町山智浩 ディズニー映画『南部の唄』の問題点を語る

町山智浩 ディズニー映画『南部の唄』の問題点を語る ラジオ

(町山智浩)今、考えるとこんなものをテレビでよくやったなと思いますけれど。だってもうひどいですよ。『マンディンゴ』というのは黒人奴隷の中で最も血筋がいいとされている人たちのことを言ってるんですね。で、それをかけ合わせていって純粋なマンディンゴを作ると売れるっていうことをしているのが主人公たちなんですよ。それをやってるうちにどうなるか?っていうと、兄と妹をつがわせてしまうことになるんですよ。

それでこういうセリフが出てくるんですよ。「えっ、あれは兄と妹だったのか?」って。でも子供たち、どんどん黒人の奴隷は子供の頃から売られちゃうから、わからなかったりするんですね。でも全部記録に残ってるから調べればわかって、だから調べたらわかっちゃったんですよ。「この2人、兄と妹だ。どうしよう? 子供生まれたらどうする? もし奇形だったらどうする?」って言うと「殺せばいいさ」って言うんですよ。聞いてるだけでもうゾッとするような話が……でも、まあそうだろうなっていう話は『マンディンゴ』にはいっぱい出てくるんですけども。

それは昔は月曜ロードショーで放送していまして。僕は親と見ましたよ。家族そろって見ましたよ。仲良くね。荻昌弘さんの解説で。途中にコマーシャルが入るんですよ。この内容で。この内容でコマーシャルが入るんですよ。「チャーミーグリーンを使うと手をつなぎたくなる」みたいなのをやるわけですよ。頭がおかしくなりますよ。小学生でこれを家族揃ってテレビで見たら。

それで見終わった後に「さあ、寝るか」って……こんなので寝れるか!っていうね。それが『マンディンゴ』なんですけども。今度、CSのザ・シネマという映画チャンネルで僕が解説して。7月の終わりに『マンディンゴ』を放送しますのでぜひご覧ください。

これが南部の奴隷制度の真実です。でも『マンディンゴ』はすごいっていうことで、これもずっとDVDが出なくて。封印状態になっていたんですが、それを「これはすごい映画だからみんなに見せるべきだ」と言ったのがクエンティン・タランティーノなんですよ。「これが封印されてる状態になってるのはおかしい。これは南部の実態を描いた数少ない作品である」という。あのドラマの『ルーツ』にすら、ここまで出てこないんですね。

タランティーノが絶賛して復刻される

それでタランティーノはですね、いろんなところで「『マンディンゴ』はすごい! 『マンディンゴ』はすごい!」って言ったので、ニューヨークで上映があって。それまでみんな、見てなかったですよ。それで上映されて、それこそみんな、「これは見ちゃいけない映画だ」と思ってたのを見てみたら「これはすごい。リアルだ。本当のことが描かれている!」ってことで再評価が進んでDVDが出たんですね。『マンディンゴ』の。

で、タランティーノは『マンディンゴ』を自分のバージョンで映像化したのが『ジャンゴ 繋がれざる者』なんですね。だから中でマンディンゴ・ファイトっていうのが出てきて。そのマンディンゴ同士を戦わせて殺し合いをさせるっていうのをレオナルド・ディカプリオがやりますけども。

あれは基本的にはその『マンディンゴ』の影響でやってるんですが。ただタランティーノに僕、インタビューした時に「『マンディンゴ』にあってこの『ジャンゴ 繋がれざる者』にないことがひとつありますね」って言ったんですよ。。それは「白人男性による黒人女性へのレイプ」なんですよ。実はそれがずっと行なわれていたわけですけれど。タランティーノは「僕はそれはちょっときつくて。レイプとかやっぱり映像化できなかったな」って言ったんですね。

「おっさん、何を言ってるんだ?」と思いましたね。『プラネット・テラー in グラインドハウス』という映画でタランティーノの役名は「レイピスト」っていうんですよ? ねえ(笑)。「でもレイプは俺はちょっとな……」とか言っていたんですけども。「いや、お前やってるじゃん!」って思いましたけどね。まあ、そういうことで……ただ、あの中で出てくる女性。ジャンゴが助け出すジャンゴの奥さん。彼女は一体なぜ、あそこにいるんだ?っていうことは描かれていないんでわからないんですけど。彼女はなんなのか?

その時、サミュエル・L・ジャクソンにインタビューして彼から直接聞いたんですけども。「彼女はなぜ、あの屋敷にいたと思う? 彼女は『Comfort Woman』なんだよ」ってサミュエル・L・ジャクソンは言っていたんですね。「Comfort Woman(慰安婦)なんだ」って言ったんですね。はい。お客さんが来た時とかの接待のためにいるんですよね。はい。

で、その時にサミュエル・L・ジャクソンが「今、奴隷制度を描くということはどういうことですか?」みたいなことを聞かれて激怒したのがすごくて。激怒っていうか……俺が聞いたわけじゃないよ。4人ぐらい、ラウンドテーブルっていって丸いテーブルを囲んでいっぺんにインタビューをするんですよ。聞き手が4、5人で。サミュエル・L・ジャクソンを囲んでね。で、「今、奴隷制度を描くということはどういうことですか?」って聞いたらサミュエル・L・ジャクソンは「今?」って言ったらんですよ。

「今? お前、奴隷ってもうなくなったと思ってるのか?」って彼は言ったんですね。「奴隷って、世界中にいるよ。知らないの? 調べてみろよ!」って。怖かったですね、はい。俺が言われてるわけじゃないんだけど(笑)。こっちの人が言われていたんだけども、一緒にいるとめちゃくちゃ怖くて。はい。で、やっぱりサミュエル・L・ジャクソンはすごい詳しいんですよ。そういうことについて。

サミュエル・L・ジャクソン、奴隷制度を語る

なぜならば彼は大学でそういうことを研究してたんです。彼はモアハウス大学というところを出ているんですよ。だから黒人の名門私立大学で、スパイク・リーもそこを出ています。キング牧師もそこの卒業生です。そこでは黒人の過酷な歴史について徹底的に学ばされるんですよ。で、サミュエル・L・ジャクソンはそこに行って……だからサミュエル・L・ジャクソンって「マザファッカ!」ってばかり言っているから乱暴な親父のように思うんですけど、あの人すごい学がある人なんですよ。インテリなんですよ、実は。

で、その時に彼が言ってたのは「君たちね、南部に行ったことあるかね? 南部に行ったら時々、小道がある。そういう小道は『口笛の小道』って言われてるんだよね」「口笛の小道?」「どういう意味か、知ってるか?」「いや……」「昔は南部では料理は全部黒人がやっていた。なぜならば南部は暑くて、キッチンがものすごい温度になるので家の外にあって。その外のキッチンで黒人のシェフたちが料理を作るものだった。そのできた料理を室内のディナーテーブルに運ぶんだ。

それは黒人の子供たちが運ぶんだ。その時に黒人の子供がつまみ食いをしたり、逆に白人のご主人様に対する嫌がらせとして料理の中に唾を入れたりするのを防ぐために、黒人の子供たちはその料理を運んでいる間はずっと口笛を吹きながら歩かなければならなかった。だから南部で口笛小道というのは大抵昔、奴隷農園があったところで。そこは子供たちが口笛を吹きながら料理を運んだところなんだ」っていう。

そんな話、僕は聞いたことなかったですね。サミュエル・L・ジャクソン叔父貴、やっぱりすごい! 名門大学を出ている人ですよ。だからあの人、日本でいうと早稲田とか慶応の人なんですよ。映画を見ていてなんか乱暴なおじさんだなって思ってたら大間違いなんですね。という話とかを本人から聞きましたが。ということでね、いろんなことがこの本(『最も危険なアメリカ映画』)にはそれ以外にも書いてありますので、ぜひこれを。Kindleでも読めすし、本屋さんに行って読んでいただきたいと思います。

(町山智浩)それで『南部の唄』ってのはそういうところが問題なんですよね。だからたとえば日本だと……日本ではそういうことは問題にならないんだけど。たとえば江戸時代の話で、お侍さんと町人が完全に平等に話をしてるっていう世界があったとしたら、それはファンタジーじゃないですか。実際、そんなのはないじゃないですか。まあ浪人とかありますけどね。

ちゃんとした武家のお勤めしてるお侍さんとそれこそお百姓さんが仲良く話している。平等に話してるっていうことがあったら、それはファンタジーじゃないですか。でも誰も怒らないけどね。でも、『血槍富士』っていう映画があるんですけどね。これは非常に民主的な武家の人、お侍さんがいて。彼は相手がそのお百姓さんだろうと町人だろと全く見下さないで非常に平等に話をするという人が出てくるんですね。その『血槍富士』という映画に。

すると、それを見ていた他の侍たちが「何でそんな身分の低いものに敬語を使ったり、平等に話してるんだよ? お前はクズだ!」っていきなり斬り殺すんですね。だからそのリアリティーラインというものは非常に面白いなと思いますね。だから『南部の唄』を作った人たちもそんな気分で。「まあ昔の南部の話だけども、みんな平等っていうことでいいんじゃね?」みたいな感じでやったら「違うだろ、お前!」って言われたという感じなんですよね。はい。

<書き起こしおわり>

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