町山智浩 ディズニー映画『南部の唄』の問題点を語る

町山智浩 ディズニー映画『南部の唄』の問題点を語る ラジオ

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(町山智浩)つまり、南部でも奴隷は解放されたんですけど、結局彼らは土地を持ってないですから。白人の土地で農業をして小作人になったんですけどね。だから「その時代の話なんだ」って言ってるんですけど、南北戦争後の世界には見えないんですよ。服装とか家とかが。非常に変な、ありえない世界なんですよ。

で、ずっと「これはおかしいよ」という風に言われ続けてきて、それでとうとう、今回のように……もうすごく言われ続けてきて、再公開もされないし、テレビでの放送も1回か2回だけアメリカではやったらしいですけども。それでビデオもVHSで日本でもアメリカでも出てたんですけども。それも発売されなくてなって。それでずっと封印されてきて。もう全然見れない状態になっていて。

この僕のVHSもこれ、アメリカのじゃないんですよ。これ、レンタル屋で貸し出しされていたものですね。これ、ニュージーランド・オーストラリアのものですね。恐らく1980年代にレンタルビデオでニュージーランドで出てたものだと思うんですけどね。で、これ、結構高かったですよ。ン万円しましたけども。PAL方式ですね。これね。

そういった形で封印されていて。ネットではね、裏で出回ってるんですけど。ディズニーのやつは昔のやつは著作権が切れてるんで結構出回っていて。さっき言った『空軍力の勝利』とかは普通にYouTubeにきれいな映像が出てますけれども。これはたしかまだ著作権が切れてないのかな? だから普通に売っちゃいけないし、YouTubeとかに載せちゃいけないものだと思いますけどね。まあ、出てますけどね。という話なんですよ。

それで今、とうとうスプラッシュマウンテンからもなくなってしまうということなんですね。でね、たぶん「こんなのは大したことないよ」「そんなもんじゃないよ。封印されるようなものじゃないよ」っていう人も出てくると思うんですけど、それはやっぱりわかっていないんですよ。たぶんね、日本語で字幕が付いたり吹き替えになった状態で見てもわからないんだと思います。問題は「言葉づかい」なんですよ。

奴隷とご主人様の関係なのに友人のように話す

つまり、どう見ても奴隷とご主人様の関係なのに奴隷とご主人様ではなくて友達のように話してるっていう。「こんなことはありえないよ」っていうことなんですね。まあ、そういうことなんですよ。しかも『風と共に去りぬ』に出てきたハティ・マクダニエルというあのマミー、女中さんの役をやっていた人ですけども。スカーレット・オハラの乳母をやっていた人がその頃、スターだったのでこれにも出てるんですけども。

そういった形でですね、『風と共に去ぬ』っていうのも……黒人の奴隷にはその「ハウススレイブ(House Slave)」っていうのと「フィールドハンド(Field Hand)」っていうものにわかれていて。ハウススレイブの人たちははっきり言って白人と一緒に暮らして。きれいな服を着て。特別扱いされてるんですよ。ところが、フィールハンドの人たちはもうひどい目にあったりしているわけですけど。そのへんの差が分からないと……『風と共に去りぬ』はフィードハンドの人たちが出てこないので分からないんですけども。

南部のものとか南北戦争を扱った映画で黒人奴隷について描いている中でとにかく「これは絶対に存在していた事実を隠している。それは許されないんだ」という一番のポイント。それはなにかと言うと、白人のご主人様が黒人の奴隷の女性を自由自在に犯して子供を産ませて……つまり自分の子供を売りさばいていたという事実なんですよ。それが恐らく黒人奴隷制度で最もひどいことだったと思います。

まあ他にもいっぱいひどいことはあるんですけれどもね。たとえば「お墓を作ってもらえない。ちゃんとした埋葬もしてくれない」っていうこととか。つまり、黒人の奴隷に魂があって天国に行くってことが明確にされると、「じゃあ何で奴隷制度をやってるんだ?」ってことで奴隷制度そのものが否定されちゃうので。だから「彼らは動物と同じで魂がない」ってことにされていた。つまり「死んでも天国に行かない。だからひどい目にあわせてもよい」っていうことだったんですね。

で、それが一番極端な形で出てしまうのは黒人の奴隷の人たちが病気になると、その当時は医者には見せなくて獣医に見せていたんですよ。家畜扱いだったから。そういったことが全然、描かれないわけですよ。『風と共に去りぬ』とか『南部の唄』ではね。だから問題なんですね。

で、特にやっぱりご主人様が黒人奴隷に子供を産ませていたという……これには2つの意味があって。まず彼らがひどい人だったということ。もうひとつは、そうするしかなかったっていうことなんです。というのは当時、奴隷をアフリカから輸入することは禁じられていたので、黒人奴隷の数を増やすにはアメリカ国内で増やすしかないんですよ。だから産ませるんですよ。だから「人間牧場」って言われたんですよ。内部で取引するしかないから。

で、黒人奴隷というのは非常に値段の高いもので、その頃は現在の自動車なんかよりもはるかに価値があったんですよ。だから子供を産ませれば産ませるほど儲かったんですよ。それだけ価値があるから、全ての黒人奴隷は「資産」として記録されてるんですよ。つまり、土地と同じなんですね。だから黒人奴隷のほとんど全ては記録されてるんです。その記録をされているのは帳簿に記録されてるんですよ。「財産」だから。税金とかの申告の時に使われてるんですよ。

「財産」として記録された黒人奴隷たち

だから、要するにミシェル・オバマさんとかね、その先祖をどんどん辿っていくと、全部家系が辿れるわけですね。黒人の人たちは実は家系が辿れるんですよ。日本人なんかよりもはるかに昔まで辿れるんです。

それは資産として記憶しなければならなかったんですよ。納税のために。まあ、そういったことがいっぱいあって。だから要するに全ては明確なんですね。誰がどうしたっていうのは目測とかではなくて。納税のために記録していたから。だけど、『風と共に去りぬ』とか『南部の唄』とかではほとんどそういったことが描かれてないんですよ。

だってそれを見たら子供は気持ち悪くなっちゃいますよ。子供を売っていたっていう。「自分の赤ん坊を売るなんて、どういう神経なの? それ、人間なの?」ってことですよね。だって「黒人は人間ではない」と言いながら、自分の子供を産ませて、その自分の子供を売ってたんですよ。それって人間のすること?っていうことですよね。

で、その子孫が今、南部に住んでるわけですから。もうアメリカの歴史を全否定することになっちゃうわけですよ。だからほとんどアメリカ映画では描かれてないんですよ。でも1個だけ、それをやったのが『マンディンゴ』なんですよ。僕は『マンディンゴ』を撮影した場所にも行きましたけど。ニューオーリンズのね。

あれはアメリカでベストセラーになりましたけど、要するに白人が黒人の奴隷にどんどん子供を産ませて売ってたことを徹底的に描いてるんですけども。それで金を稼いでいた。それだけが……要するに黒人に農園をやらせないで、黒人に子供を産ませることで稼いでいた農場があったんですね。だから人間牧場ですよ。それを描いたのが『マンディンゴ』っていう映画なんですね。

『マンディンゴ』

ただ、それはやっぱりアメリカ人は誰も作りたがらなくて。イタリア人のディノ・デ・ラウレンティスさん。プロデューサーがリチャード・フライシャー監督に作らせたんですけどね。リチャード・フライシャー巨匠中の巨匠で天才で、何をやらせても上手い人ですから映画としてはすごくよくできてるんですけども。『マンディンゴ』はアメリカでも大ヒットしました。日本では月曜ロードショーでやっていて、僕は荻昌弘さんの解説で見ました。はい。

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