渡辺志保 Kencrick Lamar『The Heart Part 5』を語る

渡辺志保 Kencrick Lamar『The Heart Part 5』を語る INSIDE OUT

渡辺志保さんが2022年5月9日放送のblock.fm『INSIDE OUT』の中で突如発表されたケンドリック・ラマーの新曲『The Heart Part 5』について話していました。

(渡辺志保)今日、だから日本時間の午前中ですよね。アメリカだと5月8日(日)の夜ということになりますけれども。あのケンドリック・ラマーが新曲をリリースしました。『The Heart Part 5』。というわけで、びっくりしたね! 私、Twitterで『The Heart Part 5』のアートワークが出てて。で、「I am. All of us.」っていうそのミュージックビデオの最初に出てくるフレーズを起こすキャプションをつけてつぶやいていた、たぶんComplexだったと思うんですけれども。そのツイートを見て、「あれ? これ、過去作のシングルのアートワークかな?」って思って。「うん?」って思っていたら、なんと新曲が出ていて。ミュージックビデオも同時に発表されていたと。

で、もう何から話しましょうか?っていう感じですけれども。『INSIDE OUT』を聞いていらっしゃる方はですね、この1ヶ月ぐらいですかね? ケンドリック・ラマーのもう本当に待望のニューアルバム『Mr.Moral & The Big Steppers』が5月13日にリリースされるよということはもう情報として、私もそうですし、皆さんもご存知でいらっしゃるかなとは思います。で、ケンドリックのムーブとしてはちょっと前。コーチェラの2週目でベイビー・キームのステージに現れて、一緒に『family ties』をラップしたっていうことなんかもあり。

あと、このアルバムリリースに向けて開設されたホームページもちょこちょこ、そのフォルダを見ることができるっていう仕組みになってるんですけど。そのフォルダの数がちょっと変わったりとか。あと写真をね、いきなりアップロードしていて。それもケンドリック・ラマーがCD-Rを2枚、持っている写真がアップされていて。もしかして新しいアルバムはいわゆる2枚組なんじゃないか?っていうような噂が出ていたりとか。それがここ1ヶ月弱の動きだったわけですよね。

そして5月8日の日曜日、日本時間の今日、月曜日の朝、新曲『The Heart Part 5』がリリースされたっていうことでした。で、なんとなく私、ヤナタケさんとも話している時に「次のアルバムはすごく難しい内容になりそうですよね?」みたいな……。何の根拠もないけど、なんか難しい内容の。だって、アルバムのタイトルも『Mr.Moral & The Big Steppers』って、ちょっと想像がつかないじゃないですか。中身のね。だから難しい内容になりそう。私なんかに理解ができるかしら?」っていう風に思っていたんだけど。

やっぱりこの『The Heart』……もちろんシリーズ作で、過去に1から4までがある。それのPart5ということになりますけれども。でも、やっぱちょっと難解というか。あとね、ClashっていうWebメディアだったかな? この新曲のレビューをいち早く掲載していて。やっぱり「小説にも匹敵するほどの詞だ」みたいなことを書いていて。非常に複雑だし、比喩の表現なんかもケンドリックらしい豊かな比喩表現にあふれていて。

で、私も今日、何度も何度も今日ミュージックビデオを見ながら、リリックを追いながら。で、もうRap Geniusに早速全世界のケンドリック・ラマーファンが書き込んでいるアノテーション(解説)を読みながら、何度も何度も当たってみましたけれども。なんていうか、外枠は理解できたけれども、やっぱりまだちょっと「これってどういう意味なんだろう?」っていう箇所がたくさんあるというのが今の正直な私の現状でございますね。

Kendrick Lamar – The Heart Part 5
“The Heart Part 5” is the fifth installment in Kendrick Lamar’s “The Heart” series. It serves as a promotional single fo...

(渡辺志保)で、ミュージックビデオを見た方もたくさんいると思うんですけれども、びっくりしたね。このミュージックビデオはね。なんか……なにから話せばいいのやらっていう感じだけども。最初に「I am. All of us.」っていうメッセージが出て。「僕、そして僕たちみんな」っていうことだと思うんですけれども。そういったメッセージが黒い背景に白文字で映るわけですけれども。ケンドリック・ラマーはその赤い壁の前に立っていて、白いTシャツに黒なのか、ネイビーなのかっていうバンダナを首に巻いていらっしゃって。非常に格好としてはカジュアルだし、セットとしても非常にシンプルなセットでケンドリックが1人でラップをする。

だけれども、どんどん顔が変わっていくのよね。で、どんな顔に変わるかというと、カニエ・ウェスト、ニプシー・ハッスル、ウィル・スミス、ジャシー・スモレット、O・J・シンプソン、そしてコービー・ブライアントというわけで。いわゆる、その「ディープフェイク」という手法を使ってケンドリックの顔がいろんな人、6名の顔にどんどん変わっていくんですよね。もうそれだけでもたまげたし。

ディープフェイクでケンドリックの顔が変わる

(DJ YANATAKE)このディープフェイクっていうのはいろいろな問題になってるけど。新しい技術ではあるとは思うんだけど。でも、すごいシンプルなビデオなんだけど。ディープフェイクの中の度合いっていうか。それはすごいいいものを使ったりしてね、いい監督とか使ってやってるんでしょうけど。すごい簡単な画にディープフェイクするだけっていう、このアイデアよ……という感じよね。

(渡辺志保)このアイデアよっていう感じ。しかもこの6人の顔に変わるんだけど、それはどうやってこの6人にしたのかな?っていうのがやっぱり気になりますよね。で、既に出ているレビューであるとか、Twitterでジャーナリストの方がつぶやいている内容とかも見たんだけれども。たとえばニプシー・ハッスルとかコービー・ブライアントっていうのはもうこの世にはいないアイコンですよね。だから「失われたブラックアイコン」っていう。で、そもそもですけれども、この6名は全員アメリカの黒人男性なんですよね。

で、ニプシーとかコービーに関しては失われたブラックアイコンで。そしてカニエ・ウェストとかウィル・スミスに関してはポップカルチャーで絶大な存在感を誇るブラックメイル、アメリカの黒人男性として出ているんじゃないか、みたいなことをおっしゃってる方もいて。それは「なるほど」という感じもしますし。このへんをちょっと紐解いていくには私ももうちょっと時間がほしいなと思っているし。

ただ、ウィル・スミスとかジャシー・スモレットとか、あとO・J・シンプソンに関してはやっぱりひとつの事件……それは自分が起こした事件であるとは思うんですけれども。まあO・J・シンプソンの場合はちょっとわかんないけれども。自分が引いた引き金によって、自分の立場がこれまでの華やかな立場から逆転してしまった人。そうした事件、そうした象徴として使われてるのかなと思って。ちょっとこれね、アルバムが出た時にまたこの曲が持つ意味っていうのが変わってきそうで。その時にまた触れたいなとも思うんですけれども。

でも私がやっぱり気になったのはリリックの中でも「カルチャー」ということをすごく言ってるんですよね。「これがカルチャーなんだろう」「僕はカルチャーのためにずっとやってきたんだ」っていうようなリリックがあったりとか。「ファック! これがカルチャーなのか」みたいな。だからそのカルチャーっていうのももちろんいい意味で使われることもあるけれども、今そのカルチャーという言葉だけが形骸化してしまって。カルチャーだけが独り歩きしてるみたいな。

だからそこの、カルチャーの内側にあるいろんな問題……もっと話し合わなければならない。もっといろんな視点から考えなければいけない問題っていうのを全てその「カルチャー」という言葉で覆ってしまってるんじゃないか。それをちょっと皮肉っぽくラップしているのかな、という風に思いました。で、最初この曲はケンドリックの語りから始まるんですけれども。最初、「As I get a little older, I realize life is perspective And my perspective may differ from yours」っていうセリフから始まるんですけれども。「ちょっと歳を取るにつれて気づいたことがある。それは人生とは物の見方なのでは? そういうことに気づいた。でも俺の物の見方、俺の視点というのは君のそれとはちょっと違うのかもしれないね」っていう言葉で始まるんですよね。

で、ミュージックビデオも繰り返すけど、「I am. All of us.」っていうステートメントから始まるということで。かつ、そこから6人の顔にいろいろと変化しつつ、ケンドリックがラップをする。なので、そのケンドリックの視点でのラップと重なるように、そのいろんな人たちの視点からのラップを織り交ぜた、そんな内容になってるのかなという風に思いました。で、それが最も顕著なのが3つ目のバースなんですけれども。これはね、ニプシー・ハッスルの視点でラップしてるんですよね。でも本当にさ、これって一歩間違えると死者への冒涜というか。

(DJ YANATAKE)たしかに。

(渡辺志保)日本でもちょっとゴシップ記事的なので死んだ方を語ってブログを書いたり、みたいなのが芸能ニュースで話題になっていたけれども。でも、ここではケンドリック・ラマーがニプシー・ハッスルの視点に立ってラップしてるんですよね。で、実際のニプシー・ハッスルのお兄さんの名前を入れてみたりとか。あと、ニプシーはその自分が守ってきたフッドで銃弾に倒れて命を落としたということになっていますけれども。「だからといって俺はこのフッドを責めることはできない」っていうことをラップしてるんですよね。

だからなんかもう本当にいろいろ考えさせられましたね。今もちょっと、「どういう意味なんだろう?」って思う箇所はたくさんあるから100%理解してるとは私も言いがたいわけなんですけれども。いやー、もう複雑ね……っていう。

(DJ YANATAKE)そうだね。まあ逆に……許可みたいな話は難しい話だけども。

(渡辺志保)だし、別にここでケンドリックを責める人っていうのはもちろんいないとは思うし。これをなにか、そのブラザーフッドに帰結して論じている方もいらっしゃいましたね。やっぱり黒人男性の男性同士の絆の歌ということで説明していらっしゃるか方もいました。

(DJ YANATAKE)でもこれ、たぶんあれだよね? 今までの過去の動きを見てると、アルバムには入らない曲なんだろうね?

(渡辺志保)ああ、『The Heart』シリーズだしね。

(DJ YANATAKE)でもなんか、ここにまたこの1週間かけて、みんな「なにかアルバムへのヒントが隠されてるんじゃないか?」みたいなのを毎日、やり合うわけですよね?

(渡辺志保)そうね。でも私はこの曲、入るんじゃないのかなという風になんとなく感じておりますね。あと、ちなみにアートワークもさ、いろんな人の手がコラージュされているんだけど。これ、実際にだからO・J・シンプソンとかカニエとかの手らしいですね。

(DJ YANATAKE)ああ、そうなんだ。

(渡辺志保)もう解析班がいて。そういうのをいくつか見ました。

(DJ YANATAKE)でもそれ、このために撮影してたとしたら、すごいね。

(渡辺志保)だからその彼らの有名な写真からそれぞれ抜いたっていう。過去の有名な写真から抜いた手のひらをコラージュしてるんですって。ちなみにサンプリングソースはマーヴィン・ゲイの『I Want You』。リオン・ウェアという偉大なプロデューサーの曲をサンプリングしているわけだけども。

Marvin Gaye『I Want You』をサンプリング

(渡辺志保)なんか私、この曲を聞いてだから「カルチャーというものをすごい皮肉っている歌だな」って感じたの。で、その皮肉めいたバイブスはベイビー・キームの『family ties』でも感じたんですよね。それで今日、ちょっと改めて『family ties』のリリックも見てみたんだけど。ここでさ、ケンドリックは自分のことを「I am a legacy, I come from the seventy」って言っていて。「俺自身がレガシー。俺は70年代から来た男だ」っていう風に言ってて。で、マーヴィン・ゲイの『I Want You』も76年の作品だから。なんかちょっとつながりめいたものを感じてしまいました。

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(DJ YANATAKE)あとさ、これさっきさ、夕方にミュージックビデオ、1回見れなくなったね。

(渡辺志保)ああ、そうなの?

(DJ YANATAKE)そうそう。何時間か見れなくなっていて。今、また見れるようになったんだけど。結構、夕方にラジオを一緒にやっていたDJ K.DA.Bがそれに気づいて。さっき、アッキーもツイートしていて。で、俺も今、改めてもう1回、見ようかなと思ったら今、また見れるようになっているんでよかったですけども。何があったのかな?って。最初、だから差し替えか、とか。なにかディープフェイクで問題が出たのかなとか、思ったんだけども。でも、またそのまま上がってるんでまあ大丈夫だとは思うんですけど。

(渡辺志保)あと私がすごいチェックしてるDJBoothっていうWebサイトのファウンダーの人も言っていて。マーヴィン・ゲイのサンプリングってクリアランスがクソ難しいことで知られているんですよね。で、たくさんたくさんマーヴィン・ゲイのサンプリングに関する裁判ってしょっちゅう行われていて。たとえばファレル・ウィリアムスとロビン・シックとかね。だから、「どうやってサンプリングのクリアランスを取ったんだ? どれぐらい期間を要したんだ?」みたいなことをつぶやいてて。そのへん、記事もね後で読みたいなという風に思ってます。

(DJ YANATAKE)なるほどね。

(渡辺志保)みたいな。まだちょっと私も冷静に話せないみたいな。

(DJ YANATAKE)ロビン・シックの『Blurred Lines』とかだよね。

(渡辺志保)そうそう。

(DJ YANATAKE)まあ、でもとにかく何はともあれ、今週もうアルバムが出ちゃうわけですからね。

(渡辺志保)そうよ。5月13日(金)には出ちゃうわけだから、どうしましょう?っていう風に思うんですね(笑)。

(DJ YANATAKE)とにかくね、一番のボムが出るわけですから、心して臨みましょうかね。

(渡辺志保)本当だね。ちょっと整えて臨みたいと思います。じゃあ、ここでちょっと皆さんにも聞いていただきましょう。ケンドリック・ラマーの新曲『The Heart Part 5』です。

Kencrick Lamar『The Heart Part 5』

<書き起こしおわり>

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