません。『ユニコーン・ウォーズ』っていうのはこれ、スペインのアニメなんですよ。で、ポスターを見てもらえばわかるんですけれども、ピンクとかブルーのかわいいクマちゃんですね。テディベアとユニコーン、一角獣が戦争をするというアニメです。で、まあかわいい絵なんですけれども、全く子供向けではありません。お子さんは連れていかないでください。セックス、ドラッグ、バイオレンスです。はっきり言って。

(石山蓮華)子供向けじゃないんですね。

(でか美ちゃん)イラストはめっちゃかわいいですよ。キャラデザインは。

(石山蓮華)おめめきゅるきゅるの、まんまるのクマちゃんですね。

(町山智浩)あのね、これは監督が言ってるんですけど。ケアベアって、わかります?

(でか美ちゃん)はい! もう蓮華・でか美世代はみんな一度はグッズ、買いましたよ。ケアベア。超流行ったよね!

(石山蓮華)流行っていた! 雑貨屋さんとかにもいろんなグッズありましたし。カラフルなクマちゃんですよね。

(町山智浩)ねえ。虹色の、いろんな色のクマちゃんがいて。ケアベアなんで子供たちを見守ってくれるっていう話ですけども。そのアメリカ製のキャラクターグッズで。そのケアベアがユニコーンと戦争するっていう話なんです。これが。で、アルベルト・バスケスさんっていうね、1980年生まれのスペイン人のアニメ監督が作った映画なんですけども。彼はね、ディズニーのアニメの『バンビ』ってありますよね? 「『バンビ』とベトナム戦争映画を混ぜたかった」っていう風に言ってるんですよ。

(石山蓮華)へー!

(町山智浩)で、とにかくね、戦闘シーンが凄まじくて。首がもげたり、内臓が飛び散ったりするんですけど。もうね、『伝説巨神イデオン』のように人が死にます。わかる人にわかるんですが。

(でか美ちゃん)えっ、めっちゃ死ぬってことですよね?

『伝説巨神イデオン』のように人が死ぬ

(町山智浩)めっちゃ死ぬってことです。イデオンのように死ぬんですよ。でね、まずこれ、クマちゃんたちの新兵訓練から映画が始まるんですよ。で、要するに徹底的に鍛えられるわけですけど。鬼軍曹がいてね。「お前ら、クズだ!」って言いながらクマちゃんたちを徹底的にしごくんですけど。ここはね、スタンリー・キューブリックのベトナム戦争映画『フルメタル・ジャケット』のパロディになってるんですよ。あれはね、ものすごい汚い言葉でベトナム戦争に行く前の兵隊たちを徹底的に罵倒するんですよ。あれはね、実際に行われてることです。

(石山蓮華)ああ、そうなんですね。

(町山智浩)あれはね、ものすごく馬倒することによって心に壁を作るようになるんですよ。傷つくから。で、それで『フルメタル・ジャケット』……つまり鋼鉄製の装甲を心にすることによって、ベトナムに行って人が殺せるようになるっていう。

(でか美ちゃん)そうか。もう、そこから始まってるんですね。人を殺せる人間にするための。

(町山智浩)そうなんですよ。柔らかい心のままだったら、行ったら、心が壊れちゃうから。行く前に、ものすごい罵倒をして。要するに「お前なんか、お前のお父さんと母さんがセックスした時に漏れた精液からできたゴミ人間なんだ!」とか言うんですよ。ひどいことを言うんですけど。

(でか美ちゃん)完全に否定するんだ。

(町山智浩)完全に否定するんです。

(石山蓮華)なんか「ほほえみデブ二等兵」とかっていう言葉が出てきて。その『フルメタル・ジャケット』の悪口のバリエーションに結構、びっくりした記憶があります。

(町山智浩)あれはすごいんですよ。あれ、本当に新兵訓練をやっている人がやったんですけど。ロナルド・リー・アーメイっていう人が。ただ、あまりにもひどいからだんだん感じないように、心に壁を作るんですよ。兵隊さんたちは。それによって戦争に行けるようになるっていうシステムなんですよね。あれね。で、この『ユニコーン・ウォーズ』はここでですね、鬼軍曹から徹底的に何を言われるか?っていうと「お前ら、男なんだ! へなちょこじゃないんだ。女じゃないんだ!」っていう風に言われるんですよ。すごい差別的な形で教育されるんですけども。主人公のクマちゃんはですね、アスリンという名前の青い、ブルーのクマなんですね。

で、このアスリンはすごく「自分は男だ。男らしい!」って言ってるんですよ。で、彼には実は兄がいて。兄も一緒に軍隊に入ってるんですけど。彼はゴルディと言うんですけど。ピンクのクマちゃんで。彼はすごく、なんていうか、フェミニンなんですね。心優しくて、大人しいんですよ。おっとりしてるんですけど。そうすると、もう徹底的にいじめられるんですよ。「お前、男なのか!」とか言われて。で、このクマの部隊が戦争に行くわけですよね。で、森の中に入ってるんですね、森にユニコーンがいるということになっていて。で、そこでですね、その森の中に芋虫がいてですね。その芋虫を食べると、ラリラリにラリって……(笑)。

(でか美ちゃん)なるほど(笑)。

(町山智浩)もう超トリップして……っていうことになるんですが。その中でトリップしていくうちにですね、敵のユニコーンと出会って。で、ユニコーンってね、元々の設定は「ものすごく凶暴」っていう設定になっているんですよ。神話の中に出てくるユニコーンってね。凶暴なんだけれども、汚れなき乙女に会うとおとなしくなって……っていう伝説があるんですよ。だからユニコーンって、汚れなき乙女の象徴ともされてるんですけどもね。ところが、そのクマが攻めてくるもんだから、ユニコーン側も角がありますから、それで反撃してくるわけですが。で、まあ血みどろでぐちょぐちょで内臓が飛び散るわ、もうとんでもないんですけども。

(でか美ちゃん)なんか本当に絵柄から想像できないですね。そのシーンが。

(町山智浩)でも、この絵柄だから見れるんですよ。逆に言うと。

(石山蓮華)そうですね。たしかに。実写だったらかなりきついですね。

(町山智浩)ねえ。で、そのへんの戦闘とかはね、『地獄の黙示録』とか『プラトーン』っていうベトナム戦争映画をモデルにしてるんですが。ただね、これは「『バンビ』をベトナム戦争映画と合体させた」っていう風に監督は言ってるんですが。『バンビ』って実は結構凶悪な映画なんですよ。

実は凶悪な映画『バンビ』

(でか美ちゃん)ちゃんと見たことないですね。ディズニーの『バンビ』って。

(町山智浩)ああ、見たことがないですか?

(でか美ちゃん)はい。ちっちゃい時に見たかもだけど、覚えてないですね。

(石山蓮華)私は子供の時に見て、なんとなく火事のシーンがあったような、ないような……。

(町山智浩)そうなんですよ。『バンビ』はトラウマ映画のひとつで。アメリカだと子供に見せる時に注意書きがあるんですよ。というのは森にね、人間たちが入ってきて『バンビ』ンのお母さんを撃ち殺しちゃうんですよ。

(でか美ちゃん)そんな、結構ちゃんとか悲しいシーンが……。

(町山智浩)しかもバンビって最初、かわいいじゃないですか。ところがだんだん成長していくに従って、鹿ってね、男同士で戦って勝ち残ったたった1人だけがその森を支配するんですよ。一夫多妻制でね。だからバンビはその後、男同士で徹底的に戦って。敵を蹴散らして森の王になってくっていう。後半ね、『刃牙』みたいな話ですよ。『バンビ』って。

(石山蓮華)じゃあ、地球最強のバンビに?

(町山智浩)あれ、刃牙のお父さんが地球最強の男なんですけど。バンビもずっと、父親が遠くで見張ってるんですよ。バンビのことを。で、「お前は虎になるのだ!」とか言ってるんですけど。「鹿なのに?」とか思うんですけども(笑)。

(でか美ちゃん)本当ですよね(笑)。

(町山智浩)そう。戦わなきゃなんないですよ。鹿って。

(でか美ちゃん)それを聞くと、そうか。それと『バンビ』とっていうのは、納得感がある。

(町山智浩)そう。強烈な話なんで。で、クマちゃんたちがその芋虫を食べてラリってトリップするって言ったじゃないですか。

(町山智浩)あれもね、実は伝統的なアニメを継承していて。それは『ダンボ』なんですよね。

(でか美ちゃん)ああ、おっきい耳のゾウさんの。

(町山智浩)そうそうそう。『ダンボ』ってアメリカ映画史上最高のドラッグトリップシーンがある映画なんですよ。

(でか美ちゃん)へー!

(町山智浩)あのね、ダンボがお酒で酔っぱらって、すごいトリップするんですけど。その映像がすごいんです。すごいんで、一時期はLSDとかやる人はみんな、ダンボを見ていたという話があったんですよ。

(石山・でか美)へー!

(町山智浩)そういうものだったんですよ。

(石山蓮華)黒い画面にピンクのゾウがふにゃふにゃふにゃって出てきたりするような映像ですよね?

(町山智浩)すごい悪夢的なね、『ダンボ』のトリップシーンがすごいんでね。本当に……。

『ダンボ』の飲酒トリップシーン

(町山智浩)で、あと監督はね、その他にも『もののけ姫』にすごく影響を受けてるって言ってるんですよ。『もののけ姫』って結構、強烈な内容だったんですよ。あれ。

(でか美ちゃん)結構私、ちっちゃい時に見てショッキングでしたよ。いろんなシーンが。『もののけ姫』、その印象はすごいあります。

(町山智浩)ねえ。タタリ神とか、なんか体中からウジがわいているみたいな怪物が出てきて。

(でか美ちゃん)生首みたいなシーンとかね。

(町山智浩)あと、アシタカがすごく強くて。アシタカの弓に射られた人は首がもげたり、腕が飛んだりするんですよね。

(石山蓮華)ポーン!って飛んでますよね。

(町山智浩)そう。あの感じなんですよ。この『ユニコーン・ウォーズ』って。結構きついんですよ。でも絵がかわいいからね。宮崎駿監督の作品も絵がかわいいけど、あれをリアルにやったらとんでもない内容ですよ。三池崇史の映画とあんまり変わらないですよ。やっていることは。

(でか美ちゃん)でもジブリも大人から人気がありますけど。たしかに子供向けじゃない話もありますもんね。『もののけ姫』とかもね。

(町山智浩)強烈なんですよ。でも、それはディズニーからずっと続いてる伝統なんでね。はい。でね、これはさらにその奥の深いところがあって。まずね、そのクマの軍隊は「お前ら、男か!」とか言われているんですけども。あ、ちんちんも出てきますよ? 日本ではどうか、わかんないけども。クマの、テディベアのちんちんなんか、カットしてないと思うんですけど。かわいいからね。ただね、それをわざわざなぜ出すか?ってことなんですよ。これね、ユニコーンっていうのは実はゲイのシンボルなんです。

どうしてそうなったか、ちょっとわかんないんですけど。こっちの方、僕が住んでるサンフランシスコの方ではゲイパレードとかがあると、みんなユニコーンのマークとか、つけてるんですよ。ゲイのシンボルになっていて。だからその「男だ! 男だ!」って言ってるテディベア軍隊がユニコーンと戦いに行くっていうのは非常に象徴的な話なんですよ。で、さらにこのティディベア軍の中には、軍隊の中に神父さんがいるんですよ。

(石山蓮華)神父さん?

(町山智浩)カトリックのお坊さんがいて。

(でか美ちゃん)ああ、でもいますね。メインビジュアルにも。なんかこう、聖書のようなものを持っているクマちゃん、います。

軍隊の中に神父がいる意味

(町山智浩)そうそうそう。これはね、実はスペインではすごく軍とか国家主義とカトリック教会が結びついてるんですよ。結びついてるというかね、癒着していて。もう中世ぐらいから、軍隊には必ず神父が同行してたんです。で、中南米をスペインは侵略しましたけど。あの時も「カトリックの布教をする」っていう名目で侵略してるし。で、その1930年代にフランコ将軍という軍人がクーデターを起こして。スペインを軍事独裁政権にしたんですけれども。その時もカトリック教会がすごく癒着して、一緒にやっていたんですよね。

で、そのへんをね、ちゃんとスペイン映画なんで出してるんですけど。それで彼らは宗教があって。神父がついてくるのね。で、彼らの聖書の中では「過去に楽園があって、その楽園にクマちゃんも住んでたんだけど、そこからユニコーンによって追い出されてしまった。楽園を追放されたから、その楽園を取り戻すためにユニコーンを森から追い出そうとしてるんだ」っていうことで、戦争してるんですよ。で、これはもちろん聖書のエデンの園の話ではあるんですけれども……これは今、起こっているイスラエルがパレスチナを侵略してる状況も同じですよね。

「昔に私たちはこの地の持ち主だったんだ」ということで侵攻してるわけなんで。これ、スペインの話でもあるんですけど今現在、起こってること全てと繋がってくる話で。だから、こんな絵だからなめてかかっちゃうんですけど。この『ユニコーン・ウォーズ』っていうのはね。でもすごくあちこちに……アメリカも今現在、宗教を盾にしてトランプを支持してる人たちが暴れいますから。で、もちろん日本もね、第2次大戦の時には「日本は神の国だ」っていう風に教育して攻め込んでいったんでね。宗教と戦争の合体っていうのは、最悪の状況なんですよね。だからそれも全部描いてて。でね、ラストはなんとね、『シン・ゴジラ』でしたね。

(石山蓮華)ええっ? ということは?

(町山智浩)「えっ? 『シン・ゴジラ』じゃん!」って思ったけれども。そういうことで、いろいろと『ユニコーン・ウォーズ』、結構すごいですよ。はい、見ればわかります(笑)。

(でか美ちゃん)うわっ、ちょっと見ないとですね。

(石山蓮華)なんか、想像がつかないというか。この柔らかい絵柄と……。

(でか美ちゃん)だってこんなの、映画館に行ってポスター貼ってあったら子供はたぶん「見たい」って言いますよ。それぐらいね、めちゃめちゃポップでキャッチーなかわいらしい絵柄なんだけど。

(石山蓮華)なんか子供の時、私が小学生の時とか中学生の時って、そのかわいい絵柄でグロテスクなものっていうのが一番、なんかドクンと来るっていう、自分のスイートスポットみたいな。

(でか美ちゃん)そういうの、あったよね。

(石山蓮華)ええとね、森チャックさんっていう人が書いた、血みどろのクマがいたんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、私もそれ、すごい思い出していたの。口から血を流しているクマちゃん。

(町山智浩)それにすごい近い。ドロドロとした感じとか、近いですよ。うん。溶けている感じ。

(でか美ちゃん)これはちょっと見たいですね。

(石山蓮華)そして先ほど、『ダンボ』のお話をいたしましたが。薬物の使用を肯定するものではもちろん、ありませんということで。はい。

(町山智浩)ああ、俺が言うからだね。俺が悪いです。

(石山蓮華)あくまでもフィクションの話ということです。ということで今日は『ユニコーン・ウォーズ』というアニメ映画をご紹介いただきました。

(町山智浩)これは今週25日、土曜日から渋谷のシアターイメージフォーラムで先行公開ですね。

(石山蓮華)そして来週31日、土曜日からは順次全国で公開されます。町山さん、今日もありがとうございました。

(町山智浩)すいませんでしたっ!

『ユニコーン・ウォーズ』予告編

<書き起こしおわり>

石山蓮華とでか美ちゃん『ユニコーン・ウォーズ』を語る
石山蓮華さんとでか美ちゃんさんが2024年5月28日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『ユニコーン・ウォーズ』について話していました。
タイトルとURLをコピーしました