町山智浩『ハミルトン』を語る

町山智浩『ハミルトン』を語る たまむすび

町山智浩さんが2020年7月14日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でディズニープラスで配信がスタートした大ヒットミュージカル『ハミルトン』について話していました。

(赤江珠緒)よろしくお願いします!

(町山智浩)どうもー……。

(赤江珠緒)あれっ? テンションが?

(町山智浩)アメリカね、感染者が今、すごい増えていて。今、340万人。それで累計使者が13万4000人を突破っていうすごい事態になっていますね。

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)それでロックダウンがまた開始。再開です。

(赤江珠緒)ああ、そうですか……。

(町山智浩)実はちょっと開いていたんですよ。ビジネスとか映画館もちょっと開いたりね。レストランとかも。そしたらそれでドバッと広がって。前よりひどくなったですね。

(赤江珠緒)そうですか……なんかでもアメリカでワクチンが、みたいな話。ニュース日本に届いてますけどで。

(町山智浩)実験してる段階なんですけども。最終的に、要するにも何億人に配らなきゃいけないわけじゃないですか。それっていつになるんだ?って話ですよね。

(赤江珠緒)やっぱりそうなるか。

(山里亮太)できていたとしても。

(町山智浩)そうですよね。だって工場でバンバン作れるものでもないわけですしね。

(赤江珠緒)それでまだ臨床っていう段階ですよね。

(町山智浩)そうなんですよ。だから映画館が開くのがまた延びそうで。

(山里亮太)そうなったら映画も撮れないんですかね。もう全然。

(町山智浩)今は撮れない状態ですね。ちょっと撮るのを復活させたんですけど、また撤退という感じになってますね。はい。で、もう配信しかないんで、今日も配信の話になるんですけども。ディズニーが始めた配信のネットワークでディズニープラス(Disney+)というのが始まったんですけども。そこでもうすでに日本でも配信されているミュージカル映画の『ハミルトン』という作品を紹介します。


(町山智浩)はい。これはね、歌で聞こえてたと思うんですけれども。「アレクサンダー・ハミルトン」っていう名前を言ってたと思うんですね。で、このアレクサンダー・ハミルトンというアメリカの歴史上のものすごく重要な人物についてのミュージカル映画で、アメリカではブロードウェイで2015年に公開されて、空前の大ヒットした舞台をそのまま撮影した映画がこの『ハミルトン』という作品なんですけれども。アレクサンダー・ハミルトンってご存知でした?

(山里亮太)いや、はじめて聞いたんですけども。

(町山智浩)アメリカ人もあんまり知らなかったんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか?

アレクサンダー・ハミルトンという人物

(町山智浩)はい。お札にもなってるぐらいなんですけども、ほとんどの人が何をしたかはよくわからない。知らなかったんですが……実はこの人は「アメリカ」という国を作った人だったんですね。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)アメリカというのは世界で最初に民主主義の国で、王様じゃなくて選挙で選んだ人が大統領になって、議会で国を運営するという形になったんですけど、ハミルトンはそのシステムを作った人なんですよ。で、憲法が一番上にあって、憲法の下に国が統制される。国王とか、独裁者ではなくて。それでいわゆる「法の支配」とか、あとは大統領とか総理大臣が独裁をしないようにするために三権分立というシステムがあるわけですけども。そのシステムを作って、それを憲法に文章で書き込んだ人なんですよ。

(赤江珠緒)えっ、じゃあめちゃくちゃ根幹の部分を作った人?

(町山智浩)そうです。今現在、日本も含めた全世界のほとんどの国がこのシステムの下にあるんですよ。

(赤江珠緒)でも、あんまり知られてなかったんですか、アメリカでも?

(町山智浩)知られてないんですよ。でね、この人はもうひとつ、すごいことをしていて。アメリカってその時ね、戦争でイギリスから独立した時に最初、13の小さい国にバラバラになって独立するはずだったんですよね。それで農業が基本的な仕事で、ちっちゃい農業国が13個あるはずだったのをそうじゃなくて、その13個をまとめた「連邦国家」というものにすると決めたのもこの人なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)で、その連邦国家にしたおかげでアメリカっていうのは世界最大の国になったんですよね。で、もうひとつは銀行を国……連邦政府、国家が銀行を運営して、国の経済とか貨幣を安定させるというシステムもこの人が発明したんです。

(赤江珠緒)じゃあ、この人がいなかったのかもう今のアメリカ本当にないですね。

(町山智浩)今のアメリカもないし、たぶん世界中のほとんどの国がこのシステムの上に乗っかってるんで。日本その中に入りますけどね。だからこの人は現在の世界の資本主義とか民主主義国家を1人で作った人なんですよ。しかもそのアメリカ憲法を書いた時に、彼はわずか31歳なんですよ。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)この人、天才だったんです。しかも独立戦争っていうのはイギリスと戦ったんですけども。それで決定的にイギリスを倒す勝利の戦いとなったヨークタウンの戦いで彼は陣頭指揮を取ってるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ、実戦でも?

(町山智浩)だから実戦でも、戦争で実際にイギリスに勝ったのもこのハミルトンなんですよ。

(赤江珠緒)じゃあもう、英雄中の英雄じゃないですか。

(町山智浩)英雄だし、全世界の今現在の基本的な形を1人で考えた人なんですけど。ほとんど。ただ、ほとんど知られていない上に、大統領になってないんですよ。

(山里亮太)なんでなれなかったんだろう?

(町山智浩)この人はアーロン・バーという副大統領に射殺されたんです。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)で、大統領になってないんですよ。ハミルトンっていうのは。だからちょっとびっくりするんですよ。ウォール街を基本的に作ったのもこの人なんですね。それで、まあすごいのは要するに経済的なシステムとかを作ってい人なんで。だからこの人、全然知られていなかったんですけども、それを知った人がいるんですよ。「この人、誰だろう?」って。それが、このミュージカルを作ったリン=マニュエル・ミランダという1980年生まれの人なんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)この人、たまたま2008年に本を……ハミルトンの伝記を読んでたら「この人はすごい人だ」ということがわかったんですよ。で、「この人、すごいのに知られていないから、この人をミュージカルにしよう」と思って。それで彼が脚本を書いて。リン=マニュエル・ミランダが全曲の作詞、作曲をして。しかも主演もして、歌を歌って踊ってるんですよ。

(赤江珠緒)えっ、主演もして?

リン=マニュエル・ミランダ

(町山智浩)はい。だからこの人も天才なんですよ。その時、まだ34歳なんですよ。ああ、違うな。このミュージカルをやった時に34歳だから、実際はもっと若いんだ。この人も一種の天才なんですね。で、このミュージカルがとにかくアメリカで大当たりをした最大の理由っていうのはですね、アメリカの独立戦争についての物語なのにも関わらず、音楽がヒップホップなんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ヒップホップ、ラテン、ブルース、ファンク、カリビアンのサルサとかレゲエとか、そういう音楽だけなんですよ。基本的に。で、すごいノリノリなんで、ちょっと1曲。『My Shot』というミランダさんが歌っている歌を聞いてもらえますか?

(町山智浩)はい。この歌は『My Shot』という歌なんですが、これは「俺の一発」みたいな意味なんですけども。「俺は絶対にこのチャンスを逃さないぜ」って歌っているんですね。で、歌詞の内容は「俺はカリブ海の植民地で貧しく生まれた男で、父親と母親は正式に結婚していない上に、両方とも死んでしまった。貧乏な孤児なんだ。しかもカリブ海からの移民で一文無しでこのニューヨークにやってきた」っていう。ニューヨークに来た時の話なんですよ。

「俺はまだ19歳で天涯孤独だ。ただ頭がめちゃくちゃいいぞ。これからの奨学金で大学に入って、俺はこの国でのし上がってやるんだ」っていう歌なんですよ。そういう風にハミルトンが歌っているんですね。で、実際に彼はそういう人なんですよ。もう全く天涯孤独で貧乏で孤児で。ただ頭がものすごく良かったんで、気に入られてその奨学金を出してくれる人がいて。で、一流大学に入って、そこから政治家になっていくんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、「今はちょうどアメリカはイギリスから独立しようとしているチャンスだから」という風に歌っているんですよ。「ここで俺はアメリカを作るという作業をやって、歴史に名前を残してやるぜ!」っていう歌なんですね。だからものすごく頭が良くて、口が達者なんですよ。で、本当に実際にそのジョージ・ワシントンというアメリカの最初の大統領の片腕になっていくんですね。彼は実はブレーンになって。その頃、20代なんですよ。

(赤江珠緒)めちゃくちゃ出世しましたね!

(町山智浩)22歳でそのジョージ・ワシントンのブレーンになって、アメリカを勝利に導いていくんですよ。で、この人は実際に当時からね、本当の意味での天才だという風に言われてたんですけども。ただね、それをラップでやるっていうところが売りなんですね。で、これはね、このミランダさんっていう人自身がプエルトリコ系の移民の子供でニューヨークで育って。で、プエルトリコの人たちって本当にみんなこのハミルトンみたいな感じで。カリブ海からやってきて、ニューヨークでなんとか成功しようと思ってる人たちなので。その『ハミルトン』に現在の自分たちを重ねているんですね。

(赤江珠緒)はいはい。

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