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吉田豪『沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝』を語る

吉田豪『沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝』を語る アフター6ジャンクション
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吉田豪さんが2020年11月16日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に電話出演。おすすめ本として細田昌志さんの『沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝』を紹介していました。

(熊崎風斗)吉田豪さん入魂の1冊はこちら! 取材・執筆10年。どう考えても割に合うわけもない。だからこそ濃厚すぎる1冊。細田昌志著『沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝』。

(宇多丸)ということで、今、流れている曲は吉田豪さんがこの本にふさわしいBGMということで選んでいただいた『キックの鬼』。要するに沢村忠さんをモデルにして作られた梶原一騎さん原作の漫画。それのアニメ版の『キックの鬼』のテーマ曲ってことですね?

(吉田豪)はい。そういうことですね。

(宇多丸)熊崎くん、沢村忠さん、わかります?

(熊崎風斗)沢村忠さん、キックの鬼は僕、ポケモンを小学校の時にやっていて。キックのキャラクターでサワムラーっていうのがいて。そこから沢村さんを知ったっていう順番ですね。

(宇多丸)すごいね! そういう入り口もあるんですね。

(熊崎風斗)結構僕とかその下の世代とかはポケモンのサワムラーきっかけが多いかもしれないですね。

(宇多丸)僕もとはいえ、沢村さんのそのリアルタイムの全盛期っていうのを知ってるわけではもちろんなくて。「キックの鬼=沢村忠」みたいなことを一種の知識として知っているっていうレベルですね。なので、プロモーターの野口さんのことはちょっと存じ上げなかったという感じなんですが。どんな本なんでしょうか? 基礎情報を熊崎くん、お願いします。

(熊崎風斗)私から基礎情報をお伝えします。『沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝』は先月、新潮社から発売されました。

(熊崎風斗)この本に書かれている2人の主人公についてご紹介します。野口修さんはボクシングの野口ジムの御曹司で戦後のボクシングプロモーターです。タイのムエタイを「キックボクシング」として日本に持ち込み、沢村忠を擁して一大ブームを巻き起こした方です。ちなみにキックボクシングと名付けたのも野口さんです。

さらにそれだけではなく、芸能界にも進出。まだ無名だった五木ひろしさんを『よこはま・たそがれ』で再デビューさせ、日本レコード大賞歌手代表にまで育て上げました。そしてもう一方。沢村忠さんは1960年代から70年代に活躍した元キックボクサー。現在77歳です。当時の人気すさまじく、数々の少年誌の表紙を飾るほど。半生を描いた漫画、梶原一騎作の『キックの鬼』が発表されるとお茶の間からも「キックの鬼」の愛称で呼ばれるようになりました。

さらにすごいのは1973年には当時、野球の三冠王を達成した王貞治を抑えまして日本プロスポーツ大賞を獲得されています。その伝説は後世にも語り継がれており、ポケモンのキャラクター・サワムラーもこの沢村忠さんがモデルがあるということです。

(宇多丸)熊崎くんはここから入ったと。

(熊崎風斗)そうですね。そして、この本の著者・細田昌志さん。1971年生まれのライター。最初はピン芸人として活動した後、1997年にCS放送にて格闘技番組のメインキャスターを担当。2000年から放送作家になりまして、MXテレビ『バラいろダンディ』の作家も担当されています。2016年から水道橋博士のメルマ旬報にて「格闘技を作った男・野口修評伝」を連載開始し今回の出版に至りました。

(宇多丸)吉田さん。この著者の細田昌志さん、僕もMXテレビで玉袋筋太郎さんと『5時に夢中!サタデー』をやっていた時の作家さんで、大変にお世話になりましたし。MXでもちょいちょい顔を合わせてご挨拶をしたり、ご本をいただいたりする感じで。存じ上げている方でした。もちろん吉田さんも縁が結構深い?

(吉田豪)僕はでも、全然ないんですよ。

(宇多丸)ああ、そうなんですか。意外にも。格闘技業界的に近いのかと思いきや。

(吉田豪)はいはい。実は接点もないまま。で、もっと言っちゃうと僕、野口修さんも沢村忠さんも、その両者を取材した数少ない人間ではあるんですよ。

(宇多丸)ああ、そうなんだ。そういう意味ではすごい重なる領域ではある?

(吉田豪)ただ、沢村忠さんとかって本当、僕も宇多丸さんも世代じゃないんですよね。本当に後追いで入れた知識しかなくて。当然、梶原一騎にハマってから掘っていったらここにたどり着いた感じだったんですけど。ただ本当にね、それぐらい今の時代にそぐわない本なのは間違いないわけじゃないですか。この本って。

(宇多丸)「そぐわない」って言っちゃうとあれですけど。つまり、需要がめちゃめちゃあるのか?って言ったら……っていうことですよね。

(吉田豪)かなり無謀な本なんですよね。

かなり無謀な本

(宇多丸)しかも沢村忠さんでもね、やっぱりその「ポケモンのサワムラーで知っている」っていう人がいるぐらいで。

(吉田豪)そもそも沢村さん自身が引退してからほぼ取材を受けてないんですよ。娘さんがアイドルになった時に多少、それを売るために出たぐらいで。僕が取材できたのも沢村さんと昔からの付き合いがある人とセットでの取材だったから出てくれたっていう。

(宇多丸)じゃあなかなかスポットが当たったこともないし。ましてやそのプロモーターとしての野口修さん。

(吉田豪)そう。主役はそっちですからね。

(宇多丸)ということで、なかなかニッチなところを、しかもこれ、すごい手間暇をかけてるんですよね?

(吉田豪)そうなんですよ。取材のレベルがとんでもないので面白いに決まっている。そもそもだから野口修の時点でニーズを無視してるのに、その父親の野口進の人生から掘り下げていて。で、その野口進の人生が本当に面白いんですよ。で、ちょっとそのバックボーンが伝わるような発言があるので、ちょっと熊崎さんに読んでほしいんですよ。安部譲二さんがこういう風に証言をしていたっていう。

(熊崎風斗)じゃあ、安部譲二さんのコメントを読ませていただきます。「野口修を書くということは野口家について書くということです。そこに触れないと意味がない。あなたはそのことを分かっていますか? 野口家っていうのは特殊な家なんです。古い関係者でもその背景についてあまり知らないし、知ろうとしない。蓋をしているものを開けることになりかねないから。いろんなものが出てしまいかねないから。あなたはそのことをわかった上で取材をしていますか?」という。

(宇多丸)安部譲二さん、盛り上げるな! こんな盛り上げ、ある?(笑)。

(吉田豪)ねえ。元安藤組の人がここまで言うっていうということは、よっぽどだぞ?っていうね(笑)。

(宇多丸)そうですよね。元々そういう裏社会にいらっしゃって、そのことを書いて……っていう。そんな安部さんが「触れてはならぬ」ってどういうことだ?っていうね。

(吉田豪)で、安部譲二さん自身が沢村忠とは違う団体でキックの解説者を実はしていたんですね。で、当然野口家とも繋がりがあって。それで安部さんがすごいのはヤクザの現役をやりながらキックの解説者をやってたんですよね。

(宇多丸)ああ、なるほど。当時はそういう時代だったっていうかね。

(吉田豪)そうなんですよ。で、やっぱり本当にお父さんの人生がとんでもなくて。お父さんが「ライオン野口」と呼ばれたボクサーで、ボクサーとしてもすごかったんですけど。右翼団体の一員でもあって。タクシーの運転手との喧嘩に加勢して日本刀で相手の右手首を切り落として逮捕されたとか。

(宇多丸)ちょっと……いやいやいやいやいやいや(笑)。

(吉田豪)上野駅で若槻礼次郎っていう元首相にテロを仕掛けて逮捕とか。

(宇多丸)いやいやいやいやいやいや。もう歴史の教科書級の事件を起こしているよ……。

(吉田豪)井上準之助という元大蔵大臣邸の爆破事件を起こしたりとか。労働者の大会で大暴れしたりとか。

(宇多丸)ものすごい大マーク人物じゃないですか。

(吉田豪)完全な政治犯なんですよ。ただの。で、しかも捕まっている時に児玉誉士夫と出会って興隆が始まり……みたいな(笑)。

(宇多丸)右翼界の大物中の大物。

(吉田豪)そうなんですよ。とんでもない人脈の中でそういう活動をしてきた人で。しかもボクサーとして現役で。逮捕の記事とか載ってるんですけど、普通に「拳闘家」として捕まっているんですよね。

(宇多丸)へー! 活躍している最中にそういうことも起こしているっていう?

(吉田豪)そうそう。そこを読んでいてすごい面白くて。

(宇多丸)これ、お父さんですね。

(吉田豪)まずそこでやられて。で、「これはラッパーのUZIさんにも読んでほしい本だな」って思いながら読んでいたら、UZIさんのおじいさんもすごいじゃないですか。許斐氏利さんという。当然のように許斐氏利さんとも深く関わっていたりとかして。

(宇多丸)なるほど。やっぱり裏社会といいましょうか。許斐氏利さんの本(『特務機関長許斐氏利 ―風淅瀝として流水寒し』)も別に出ていますからね。

(吉田豪)これまたとんでもない本ですね。

(宇多丸)そちらも前に吉田さんにおすすめしていただきました。

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(吉田豪)そうなんですよ。で、そんな家で育っているから、まあ野口修さんはボクシングの選手として活躍した後、プロモーターをやるんですね。で、プロモーターとして夢破れちゃうんですよ。これが。やっぱり真剣勝負をビジネスにすることの難しさみたいなことをすごい味わってきた人なんですね。

(宇多丸)ああ、そうか。その興行を打っても試合が盛り上がるかどうかって当然ね。

(吉田豪)まあ、その状況を整えた時に戦えるような、選手がそういう状況にあるのかどうかみたいな。簡単にうまくいくものじゃないっていう。で、それで失敗した後にいろいろ探し出すのが空手とムエタイとの対抗戦であり。これで極真が名を上げることになるんですけど。そしてその後で日本独自のキックボクシングを誕生させたとされてるんですけどもね。

(宇多丸)「とされている」。

今のキックボクシングとは明らかに違う何か

(吉田豪)ただ、今に伝わるキックボクシングとは明らかに違う何かで。だから沢村忠というのはキックの歴史を語る時にも実は、あれだけの大ブームを起こしたのにもかかわらず、そんなに語られないし。

(宇多丸)そうなんだ。それはその、今のキックボクシングとは違う部分っていうのは……もっと興行的にっていう部分ですか?

(吉田豪)そうなんですよね。で、野口修さんがプロモートした日本初のキックボクシングの大会のメインにする予定だった選手……本当にこの細田さんの取材のレベルがすごくて。メインに出る予定でチケットに名前も印刷されたのに急遽出なくなったという人がいて。その人はもう80歳を過ぎて昏睡状態だったのに何とかたどり着いて。そしたら奥さんが電話に出て。「取材を受けられる状態じゃない」っていう。それで奥さんから裏を取ろうとして。「旦那さん、なんか言ってませんでしたか?」って聞いたら「試合が決まってたけど、やらないことにした。『八百長でタイ人に勝たせてやる』と言われてバカバカしいので蹴ったと証言していた」みたいな。

(宇多丸)つまり、さっきの真剣勝負興行でちょっと夢破れた後、野口さんが仕組んだのはそういうちょっと形のある……。

(吉田豪)つまり、ほぼプロレスに近いっていうか。試合数が尋常じゃなかったんですよね。とんでもない数、やってそこでメインを張って成立させるには……という。

(宇多丸)いちいち真剣勝負をしていては、ねえ。

(吉田豪)そうなんですよ。で、『キックの鬼』とかを見ていても、梶原一騎の本では沢村忠というのはアマチュアの空手家だったんだけども「そんなのよりもムエタイの方が強い」みたいに煽られてキックボクシングをやることになって。デビュー戦では勝ったんだけどデビュー2戦目でサマンソー・アディソンという選手に惨敗する。で、そこから這い上がっていく物語を梶原一騎が描いてきたんですけど。この本であっさり書いているんですよ。その当時のレフリーが。「あの時はサマンソー・アディソンが拒んだです」と。

(宇多丸)ああ、つまりストーリーを拒んだ?

(吉田豪)そうです。「それで、あの試合は沢ちゃんは真剣勝負でやったんです。だから私は沢ちゃん、度胸があるなと思いました」っていう。

(宇多丸)そうか。ここだけは真剣勝負で戦ったから、ちょっと違う結果になっちゃった。

(吉田豪)ただ、それをどうやって物語にしていくかでそういう風にしていったんだろうけど。「沢ちゃんは本当の勝負をやりたかったと思います。そうでなければあそこまで練習はしません。選手はたくさんいましたけど、彼が一番練習していましたから」っていう。だから、自分の意思は関係なく興行を成立させるためにやらざるを得なかった人なんですよね。

(宇多丸)ああ、なるほど。

(吉田豪)真空飛び膝蹴りっていうわかりやすい必殺技でタイ人を倒すっていう。

(宇多丸)真空って何だ?っていう話ですもんね。

(吉田豪)真空が起きるわけないですからね(笑)。

(宇多丸)なるほど。そうか。じゃあ本当にでもおっしゃる通り、限りなくプロレス的なというか、そういう興行のスタイルだったわけですね。じゃあ当然、梶原一騎さんともね、それは相性はいいね。

(吉田豪)相性はいいはずだったんですけど。ところが、梶原先生……梶原一騎効果で同時に沢村忠の物語を2本書いたりして人気が爆発するわけですけども。その梶原先生の実弟である真樹日佐夫先生の証言も入っていて。こういう風に言っているんですよね。

「兄貴は沢村みたいな爽やかなスポーツマンがお気に入りなんだ。逆に粗野な手合いは好まなかった。それがある日、『あいつとはもう会わない』ってえらい立腹なんだ。それどころか『連載はもうやめた』とまで言う。それで本当に『キックの鬼』の連載をやめてしまった。理由は沢村の試合のことさ。兄貴は真剣勝負だと信じていたんだ。でも何人かの関係者に指摘されて確信したようだった。騙されたと思ってショックだったんだよ」っていうね。

(宇多丸)ええっ? だって、ねえ。あれだけプロレスの世界とかもね、描いてきている梶原さんがなんでそこで急にウブな……(笑)。

(吉田豪)そう、ピュアで(笑)。

(宇多丸)そんなおぼこいことをなんで急に?(笑)。

(吉田豪)結構晩年まで本当に奥さんとかにも「おい、誰が日本で一番強いと思う?」みたいな話をしてるくらい、そういうことを結構ピュアに追い求めてきた人で。

(宇多丸)本当に純情なところがあるっていうのはたしかにね、いろいろと読んでいてもそれはわかるけども。

(吉田豪)だから、それぐらい思い込みを持って売出しに加担したら、騙されたってなって。だからその後、沢村忠を敵視するというか。「あっちと違ってうちは真剣勝負」みたいなことを売りにする藤原敏男さんとかに肩入れするようなのはこういう流れだったんだろうなっていう。

(宇多丸)ああ、なるほどね。ちょっとある意味、日本の格闘興行史の流れの変化も見えるわけだ。ここに。

(吉田豪)梶原先生がショックによってより何かに……よりガチバカな方に行ったという。

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