星野源 梨うまい『悔しみノート』を語る

星野源 梨うまい『悔しみノート』を語る 星野源のオールナイトニッポン

星野源さんが2020年9月15日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中でジェーン・スーさんからもらった梨うまいさんの本『悔しみノート』について話していました。

(星野源)それでずっとね、もう2月から『MIU404』は始まって。半年間ぐらいずっと……途中で自粛期間はありましたけど。自粛期間抜かしてもうずっと、かなり長い、いわゆる普通のワンクールのドラマの2倍ぐらいの時間を『MIU404』に費やすっていうとあれだけど。どっぷり浸かりまして。で、やっと撮影が終わりまして。今はちょっとのんびりしてるんですよ。

なので、映画を見たりとか、本を見たりとかしまくっていて。で、またすぐに次の仕事が始まっちゃうので、「今だ!」という感じでですね、いろいろ摂取して。なかなか摂取する時間がなかったんで。それで、ちょっと映画を最近見てるので、映画の話をしようと思うんだけど……何を見たか、いっぱいあるので書いておかないとあれだなって。1日に3本とか見てるので。ちょっとCM中に書きます(笑)。それで「これを見たよ」っていう話をできればいいなと思ったんだけど。

それで本も最近、ちょっと読むようになりまして。この本。梨うまいさんの『悔しみノート』という本があって。これ、僕もらったんですよ。誰にもらったかっていうと、ジェーン・スーさんという方。TBSラジオでね、いつも『生活は踊る』という番組をやられているジェーン・スーさんがですね、ラジオ番組の中で言った発言が元でできた本なんですけど。

これ、どういう本かというと、番組のお悩み相談コーナーにこの梨うまいさんがリスナーとしてメッセージを送ったんですね。で、「何をどうしたらいいか分からず、日々悩んでいます。結構いろんな作品を見たり、出会ったりして嫉妬に悶え……でも、ものづくりに挫折して逃げ出した自分にはもう何もできないと落ち込む日々です」というようなことをメールで送ったら、ジェーン・スーさんが「その悔しかったもの、思いを全部ノートに書いたら? あなたに『悔しみノート』の作成を命じる」っていう風に放送で言ったんですよね。

で、それを本当にこの梨うまいさんは書いて、それが出版されたという。で、その本を僕、知らなくて。この放送も聞いてなかったので知らなかったんですけど。ネットニュースかなんかで宮藤官九郎さんがこの『悔しみノート』をもらったか、読んだかで。「星野くんのことがいっぱい書いてあって、それが悔しかった」みたいなことを宮藤さんが……僕、大人計画事務所所属なんで。先輩の宮藤さんがそんなことを言っていて。「なんだろう、『悔しみノート』って?」ってなっていて。

宮藤官九郎さんがラジオで語る

で、そうなっていた時、ちょうど『MIU404』の最終回の日。電波ジャックでTBSに1日いたんですよ。その1日いた時に、TBSラジオの方にちょっとお邪魔して宣伝をさせていただいた時にですね、ジェーン・スーさんがわざわざ来てくださって。で、この『悔しみノート』をくださったんです。しかも、この『悔しみノート』で梨うまいさんが僕について書いてあるところにジェーン・スーさんが付箋を全部貼ってくれていて。わざわざ。で、いただいたんです。

で、読んだらですね、すごく面白くて。いわゆるだからこの梨うまいさんがいろんな映画とか舞台とか音楽とか、いろんなものを見たり聞いたりして「悔しい!」って思った思いをとにかくつづってあるんですけど。何て言うか、そのつづり方がすごく好きでした。なんかね、全然違うんですけど、すごく思い出したのは川勝さんのことをすごく思い出して。川勝正幸さん。編集者であり、ライターであり。僕の大好きな先輩ですね。もう亡くなってしまったんですけど。それで「ポップウィルス」という言葉の生みの親ですね。それはネットとかで調べてください。「星野源 POP VIRUS 川勝」とかで調べると出てきますんで。

で、なんで川勝さんを思い出したかっていうと、この梨うまいさん、いわゆるその悔しさとかを書いてるんだけども。何だろうな? たとえば評論家の人とかもそうだし、最近すごく増えてきてるな、多いなって思うのは、なにか物事……たとえば演劇でも、映画でも、音楽でもなにかを評論だったりとか、それに対してコラムだったりとか。ライターとして何を書く時に「くさす」っていうか、ちょっとバカにして。それでその後でちょっとだけ褒めるみたいな文章の書き方ってすごく多いなと思っていて。

何て言うか、それって自分は読んでいてすごく気持ち良くないんですよね。で、なんで気持ち良くないかっていうと、たとえば評論とかもそうだけど。たとえば音楽を聞いて、「全部褒めてほしい」とかそういうことじゃなくて、その批判だったりとか、評論するにも褒めるにも、なんて言うんだろうな? その文章の中の主体が「自分」になってる人がすごい多くて。その対象の表現が主体になってない人ばっかりだなって思っているんですよね。そういう人がすごく増えたなと思っていて。

で、それを見ると、何て言うかあんまり愛がなかなか感じられないっていうか。それが褒めてあろうが、けなしていようが……けなしているならなおさら、なかなか愛を感じられなくて。読んでいてしんどくなってくるっていうことがすごく多かったんですね。で、僕は川勝さんの文章で何が好きだったかっていうと、川勝さんの本の中に書いたんですけど。「評論するな。感染しろ」っていうキャッチコピーが書いてあって。

で、川勝さんって自分がポップだって思ったものを本当に……まさにそれに感染した状態で書くんですよ。で、それでその作品がいかにすごいと思うかとか、僕は好きだと思うかとか。かつ、もちろん膨大な知識の中から評論というものするんだけど。それがでも「評論」というよりも本当にその主体がそっち側にあるんですよね。で、「自分をすごいと思ってくれ」っていう文章じゃないんですよ。

世に溢れてるいろんなものを評論だったり、何かを語る文章って、「これを語っている私を見てくれ」っていう。「この視線を持っている私を見てくれ。今、この時代でこの人はすごい褒められているけど私は今、この人をけなしますよ。どうです? 私を見てください」っていう文章があまりに多すぎると思っていて。

でも、川勝さんはそうじゃなかった。でも今、その川勝さんはいない。で、僕はすごく寂しいなと思っている中、この『悔しみノート』は本当にその表現にどっぷり浸かって、それで「悔しい!」って言う。でも、その自分を……「私を見てくれ」ってなりそうなのに、なっていないんですよね。その対象のことを中心に書いていて。それが僕は読んでいて、本当に悔しさを書いてるんだけど。やっぱりその創作物とか表現に対する愛情をすごく感じるんですよね。

で、この方がこの文章の中でも自分がやってて挫折したっていう……演劇だったりとかをやっていて挫折したっていう文章も書いてある中で、やっぱりそこに対する、表現に対してちゃんと正座して臨んでるが故の、でも自分はその場にいないのだというところの悔しさを書いていて。その川勝型の文章の書き方っていうのをすごく久しぶりに見た感じがして。

久しぶりに見た川勝型の文章の書き方

で、もちろん全然、文章の書き方とかは違うんですけど。存在の仕方みたいなのがすごく通じるような気がして。僕のこともすごい書いてくれいて。で、「悔しい!」って言ってくれてて。フフフ(笑)。でも笑っちゃうですけど(笑)。なんか、その書いている書き方がすごく面白いから笑ってしまうんだけど。すごく……何だろうね? すごく、文章の並びとしてはくさしてる感じとして受け取ってもしょうがないと思うんだけど、すごい褒められてる気がするっていうか。

だからなんか宮藤さんが「なんか悔しいんだけど」って思うのは、でもたしかになんかそれ、すごいわかるなっていう。なんかすごくね、そんな読んでいて不思議な気持ちになったと同時に、川勝さんを思い出したというすごい素敵な本でした。で、この本をぜひ読んでみてください。帯に書いてあるジェーン・スーさんの言葉もすごくよくて。すごい面白かったので、よかったら皆さん、チェックしてみてください。

(中略)

(星野源)東京都の方から。「付箋まで貼ってくれるなんてなんて細やかなんでしょう。お話を聞いていたら読みたくなってポチりました」。ああ、よかった。「そしてジェーン・スーさんが今、Twitterでつぶやいています。興奮してらっしゃいます」。ああ、ありがとうございます。ジェーン・スーさん、ありがとうございます。ジェーン・スーさんの本もすごい面白いですよね。もしよかったらこのまま聞いてくださいね。

<書き起こしおわり>

タイトルとURLをコピーしました