町山智浩 アメリカの大学生がイスラエルのガザ侵攻に抗議する理由を語る

町山智浩 アメリカの大学生がイスラエルのガザ侵攻に抗議する理由を語る こねくと

町山智浩さんが2024年5月14日放送のTBSラジオ『こねくと』の中でアメリカ各地の大学内で学生たちがイスラエルのパレスチナ・ガザ侵攻に抗議してデモやキャンプ活動を行っていることについてトーク。日本ではあまり理解されていない、学生たちが抗議活動を行う理由について、話していました。

(町山智浩)それで今日、お話したいのはね、アメリカは今というか、一昨日かな? この間の土曜日っていうのが、卒業式シーズンだったんですよ。で、アメリカ全土で卒業式が行われて。特に大学ですね。で、各大学、卒業式の壇上とかで学生さんたちがパレスチナを支援し、パレスチナのガザ地区を攻撃し続けているイスラエルに抗議したんですけれども。日本でね、アメリカの大学生がパレスチナ問題に対して抗議のために学校内でキャンプを行ってるっていうことは報道されてますよね?

(石山蓮華)されていると思います。

(でか美ちゃん)でも大々的にニュースで取り上げられるというよりは、関心がある人には届いてるというぐらいですかね?

(町山智浩)あれですごく誤解があると思っていて。「学生っていうのは正義感があるから子供たちが殺されてるのに我慢できなくて、大学内でデモをしてる。それに何の意味があるのか?」みたいなことを日本のテレビで言ってる人とかがいるんですよね。でも、それは全然わかってないんですよ。まず、学生の彼らが直接的に抗議してるのは自分が通ってる大学が投資とか寄付とかでイスラエル系、ないしはイスラエルを支援している企業や投資家たちと付き合っていて。それをやめろと学生たちは言ってるんですよ。

で、これがどのぐらいの規模になっているのか?っていうと、たとえばハーバード大学ではガザへ攻撃するイスラエルに対して、学生たちが抗議のデモをしていたら、ハーバード大学に寄付している寄付者たちが「我々は寄付を停止する」という脅しをかけて。ハーバード大学の学長が学生デモを放置したということでクビになりました。世界一の大学、ハーバード大学の学長をクビにするほどの力がイスラエルを支持する投資家たちの間にあるんです。これは巨大なものです。直接的にはビル・アックマンという億万長者がこれを仕掛けたんですけれども。

アックマン氏、ハーバード大理事全員の辞任要求-前学長支持を問題視
米ハーバード大学のクローディン・ゲイ氏の学長解任を求めるキャンペーンを主導した資産家で投資家のビル・アックマン氏は、ゲイ氏への支持を表明した同大学の理事全員が辞任すべきだと主張した。ゲイ氏は学内での反ユダヤ主義を巡る懸念や自身の学術的著作で...

(町山智浩)それと同じようなことが実は、全大学であります。全大学は莫大な寄付をそういった人たちから受けていたり、そういった人たちのファンドに投資していたりするんですよ。で、もうひとつ、これは知られていない情報なんですが。今、イスラエルの首相としてガザを攻撃しているネタニヤフという人は、アメリカで投資ファンドをやっていた人です。あの人、ほとんどアメリカ人です。アメリカに移住して、そこで育って。イスラエルの首相になる前はボストンの投資ファンドで働いていて。そこで共和党とかとの非常に深い繋がりを持った人で。アメリカの投資ファンドはイスラエルとべったりです。で、学生たちは「そういったところにお金を入れるな!」と怒ってるんですが。学生たちにはそういうことを言う権利があるんです。なぜなら、今回抗議のデモを起こしてる多くの学校が私立大学です。学生たちは学費のお金を払ってるんですよ。その自分たちが払った学費をそういった、イスラエルへのお金として使われている。彼らはそれが許せないんです。自分たちの学費がガザの子供を殺すことに繋がってるんだということで。

自分たちが払った学費でガザ侵攻が行われることに対する抗議

(町山智浩)で、公立大学でも、みんな反対してるんですが。公立大学の場合には、それほど投資というのはないんですが。それでもやっぱり、あれこれとやってるんですよ。寄付をもらったりね。だから、それは大学の学生側には文句を言う権利があるんですよ。そもそも、ヨーロッパとかアメリカの大学っていうのは元々、学生たちが始めたもので。国とかが始めたものではないんです。元々、大学というものの起源はパリで勉強したい学生たちが自分たちでお金を出し合って先生を雇うってことがあって。それが大学の始まりなんですよ。だから、大学において学生はクライアントなんです。先生たちや大学側は、学生に雇われてるんですよ。でも日本の人でそういう風に思ってる人って、いないでしょう?

(でか美ちゃん)普通に考えたらでも、たしかに本来、そうですよね。「入学したい」っていう人がいなくなっちゃったら、一番困るのは大学なわけで。学生たちが学費を払っているわけだから。ねえ。

(町山智浩)そうなんです。だから学生たちは大学側にそれを要求する権利があって、やっているんですよ。でも、そのことが理解できていないと「学生たちが反戦運動して」とか、そんなことを言っているバカがいますけども。それは全然、間違ってますからね。で、そういうことがアメリカでは行われていて。うちの一番近所のUCバークレーというカリフォルニア州立大学では抗議のキャンプとかデモが行われているんですが。学長は「そこには一切、警察権力を入れない」って言ってるんですよ。「彼らを立ち退かせない」って言ってるんですね。で、他の学校……テキサス大学とか、コロンビア大学では学生たちを立ち退かせようとして、警察を入れたりしたんですけども。UCバークレーでは「警察は入れない」って言ってるんですね。で、土曜日に卒業式があって、学長さんが演説をしたんですが。「ここで学生たちがキャンプ行ったり、デモを行ったりするのは市民の不服従という権利と義務を果たしているだけだ」と言ったんですね。

「市民の不服従」という権利と義務

(町山智浩)これも、日本ではほとんど知られてない言葉で。「市民の不服従」というのは、政府であるとか権力であるとかが市民に対して横暴なことをした場合には、それに対して抵抗することがアメリカ国民の義務であり、権利なんだという考えで。これがアメリカ人にはあるんですよ。同じようなことは日本にだってあるはずなんですが、日本人の人はこれは絶対に言わないですよね? で、それを学長さんが言って非常に喝采を浴びたんですね。ということで、そのデモに対する対応とかっていうのは大学によって違うので。そのへんはちゃんと日本で報道されてるといいなと思うんですが。

特にこの間の卒業式の時にみんなが戦っていたのはですね、ガザ地区を支配しているハマスというイスラム教の政治グループがですね、停戦条件を飲んだんですよ。要するに「もう言う、通りにする。だから攻撃しないでくれ」っていうことをイスラエルに対して言ったんですが。しかし、イスラエル政府の首相、ネタニヤフは「そんなのは関係ない。攻撃を続ける」って言って。それで今日の演説では「最後の1人までやる」って言ったんですよ。

(石山蓮華)なんか本当にどんどんどんどん、きな臭い話が増えているなって思って。新聞で出ているレベルでも、インターネットとか、他のニュースサイトで見るレベルでも、なんか「えっ、そこまでいってしまうのか?」っていうことがどんどんどんどん起こっていて。で、ねえ。デモっていうのは本当にまっすぐに意見を機会で。あの映画『胸騒ぎ』を見ながらすごく思っていたんですね。なんか、自分が言葉を伝える機会っていうのを逃してしまったら、それはもう一過性のものであって、なかなか取り返そうと思っても戻ってこないんだっていうことをすごい思います。

(町山智浩)そうなんですよ。ここで言っておかないと、ここで抵抗してかないと、後ではもう遅いんですよ。

(でか美ちゃん)私、そもそもその戦争というものに対して、大義名分なんてハナからないって思っていますけど。でも、それをあるような感じでやっていたわけじゃないですか。イスラエルはパレスチナに対して。でも、この今の状況……「停戦条件を飲みます」に対して「いや、関係ない」って言っているのはもう、その大義名分とかもどうでもいいんだっていう。「えっ、それを国レベルで言っちゃうんだ?」っていうことを思って。

(町山智浩)そうなんですよ。それでこの間、発表されたんですけども。イスラエルの攻撃で亡くなったガザの人たちが3万5000人。その半分ぐらいが女性か子供ということなんですね。これは当たり前なんですよね。住宅地にミサイルを撃ち込んでるんで。どこの街だって、住宅地にミサイルを撃ち込んだらそこにいる半分は女性か子供ですよ。それが亡くなるんですよ。だからこれはもう、完全におかしいんですよ。

<書き起こしおわり>

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