R-指定 歌詞の書き方を語る

R-指定 歌詞の書き方を語る サウンドクリエイターズ・ファイル

R-指定さんが2020年9月20日放送のNHK FM『サウンドクリエイターズ・ファイル』の中で自身の歌詞の書き方についてDJ松永さんと話していました。

(DJ松永)じゃあ、Rさんの歌詞のところをちょっと掘り下げたいなと思うんですけれども。でもあんまりさ、「歌詞をどう書いてるんですか?」とか「どう組み立ててるんですか?」ってさ、インタビューでそこまで掘り下げられなかったりするじゃないですか。

(R-指定)たしかに。そうなんですよ。

(DJ松永)意外と。「アルバムに込めた思い」とか「この曲のテーマ」とか、最近の活動のことを聞かれる時はあるけどさ。意外とテクニカルなこと……一番前提の部分って聞かれないことが多くて。Rさんってどういう順序で歌詞書いてるのかな?っていうのは気になるよね。Rさんは基本的には鉛筆・ノートですよね。タイプとしては。

(R-指定)そうそう。シャーペンとノートで書いてます。でも、最近はシャーペン……ノートが一旦、考えとか断片的なのを吐き出す場所で。清書で携帯とかの方が多い。だからノートには半分までとか、1文字とかが書いてないけど、それで歌いながら組み立てていって。出来上がっていったのを携帯にもメモって送るみたいな。

(DJ松永)なるほど。じゃあもう最初、断片があって。まばらでまとまってない、なんかそのラインみたいなのがあるのね。で、それをどんどん形に近づけていくっていう作業なんだね。

(R-指定)俺、結構パズルを作ってるのと一緒っすね。俺の歌詞書いてるのは。だから、でもだいたい順序的にはやっぱりサビから考えようとするんですよ。フックを作ろうとするんですけど。やっぱり結局フックが一番、曲の顔ではあるので。で、フックを一番最初に考えようとするんですけど。まあ、運良くフックからできれば、それから一番を作っていって……ってするんですけど。

でも結構まばらなんで。やっぱり「この曲を作ろう」ってなって、テーマがあるとしたら、そのテーマに意外とバチンとはまるようなことを10年前とか5年前に俺が携帯にメモっていうというパターンがよくあるんですよ。だから結構、今回のアルバムのそれこそ『サントラ』とかの「悩み事、隠し事、私事だらけを書く仕事」っていうラインは、これはマジで5年前に浮かんだフレーズで。

俺、それをずっとメモってて。それ作った時はなんとなく「ラッパーの仕事ってこういうことやぞ」って感じで。「私情を挟む」みたいな感じで。「『私情』っていう曲を作る時にこのラインを使おう」ってぐらいまで頭の中だけで思い描いてたんですよ。

(DJ松永)別のビジョンがあったんだ。

(R-指定)別のビジョン、別の曲の。でも、その『サントラ』を作ってる時に「全然パンチのあることが出て来えへん。でも、菅田さんと仕事の話をしたな。あっ! あのライン、ここではまるかも?」って思って持ってきたんですよ。で、そこから続きを書いていった。あの一言だけはもう5年前にあったんですよ。

(DJ松永)なるほど。なんかね、昔のラインが現状に追いつくみたいなことがRってたまにあるよね?

(R-指定)よくある。だからそれこそ『高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。』もその曲出す3年前ぐらいにポロッと浮かんでたフレーズやったんですよ。

(DJ松永)全くメジャーデビューが決まっていないタイミングでね。

(R-指定)そのタイミングで。「メジャーデビューできた時に使ったろ」と思ったりとか。

(DJ松永)じゃあさ、Rさんはもうストックの断片、超いっぱいある?

(R-指定)そうそうそう。前の携帯とかのやつは、もったいないけど……3個前ぐらいの携帯のやつから入っていて。これはたぶん2015年ぐらいからのメモはずっと入っている。

(DJ松永)えっ、じゃあこれより前のメモは?

(R-指定)それより前のは破棄っていうか。

(DJ松永)えっ、なんで破棄すんの? もったいな!

(R-指定)でもその時はね、ほぼノートに書いてたんよ。その時のメモはほとんど携帯からノートに移していて。歌詞を書く時とかに考えていて。たぶん昔のノートを見たら載ってるのよ。で、あと「そこにメモっていて忘れるぐらいのやつだったら、そこまで覚える必要ないやつなんだな」みたいな。意外と前の携帯に入ってるメモとかも覚えていたりしたらこっちに移している可能性があるから。で、今は下書きがね、850件ぐらい溜まっていますね。

(DJ松永)異常ですねー。

(R-指定)ワンフレーズだけ書いてあるとか。今、見てたら意味わからん一言だけ書いてあるやつとかもあるんですけど。たぶんじっくり思い出したら「ああ、これか」みたいなのとかは結構あるしね。

(DJ松永)Rさんさ、結構……バーッて球数揃えるのはさ、割と早くできたりするの? それから、絞っていくのが大変っていうこと? どれが一番大変なの?

(R-指定)一番大変なのは、絞るの。

(DJ松永)絞るのか。めちゃめちゃあるけど、バラバラでどう順序を組み立ていくか、とか?

(R-指定)とか、サビのメロディーの候補とかもめっちゃ出るんですけど。「どの道に立とう? どの道に立って1歩、踏み出してみよう?」っていう。それを選定するのが一番時間かかる。

どの道に進むか選ぶのに一番時間がかかる

(DJ松永)それさ、怖いよね。だってその1歩を踏み出してしまったらさ、選択肢が一気にバーン!って狭まるじゃん? でも、狭まってそこから除外された選択肢の方がよかったらどうしよう、みちいなさ。

(R-指定)せやねん。「そっちが正解やったかも?」みたいに思ってまうとか。

(DJ松永)そう。だからRさん、めちゃめちゃ思い浮かぶだけに大変だよね。

(R-指定)だからたぶん……まあまあ、全然思い浮かばん時もあるっすけど。どっちかっていうと思い浮かんで「Aの候補、Bの候補、Cの候補、どれで行こうか? A候補の前半だけ使ってCの後半を持ってくるか? いや、でもBの後半も捨てがたいか……」みたいな感じで悩んでいるっていう。

(DJ松永)じゃあ、もう磨いていく作業が長かったりするんですか? なんかもう形ができつつあって、どんどんとそれをブラッシュアップしていくみたいな。

(R-指定)それもありますけども。で、「フリースタイルができるから歌詞を書くのが早いでしょ?」って言われるんすけど、そんなことないんですよ。フリースタイルが一番役立つのは結局レコーディングとか、磨く時の作業です。磨く時にすぐに言葉を言い換えられたりとか。別の表現が見つかるみたいな。でも核心の部分。「この曲の核の部分はこれやな」っていうのを4つぐらい候補から選ぶのがすごい時間かかるっすね。

(DJ松永)なるほどね。Rさんの歌詞ってさ、掛け言葉だったりさ、言葉遊びとかがやっぱりすごい緻密でさ。かなりびっくりするようなことをやるじゃないですか。そこは結構みんなにさ、注目されていることが多いですよね。

(R-指定)韻とかもメモってますよ。「視野狭窄と島耕作」とか。

(DJ松永)いい韻だ。

(R-指定)それで「以下省略」とか(笑)。

(DJ松永)めっちゃいい!

(R-指定)韻のメモもしていますね(笑)。

(DJ松永)ちょっと古武道さんライクな(笑)。

(R-指定)そう。古武道さん。KBDさん的な韻のメモ。

(DJ松永)それこそさ、『板の上の魔物』っていうCreepy Nutsの曲があるんですけど。「俺の感受性ならば尾崎 世界観なら底なし 武、水谷、馬並みの相棒が助太刀」っていうこのライン。めちゃめちゃこの3行の中で掛かっているんですよ。「俺の感受性ならば尾崎 世界観なら底なし」っていう。ここで「尾崎世界観」っていう。で、「武(豊)、水谷(豊)」っていう。で、「相棒が助太刀」って「水谷豊=相棒」っていうことですからね。

(R-指定)で、「馬並みの相棒」っていうのは「騎手・武豊」っていうのと掛かっていて。で、一番最初の「俺の感受性ならば尾崎」っていうのは「俺の感受性は豊か」っていうのを「尾崎(豊)」っていうのと言い換えたっていうだけなんですよね。そこから「世界観」につながったみたいな。

(DJ松永)こういう掛け言葉さ、めちゃくちゃみんな驚きますけど。やっぱり単純にすごい情景が思い浮かびますよね。Rさんの歌詞は。めっちゃなんか、そのすげえ小難しいことをしなくても超響く歌詞だったりとかさ。あと、言い方が超粋だったりするよね。

(R-指定)やった! 嬉しいっすね。

(DJ松永)『紙様』のさ、「力まかせに引きちぎれば取るに足らない」とかもさ、すごいさ、シンプルな言い方だけども。それが思い浮かばないっていう人が実はいっぱいいるわけでさ。もう使っている言葉全部が粋だったりするじゃないですか。Rさんの言葉になっていたりするっていうのがさ。あのさ、やっぱり『未来予想図』っていう曲があるんですけども。『未来予想図』っていうのは一番『フリースタイルダンジョン』で注目された時期に……。

(R-指定)そう。俺らはもともとヒップホップ冬の時代が長かったから、『フリースタイルダンジョン』がテレビでハネて注目された時に「こんな状況、続くわけない」と思って。先にネガティブな曲を書いたんですよね。ネガティブな……「どうせ番組、見向きもされへんようになって。どうせ売れへんくなって、みんなすぐにそっぽを向くから、こんなの信じたらアカン」みたいな。やっぱりね、売れない時代が長いと変に、もういい状況になっても冷静やったり。ちょっとね、怖がって遠ざけてしまうみたいな。まさしくそれが出た曲ではあるんですね。

(DJ松永)そうそう。で、その曲はそういった一過性のものは置いておいて。それがなくなった時にちゃんと俺は前を向いて歩く。ラップがあるから、そういうのがなくなった時に残る仲間たちとかがいるから……みたいな。

(R-指定)だから今の熱狂よりも昔から大事にしてきたものを信じて進んでいこう、みたいな。割とポジティブな曲ではあるんですよね。

(DJ松永)で、3バース目が特に前向きなんだよね。「俺を俺たらしめるもの 三連覇の称号? テレビの人? どれもちゃう それは全てがなくなった時に残る物や人」って言っていて。「あの娘やあの人やあいつら 地元、帰る場所、歩道橋」っていう。「歩道橋」っていうのはRさんがホームとしてる梅田サイファー。俺、ここが好きで。「韻律と親密で緻密な独り言」っていう。これ、要はもうラップのことを言っているじゃないですか。「ラップのことを『韻律と親密で緻密な独り言』って言うんだ! これ、すげえな!」って思って。

(R-指定)フフフ、これはね(笑)。

(DJ松永)「韻律と親密」っていう。で、「独り言」なんですよ。

(R-指定)そう。ラップなんか独り言なんですよ。

「韻律と親密で緻密な独り言」

(DJ松永)そう。結局誰かに向けて……っていう。今のありがたい状況も嬉しいけど、そんなことよりも、ただやってる瞬間が楽しい。誰に向けてというよりも、ラップをただしている時が楽しいっていう。独り言だっていう。

(R-指定)そう。ラップをしている瞬間が楽しいし。あと、あれですよ。やってなかったらホンマに電車とかで「オイッ!」とか言ってるようなやつと同じなんですよ。あの叫びなんですよ。

(DJ松永)そうそう。それを「韻律と親密で緻密な独り言」っていう風にラップのことを言うんだっていうので。「ああ、超いいライン」って思って。あと、みんな言ってますけどもね。「世間と自分との溝に針を落としてこそ はじめて音を奏でるのが俺のヒップホップ」っていうこのライン。非常にグッときますよね。

(R-指定)まあ、レコードのね(笑)。

(DJ松永)そうそう。レコードっていうことですよね。

(DJ松永)あと、『だがそれでいい』とかもいいんですよね。あと、ワンバース目……導入がめっちゃ上手いよね。

(R-指定)でも、導入が一番時間かかっている。だから選定するのも、ほとんど導入を選定してるから。歌い出し。だから結構オチとか、言いたい上手いラインとかっていうのは割とメモってあったしたりして。サビのフレーズとかもするんですけど。そこにどう持っていこうか? 始まりから核心をつきすぎてもアカンし。まあ、遠すぎてもたどり着けへんから。一番いい感じでパンパンパンと行けるような始まりのなんかテンションみたいなのが一番時間がかかる。とか、フロウも一番始まり。どう始めようか、みたいな。

(DJ松永)たしかに。しかも一言目、重要だしな。それで話の展開、芸術的だもんね。Rさん(笑)。

(R-指定)フフフ、いやいやいや。

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