町山智浩 キリスト教福音派映画『魂のゆくえ』『ある少年の告白』を語る

町山智浩 キリスト教福音派映画『魂のゆくえ』『ある少年の告白』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でキリスト教福音派を扱った映画『魂のゆくえ』と『ある少年の告白』を紹介していました。

(町山智浩)それで今日は、アメリカのキリスト教についての映画が2本、今週来週と続けて日本で公開されるので、それについてお話します。1本目は今週公開の『魂のゆくえ』。もう1本は来週公開される『ある少年の告白』という映画になります。で、この『魂のゆくえ』という映画はイーサン・ホークが主演です。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)イーサン・ホーク、わかりますよね?

(赤江珠緒)よく聞きますよね。イーサン・ホークさん。

(町山智浩)『いまを生きる』とか、いっぱい出ている人ですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうだ。『いまを生きる』は見ました。

(町山智浩)あの美少年がいまはもうおじさんなんですよ。成人した子供がいるぐらいの年齢になっていますからね。で、彼が牧師さんです。すごく昔からの歴史と由緒がある、アメリカ独立前から存在する教会で牧師をやっている人を彼が演じていますね。で、もう信者が全然来ないんですよ。古い教会って。アメリカは地元の教会に日曜日に来る人がもうほとんどいなくなってきています。いま。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)アメリカ人っていうと日曜日に教会に集まるってみなさん、思っていると思いますけども、いまは本当にいないです。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか!

(山里亮太)なんでそうなってしまったんですか?

(町山智浩)行くと、おじいさん、おばあさんばっかりです。代々行っていた教会に来なくなっているのは、「ボーン・アゲイン(Born Again)」という、「再誕、再生する」という運動がずっと続いているからなんですよ。

(赤江珠緒)ん?

(町山智浩)ボーン・アゲインというのは……カトリックとかいろんな宗派の父親と母親のもとに生まれてその子もキリスト教徒になるんですけども。その後、自分の意志でもう1回、キリスト教徒として生まれ直すということをするんですね。バプタイズって言うんですけども、洗礼を受けたりして。すると、そこのいままで自分たちが育っていた地元の教会には行かなくなるんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)というのは、その地元の教会っていうのは非常に穏健なんですね。穏健で、他の宗教の存在を許すんですよ。アメリカというのはもともとバラバラの宗教の人たちが自由を求めてやってきた国なので、他の宗教を尊重するんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ところが、そのボーン・アゲインしていく人たちは「福音派」と呼ばれる非常に聖書原理主義的な、他の宗教を許さない人になっていくわけです。で、彼らはいままでの穏健な教会、昔ながらの教会に満足ができなくて、もっと全国的な運動に参加していったり、あともうひとつは「メガ・チャーチ」と呼ばれる巨大協会に行くようになるんですよ。

(山里亮太)メガ・チャーチ?

(町山智浩)メガ・チャーチっていうのは数千人から1万人規模の、だからコンサートホールみたいな教会です。

(赤江珠緒)そんな規模?

(町山智浩)僕は何回か行ったことがあるんですけど、とにかくショーアップされていて、レーザー光線が飛び交ったり、スモークを焚いたり。本当にすごいですよ。バンドも生で演奏しますし。で、そこに1万人とか5000人とか来るわけじゃないですか。するとみんな、クレジットカードで寄付をしていくんですよ。で、さらにそれを毎週末、テレビで中継しています。それもテレビを見て電話で寄付ができるようになっているんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だから毎週毎週、ロックコンサートをやっているようなもんなんで、それこそ億とか、バンバン儲かっちゃうんですよ。で、そちらの方が圧倒的に面白いんですよ。教会としては。

(赤江珠緒)それこそ規模も全然違いますしね。

(山里亮太)ライブとかやっているって言われると。

(町山智浩)そこに1万人、信者が行ってしまったら、地元のちっちゃい教会ってどうなりますか? ガラガラですよ。

(赤江珠緒)ずいぶんと様変わりしてきたんですね。へー!

(町山智浩)もう大変なことになっているんですよ。アメリカの地方のちっちゃい教会はみんなつぶれてしまいそうで。で、そこの1人がこのイーサン・ホークなんですね。で、彼の教会には信者が全然いないわけですけど、その中に1人だけ若い奥さんがいて。「相談がしたいんです」って言うんですね。そのメアリーさんっていう人が。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)アマンダ・セイフライドが演じているんですけども。で、「私、妊娠をしたんだけど、うちの旦那が『子供はいらない』って言うんです。だから、説得をしてほしい」って言われて、そのマイケルという旦那のところに行って、「なんで子供がほしくないのかね?」ってイーサン・ホーク牧師が聞くと、「地球はこのまま行くと滅びるからです。生まれてきた子供はかわいそうです。いま、地球は温暖化とかいろんな形でどうなっているのか、ご存知ですか?」っていろんなデータを見せてくれるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)アメリカもハリケーンがすごくて、毎年毎年ハリケーンと寒波と竜巻とでものすごい死者が出ているわけですよ。自然災害で。日本もそうですよね。豪雨とか。で、「全世界でものすごい気候変動によってこれだけの死者が出ていて。この後、子供はこれから何十年と生きていくのにどうなると思いますか? そこに子供を残して死ぬことはできません。かわいそうだから。だから、子供はいらないんです」ってそのマイケルという人が言うんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)それでその旦那がイーサン・ホーク牧師に「なぜ、あなたは神の教えを説く牧師なのにこの問題になにもしないんですか?」って言われちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うわー、またすごい問題を突きつけられますね。それは。

(町山智浩)これはね、アメリカのキリスト教徒はなにもしないんですよ。アメリカの福音派と呼ばれる人たちは全体の25%、いるんですね。すごい人数ですよ。だから4人に1人がアメリカでは福音派なんですよ。で、彼らは1980年にレーガン大統領が「福音派のために政治をする」ということを約束してから、レーガン大統領が所属していた共和党の支持基盤となっているんですよ。ずっと。非常に長いんですよ。1980年からだからもう40年ぐらいそうなっているんですよ。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、彼ら、その25%の福音派のうち、「地球温暖化が危険なものだ」と認識している人っていうのはついこの間まで20%以下だったんですよ。ほとんど誰も地球温暖化なんて気にしなかったんですよ。

(赤江珠緒)なんでなんですか? 現状、こんなに異常気象とかもあるのに。

(町山智浩)で、現在ではその割合は増えています。32%ぐらいまで増えているんですけども。それでも、少ないんですよ。その理由というのは、その共和党の政治的な立場が大企業寄りになっているので。大企業、特に石油産業なんですね。主に。で、石油産業はエクソンモービルとかコーク・ブラザーズっていう巨大な石油化学工業があるんですけど、そういったところがシンクタンクにお金を出しているんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、ケイトとかヘリテージとかっていうその石油関連会社が出資しているシンクタンクがあるんですけど、そこは「地球温暖化はない」っていう研究報告をずっと続けているんですよ。なぜならば、その地球温暖化の原因はCO2なんで、「地球温暖化がある」となると石油産業が規制を受けることになってしまうから。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)だから、規制を受けないように「地球温暖化なんてないんだ」って言い続けているので、共和党もその石油関連の企業からお金をもらっていますから、「地球温暖化はない」っていうのをずっと党として一貫して言い続けているんですね。で、トランプ大統領もそうで、環境保護庁の長官にその環境保護庁を訴えて「CO2による被害はないんだ」と言っていた人をしたぐらいですから。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)「環境保護は必要ない」っていう人を環境保護庁の長官にしたんですよ。トランプ大統領は。そういうことをやっているので、キリスト教の福音派の人たちは共和党によって自分たちの求めているものを約束されていますから。彼らの求めているものというのはまず、人工中絶の完全違法化。

(赤江珠緒)ああー、そうですね。

(町山智浩)あと、同性婚の違法化。それを実現するためには、最高裁の決定が必要なんですね。で、最高裁というのは9人の判事が投票をするんですよ。で、すでにトランプ大統領になってから2人、新しく最高裁判事を任命して、トランプ大統領は最高裁を共和党寄りの多数派にするという約束を果たしたんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。ここが大きかったって町山さんも以前、おっしゃっていましたね。

(町山智浩)はい。だからたぶん、もう数年以内に同性婚はまた違法化されて、人工中絶もまた各州が自由に禁止できるようになると言われていますね。

(赤江珠緒)へー! いままでの流れに逆行するんですね。

(町山智浩)はい。ひっくり返すことになるんですよ。それはキリスト教原理主義の人たちが望んでいたことだから。その望んでいたものをもらったから、じゃあ石油関係、環境保護については目をつぶるっていう取引なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だからそういう異常なことになっているんですけど。で、映画の話に戻ると、この『魂のゆくえ』のイーサン・ホークは「それはおかしいだろう」っていうことに気づくんですよ。その旦那のマイケルに言われて。で、実は彼はイラク戦争に自分の息子を従軍牧師として送って、死なせているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは、ブッシュ大統領がイラク戦争を行ったからですけども、ブッシュ大統領はその時、2004年の選挙の時にキリスト教福音派の人たちに「同性婚を禁止するから」という条件を出してイラク戦争を呑ませているんですよ。

(赤江珠緒)うーん!

(町山智浩)それで、息子を失っているから、もうこれはたくさんだ!っていうことで、なんとかこれを戦わなきゃと思っていると、実は彼の教会は近くのメガ・チャーチにすでにもう買い取られているんですけど。お金がないから。そのメガ・チャーチの最大の大手寄付をしているのが地元の公害企業だったということを知るんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、さらにそのマイケルという地球環境が危ないと思っているお父さんはその企業に対して自爆テロを仕掛けようとしていることがわかってくるんです。さあ、どうする?っていう話なんですよ。

(赤江珠緒)でも、信仰に利害関係が絡みまくって、もうややこしいですね。

(町山智浩)まあ昔からそうですね。大昔から、日本の昔の仏教と天皇家の関係もそうですし、バチカンとヨーロッパのいろんな王権との関係もそうですし。昔から宗教っていうのはそうやって政治と結託していくんですよ。権力を握るために。で、そういう小さい教会の話がどんどんと怖い話になっていくんでびっくりするんですけど、これの監督はポール・シュレイダーっていう『タクシードライバー』の監督なんですよ。だから彼に「アメリカはなんでこんな事態になっているのか?」って聞いたら、「彼らが権力を求めているからだ。神の教えよりも権力を求めているからこうなってしまうんだ」とはっきりと言っていましたね。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)この監督自身、実は昔牧師さんになろうとしていた人なんですよ。改革派教会というカルヴァン派の人で。という映画が『魂のゆくえ』なんですけど、もう1本の方も時間がないのでパッと行きますと……『ある少年の告白』というのはこれ、福音派の人たちが行っているゲイの矯正セラピーについての話なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

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