武田砂鉄さんが2020年11月27日放送のTBSラジオ『アシタノカレッジ』の中で小学校の学級目標や道徳の学習指導要領についてトーク。新型コロナウイルス第三波で感染拡大が続く中、記者会見を全く開かない菅首相と合わせて話していました。
(武田砂鉄)さて、僕は少し前にある教育系の出版社の編集者と打ち合わせをしてまして。「武田さん、教育の世界の言葉に着目して本を書いてみるのはどうでしょうか?」っていうお誘いを受けたんですけれども。「僕、教育関係者でもないですし……」っていう風な思いで話を聞いていたら、「武田さん、学級目標って覚えてますか?」っていう風に言われまして。「クラスごとに作るあの黒板の上とか横に張ってあるあれですか?」って答えたら「ああ、そうです。あれですよ。あれっていつ、どうやって決められたものだか、覚えてますか?」って言われたんですけれども。思い出せないんで。
そうしたら、「これが学級目標です」っていう風にその編集者が印刷してくれた紙を出してくれたんですけども。そこにはずらっといろんな学校の学級目標が載っておりまして。どういうのがあったかというと、「1人はみんなのために。みんなは1人のために」「1日1日を大切に過ごそう」と。まあこれぐらいはですね、いくらひねくれ野郎の私でも許容できる範囲で異論はないんですけれども。「あいさつが自慢。笑顔がキラリ」とかって言われて。まあ、ちょっとなんか居酒屋のバックヤードみたいだなとか思うんですけれども。
あの「あいうえお作文」で作ってるものが結構多くて。「最高(さいこう)」っていうのを縦に書いて、横に「支え合い、一番目指して、言葉づかいを大切に。うれしさいっぱい」って。もうそれぞれが分離してて話が通じませんけれども。あとはですね、ある学年の7組は「何があっても、仲良く、みんなでやり遂げよう」という風に書いてまして。これ「ななみ」……「く」がないと思っていたら、「仲良く」の「く」を反映させてそれで「ななくみ」としているらしいんですけども。
これ、学校教育に詳しい編集者に聞いてみますと、特にこの学級目標っていうのは作らなければいけないっていう風に決まってるものではなくて。あくまでも慣例的に続いているものらしいんですけれども。で、この渡された学級目標をよく見ていくとですね、ちょっとこれはさすがにどうなのかな?っていうものが出てきまして。「25人で○○小学校の土台になろう」って……「土台に」っていう考え、僕なんかは絶対によろしくないと思うんですけれどもね。あとは、「よく遊び、丈夫な体で欠席ゼロの日を増やそう」と。いや、これは体の弱い人もいますからね。無理に学校に来られると風邪が伝染っちゃったりするんじゃないかと思ったりするんですけども。
でも、これをいろいろブワーッと見ていて。「ああ、この『みんな一緒』っていう態度ってのはこういう風に徹底的に植え付けられてきたんだな」っていうことを実感したんですよね。語彙力が貧困というか、あえて貧困な語彙を使うことによって、規範とかルールみたいなものが生まれていくんだろうなという風に思いました。でも実際はですね、事細かに僕らが学級目標なんていうものを順守してたかっていうと、そんなことはなくて。「従わないこと」ということによってクラスってのは回っていくんですけども。
正直、スローガンなんてのはスローガンでしかなくて。学級目標通り暮らす人っていうのはほぼいないんですけども。たとえばこういう「丈夫な体で欠席ゼロの日を増やそう」なんていうスローガンも、数ヶ月すると、僕とか2週間前に来てくれたふかわりょうさんみたいな人がですね、「欠席ゼロ」のところを「出席ゼロ」に変えて面白がってみたりとか。絶対にそういうことをして無効化されていくものなんですよね。
で、ちょっと話は変わりますけれど今、この会話が成り立たない政治の現場に対して「学級崩壊」とか「小学生並みの語彙力だ」っていうような厳しい意見をSNSでぶつける人たち結構多いんですけど。僕はこの言い方は学校とか小学生に失礼なんじゃないかなっていう風にいつも思ってるんですよね。なぜって今、政治の現場はですね、言ってみれば学級目標的なものを投げるだけ投げて、そこからいろんな状態が変化していっても、具体的に言葉を出してくれない。その場で起きてる事を引き受けて、なかなか柔軟に対応してくれないなという風に思ってるんですよね。ちょっとこじつけかもしれないですけれども。
とにかく記者会見を開こうとしない菅首相
菅さんが今週、見ていてもとにかく記者会見を開こうとしない。昨日、ぶら下がり会見を見てましたけどもね、そこで何を言ったかというと、「国民の皆さんにおかれましてはぜひともマスクの着用、手洗い、そして3密の回避という感染拡大防止の基本的な対策にぜひご協力いただきたい。皆さんと一緒になってこの感染拡大を何としても乗り越えていきたい。ぜひともよろしくお願い申し上げます」という風に言って。それを言い終わると直ちに体を横に向けて立ち去るという、安倍さんがよくやってたのをやってまして。記者からですね、「GoToはどうなるんですか? 会見を開いてください!」と声をかけられても、答えずにそのまま過ぎ去ってしまいました。
【速報】 #菅総理 は、 #新型コロナウイルス の感染拡大を受け、飲食店の営業時間の短縮に協力した店舗にしっかりとした支援をする考えを示した。その上で、これからの3週間が感染拡大を抑制するため極めて大事な時期だとして、改めて国民に協力を呼びかけた。 pic.twitter.com/DIMAEn8hu7
— TBS NEWS (@tbs_news) November 26, 2020
(武田砂鉄)これは学校で言えば「チャイムが鳴った途端に廊下に飛び出していく先生」っていう、かなり信頼がおけないものだと思うんですけれども。この数週間で感染が拡大してきましたけれども、首相官邸のウェブサイトにアクセスして「総理の演説・記者会見など」っていうページを開くと、昨日の26日のぶら下げ会見の他に、この10日間ほどであと2回、「新型コロナウイルスの感染症対策等についての会見」というのが掲載されておりまして。まあ「会見」というよりも、ただ単にぶら下がりでしゃべっただけなんですけれども。
ここで国民に対してどんなメッセージを述べていたか? 振り返ってみると……19日にはですね、「国民の皆さんには、改めてマスクの着用、3密の回避、こうした基本的な感染対策を徹底してお願いしたいと思います」「是非、皆さん静かなマスク会食、これを是非お願いしたい、このように思います。私も今日から徹底したいと思います」という。
令和2年11月19日 新型コロナウイルスの感染状況等についての会見 | 令和2年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ https://t.co/FOkn35jMbw
— みやーんZZ (@miyearnzz) November 29, 2020
(武田砂鉄)21日。「国民の皆さんの、命と暮らしを守るのが政府の最大の責務だと思っています。今回、この現状の中で、国民の皆さんに、さらにお願いをさせていただきたいと思います。それは、スーパーコンピューターでもその効果が立証されておりますのがマスクです。是非、このマスクを皆さんが会食する際も含めて、マスク着用を心からお願い申し上げたい、このように思います。そして、手洗い、3密の回避という、この感染防止策の基本をもう一度心掛けていただきますように……」という。
令和2年11月21日 新型コロナウイルスの感染症対策等についての会見 | 令和2年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ https://t.co/kKCLj8klNY
— みやーんZZ (@miyearnzz) November 29, 2020
(武田砂鉄)まあ、ずっとこのまさに黒板の上や横にある学級目標的なことを繰り返している状況で。学級目標以外を言うとですね、「お答えを差し控える」という風に言われてしまうという。今、本当に目の前でさまざまな営みが大変なことになってるのに、その状況に対応する言葉を持てていない。何を聞かれてもすぐに職員室に帰ってしまうというような、これは学級崩壊以下というか。「この3週間が勝負」っていう風に言ってるんだけども、こちらの話を聞いてくれないという状況が続いています。
このコロナ禍で安倍首相から菅首相に変わったわけですけれども。お二人に共通するのは「その聞かれたくないことがあるのであまり長い間、記者からの質問には対応したくない」ということだと思うんですよね。安倍さんにとってはそれが「桜を見る会」だったり、「森友学園の再調査」だったり。菅さんにとっては例の「日本学術会議の話」であったり。ここに来て、この1週間は「桜を見る会の問題」も再浮上してきましたけれども。こんなにもこのリーダーシップが欠けた、血の通ってない言葉ばかりが届く状態で、私たちはまあよく頑張ってるなと思うんですけれども。
そのさっきの学級目標を出してくれた編集者がですね、「これが小学校の学習指導要領です」っていうのでぶ厚い冊子をくれたんですよね。そのぶ厚い冊子を開くとですね、道徳の授業の内容で教えるべきことっていうのが一覧になっておりまして。それを眺めていたら、「ああ、これは今、国を動かしてる人にお伝えしたいことがそのまま載ってるな」と私、気づいてしまいました。こんなことが書かれています。
国を動かしている人に伝えたい道徳の学習指導要領
小学1年生、2年生に向けて。「良いことと悪いことの区別をし、良いと思うことを進んで行うこと。自分のやるべき勉強や仕事をしっかり行うこと。自分の好き嫌いにとらわれないで接すること」という。いいことを言いますね。小学3、4年生に向けて。「過ちは素直に改め、正直に明るい心で生活すること。誰に対しても分け隔てをせず、公正公平な態度で接すること」。小学6年生に向けて。「自分の考えや意見を相手に伝えるとともに、謙虚な心を持ち、広い心で自分と異なる意見や立場を尊重すること」という。なかなか大事なことを言ってますね。
この学習指導要領とか道徳の教科書って僕はもう、いかにも格式張っていて「当たり前のことを言ってるんじゃないよ!」っていうようなね、苦手な言葉の羅列だったりするんですけれども。今、このタイミングで読み直してみると、「いや、これは本当に大事なことっすよね。それをお願いしたいですよね」と、これをそのまま国を動かす人に伝えなくちゃいけないと思えてしまうのはどういうことなんだろうかな?って思いましたね。
この「良いことと悪いことの区別をし、過ちは素直に改める」という。これを学級目標として、国会に掲げてほしいと思うので。その点を後ほど澤田大樹記者にお願いしたいなという風に思っております。
<書き起こしおわり>