武田砂鉄 紅白歌合戦とAI美空ひばりを語る

武田砂鉄 紅白歌合戦とAI美空ひばりを語る ACTION

武田砂鉄さんがTBSラジオ『ACTION』の中で2019年大晦日に放送された紅白歌合戦についてトーク。AI美空ひばり『あれから』などについて話していました。

(武田砂鉄)僕は毎年、紅白歌合戦を分析する記事っていうのを書いてまして。今年も書こうと思ってるんですけど。見ました? 紅白は。

(幸坂理加)見ました、見ました。

(武田砂鉄)毎年、僕が注目してるのはやっぱり三山ひろしさんのでけん玉。あれを毎回チェックしてて。今年は86人目で失敗をしたんですけども。で、僕がその去年の記事にですね、「来年、かならず彼はけん玉じゃなくて竹とんぼで来る」ということを書いたんですよね。それは三山さんのブログを見るとですね、特技に「竹とんぼ製作」っていう風に書いてあるから、「これはそろそろけん玉から竹とんぼにシフトするんじゃないか?」っていうことで予測して書いていたんですけども。

(幸坂理加)危ないでしょう、竹とんぼは(笑)。

(武田砂鉄)そうなんですよ。お気づきになりました? あの紅白の一斉にいろいろと片付けたりしなきゃいけない時に竹とんぼを飛ばしたりすると大変なことになるという。だから本当は彼はね、竹とんぼがやりたいんだと思う。

(幸坂理加)ああ、本心は?

(武田砂鉄)あれは本心じゃないんですよ。けん玉は。「竹とんぼ製作」って書いてあるんだから。

(幸坂理加)ああ、そうですか(笑)。

(武田砂鉄)本当、だからみんな、歌合戦全体がその三山ひろしの気持ちを考えてね、どうしたら竹とんぼをやらせてやれるか?っていうことをちょっと考えましたけども。まあ一番、気になったのはですね、AI美空ひばりのね、『あれから』っていうので。僕、あれを本当にこの2日間ぐらいずっとモヤモヤしてたんですけど。まあ、心を揺さぶられた人も多いんでしょうけれども。まあご覧になっていない方の方に説明をするとですね、最新のAI技術を駆使して、過去のひばりさんの音源とかを人工知能に学習させて、ディープラーニングというので声を再現したという。

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音程とかビブラートとか、そういうのを全部調整して、それにひばりさんの映像を重ね合わせたという作品で。その著作権者の人とかもOKをしているから、権利上の問題はないんですけれども。その曲の間にね、ひばりさんが語りかけるんですよ。「お久しぶりです。あなたのことをずっと見てましたよ。頑張りましたね。さあ、私の分までまだまだ頑張って」っていうコメントを出すんですけど、「これはやっちゃいけないじゃないかな?」っていう感じが僕はすごくプンプンしたんですよね。

(幸坂理加)うんうん。何か怖い感じもしましたね。

「これはやっちゃいけないじゃないか?」

(武田砂鉄)怖い感じしましたよね。で、僕がその紅白を見た後に、家にある美空さんの東京ドームのねライブ盤を聞いたらですね、やっぱり奥行きがあるし。呼吸とか息づかいはすごく艶っぽくてですね、全くその……はっきり言ってそのAIが作ったひばりさんとまったく差があるなと思って。逆に言うと、AIでは表現できないことがまだまだいっぱいあるんだなって立証できた感じがするんですけど。

まあ、自分が好きなミュージシャンでもう死んでしまった、いなくなってしまったアーティストの音楽を聞いて、「本当だったらまだ生きていて、いろんな音楽を作ってほしいな」って思うじゃないですか。それと、ああやってその「30年ぶりの新曲です」っていう風に公式に謳ってリリースをするっていうのはなんか違うような気がするんですよね。

(幸坂理加)「新曲」ですからね。

(武田砂鉄)で、僕は去年……一昨年かな? 僕、メタル好きなんだけど、そのメタルバンドでハロウィンというバンドがいて、ドイツのバンドなんですけどね。そこのドラムの人が前に若くして亡くなってしまったんですけど、再結成をする時に「彼のことも思い出してほしい」っていうんでその彼がドラムソロをやってた音源に、今の現役のドラマーの人が音を合わせて、ちょっと合唱みたいな形で合わさるような形でドラムソロを披露するっていうように僕はさぞかし感動したんですよね。

それはなぜ感動したか?っていうと、その当時の死んでしまった彼の音はいじってないわけで。いじってない上に今のメンバーの音を重ね合わせていって、ひとつのハロウィンというバンドの歴史を象徴するっていうことをやる。そのプロジェクトがすごく素敵なことだなっていう風に思ったんですけど。

たとばさ、CMとかなんかでベートーベンの肖像画が話し始めるみたいなのってあるじゃないですか。あれに対して別に「いや、ちょっとベートーベンに話させるのはどうか?」とは思わないわけだよね。でも美空さんがああいう風にしゃべると、なんとなくこうザワザワザワッとするですよね。で、これはアエラドットっていうところにこの番組にお越しくださった福井健策弁護士がこういう書いていますね。

「こういうことをやると考えられるのが『依存』の問題です。たとば家族や恋人を失った寂しさを埋めるために故人がAI技術で復元されると、いつまでもそれに依存してしまう可能性がある。有名人がAIで再現されて高額な商品を売り付けるようなビジネスもありえます。AI技術が暴走した場合に誰が責任を持つのか? 開発者なのか? 操作した人なのか? そのあたりの議論が深まっていない」という。

(幸坂理加)うんうん。

(武田砂鉄)で、僕この『あれから』っていうののPVを見たら、その最後にですね、紹介されるその美空さんの直筆で「又逢える日を楽しみに私もがんばります」っていう直筆の文字が出るんですよ。

「又逢える日を楽しみに私もがんばります」というメッセージ

(幸坂理加)はい。

(武田砂鉄)で、それを見てるから「こっちに向けられたメッセージかな」って思うんだけども、いろいろと調べてみると「これは1987年に入院してた美空さんが千代の富士へ送ったお礼の手紙を引用した」っていう風に書いていてあって。これはやっちゃいけないんじゃないかな?っていう風に思ったのよね。

なんか、その何て言うのかな? たとば僕も去年、自分のおばちゃんが死んじゃって。本当に初めて近しい親族が死んだと言っても過言じゃないんだけど。なんか亡くなってから割とその自分の頭の中の記憶とか、当時ばあちゃんがああいうことを言ってたなとかっていうその音だったり映像だったりっていうのが割とボンボンボンボンと浮かぶようになったんですよね。

それって時間をかけて死んだ人と付き合っていくっていうか、ある種こう大切に育てていくもんなんだなっていうのを初めて実感したんですよね。で、たしかにそこで新しい言葉はほしいですよ。自分の名前でばあちゃんが呼びかけてくれたら、それはさぞかし感動するだろうけど。でもそれは……それをやらないからこそ自分の頭の中で「ああ、ばあちゃんとこういう思い出があったな」っていうのを作っていくわけじゃないですか。なんかそれがね、ああいうことが起きるとなんか違うゾーンに行っちゃうんじゃないいか。で、あの歌詞もAIかなと思ったら、秋元康さんの作詞だったんだけど。

その秋元さんの歌詞の中に「生きるというのは別れを知ること」っていう歌詞があったんですね。たしかにその通りだとは思うんですけど。でも「別れを知る」っていうことからあのプロジェクトは遠ざかってるじゃないかな?っていう気がしたんですよね。

(幸坂理加)そうですよね。

(武田砂鉄)まあでも、ちょっと社会的な問題の話をすると今、結構女優さんとかアイドルの人をAI技術で合成したディープフェイク動画っていうのが結構流行っていて。それもすごく問題になっていたり。あるいはオバマ大統領が選挙戦の時にフェイク動画で「トランプってのは全くもってバカ野郎だ」っていうのをホワイトハウスをバックにしゃべってる映像っていうのがオバマさんの口元をいろいろ収集した上で再現した実はフェイク動画だったっていうことも問題になったんですよね。

「感動したからいいじゃん」で本当にいいのか?

そういうところが……今回はさ、「感動したからいいじゃん」みたいな話になってるんだけども。もっと別の使いようがたくさんあるぞっていうことを考えなきゃいけないし。自分が編集者をやってた頃に、もう亡くなった方のジャーナリストとか物書きの人の、いわゆる単行本未収録集みたいなのを何冊か出したんですよね。その時にはやっぱり自分その著作権者の方と話し合いながら、「本当に順番はこれでいいんだろうか?」とか、あるいは「これって今、出されたら嫌な原稿なのかどうか?」っていうのはすごく慎重に考えながらやっていくわけですよね。

(幸坂理加)ええ。

(武田砂鉄)それってどこかに後ろめたさもあって。その原稿にはちょっとした間違いもあったり、今使ったら差別的な表現になるからそのまま印刷するのはどうなのか?って思うような表現もやっぱり1個1個、その著作権者の方と話し合いながら。でも、「その彼の書いたものをそのまま残したいからこのままにしてください」っていう時には奥付の方に「今から考えると差別的な表現も含まれますが、故人の意志を尊重しまして……」みたいなことを書くわけですよね。

そうやって慎重に、かつていた人の言葉っていうのをどういう風に伝えていくのか?っていうことをやるのに僕は慣れていたものだから、こういう風に本人の声で「元気にしていますか?」って言われるのは僕はなんか納得がいかないんですよね。その「感動的だったからいいじゃん」っていうような声もあるのかもしれないけども、この技術って絶対に感動というもの以外にも転用されるもんなんだっていうことを考えないといけないなとちょっと思いまして。だから僕はもう紅白を見て、やっぱり三山ひろしに竹とんぼをやらせてやりたい」っていうのと、「AI美空ひばりはいかがなものかな……ついていけないな」ということを思いましたね。

<書き起こしおわり>

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