武田砂鉄「忙しさ自慢」を語る

武田砂鉄「忙しさ自慢」を語る ACTION

武田砂鉄さんが2020年8月21日放送のTBSラジオ『ACTION』の中で忙しさについてトーク。忙しさ自慢や忙しさを言い訳にすることなどについて話していました。

(武田砂鉄)以前、幸坂さんにお聞きしましたけれども。なんか高校時代にテスト前に幸坂ノートが出回っていたっていう話をされていましたよね?

(幸坂理加)ああ、大学時代に。していましたね。

(武田砂鉄)大学時代に。でも、やっぱりご自分は別のノートをお持ちになっていたっていうことで、「非常に賢い方だな」っていう風に思いましたけれども。自分の高校時代のテストの時を思い出すと、2パターンいて。「俺、全然勉強してねえよ。ヤベえよ、ヤベえよ」っていうやつと、「今日俺、徹夜しちゃったよ。寝てねえよ」っていう2パターンがいて。

結果、そういう人ってのは可もなく不可もないっていう点数を取っていることが多くて。それはなぜか?っていうと、「全然勉強してない」って言ってるやつって意外とそれなりに勉強してたり。「徹夜しちゃったよ」っていうやつも意外とそれなりに寝てたりするんですよね。で、学生時代はそういう「ヤバいよ」アピールっていうのは流行っていたんですけど。社会人になると、この「忙しいアピール」っていうのが始まりまして。

「いや、最近忙しくてさ」なんて話をよく飲み屋なんかで聞いてるとね、「これ、なんか矛盾してねえか?」って思うことっていうのはよくあるわけですけれども。「忙しいってそんなに価値のあることなのかな?」って僕はよく社会人時代……まあ今も社会人だと言えば社会人ですけど。思うんですけど。

(幸坂理加)ええ。

(武田砂鉄)よくメールに「お忙しいところすいませんが」っていう風に僕のところにも来るんですけども。「何でこっちが多忙か暇かを知ってるのかな?」って思ったりするんですけど。でも、とか言いながらも自分も相手に「いや、すいません。そちらこそお忙しいところを」なんて返していたりするんですけど。だからまあ実際にそういう風に多忙なんでしょうけど。

気持ちとして多忙が膨らんでいく時ってよくあって。実際に多忙だったら改善をしなくちゃいけないですけど、気持ちの多忙がどんどんどんどん膨らんでいく。それでこうやって歳を重ねていくと、その多忙が本当に多忙なのかどうか、見極められるようになってくるっていうところがありまして。シンプルな話、「忙しいなら休むべき」っていうところに行き着くんですけど。

(幸坂理加)そうですね。

(武田砂鉄)今週、安倍さんの健康不安説ってのが出てきて。安倍さんが病院に入ったので、「どういうことか?」ってみんな、心配したんですけど。騒ぎ立てたんですけどね。まあ結局、追加検査を受けただけで公務に復帰されたということで。ごく冷静に考えて、あまりに忙しいなら休みを取るべきだし。何か特定の病気だってことであれば、これはキチッと治療に専念してもらって。その間の政治を停滞させないためにいろんな策を練らなきゃいけないんですけど。

結構今、首相動静をチェックしてね、「『休んでない』って言ってるけど、この日なんかほとんど家にいるだけじゃないか!」っていうツッコミを入れるという向きもあるんですけど。これをやってもですね、「いや、ただただ家にいるだけではなくて、その間も仕事してますよ」っていう風に返ってくるだけなんで。僕はそれ、どこまで意味があるのかな?って思ったりもするんですけど。

で、その返しって結構、たしかにその通りじゃないですか。だから、首相動静じゃなくて、たとえば今日の砂鉄動静をね、振り返ってみると……午前中は自宅で過ごす。14時、TBS入り。18時、TBSを出る。19時、帰宅。これ、4時間勤務ですよね。でも、そうされると「4時間勤務だけじゃねえぞ。午前中、忙しいぞ」っていう風に思ったりもするので。ちょっとその動静だけで見るのはどうなのかなと思ったりもするんですけど。

今週、麻生財務大臣が記者に向けて「147日間、休まず働いてみたことありますか? ないだろうね。だったら意味、分かるじゃない? 140日休まないで働いたことないだろう? 140日働いたことない人が、働いた人のこと言ったってわかんないわけですよ」と例のあの口調でま言われたわけなんですけども。このね、「○○したことないなら言うな」ってやっぱりこれ、政治家が一番持っちゃいけない思考だなと僕は思うんですよね。

まあ政治家だけじゃなくて、この考え方ってのは誰も思っちゃいけない考え方だと思うんですけど。「働いたことがないなら言うな」とかね、「結婚したことないなら言うな」とか「子育てしたことないなら言うな」とかっていうことって、その経験の有無で発言の機会を奪うことってしちゃいけないと思うんですけど。なんかこの政治家の方が「お前さんはこっちに発言できる条件を満たしているのかい?」っていう風に言うのはとても危ういことだと思うんですよね。

(幸坂理加)何も言えなくなってしまいますからね。

(武田砂鉄)何も言えなくなっちゃいますからね。それで実際の安倍さんの体調っていうのはこれ、側近にしか分からないので。僕たちはその公的に流れてきた情報を受け止めるしかないわけですけれど。まあ安倍さんはご自身で「体調管理に万全を期すために検査を受けた。これから再び仕事に復帰して頑張っていきたいと思う」という風に話してるんで。

だったらやっぱりこれまで通り、「臨時国会を開いてくださいよ」とか「説明不足のことがあるので、それについて話してくださいよ」っていう風に追求すればいいと思うんですけど。それなのに、その周辺からは「首相は疲れてる」とか「ストレスが溜まっている」とか「責任感が強い」とかですね、非常に感覚的な声ばかりが積み上がってる感じがありまして。甘利明さんに至ってはTwitterで「総理は間違いなく懸命に取り組んでいます」という風にお書きになっていて。「○○をしました」っていう成果じゃなくて、努力を見てくれっていう感じになってきてるんですね。

それで昨日か今日か、ネットニュースを見ていたら、ある大学教授が「首相はどこにいたって責任があるし、すぐに連絡がくる。ゴルフをしている時だって『何かあるんじゃないか?』とやっぱり不安になるだろう。あなたたち一般ピープルとは違うのだから、そういう目線で首相の働き方を批判するのはおかしい。そういう批判をしているやつはいい加減にしろ。選挙権を一度、返上しろ」なんていうことをお書きになってたんですね。「一般ピープル」っていう言い方、久しぶりに聞きましたけども。

(幸坂理加)「一般ピープル」(笑)。

(武田砂鉄)でも、この国は「国民主権」でございますんで。言ってみれば「一般ピープル主権」っていうところがありまして。国民主権っていうのは「国を統治する権力は一般ピープルにある」という考え方ですけれども。だから、その国会議員が「一般ピープルの代表者」として適切に権力を持ってるか? その権力を行使しているか?っていうのを一般ピープルがチェックするということで、この民主主義というものは保たれているわけですけど。

「国民主権」=「一般ピープル主権」

ただ、一般ピープルですからね。一般ピープル個人ではなかなかできないので、こういったメディアがチェックしたり、政治の中で野党というものの役割が出てきたりするわけですけれども。だからその「国会を開いてください」とか「説明をしてください」っていう要求に対して「これ以上、首相の仕事を増やすのはやめてくれ」っていうような感覚ではねのけようとするっていう空気感を作るということは、僕はとても危ういと思うんですよね。

今週、赤木雅子さんの『私は真実が知りたい』っていう本を読んでまして。この赤木雅子さんというのは森友学園の事件の渦中で、安倍昭恵夫人の名前を隠蔽するために公文書改ざんを命じられた近畿財務局の職員の赤木俊夫さん。まあ、自ら命を絶たれてしまった方のパートナーの方の手記なんですけれども。これを読むとですね、麻生さん率いる財務省がいかにこの件を矮小化してきたかっていうことがあらためて見えてくるんですけど。

雅子さんは最初はその夫が働いてた仕事場なんで、やっぱり信頼感とか恩義っていうものも持っていたんですけど、読み進めていくとそれがどんどん崩れてくるんですよね。で、雅子さんは麻生大臣に「墓参りに来てほしい」っていう風に述べただけども、しばらくしたら麻生さんが「遺族が『来てほしくない』ということだったので伺っていない」という風に答弁されたんですけど。

それについて雅子さんは「私が言ってもいないことがまるで事実のように語られ、それを理由に墓参りに来ないとはあまりに理不尽だと感じました。結局私の意思なんてどうでもいいんですね」ということをお書きになってるんですけど。この亡くなった赤木さんの口癖は「私の雇用主は国民です」っていうで。それを口癖のように仰っていたという。これはさっき言った「あなたたち一般ピープルとは違う」っていう考え方とは全く真逆なんですよね。

で、今週、その雅子さんが俊夫さんの公務災害認定に関する文書の速やかな開示を求める裁判の口頭弁論がありまして。これ、どういうものかというと、「公務災害に認定された関連文書を開示してくれ」っていうことを雅子さんが近畿財務局に4月に求めたんですけれども。5月に「新型コロナウイルスによる緊急事態宣言に伴う業務多忙」を理由に、「この文書の大部分を開示するかどうかの判断期限を来年5月まで伸ばす」という通知があったんですね。

つまり、「文書の開示をするかどうかの判断を1年後まで引っ張りますよ。その理由は理由が多忙です」っていうことですからね。で、雅子さんは裁判官に「自死遺族という立場にいるのに、公文書が開示されず、苦しんでいます。夫のことを知ることができない苦しみから解放してください」っていうことを訴えたんですけども。「業務多忙を理由に文書を開示するかどうかを1年後に決める」っていうのはなかなか、おかしいですよね。どんだけ業務が溜まっているんだろう?っていう。

でも、これだけ世の中の注目を集めて、それの全貌がよく分かってないってことを雅子さんご自身が取り組んで、なんとか夫の名誉のためにっていうことで頑張られているものを、「多忙」を理由に1年後にするってのは本当にナンセンスなことだなと思うんですけれども。安倍さんはずっと、口癖のように「政治は結果だ」ということを仰っている。でもどうやら、ここの所の動きを見てると「政治は結果」っていうよりも「いや、なんか忙しくて大変なんですよ、こっちは」っていう。なんか、「努力を見てほしい」っていう風に変わってきた感じが僕はするんですよね。

「政治は結果」→「忙しい、努力を見てほしい」

で、この「忙しい」とか「努力してる」っていうことを言い訳に使っちゃいけないと思うんですけれども。でも、それを言うとまさっきのように「いや、お前らみたいな一般ピープルとは違って、こっちは忙しいんだよ」っていう声が飛んでくるんですけど。でも、忙しいんだったらもう他の人に仕事を振ってですね、仕事の優先順位の高いものをやればいいんだし。もし、その忙しさに耐えられない体調でもあるのならば、それは休養するべきだと思うんですよね。

(幸坂理加)しっかり休んでいただいて、その後に国会を開いていただいてね。

(武田砂鉄)そうそう。そうすればいいわけで。でも本当、この半年間、どんな立場の誰であったとしても、ものすごい大変な思いをしてるわけじゃないですか。疲れがたまってるし、ストレスもたまってるし。だから僕、このラジオでも4回、5回ぐらい言っていると思いますけど。そういうところはやっぱり想像力を上に使うのではなくて、横に使おうってことを言ってるんですけど。なんかみんな上に使っていて。「結構、頑張ってるよ」「大変そうだよ」っていう…・まあ、大変なんだけど。これだけみんなが大変な時には「周りがどうか?」っていうことを優先した方がいいと思うんですけれども。

そういう、この一般ピープルのしんどい声とか切実な声っていうのを聞き取ったり、拾い上げたりするのが政治なんじゃないのかな?っていう風に思うんですけども。いかがなものかと思うんですよね。少なくともこの「忙しい」を言いわけにしたりとか、「お前はこれだけ働いたことあるのか?」みたいなものっていうのは、僕は社会人2年目ぐらいでなんとか卒業してほしいもんだなと思うんですけれどもね。

(幸坂理加)ねえ。その言い方はちょっとね……。

(武田砂鉄)いかがなものかと思いますよ。僕はだからその何か高校時代のね、石崎くんという人がいてね。彼はいつも忙しい自慢してたんですよ。麻生さんの発言を聞いて、それを思い出しましたけどね。

(幸坂理加)いますね。

(武田砂鉄)石崎くんとは10年前ぐらいに上海に一緒に旅行に行ってね、それ以降、ちょっと連絡が途絶えてましたね。風の噂には沖縄にいるっていう話だったんですけども。元気にしてますかね?っていうことを麻生さんを見て思い出しましたけれども。でもそういう「忙しい」を言い訳にしたり、「お前はこれだけ働いたことあんのか?」っていうような言い方というのは、本当にさすがにおやめいただけないかなという風に思いましたですね。

<書き起こしおわり>

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