渡辺志保 カニエ・ウェスト最初の大統領選挙集会を語る

渡辺志保 カニエ・ウェスト最初の大統領選挙集会を語る INSIDE OUT

渡辺志保さんが2020年7月20日放送のblock.fm『INSIDE OUT』の中で大統領選挙の出馬を表明しているカニエ・ウェストがサウスカロライナ州チャールストンで行ったはじめての選挙集会について話していました。

(渡辺志保)あと、「騒がしいウイークエンド」と言えば何かの話したらいいやら……っていう感じですけど、やっぱりカニエがね、困ったちゃんすぎてどうしましょう?っていう。もういよいよ笑えなくなってきたっていう。

(DJ YANATAKE)この週末の(バースデーバッシュの)ダメージがひどすぎて、そのニュースはほぼ追えてないので。ちょっと分かりやすく教えてもらっていいですか?

(渡辺志保)先週の『INSIDE OUT』でも私、「カニエがのフォーブスマガジンのインタビューを受けて、結構トンデモ政策を言ってましたよ」っていうのを電話でお話して。たとえば自分の政党としてバースデー党(Birthday Party)っていうのを立ち上げたとか。そういった話をしたかと思うんですね。あと自分が目指しているのは(映画『ブラックパンサー』の)ワカンダ王国のような国を作りたいみたいな。「ああ、そうですか」っていうような感じで。

それで私もそのフォーブスの記事を読んでいて、最初は笑いながら読んでいたんだけども、だんだん読み進めるうちに「ちょっとこれは笑えないな……」と思ってきて。で、今回のそのカニエの週末の行動でもう本当にいよいよ、「これはマジで笑えないやつだ!」っていうのを確信してしまったんですけれども。

たとえば、ここのところのカニエの動向は日本のメディアでもバッチリ報じられておりまして。私が参考にしたのは日本のメディアだとBBCジャパンがですね、「カニエ・ウェスト氏、初の選挙集会。米大統領選出馬に懐疑的な見方も」っていう6時間前にアップされたニュースがあるんですけれども。これとかすごくよくまとまっていて、「なるほどな」という感じなんですが。

まあカニエの選挙運動を取りまとめていらっしゃる方がいる。で、その人が「カニエ、やっぱり大統領選をやめるってよ」みたいなことを報道のプレスに伝えて。それが「大統領選、やっぱりやめるらしいぞ」というニュースがバーッと広がって。私もTwitter上で「カニちゃん、お疲れさまでした」みたいなことをつぶやいてしまったんですけども、それはあくまで選挙運動側の人なんですよね。カニエ本人が「やめます」と言ったわけではなくて。

で、実はカニエは全然やめる気はなくて、今もガチで本気で大統領選に出馬しようと思っているんですね。で、7月19日(日)にサウスカロライナ州のチャールストンで選挙集会を開いた。これが彼にとっては最初の選挙集会になるんですよ。で、「その場の思いつきで政策を決定しているようだった」っていう風にこのBBCジャパンの記事にも書かれているですけれども。たぶん私がTwitterを開いて一番最初にトレンドになってたのは「カニエがハリエット・タブマンについてよからぬことを言った」っていうのがひとつニュースになっていて。

ハリエット・タブマンについて言及

で、ハリエット・タブマンってちょうどちょっと前に日本でも『ハリエット』っていう映画が封切られていて。もしかしたら映画をご覧になった方もいらっしゃるかもしれないけども。

ハリエット・タブマンという1800年代に活躍した女性なんです。黒人女性で元々、彼女は黒人奴隷として働かされていたんですけれども。その後、奴隷解放運動に大きく貢献して。「奴隷解放の母」という風にも言われていた人物なんですね。で、有名な話ではありますけれども、かつてのアメリカは南部と北部に分かれていて。それが原因で南北戦争にもなったんですけれども。南部は基本的に奴隷制をよしとする州が多かったんですね。で、北部の方はもっと工業化が進んでいて。奴隷がいなくても機械で工業でお金を稼げるので……みたいな州が多かったので。基本的に北部は奴隷制は反対とする州が多かったんですよ。

で、ハリエット・タブマンは南部の奴隷だったんだけど、命からがら北部に逃げて。で、その後に「アンダーグラウンド・レイルロード」とかって言われますけれども。「地下鉄道」というもの。そうした組織を作って、どんどん奴隷たちを南部から北部へと逃がすのを手伝っていたんですよ。それでいくつもの命が助かった。それで彼女自身も、時にはピストルを携行して。で、奴隷たちが逃げる道筋には、その奴隷を捕まえてそれを再び売り飛ばす業者とかがたくさん張っていたらしいんですけれども。そういう人たちの目をかいくぐりながら、何百人もの奴隷を自由黒人にされたという話がある。

なのでハリエット・タブマンは「奴隷解放の母」でもあるし、あとは女性のリーダーとしてもロールモデルになるような存在でありましたし。オバマ大統領の時代には彼女を次の20ドル札の紙幣の顔に、図案にしよう運動もあったぐらいなんですよね。それにプラスして、ハリエット・タブマンって本当にたくさんのラッパーが彼女の名前をリリックの中でドロップしていて。私が一番好きなのはバスタ・ライムズのクルーにいたラー・ディガっていう女性ラッパーがいるんですけど。彼女のファーストアルバムか『Dirty Harriet』っていうタイトルなんですね。

それはまさにハリエット・タブマンの名前を借りて、それで「ダーティー」っていう。「私はストリートのハリエット・タブマンよ」っていうようなアティチュードで名付けた『Dirty Harriet』というアルバムもあるし。

(DJ YANATAKE)あと、『ダーティ・ハリー』ともかけているのかもね。

(渡辺志保)ああ、そうかもしれないね。あとはコダック・ブラックもたとえば『Harriet Tubman』っていう曲を出していたりとか。

あとはミーゴスのリリックにも出てくる。そしてなんと、カニエ・ウェストの『Ultralight Beam』という曲のチャンス・ザ・ラッパーのリリックにもこのハリエット・タブマンの名前が出てくるんですよね。

なので本当に黒人の女性のリーダーの象徴でもあるハリエット・タブマンなんですが、カニエ・ウェストが何て言ったかといいますと、今回のその集会で「ハリエット・タブマンが実際に奴隷を解放したことはない。彼女がやったことは他の白人のために奴隷を働かせてただけだ。彼女が南部から自由にした奴隷は更にまた他の白人の下で働かされていたから、彼女は何ら奴隷解放なんかしてないんだよ」っていうことを言って、これがもう一気に炎上した。

で、本当に私も「なんという冒涜なんだ!」っていう風にも思ってしまったんですよね。ただ、一応それを擁護してる人もいて。シンガーのラウリーもちょっとこの意見を擁護していたんですけども。で、カニエがここで何を言いたかったか?っていうと、「どんなに黒人が頑張っても、やっぱり白人の支配下からは逃れられない」っていうことを言ってたらしいんですよね。なので、「その白人の白人至上主義であり、その白人が作った資本社会からは俺たちは自由になれない」みたいなこと。そこがボトムラインっていうか、最終的に言いたかったことらしいんだけど。

それにしてもね、たとえが悪すぎたし。本当にハリエット・タブマンのことをそういう風に思っているだのだとしたら、これまた本当に多くの人を敵に回すような発言だなという風にも思いました。で、もうひとつ取り沙汰されているのが中絶……人工妊娠中絶の問題なんですよね。で、これは先週、『INSIDE OUT』でもちょこっとしゃべったように思うんですけれども。フォーブスのインタビューでもカニエは「俺はプロライフだ」っていう風に言っていて。「人工妊娠中絶には絶対禁止すべきだ」っていう立場を取っていたんですよ。

人工妊娠中絶に否定的な立場を取る

で、アメリカって……私もちょっとこのへんは専門ではないので間違っていたら申し訳ないんですけれども。その政治家の主張として「人工妊娠中絶に対して肯定的か? 否定的か?」というそのどちらの立場を取るかっていうのは本当にめちゃめちゃ大きいトピックであるんですよね。そこにはやっぱりキリスト教的な価値観も絡んできますし。やっぱりアメリカの一部の人はダーウィンの進化論も信じないという方もいるぐらいだから、本当に本当に大きな問題でセンシティブな問題なんだけど。

今回、やっぱりカニエの集会で一番話題になっていると思うのはこの「abortion(中絶)」の問題ですよね。で、私もこのカニエの中絶についての意見を聞いて「それはないだろう?」という風に思っちゃったんだけど。キムが最初の子供、ノースを妊娠した時に、彼女が叫びながら「妊娠した」っていうことを伝えてきた。その時、カニエはパリにいたらしいんですけども。そこから1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月ぐらい、中絶しようかどうか迷ってたっていう風に言っていて。

で、しかも「キムはピルを持ってた」って言っていて。それをたぶん人工妊娠中絶用のピルだと思うんだけど。まあ、ギリギリまで悩んでいたらしいのね。で、カニエは中絶を望んでいたらしい。だけどもある日、キムとカニエのところにその神のお告げが降りてきて。それでキムが「やっぱり私、産むことにする!」って言って。それでノースちゃん、長女が誕生したそうなんですけど。

それでカニエはですね、「もしも俺が望んでいなかったとしても、キムがノースを産んだことには変わりはない」という風に言っていて。プラス、カニエのお母さん……亡くなったドンダさんですけれども。ドンダさんがカニエを妊娠した時も、カニエのお父さんはドンダさんに中絶を望んでいたらしいんだよね。なんだけど、ドンダさんが「産む」って決断した俺は今、ここにいるんだっていうのを涙ながらに話していて。それで「中絶は違法であるべきだとは思わない。リーガルであるべきだ。だけれども、そんなことがあるから中絶はダメだ」みたいなことを言っていて。

でも、そもそもさ、男性側が中絶する/しないを決める問題では絶対に絶対にないと思うし。中絶が禁止とか云々の以前に、それはキムとかドンダさんが自分なりに正しい決断をしたから、ノースもカニエもこの世に存在するのであって、それって何か違わないか?っていう風に私は思ってしまうんですよね。

で、カニエ・ウェスト的には「赤ちゃんがいる人みんなが妊娠したら100万ドルをもらえる制度はどうか?」っていうことを言っていて。「なんかもう100万ドル配るわ、宇宙に行くわ、もうめっちゃ前澤さんじゃん!」みたいなことを私は……(笑)。まあ、ちょっとドルと円の通貨が違いますけどね(笑)。「めっちゃ前澤さんじゃん!」って思っちゃって。で、まあそれもね、非常に物議を醸しているカニエさんっていう。

で、Twitterで回ってきた動画で「ハリエット・タブマンは本当は奴隷を解放していなかったんだ」って言った瞬間に「ああ、もう出よう」って言って。「私は笑いを求めにカニエの集会に行った。実際ちょっとウケた。笑えたけど、このカニエの一言で集会を立ち去りました」というツイートが結構バズってて。で、まあそれぐらいね、人の気分を害してしまうというか、すごく身勝手な政策と言うか。そういった意見を今、まき散らしているのがカニエNOWっていう感じですね。

で、このBBCのニュースでも書いてあるんですけど、この後にカニエは……既に大統領選の候補者としての立候補を締め切ってる州もありますので、かなり限られた条件にはなってしまうんですけれども。彼が正式に立候補者として名前を載せるには一定数の署名を集めなきゃいけないっていうことらしいんですよね。で、常にもうオクラホマ州ではその資格を得たんですって。それで今、日曜日にその問題の集会を行なったサウスカロライナ州の署名を集めないといけないだけど。1万名の署名を集めなきゃいけないんですって。

で、さっきTwitter見たらをちゃんと公式のバッジのついたアカントのジャーナリストの人が「そろそろノースカロライナ州で1万人の署名が集まりそうらしいです」みたいなことをつぶやいていて。「なるほど……」みたいな。それは実際にでもカニエの政策をよしと思って署名してるのか、それともなんか面白半分で署名しているのか。あと、カニエのこの主張というか思想、思考に関してはいわゆる保守派。共和党の保守派の方と相性が良い考え方なんだろうなとは思うんだけど。

でも果たしてそこの票をカニエが取ることができるのか? とか。なんか私もそのアーティストとしてのカニエ・ウェストは本当に大好きだし。たとえば彼の新しいアルバム『God’s Country』とかも非常に楽しみにはしているが、やっぱりここまでの困ったカニちゃんだと、何か自分の中でも整理がつかないというか。そういう気持ちではありますね。

(DJ YANATAKE)でもなんか俺もチラッとニュースを見てきたんだけど。なんか具体的な、いわゆる大統領らしい政策らしい政策みたいなことはちゃんと言ってないみたいな?

(渡辺志保)そうですね。

(DJ YANATAKE)なんか思想的なこととかばっかり話して。あと、どういう風な国になったらいいか、みたいなのは逆にいる人に言わせて。自分から具体的な政策を全然言ってないのが結構叩かれてるみたいのも見たんですけど。

(渡辺志保)そう。そういうことだと思いますね。だって「ワカンダ王国みたいにしたい」って言っているぐらいだから。「自分のモデルケースはワカンダです」みたいな。「そりゃまあ、アハハハハ! 胸の前で腕をクロスするわー」みたいな。そんな感じだしね。

(DJ YANATAKE)なんかやっぱり大統領がするような演説パーティーみたいなことではなかったっていうことなのかな?

(渡辺志保)そうですね。で、数百人の人が集まったっていう風にも書かれていて。事前に何か登録した人しか入れなかったらしいんですね。で、それはわかるじゃない? パニックになっちゃうから。なんだけど、カニエのホームページとかを見てもどこにもその事前登録をしてるような様子は全く見られなかった、みたいな記事がタイム誌とかにも書かれていて。じゃあ、どうやって人を集めたんだろう、みたいなところにもつながるし。

本当に彼が……まあ大統領選に出るのって本当に莫大なお金がかかるって言われてますし。カニエさんは莫大なお金があるんだろうけど。だから実際、それがどれだけ中身が詰まってるのか? 逆に言うとどれだけ空虚な大統領選というか出馬になってしまうのか?っていうところもあるし。これはちょっと私もカニエ好きの友人とLINEで話していたことでもあるんですけど。「カニエがなんか洗脳されてるんじゃないかな?」みたいな。「ちょっとカルトっぽい」みたいな。で、今、また自分の土地にみんなで暮らすシェルターを実際に建てていて。実際に建設中の現場の様子なんかもTwitterでいくつかアップしていたぐらいだから。

なんかちょっとカルトじみてるなって思ってちゃってね。かつ、プロライフ派になるっていうことで今回みたいな中絶に対するスピーチをするっていうことはたぶん、ほとんどの女性を敵に回してしまったんじゃないかなという風に思うんですよね。やっぱり私も自分がちょっと前に出産をしたからってのもあるかもしれないけど。やっぱりそのへんの問題、すごい敏感になってしまうというか。「そんなの、お前が決めることじゃねえよ!」ってめっちゃ言いたくなっちゃうし。

で、あとハリエット・タブマンに対する発言もあって、たぶん黒人票もね、かなりそこで……元々少なかったものがさらに少なくなってしまいそうですし。だからこうしてるうちにさ、そのアーティスト、カニエ・ウェストのサポーターまでをも失ってしまうことになりやしないかと心配です。普通に心配です。

(DJ YANATAKE)なるほど。ちょっとまだまだね、日々話題をまき散らしそうなんで。

(渡辺志保)そう。だからこれでキムはなんて言っているんだろうとか。そのキムのお母さん、スーパーマネージャーのクリスはなんて言ってるだろうとかね、思って。最初は「やっぱり大統領選に立候補します!」って独立記念日に言ってた頃はクリスもめっちゃホワイトハウスへの道を考えてるだろな、みたいな風に思ってましたけど。ここまでちょっと困ったちゃんだとどうなってしまうのかな?って思って。

で、それこそカニエの右腕とも言うべきプシャ・Tはこのことをどう思っているんだろう、みたいな。それで無理くりこの曲をかけたいと思うんですけど。ジョーイ・バッドアスが3年ぶりぐらいですかね? まとまった作品を出したと。EPですね。3曲入りの『The Light Pack』というのをリリースしてくれました。で、「Body, Mind, Soul」をテーマにしてるらしいんですね。体と心と魂をそれぞれテーマにした曲が3曲、入っている。

で、今からかける曲は『No Explanation』っていう曲でフィーチャリングがプシャ・Tなんですけども。ジョーイ・バッドアスとプシャ・Tのコンビってめっちゃ最強と思って。ここでもジョーイ・バッドアスは「日々、こんなことを思っているんだ」っていう自分の胸の内をライムにしたためているんですけども。「自分は声なき者の代弁者になりたい。声なき者の声になりたい」という風にね、非常に力強いリリックをスピットしておりますので、ぜひぜひここで聞いてみてください。ジョーイ・バッドアスとプシャ・Tで『No Explanation』。

Joey Bada$$『No Explanation Feat. Pusha T』

(渡辺志保)はい。ジョーイ・バッドアス&プシャ・Tで『No Explanation』でした。ぜひぜひジョーイ・バッドアスのEP、素晴らしいので聞いていただきたいと思います。

<書き起こしおわり>

タイトルとURLをコピーしました