林原めぐみと宮藤官九郎 庵野秀明の演出を語る

林原めぐみと宮藤官九郎 庵野秀明の演出を語る 宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど

林原めぐみさんが2021年3月5日放送のTBSラジオ『宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど』に出演。宮藤官九郎さんと庵野秀明監督の綾波レイ演出について話していました。

(宮藤官九郎)そうですね。私も読ませていただいて……やっぱりキャラから教わりました。たしかに。キャラも教わったし。キャラのことも教わって、そのキャラから何を学ぶかも教わったので、すごいたくさん学びになりました。

(林原めぐみ)ああ、嬉しいです。

(宮藤官九郎)というわけで、先週の話の続きになっちゃうんですけども。現場でいろんな監督にいろんなこと言われてきたと思うんですよ。で、ここに書いてある「女らんまは凛々しくかわいく」って……「凛々しく」と「かわいく」って共存しないですよね。これ、どういう風に切り抜けていったんですか?

(林原めぐみ)女らんまって本当は男なんですよ。まあ、ある……ちょっとギャグマンガとしてですけど。呪泉郷っていう沼に落ちて、水をかぶると体が女になっちゃう。男の気持ちのままで女としての肉声っていう。

(宮藤官九郎)なるほど。そうですね。

(林原めぐみ)とはいえ、見た目がとてもかわいらしいので。「声はかわいく行ってくれ。でも心は男だから罵倒する時とか、蹴り上げる時とか。そういう時には思いっきり凛々しくだったり、男らしくみたいな風に……」って。「で?」っていう感じでしたけども(笑)。

(宮藤官九郎)そうか。かわいいの部分は逆に言うとアニメだから絵でやっちゃってるわけですよね。自分がやることはそこにはそんなにないわけですからね。

(林原めぐみ)ない。でもちょっと、その時に使ったものとは違いますけど。ピンクの電話さんとか。(ピンクの電話のモノマネで)「みやちゃん、○○で……」とかすごい声が高いけどめっちゃ怒っているみたいな。すごく怒っていることは伝わるけども、潰さない方向っていうのをすごい探しましたね。

(宮藤官九郎)へー! ピンクの電話が参考になったんですね(笑)。

(林原めぐみ)アハハハハハハハハッ! みたいなね。でも、あのままだとやっぱり怒っているって伝わらないんですよね。(高い声で)「いい加減にして!」って言ったってやっぱりちょっと……だから、そこはアニメの嘘も含めて、多少ちょっとね、低いところを一瞬、使ったりとかしたりしましたけど。

(宮藤官九郎)あと僕、これがすごい忘れられないですけど。「バカボンはバカじゃない」っていう話(笑)。これ、ちょっと読ませてもらっていいですか?

(林原めぐみ)はい、どうぞ(笑)。

(宮藤官九郎)「林原、お前がやっているバカボンはただのバカに聞こえる。バカなのはパパだ。バカボンは家族が大好きなただの素直な男の子なんだ。バカをやろうとするな。バカを芝居で説明するな」って……これ、名言ですよね!

(林原めぐみ)ねえ! 名言ですよね! 水本さんという音響監督の方なんですけど。

(宮藤官九郎)「バカを演じるな」っていうことですよね。だから「バカはパパだ」って(笑)。「バカはパパだ」って言われたって……ビックリしましたよ! 「そうか、バカはパパだ! バカ田大学を出てるしな!」っていう。だからパパとパパのお友達がバカなだけで。バカボンはたしかにパパのことも家族のこともみんな大好きで。どっちかっていうと耐えているというか、我慢をしているキャラですもんね。「だからバカは演じなくていいんだ」っていう。

(林原めぐみ)ただついていって、楽しんで。でも、バカボンはパパのこともバカにしていないし、バカとも思っていないし。大好きなパパと大好きなママと大好きなハジメちゃん。そういう男の子だっていうことを……それで私、ついついあのバカボンのクルクルッていうほっぺと前歯が出ている感じと。そんな気持ちで顔の造形ばっかりで声のことを考えていっちゃったんだけども。もう1話でボコボコにダメ出しでしたね。「バカじゃない」って(笑)。「ああっ、バカじゃないんだ!」って思って(笑)。

(宮藤官九郎)すげえな(笑)。

(林原めぐみ)びっくりしましたね。

(宮藤官九郎)あと、綾波レイをやった時に……これは庵野秀明さんに言われたんですか?

(林原めぐみ)その通りです。

(宮藤官九郎)「レイは感情が感情がないわけじゃなく、感情を知らない」っていう。もう俺、これはちょっとごめんなさい。意味が分からなくて。

(林原めぐみ)でしょう?

「レイは感情が感情がないわけじゃなく、感情を知らない」

(宮藤官九郎)「感情がないわけではない。感情を知らない」って、それを声でやる。どういうことなんですか?

(林原めぐみ)で、一応端的に説明すると、たとえば好きな人からバレンタインのプレゼントをもらったらすごい……「うわっ、ありがとう、ありがとう!」って。「うわっ!」っていう風に声が高揚するじゃないですか。絶対に。で、本当に好きじゃない人からもらって「うわっ、まいったな、まいったな……なんでこいつがくれるのかな?」っていう時には「ああー、どうもありがとう……」って。声が沈んだりとか。だからその上だったり下だったりの部分がなくて。「もらった」っていうことに対する感謝だけ。もらった行為に対しての感情の上の部分と下の部分を全部切るっていう。

(宮藤官九郎)ああーっ! なるほど。うーん……。

(林原めぐみ)だから「痛い」っていうことは本当なんだけど、「いってー!」って言いながら。「いてててててて……だ、誰か。ちょっとなんか冷たいもん、持ってきて」っていうような「痛い」じゃなくて。「痛い」は「痛い」っていう。だけど「誰か心配して」っていうのは盛らないとか。

(宮藤官九郎)ああー。

(林原めぐみ)「誰か気づいてちょうだい」はないっていう。

(宮藤官九郎)「感情を知らない」って結構難しいですよ。なんだろう?

(林原めぐみ)だから自分の中に嫌な気持ちとか……それを「怒り」っていう風には捉えられないんだけど、嫌な気持ちがある。とか、なんかポワンと柔らかくてあったかい気持ちがあるっていう。それを「喜び」とか「嬉しい」とかっていう風には端的に表現できないんだけど。「何だろう、これ。何だろう、これ」っていう。それで彼女の中には探求心はあるので、そこには潜っていくんですけど。言葉に出てくる時にはもう一貫してストレートで「さよなら」とか「ありがとう」とか「おいしい」とか。でも、それを「うわっ、おいしい! ありがとう!」とかっていうことではなく。本当に思ったことだけを言うっていう。でも、だからそういう意味では「シンジくん、こっち」っていうセリフが『Q』の時かな? 新劇場版の時に……また、ちょっと違うレイちゃん。黒いプラグスーツのレイちゃんが出てくるんですけども。「シンジくん、こっち」だけで10何テイク、録りましたね。

(宮藤官九郎)ええーっ!

(林原めぐみ)「ちょっと招きすぎ」とか。でも、それはわかるんですよ。

(宮藤官九郎)『序』『破』『Q』っつったらもうだいぶやっているじゃないですか。

(林原めぐみ)あの、新しい子なんで。黒い子なんで。黒い子もまた新たに生まれているので。私の中で白いレイちゃんで培ってしまった、ちょっと柔らかい部分が乗ってしまったんですよね。

(宮藤官九郎)すごいですね。H原さん、やっぱり言われたことをちゃんと覚えているのもすごいし。それにそこまで、言われた言葉にちゃんと深く考察しているのがすごいですよね。俺だったら「ああー、はいはい……」って。「なんかでできた時にOKがもらえるんだろうな、これ。あんま俺はまわかんないけど。そのうち、OKするだろう。ああ、はいはい」っつって。何回もやってるうちで……「あ、それですか? ああ、それなんだ」っていう(笑)。

(林原めぐみ)アハハハハハハハハッ!

(宮藤官九郎)だから、結局捨てていく……ここでも書いてありますけども。「役作りの中でいろんなことを考え抜いていった結果、一時は『だからみんな、死んでしまえばいいのに』状態になった」っていう。

(林原めぐみ)うんうん。当時の映画のキャッチコピーなんですけどね。エヴァの。「たからみんな、死んでしまえばいいのに…」って。

(宮藤官九郎)うんうん。「監督も死んでしまえばいいのに」って(笑)。

(林原めぐみ)まあ、その同じ年に「生きろ」っていうキャッチコピーの『もののけ姫』がありましたけども(笑)。

(宮藤官九郎)ああ、あの時か!

(林原めぐみ)同じ時に。「生きろ」と「死んでしまえばいいのに」って。(宮崎駿と庵野秀明の)師弟関係で何をやっているんだ!っていう感じで(笑)。

(宮藤官九郎)フフフ(笑)。なるほど。「どっちなんだ?」っていう。

(林原めぐみ)あれ、すごいカオスな時代でしたけどね(笑)。

「生きろ」「死んでしまえばいいのに」

(宮藤官九郎)「時々、名もなき壺作り職人のようだなと思う時がある」って書いてあるんですけども。これはどういうことですか?

(林原めぐみ)「ちょうどいい壺がほしいんだよ」って言われて。「それは、なに?」っていう。でも、砕いて説明してくれる監督もいるんですけど。まあ、悪口か?(笑)。庵野さんは……(笑)。庵野さんはたぶん頭の中に完全にあるんです。音とSEと絵と動きと声と、そのなにかがバン!ってあって。それと違う時に「うん、ちょっと違う」ってすごい切なく、ものすごく懇願する目で言ってくるんですよ。

(宮藤官九郎)ええっ? 何がどう違うかは言ってくれないんだ。

(林原めぐみ)うん。「なんか、違う」っていう。「でも、これなんだよ。見て見て。俺の頭の中にある、これ!」みたいな感じで。今でこそ、指が動きそうな勢いで「違う」っていう。で、すごい質問をすると、なんかちょっとだけチラリって見えたりすることがあるんだけど。でも、言葉じゃない「ああ……」みたいな。「う、お、お……」っていうオーラで演出してくるから。「だから、壺は何で作りゃいいんだよ!?」っていう(笑)。

(宮藤官九郎)フハハハハハハハハッ!

(林原めぐみ)「土か? もっと固いのか?」とか。で、やってみて「ああ、うん。すごくいい。ので、もう1回」「どっちに行くんだ?」みたいな(笑)。

(宮藤官九郎)「すごくいいのでもう1回」って言われちゃうと。

(林原めぐみ)で、すごい録るんですよ。録って、「ありがとう。ええとね、4回目にもらったやつにする」とかって言われて。「えっ、ああ、そう。じゃあ、それで」みたいな。

(宮藤官九郎)ああーっ! 言わなきゃいいのにね、それね(笑)。

(林原めぐみ)でも「あったよ」っていうこと。それは「ありがとう」っていう意味なんですよね。「いろいろとやってもらって……でもたぶん4回目のやつがよかった」っていう。また懇願するような、すごいまなざしで言うので。「じゃあ、それで」っていう(笑)。

(宮藤官九郎)すごいなー(笑)。

(林原めぐみ)でも、仕上がるとそういうことになってるんで。もう、「ありがとうございます!」っていう感じに結果、なりますけどね。

(宮藤官九郎)なるほどねー。なんだろうね。面倒くさいっすね、演出家って(笑)。なんか今、話を聞いていてそういうこと、やるなって思って。

(林原めぐみ)でも、一緒に長くやってきた分、慣れもしたし。「違う」のその「違う」がなんとなくわかってくるように……。

(宮藤官九郎)でも、それがわかっちゃう感じがちょっとイラっとくるっていうのもあるんですよね。演出家って。

(林原めぐみ)なんだとっ!?(笑)。

(宮藤官九郎)なんていうか、あの……。

(林原めぐみ)なんだと? はじめて聞いたぞ、そんな話!(笑)。

(宮藤官九郎)いや、なんか「こう言えばこの人はこうなる」っていうことをわかったつもりで言ってそうなった時、その関係ってもうそれ以上、その先に行かないのかなって思って。わざと、合っているのに「違う」って言ってみたりとか。「あ、今、なんか引き出しから出したな? 引き出しじゃないところから出してほしかったのに」みたいなことってあるじゃないですか。

(林原めぐみ)ああー。「引き出しじゃないところから出してほしかったのに」……欲張り!(笑)。たしかに!

(宮藤官九郎)そういうことって、あるんですよ。

(林原めぐみ)わかります。そうじゃないって。決して予定調和じゃないんだけども。「そんなのがあったんだ!」っていうのが見たいっていう。

(宮藤官九郎)「何年かに1回のそれが出るといいな」っていう……「もしかしたら、引き出しの中にまだあるんじゃないか? 違う引き出しに入っているのか?」っていうのを感じさせてくれる人っているんですよね。きっとね。というか、そういうことを期待しちゃうんですよね。俺、今、どっちの気持ちで言っているんだろう?

(林原めぐみ)本当ですね(笑)。

<書き起こしおわり>

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