(DJ松永)『だがそれでいい』とかさ、自分の黒歴史をどんどん羅列していって。「でも、それでいい。そのまま突き進め」っていう曲じゃないですか。だから一言目で「おい、イキんな! しゃしゃんな!ってか、そんなガラじゃないんだ 目立つな! 狙うな! 一体どこに自身があんだ?」って言って。過去の自分に結構ね、問いかけているんですよ。で、そこから、自分の過去にやってきた黒歴史の羅列が始まるんですよね。「ドンキで買ったギャツビー 体操着の袖をまくり 虎視眈々 腰パンするタイミングうかがってたワナビー」っていう。
で、その当時の自分をよりよく見せるためにやっていた試行錯誤を言う。で、最後に今の自分に戻って。「これ、夢壊すようなこと言うけど JKとのセックスは諦めろ」って言って、ドン!っていうサビの核のメッセージ。「何者でもない俺 突き進めそのままで ただ前に Do it again」っていう。この流れ、めっちゃきれいみたいな。その視点の切り替わりもさ、うまく行かないとごちゃごちゃするじゃないですか。そういうのもなんか、めっちゃ細かいところまで全部きれいだな、みたいな感じしますよね。
(R-指定)フフフ、いや、嬉しいね(笑)。
(DJ松永)ちなみにちょっと、朝井リョウっていう俺の友達。マブダチがいるんですけど。小説家の。言葉のプロ。
(R-指定)天才小説家ですよ。正直。
(DJ松永)その天才小説家。2、3年前とかにできたアルバムを朝井リョウに送って。そしたら、感想のLINEが返ってきて。感想のLINEなんでね、これは世に出るものではないんですけども。このLINEを読み上げちゃおうかなって今、思っていて(笑)。
(R-指定)フハハハハハハハハッ!
(DJ松永)あの人、やっぱりLINEでも文才を発揮してくるから。本当に。朝井リョウ、ごめんね。ちょっと読み上げます。これ、一部ね。本当に感想メールに俺は賞をあげたいぐらい……。
(R-指定)せやねん。あれ、作品っすよね。朝井さんの感想って。
朝井リョウ、R-指定の歌詞を語る
(DJ松永)何千文字ぐらいの。本当にすごいんだけど。R-指定の歌詞をやっぱりすごく褒めていまして。読みますよ。「私は小説も層がいくつか重なっているものが単純に好きなんです。それが正解・不正解ではなく、好き。ただ起承転結が面白いという小説は読み終わった後、すぐ死んじゃうかもしれない。
展開のために登場人物が動いてるんじゃなくて、人間の感情ありきの展開なのかと。文章自体が美しいかとか、その物語固有のものに見せかけた普遍性、または哲学があるかとか。あらすじを引っぺがしたそこに2層目、3層目、4層目があるかどうかが大事な気がする。そういうものを書きたい。でも、そうすると言葉の可動範囲がどんどん狭くなっていく」。
(R-指定)そうですよね。ずっと限られてくるというか。そんだけの層をひとつにしようとしたら……っていうことですよね。
(DJ松永)「4層目、5層目が重なっている部分を一気に貫ける箇所っていうのはめちゃくちゃ狭いから。そこに当てはまる言葉を探すのが本当に大変で。やがてはどんどん、一語一句入れ替えられない状態になっていく。でも、その状態が一番作品としてストイックな状態だと思う。超つらい作業だけど、めちゃくちゃ気持ちいい。ムダなものが全部削ぎ落とされて、体脂肪率4パーセントとかのアスリートの身体みたいな表現だけが残る、みたいな。
今回の歌詞、そんな感じがあるなと感嘆いたしました。どの言葉もいくつもの条件を経てはめ合わされているから、他のどんな言葉とも置き換えられないガチガチの状態っていう感じ。全部バラバラなピースにされても、自然にまたその場所に収まるような言葉だけでできた不思議なパズルを渡された感覚だ」って朝井リョウさんはRの歌詞を表現されてるんですよね。
(R-指定)その表現も層がいくつにも重なっている表現やしな。
(DJ松永)いや、本当に。すごいですよね。いや、この人はそう言っていて。でもやっぱりこれを見た時、やっぱり本当にその通りだなと思いましたからね。で、やっぱり『だがそれでいい』とかも前の曲ですけども。今回出たアルバムとかもね、本当に全曲そんなような感じになってますからね。やっぱり。
(R-指定)言葉のプロにそう言っていただけるのはホンマに嬉しいですね。
(DJ松永)本当、だからやっぱりもう小説家もここまで唸らしちゃうんだなって思いましたよ。やっぱり。だからRさんの歌詞に唸っている人はやっぱりその感覚を信じていいなと思いますよ。
(R-指定)嬉しいな。
(DJ松永)やっぱりRさん、人の紹介をめちゃくちゃするじゃないですか。日本語ラップ紹介とか、他のラジオでやったりとかしているけど。あんだけめちゃめちゃ熱を入れて紹介しているのに、Rさんの歌詞を紹介してくれる人があんまりいないっていう(笑)。これ、めちゃくちゃ悲しい。
(R-指定)フフフ(笑)。
(DJ松永)実は歌詞が一番ヤバいのは本人なんだよっていうのは……やっぱりあれかな? もうちょっと、10年、20年もうちょっと頑張って。レジェンドにならないと紹介されねえか?
(R-指定)やし、たぶん俺らは時間かかるって。パッと聞きで「すげえ!」ってあんまりわかりにくいからな。
(DJ松永)そうなんだよ。本当にマジでもう100回、200回と聞いて宝探ししてもまだ探しきれてないぐらいの歌詞をRさん、書いていたりするもんですから。
(R-指定)だから俺ら、お爺ちゃんになって若い子らがすげえ遺跡を発掘したみたいな感じで味わえた時に俺らがガラガラの声で「ああ、そこ、気づいた? 君、わかっているな……」って。
(DJ松永)(ガラガラの声で)「君が、はじめてや」って(笑)。ジジイになって、やっと(笑)。
(R-指定)(ガラガラの声で)「そこ、見えたか。やるやないか」って(笑)。
(DJ松永)ということですね。じゃあ、まあそんな中、いっぱい曲はあるんですけども。まあ、今回はこの曲を聞いてもらいましょうか。Creepy Nutsで『未来予想図』。
Creepy Nuts『未来予想図』
(R-指定)お送りした曲はCreepy Nutsで『未来予想図』でした。
(DJ松永)まあね、本当にどれを聞いてもらおうかなってなかなか悩みましたけどもね。
(R-指定)でもちょうどね、『フリースタイルダンジョン』もね、終わったんですけど。でも終わっちゃったんですけど、俺的にはこの『未来予想図』で言ってたような、すぐに尻切れでパチンて終わるんじゃなくて。割と5年も番組続いたっていう。だから、俺がこの曲を出した時に1回、言われてすごい嬉しかったのが、俺がRHYMESTERと同じく尊敬してるTHA BLUE HERBのILL-BOSSTINOさんっていう、日本屈指のリリシスト……リリシストっていうのはすげえ歌詞を書く人ですよ。
たぶんその日本トップクラスのリリシストのボスさんから「『未来予想図』を聞いたよ。あんなことを『フリースタイルダンジョン』に出てる人間から言われたら、出てない俺たち外側から何も文句言われへんよ」みたいなことを言われた時に超嬉しかったというか。
(DJ松永)あの人に歌詞や曲を褒められるなんて、まあ嬉しいね!
(R-指定)あの人なんか歌詞の人やからな。ガチガチの。
(DJ松永)本当だよね。昔からそれをやり続けてる人だからな。
(R-指定)だからそれがあったから、そういう俺の考え、俺の持ってる希望なんかは間違ってないんやと思ってやり続けたら、番組も全然5年も続いたし。みんな各々の場所に羽ばたいていったし……っていう感じなんですよね。
(DJ松永)そうですね。
<書き起こしおわり>