町山智浩と宇多丸『ザ・ボーイズ』を語る

町山智浩と宇多丸『ザ・ボーイズ』を語る アフター6ジャンクション

(町山智浩)そう。トム・クルーズは最初の奥さん、ニコール・キッドマンと離婚した後にサイエントロジーの仕込みで見合いをやるんですよね。で、それがバレたのはなんと、スカーレット・ヨハンソンがその見合いをやらされたから。彼女、とんでもない人なんで。「トム・クルーズと見合いしたわよ」って言っちゃったんですよ(笑)。

(宇多丸)それは、スカーレット・ヨハンソンは一応ガチでサイエントロジーに行っていたということ?

(町山智浩)彼女はサイエントロジーじゃないんですよ。ただ、トム・クルーズが次に奥さんを見つける時にはサイエントロジーがそれを全て管理しているんですよ。で、サイエントロジーの人をあてがわれて。その見合いっていうのも後からその見合いをさせられた人が告発をしたのでバレちゃったんですけども。その人はそれをバラしたために監禁されたりして大変だったんですけど。これは別のドキュメンタリーになっていますが。いろんな女優さんに次々と見合いをして、サイエントロジー的にどうか?って見合いをしてて。スカーレット・ヨハンソンさんはあんまり気にしない人だから何でもしゃべるんで、しゃべっちゃってバレちゃったっていう事件を元にしているんですよね。

(宇多丸)はいはい。へー! そういうのもアメリカの人だったら「ああ、あれか」ってわかるわけだ。

(町山智浩)だからね、『サウスパーク』とか『シンプソンズ』っていうアニメがあって。あと、アメリカでは『サタデー・ナイト・ライブ』っていうお笑い番組が毎週やっているんですけども。それが大抵、時事ネタなんですよ。『サウスパーク』なんてすごくて。あれ、2人で作ってるから前の週にあったニュースがすぐにアニメになって放送されるんですよ。ギャグで。

(宇多丸)へー! まあ、切り絵アニメだからね。

(町山智浩)そうなんですよ。で、アメリカのすごいのはそういうお笑い番組とかお笑いコメディのその政治ネタ、全部実名ですけどね。トランプも誰も彼も全部実名で出てくるんですけども。それを見ている感覚に非常に近いんですよ。『ザ・ボーイズ』って。

(宇多丸)『サウスパーク』とかに近いと。

(町山智浩)近い。「ああ、あのネタをやっている!」「ああ、この間あだった事件のネタだ!」っていう。そういうものとして見ているんですよ、みんな。

(宇多丸)ああーっ! でも、だとしたらやっぱりもう、そういうダークなコメディとして笑うしかないほど現実がすごすぎるっていうか。

(町山智浩)すごいですよ。だってこれ、『ザ・ボーイズ』を見ると日本の人は「ひどいことが行なわれてるな。捜査の途中で殺されても、起訴もできないのか」って思うかもしれないけど、アメリカでは現実がそれなんですよね。

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(熊崎風斗)ねえ。それが現実って考えたら……。

(町山智浩)現実なんですよ。

(宇多丸)しかも、そこを中心にさっき言ったものすごい、本当に内戦状態みたいなことが実際に起こってるわけだから。

(町山智浩)はい。それでね、途中で……まあ今日、言っていいのかどうか。ストームフロントという新しいヒーローが。

ストームフロント

(宇多丸)マズい時は大声を出しますから。

(町山智浩)じゃあ、お願いしますね。ストームフロント。女の人で。最初はその女性の社会進出みたいな感じで、フェミニストみたいに見えるんですよね。彼女は。

(宇多丸)現代のね、そういうSNSの言論の流れみたいなものもめちゃめちゃうまくコントロールしててね。今っぽい人かなって思うんですよね。

(町山智浩)そうそう。ツイッターとかインスタとかをものすごく駆使して世論をコントロールすることができるんですよ。

(宇多丸)なんかカジュアルな物言いとかも含めて、「ああ、すごい今っぽいキャラクターだな。うまいことやりやがるな」なんて思って見てるんだけど。

(町山智浩)そう。でもね、彼女の名前のストームフロントというのは、ネオナチの連絡サイトの名前なんですよ。アメリカでは。2017年にトランプ大統領を支持する人、右翼の人たちが集まって反対するデモ隊に車で突っ込んで人を死なせた件があったんですけど。あの集会とかで人に集合をかけてたのが、そのストームフロントというサイトだったことが発覚して。ネオナチサイトだったので。それで、その後にインターネットから消えたんですよ。で、その名前を取っているのがストームフロントなんですよ。

(宇多丸)なるほどね。じゃあ登場した瞬間に「ああ、こいつはヤベえやつだ」っていうことはもうその名前の時点で?

(町山智浩)アメリカ人はわかるんですよ。「ああ、ストームフロントって……これはネオナチだ!」ってわかるんですよ。

(宇多丸)なるほど、なるほど。しかもね、町山さん。ちょっとこのぐらいにしておきましょう。それが実話っていうことですもんね。

(町山智浩)そう。まあ、ネタバレにはならないですけども。さっきのSNSを使って……まあ悪い情報とかがあるわけですね。スーパーヒーロー、セブンの人たちが悪い事したことを全部隠蔽していくっていうことを彼女はするんですけど。これに「フェイクニュース」ってつけて。ミームを作って拡散をするんですけども。あれはまさにトランプ大統領がやっていることですよね。今、トランプ大統領が実は税金を10年間も払っていなかったことが発覚して。それが話題になってますけども。

(宇多丸)でも、また言っていますよね。「フェイクニュース」って。

(町山智浩)言ってますよね。そう言うんだったら本人が納税証明書を出せばいいのに、それを出さないでただ「フェイクニュース!」って言うだけで。それで本当にトランプ支持者の人たちは「ああ、あれはフェイクニュースなんだ。CNNが嘘をついてるんだ」って勝手に想像するんですけど。この『ザ・ボーイズ』のすごいのは、敵が「CNN」ってはっきり言ってるんですよ。

(宇多丸)ああ、そこも名指し?

(町山智浩)CNNが名指しなんですよ。で、「CNNに流すことでスーパーヒーローたちの偽善は暴かれる!」とか言ってるんですけど、それは現実の今のアメリカで起こっているCNN対トランプの対立そのものなんですよ。そのへんもね、「実名!」っていう感じなんですよ。

(宇多丸)うんうん。となるとね、我々も普通に見ていても面白いけど、それこそ町山さんとかさ、要するに表もすごいことになってるっていう現実がそのフィクションの中にリアルタイムで織り込まれていくのってね、それはスリリングでしょうね。さぞかしね。

(町山智浩)いや、本当にやっぱりドラマ……僕、今は映画がやってないから映画を見れなくてね。ドラマしか見てないですけども。ドラマの面白さはこれですよね。速さ。

(宇多丸)リアルタイム性ね。いやー、俺はあのホームランダーのあの映像が出た時に「えっ、こんな映像が出たらおしまいじゃん!」って普通に思ったけど。やっぱり今って、ああいういろんなひどい映像が出ても、それでも何もなんなかったりするみたいな。そういうところもね。

(町山智浩)だからあれはね、はっきり言っているのはBlack Lives Matter問題ですよね。Black Lives Matterって映像と映像の戦いなんですよ。で、デモ隊とか黒人がひどい目に遭わされてるのが最初にスマホの映像で出回ったんで。それから起こった運動なんですけど、それに対して今度はBlack Lives Matterの人たちがやらかしちゃってる部分がツイッターとかで出回ってきて。それで「あいつら、犯罪者じゃねえか!」って言って。映像に対する映像の戦いがSNSで起こっているんですけど。まさにそれですよね。

映像と映像の戦い

(宇多丸)それとか、表面的なポリティカリー・コレクトネスみたいなののすごいあれとか。「うわっ、もうここまで話が来ているのか!」っていう。「ポリティカリー・コレクトネスをちゃんとしましょうね」っていうその先というか。「ちゃんとしましょうね」って言っているやつのスタンスとかさ。

(町山智浩)そう。だからまあ、ストームフロントはね、本当にフェミニストで女性の社会進出ってうい感じで売っていて。それでものすごい右翼で差別主義者で白人至上主義者で……っていうところとか。これはまあ、日本でも起こってることですよね。

(宇多丸)あと、ゲイのカミングアウトっていうのもさ、すごく歪んだ形で伝えようとしていたりとか。

(町山智浩)そう。それを商品化して売ろうとするっていうね。

(宇多丸)だし、その性別役割をね、ちょっと……「性別の役割がこう見えた方がね、皆さん安心するんで」みたいな。「えっ、それ酷くない?」みたいな。

(町山智浩)そう。電通みたいなのが入っていて。広告代理店が全部、なんていうかBlack Lives Matterだけじゃなくて、そのフェミニズムとか。全部実はそれを利用してプロパガンダに使ってるとかね。

(宇多丸)あの監督が『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のヅラコフでしたね。あれね。

(町山智浩)そう(笑)。やっていることも同じでしたけども。すごいですよ。これ、アメリカの問題だって言ったんですけども、やっぱり日本の問題でもあって。日本でも同じことが起こっているんで。まあ、これはすごいドラマですよ。ものすごい攻めていますよ。

(宇多丸)むしろこっちはね、あんまりゴリゴリに表面化していない分、ちょっと悪質かもしれないけどね。

(町山智浩)そうですね。まあ、主人公はすごいいいやつですけどね。

(宇多丸)うん。まあね。でも、大変な目に遭い続けていて。

(町山智浩)大変ですよね。もうサンドバッグみたいになっていますが。

<書き起こしおわり>

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