武田砂鉄 2021年東京オリンピックをどうしてもやりたい人たちを語る

武田砂鉄 2021年東京オリンピックをどうしてもやりたい人たちを語る ACTION

武田砂鉄さんが2020年7月10日放送のTBSラジオ『ACTION』の中で東京オリンピックについてトーク。2021年に延期された東京オリンピックを開催するためになりふり構わない振る舞いをする人々について話していました。

(武田砂鉄)あの、手帳をめくってたらですね。再来週の24日金曜日っていうのが祝日なんですね。で、何で祝日か?っていうと、スポーツの日で。これ、東京オリンピックがやるはずだったら、開会式だったっていう日なんですよね。

(幸坂理加)ああ、そうか!

(武田砂鉄)で、体育の日だったのがこの今年からスポーツの日っていうのに改まって。海の日も変更されるので、23日から26日まで4連休になるらしいんですよね。で、出版界にはですね、印刷所が閉まるゴールデンウイーク進行と年末進行っていうのがあって。今、割と編集者から「オリンピック進行でお願いします」って言われて、いろいろ締め切りが早まってるんですよ。この、やらないオリンピックのためになんで締め切りが早まってるんだ?っていう苛立ちを感じてる現在なんですけどね。

だから本当はこの2週間後の24日の午後8時に開会式が始まるというスケジュールだったんですけど。自分、どんなテンションで放送してたんだろうな?っていう風に思いますけど。あと、今日のこの10日っていうのは聖火リレーが46の道府県を巡って、いよいよこの東京で聖火リレーがスタートするっていう日だったんですね。世田谷のオリンピック公園から始まって、狛江市、稲城市、町田市まで行くっていうのが今日だったらしいんですけど。

(幸坂理加)決まっていた人、多いですよね。

(武田砂鉄)まあ今ね、東京は新型コロナウイルスの感染者が増えてきてしまって。九州では豪雨被害も出てますけど。とてもじゃないけどこれ、開催できる状況じゃなかったと思うんですけど。でもこの東京オリンピックの開催延期が決まったのって3月の下旬で。今日のゲストでもある『女帝 小池百合子』の著者の石井さんも言及されてましたけど。このオリンピックの延期が発表されるまでっていうのは小池さんはほとんど前に出てこなかったんですね。実は。

で、オリンピックの延期が決まるまでは「五輪の開催に変更ありますか?」っていう風に聞かれても「一切ありません」という風にお答えになっていたんですね。で、先日の都知事選で小池さんは圧勝したわけですけど、その再選が決まった後に大会組織委員会の幹部が取材に対して「五輪開催に向けて一定の都民の支持を得られた」というコメントを出したんですよね。「あれ? そんなつもりだったっけ?」っていうことでポストに入ってた選挙広報を引っ張り出して、小池百合子さんのところを見たんですけど。オリンピックについての言及はないんですよね。

都知事選で「五輪開催に向けて一定の都民の支持を得られた」?

(幸坂理加)うーん。

(武田砂鉄)で、今回はテレビ討論会がなかったっていうのが問題になりましたけど。オンライン討論会ってのをやって。そこでオリンピックについて小池さんが「そもそもの原則として大会中止というのはIOCに権限があるので、ホストシティーは何もできるものじゃないですよ」という風に答えて言及を避けていたんですけど。その言及を避けていたのに当選すると「開催に向けて一定の都民の支持を得られた」ってのは何かどうもおかしいような気がするんですよね。

(幸坂理加)そうですね。

(武田砂鉄)で、「費用の追加負担はどうするんだ?」っていう話とかもあんまり議論されなかったんですけど。ちなみにこのNHKの出口調査だと「中止すべき」が36パーセント。さらに「延期すべき」が17パーセント。この2つを足すと53パーセントですね。それに対して「開催すべき」は27パーセントっていう風に出ているんで。「都民の支持を得られた」ってのはなかなかちょっと苦しいんじゃないかな?っていう風に思うんですよね。

(武田砂鉄)この選挙の前の7月1日に組織委員会の遠藤会長代行という方が安倍さんと面会をして。記者団に対して「最終的な開催の判断は来年の3月以降で間に合う」っていう風に述べたんですね。来年の3月以降ですよ? それで遠藤さんがなぜ「3月以降で大丈夫」っていう風に言ったかというと、「来年3月から6月くらいに代表選手の選考を行うので、その段階で十分対応できる」っていう風に仰ってるんですけど。

これって、じゃあ選手たちはそれまで待って、それまで頑張り続けて……っていう意味になっちゃんで。これは到底、「アスリートファースト」とは言えないし。これは「ギリギリまで判断を遅らせれば、ちょっとまたいろいろコロナとか、不完全かもしれないけど……ここまでやったら、やるっきゃない!」みたいな、あの感じの根性論みたいのが出やすくなって。だからこそ、こういう風に「3月末」とか「3月」とかって言ってるのかなと思うんですけど。

一昨日、森喜郎会長がですね、自民党の竹下派の勉強会っていうのに出て。東京オリンピックの開催の可否について「最終的な判断は来年4月になってからだろう」という見方を示していて。なんかいつの間にかまた1ヶ月、のびてるんですけど。何とかしてやりたいっていう気持ちを言いたいのわかるけど、そのために何とかギリギリまで遅らせようっていうのはやはり「選手のことを考えてないな」っていう風に思うんですけど。

これ今、日本政府が検討を始めているのが、このオリンピックに向けて外国から訪れる選手とか大会関係者を対象にした入国制限緩和の検討っていうのがされていて。これ、共同通信の記事なんですけども。「世界的にウイルス感染が収束せず、日本への入国がままならない国や地域が残る状況も想定し、早期に対応を進めて競技を実施できるよう準備を整える狙い」っていう風にあるんですよね。これ、僕なんかもうびっくりしちゃったんですけど。

つまり今、海外との往来ができないことによって、止まってるビジネスみたいなのがたくさんあるわけですよね。それなのに、まずこのオリンピックから優先するって、これはどれだけ自分たちファーストなんだ?っていう風に思うんですけど。そのオリンピックによって生じる儲けってたくさんあると思いますけど。これって日頃の商売からまたプラスアルファされるものだと僕は思うんですけど。今、こういう風に経済の土台が崩れそうになってるところに、このプラスアルファを優先するってのはいかがなものかな?って思うんですよね。

(幸坂理加)困っている企業、たくさんありますからね。

(武田砂鉄)たくさんありますからね。で、安倍さんはここのところずっと、このオリンピックについて「人類が打ち勝った証」って言うんですよね。で、現時点でその新型コロナウイルスを完全に消せるって断言できる人なんていうのはこれ、誰もいないんですけど。ずっと「打ち勝った証」っていう風に言い続けるんですよね。京都大学の山中伸弥教授がこの新型コロナとの戦いについて、3月末の時点で「これは短距離走ではなくて1年は続く可能性のある長いマラソンだ」っていう風に仰っているんですね。

専門家の方が「1年は」って……つまり、「少なくとも1年」っていう風に言ってるのに首相はワクチンについてですね、「すごく早ければ年末ぐらいには接種できるようになるかもしれない」っていう風に仰っていて。「かもしれない」という。「かもしれない」なのに「来年やる」という風に断言されてるんですよね。橋本聖子五輪担当大臣がですね、4月4日の東京新聞のインタビューに答えているんですけど。

記者が「新型コロナは収束の見通しが立ってないですけど、来年開催できるんでしょうか?」という風に聞いたらですね、橋本さんは「各国がこれまで以上に早いスピードでワクチンや検査キットの開発を進めている。コロナで経済的にも健康的にもつらい思いをしている方がたくさんいる。来年は東日本大震災から10年の節目でもある。震災からの復興。そして人類がコロナに打ち勝った証として実感していただける大会にする責務がある」っていう風に言ってるんですけど。

たしかにこの人たち、ずっと『復興五輪』って言ってたよな。それがいつの間にか『人類がコロナに打ち勝った証』っていうことに変わっていて。これが1年延びたら『東日本大震災から10年の節目』っていう言い方をするんですけど。なんかこれ、非常に失礼な振る舞いに思えるんですよね。

「復興五輪」「人類がコロナに打ち勝った証」「震災から10年の節目」

僕はね、忘れませんけど。オリンピックの招致の際の会見で当時の竹田理事長がですね、福島原発からの影響について海外の記者から問われて。「福島と東京は250キロ離れているから安心だ」っていう風に言ったわけです。つまり、被災地を切り捨てる形で呼び寄せたのに、これを「10年目の節目です」って今になって言うというのは、なんだか話がうまくないですか?っていう感じがするんですよね。こういう「10年の節目」だとか「コロナに打ち勝つ」だとか、物語ばっかり用意して、実際の対応がままならないっていうのが続いている気がしますよね。

(幸坂理加)ねえ。都合よく使わないでほしいですよね。

(武田砂鉄)それで今週、東京で感染者数が増えてきて。こういう、「こうなったらいいな」っていう物語を優先する振る舞いっていうのがすごく恐ろしくなってくるんですけど。本当、3ヶ月半前まではですね、今日の7月10日から聖火リレーを始めるつもりだったってことを思い出してほしいですし。この偉い人たちがずっとオリンピックをやりたがっていたことっていうのも思い出してほしいし。今現在、それでもまだオリンピックをやりたがっているっていうことは、これが今後どういう判断を生む可能性があるか?っていうのを考えていかなきゃいけないと思うんですよね。

今日ね、その『女帝 小池百合子』の著者の石井妙子さんがゲストにいらっしゃいますので。この都知事ののらりくらりっぷりっていうのをどう捉えているか?っていうのも聞いてみたいと思いますので、そちらもお楽しみに。

<書き起こしおわり>

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